原神 第436話 紺田村の人々

そうだ

この日記にあるのは確かに俺の筆跡だ

御守りと手紙も…

俺の物だと思う

それに書いてあることは、もう忘れたが…

その間、毎日起きた面白い出来事を記録した

再会した時にこの30年もの月日を…

彼女に聞かせるために

色んなことが起きたな…

時間が過ぎるのは早い

もうこんなにも経っていた

愛も、後悔も、彼女に関することも、すべて消えた…

そうでもない…

彼女が誰かさえも忘れているしな

彼女の姿、声、俺と経験した出来事、すべて忘れてしまった

初めから彼女がいなかったかのように…

すべてが儚い夢だったかのように

ただ、本当に彼女に会えたとしても、名前すら口にできなかったら彼女は悲しく思うだろうか？

それを考えると、俺の心は確かに悲しくなる

おかしいな、彼女のことはもう覚えてないのに、どうしてこんな思いを抱くんだ

前もそうだった

心の中が空っぽで、何か欠けているような…

ここに残って彼女を待ち続けるよ

緑ちゃん緑ちゃん、もっと外の世界について話してよ！

ふふ、また？

もう、仕方ないな…

じゃあ今日は新しいお話を教えてあげるね！

何が聞きたい？

海の向こうにある璃月は、どんなところなの？

璃月は、石がすごく有名なのは知ってるよね？

わぁ～！面白い…じゃあフォンテーヌは？

フォンテーヌの道はぜんぶ空中にあるの

人々が乗る馬車は白鷺のように飛んでいて、村から村まであっという間～！

すごい！じゃ…じゃあスメールは？

スメール人は生活が大変なんだ

地面にあるのはぜんぶ草だから

食べ物は草、飲み物は青汁

鳥卵の玉子焼きも、三色団子もない

もし国を出られたら、僕は今頃とっくに海の向こうにいたんだろうな…

うぅ、石の動物、空飛ぶ馬車が待ってるのに…

ラムゼイっていうおじさんが教えてくれたお話だよ

そのおじさんは色んな国を旅して、ふしぎなものをたくさん見てきたらしいの

それらを記録するために「遊記」を書いたんだって…

「遊記」をたくさん読ませてくれたんだよ！

例えばフォンテーヌには空を飛び、見えない道を通って村を一瞬で移動する、鉄の馬車があるの

スメールには土、砂、どんなところにでも植えられる草があるの

植えたら必ず育つんだって

それに…それに…フォンテーヌには海の中に長時間いることが出来る船があるんだよ！

その船に乗ったら、深い海の底で魚を見たり、色んなことができるの！

ラムゼイのおじさんが教えてくれたんだ…

って、そんなの重要じゃないよ！

ラムゼイおじさんがずっと木漏茶屋にいることは知ってるよ

直接会いに行きたいけど、梢姉ちゃんが私のような子供は入ってはいけないって…

お兄ちゃんは大人っぽいから、そこに行って「遊記」はどうしたのってラムゼイおじさんに聞いてきてくれる？

え？お兄ちゃんも「遊記」を読んでみたいの？

いいよ、読み終わったら返してね？

私…ついて行く

入ることはできないけど…茶屋の近くで待ってる…

ああ、はやくラムゼイおじさんの新しい「遊記」を読んでみたい…

今月の御救米、それを渡すかどうか聞いてるんだ！

俺たちみんなそれを頼りに生きてんだぞ！

納得のいく説明をしてもらうまで帰れると思うな！

まだ嘘をつくか

命に関わる食料なんだ

お前たち武士に横領されるためのものじゃねぇ！

武士なら好き勝手できるってのかよ！

天領奉行所に行って告発してやる！

誰だ？

黒澤の仲間か？

そうか

ちょうどよかった

お前たちからも何か言ってやってくれ

以前はこいつに会えば御救米を分けてくれたのに、急にくれなくなったんだ

きっと欲に負けて、食料を横領するつもりなんだよ！

その食料がなきゃ、俺たち飢え死にしちまうっていうのに！

俺たちの気持ちは考えてくれないのか…

昔は心優しいお方だと思ってたのに、どうやら他の武士と同じで悪人だったみたいだな

どうりで「神の目」も奪われるわけだ

雷電将軍もこんなヤツに国を治める手助けをしてほしくないだろう

何が御救米だ

そんなこと聞かされてない！

あいつらがどこからそんな噂を聞いたか知らないが、きっとそれを使って俺をたかりに来たんだ

俺に御救米があるとしたら、こんなに貧しいわけないだろ？

笑えるぜ

俺も食べる物にありつけてないってのに…

用がないならもう行ってくれ

まだやることがあるんだ

確かにそれは本当のことだ

幕府軍にヤツ、俺が目狩り令に対して不満を持ってるとか、仕事をサボってるとか、雷電将軍に忠実じゃないとか言って、俺の神の目を押収しやがった

ただ、あの時は毎月何かをやっていたことだけは覚えてる

今はもうやる気すら起きないが

忘れただけならまだしも、心がなんかもやもやするんだ…

誰かに借りがあるのに、それを思い出せないみたいな

御救米の横領なんてしてない！

言っただろ

御救米があったらこんな苦しい生活、誰がするっていうんだ？

信じないっていうなら、宝盗団どもを懲らしめて、俺の家に「御救米」があったかどうか聞いてみるといいさ

兄貴、今日はなかなかの収穫だったな

俺たちが行った武士たちの家、貧しかった一人を除けば他はみんな裕福でがっぽり稼げた

今日！ここから！

お前たちを引き連れ、盗っ人の世界で偉業を成し、一躍有名になってやるぜ！

兄貴万歳！

クソっ…なんでこんな…俺の金が、頑張って盗んできた俺たちの成果が…

兄貴、なんとかしてくれ！

ゴホッ…その…

いい身のこなしだな…宝盗団に入って俺たちと大事を成す気はないか？

黒澤？

ああ…覚えてるぜ

まさか、あいつに言われて来たのか？

クソっ、なんてツイてないんだ

あんなヤツの家なんかに寄るんじゃなかったぜ…

食料？んなもんねぇよ

汚ねぇ家ん中だったぜ

そういえば…一つだけ変わった箱があったな

きっと宝が入ってんだろう

他のヤツらに見られたくなかったから、戻ってから開けようと思ったんだが

そんな時にお前らに捕まっちまった

いっそこの箱で手を打つってのはどうだ？

これは！

しゃ、借用書？

へい！ありがとうございやす、若頭！

借用書で手を打てたってことは…

俺たち儲かったんじゃないか？

早くずらかるぞ！