- へんなものみっけ!1巻レビュー|博物館の裏側と標本を残す意味を考察
- 『へんなものみっけ!』はどんな漫画?
- 『へんなものみっけ!』第1巻の基本情報
- 第1巻のあらすじ|市役所からやってきた薄井を待っていた、博物館の意外な日常
- なぜ主人公は、研究者ではなく「無駄を省く」事務職員なのか?
- 第1話のカモシカ|なぜ「死んだ動物」から始まるのか
- 博物館はなぜ「100年後のため」に標本を残すのか
- 第1巻は8話収録|珍しい生き物を追うだけでは終わらない
- 第4話のお花見|薄井には、夢中になって語れるものがない
- 第5話で見えてくる、薄井にしかできない仕事
- 清棲あかりは、なぜ研究者になったのか?
- 科学に詳しくなくても読みやすい理由
- 作者・早良朋には、国立科学博物館で働いた経験がある
- 『へんなものみっけ!』1巻の長所と気になる弱点
- 漫画の博物館と、現実の博物館は同じなのか?
- 『へんなものみっけ!』は全何巻? 完結している?
- こんな人におすすめ
- 公式で第1巻を試し読みするには?
- まとめ|博物館の「へんなもの」は、未来の誰かへの贈り物
へんなものみっけ!1巻レビュー|博物館の裏側と標本を残す意味を考察
博物館の仕事と聞いて、最初に思い浮かべるのは何だろう。
恐竜の骨格標本を並べたり、珍しい動物の剥製を展示したり。来館者へ展示の説明をする人たちを想像するかもしれない。
でも、その標本は誰が集めているのか。どうして保存する必要があるのか。そして、何十年も前に集めたものが、今の研究に役立つことがあるのはなぜなのか。
そんな博物館の裏側を、驚くほど生き生きと描いているのが、早良朋の漫画『へんなものみっけ!』だ。
主人公の薄井透は、市役所から博物館へ出向してきた事務職員。無駄を省くことは得意だが、夢中になれるものがあるわけではない。そんな彼が出会うのは、珍しい生き物を探して山へ登り、海へ出かけ、ときには死んだ動物の標本づくりに熱中する研究者たちだった。
第1巻で面白いのは、博物館の仕事を紹介するだけでなく、「無駄をなくすこと」を得意としてきた薄井が、「未来のために残すこと」を大切にする人々と出会うところにある。
なぜ、今すぐ役に立つとは限らない標本を保存するのか。研究者たちは、どうしてそこまで夢中になれるのか。
『へんなものみっけ!』第1巻に収録された8話を通して、博物館の仕事と、薄井自身に起きる変化を掘り下げたい。
※この記事は第1巻の展開に触れます。動物の死体や標本づくりに関する話題も含みますが、第2巻以降の具体的な展開は扱いません。
『へんなものみっけ!』はどんな漫画?
『へんなものみっけ!』は、自然史系の博物館を舞台にしたお仕事漫画だ。
描かれるのは、展示室で来館者を迎える仕事だけではない。野生動物の調査、標本の収集・作製、海での採集、植物の同定、展示の準備など、博物館の裏側で行われている活動が物語の中心になっている。
しかも、研究者たちはみんな真面目一辺倒ではない。
生き物の話になると止まらなくなる人、珍しい鳥を追いかけて飛び出していく人、植物の世話に並々ならぬ情熱を注ぐ人。薄井にとっては理解しがたい行動も多く、その落差が笑いにつながる。
一方で、研究者たちが集めているものには、確かな学術的な価値がある。
変わった人たちを笑っていたはずなのに、いつの間にか、その仕事がどれほど大切なのかを知っている。この読み味が本作の大きな魅力だ。
作者の早良朋には、実際に国立科学博物館で働いた経験がある。自然科学の知識だけではなく、標本を作る人や研究者たちの仕事への向き合い方まで描かれている点も特徴になっている。
『へんなものみっけ!』第1巻の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式タイトル | へんなものみっけ! 1 |
| 著者 | 早良朋(さわら・とも) |
| 出版社 | 小学館 |
| レーベル | ビッグコミックス |
| 発売日 | 2017年7月12日 |
| 判型・ページ数 | B6判・192ページ |
| ISBN | 9784091895455 |
| 紙版定価 | 715円(税込・小学館公式表示) |
| 収録範囲 | 第1話~第8話 |
| シリーズ | 2026年10月20日時点で13巻まで刊行 |
書誌情報は小学館の第1巻公式ページに基づく。電子版も販売されており、価格は販売サイトによって異なる。なお、正式タイトルは『へんなものみっけ!』であり、「へんなもんみっけ!」ではない。
第1巻のあらすじ|市役所からやってきた薄井を待っていた、博物館の意外な日常
市役所で働いていた薄井透は、3年間の予定で博物館へ出向することになる。
与えられた仕事をそつなくこなし、無駄なことを好まない薄井。そんな彼が新しい職場で出会ったのは、カモシカを担いで運ぶ鳥類・哺乳類研究者の清棲あかりだった。
博物館の研究者が死んだ動物を持ち帰っている。それだけでも驚きだが、清棲にとっては、その動物が生きていた証拠を研究資料として残すための大切な仕事だった。
薄井は博物館の職員として、研究者たちの仕事に次々と関わっていく。
フクロウの巣立ちを調べる野外調査、海の生き物を採集する仕事、植物の専門家による同定、珍しい鳥を求める調査。研究者たちはそれぞれの専門分野に夢中で、ときには薄井の想像を超える行動力を見せる。
最初は振り回されることの多かった薄井だが、彼らの仕事を知るうちに、これまで自分が重視してきた効率や無駄の少なさだけでは測れない価値があることに気づき始める。
その一方で、研究者たちが好きなものについて楽しそうに語る姿を見て、自分自身には何があるのだろうと考えるようにもなる。
博物館の知られざる仕事を紹介しながら、ひとりの事務職員が自分の「好き」と向き合い始める。第1巻は、そんな二つの物語が重なった導入巻だ。
なぜ主人公は、研究者ではなく「無駄を省く」事務職員なのか?
この漫画を単なる自然科学の紹介で終わらせていないのが、薄井という主人公の存在だ。
清棲を主人公にして、珍しい生き物を探す冒険を中心に描くこともできたはずだ。彼女は知識も行動力もあり、好きなことに対して迷いがない。研究者を主人公にした仕事漫画としても、十分に魅力的だろう。
しかし、この作品は薄井の立場から始まる。
薄井は研究者ではない。博物館に強い憧れを抱いていたわけでもなく、生き物の専門知識が豊富なわけでもない。むしろ、仕事では無駄を減らし、効率よく済ませることを得意としてきた。
そんな人物の目から見ると、博物館の仕事には理解しにくいことが多い。
どうして珍しい生き物のために遠くまで出かけるのか。同じ種類の標本がいくつも必要なのか。今すぐ何かの役に立つとは限らない資料を、なぜ長期間保管しなければならないのか。
薄井が疑問を持つからこそ、研究者たちの仕事の意味を読者も一緒に考えられる。
「何を省くべきか」を考えてきた人間が、「何を残すべきか」を考える人々と出会う。
この対比こそ、第1巻の物語を貫く大切な仕掛けだと思う。
面白いのは、薄井が研究者と同じ人間になる必要はないことだ。研究者たちの仕事を理解するにつれて、彼自身がもともと持っていた事務能力にも、新しい役割が生まれてくる。
その変化は第5話で、特にはっきりと表れる。
第1話のカモシカ|なぜ「死んだ動物」から始まるのか
第1話「この出会い、運命カモシカ?」で薄井が出会う清棲は、カモシカを担いでいる。
生き物が大好きな研究者を紹介する場面なのに、最初に登場するのは生きた動物の観察風景ではない。
ここが、意外なほど効果的だ。
動物好きと聞けば、飼育や保護、野生動物の観察を思い浮かべる人も多いだろう。ところが自然史系の博物館では、死んだ動物を研究資料として保存することも重要な仕事になる。
死亡した動物から標本を作れば、身体の特徴、採集された地域、日時などの情報を、後の研究に役立てられる可能性がある。
もちろん、標本にすれば何でも分かるわけではない。何を記録して保存するか、どのような状態で保管するかによって、後から利用できる情報は変わってくる。
それでも、一度失われた生き物の身体を、何らかの形で未来へ残すことには意味がある。
薄井にとっては奇妙だった清棲の行動も、その目的を知れば違って見えてくる。
第1話は、死んだ動物を集める研究者の奇妙さを見せながら、そこにある命への向き合い方まで読者の視界へ入れている。
研究者をただの変わり者として紹介しないためにも、この導入は重要だ。
博物館はなぜ「100年後のため」に標本を残すのか
『へんなものみっけ!』で繰り返し示されるのが、「100年後に届く仕事」という考え方だ。
これは博物館を美しく表現するためだけの言葉ではない。実際の自然史研究にも深く関わっている。
たとえば100年前に採集された鳥の標本が残っていたとする。採集された場所や年月日などの情報も保存されていれば、その地域に当時どのような鳥がいたのかを調べる手がかりになる。
同じ種類の標本が複数あれば、個体ごとの違いや、地域・年代による変化を比較する研究にも使える。
標本を集めた本人が考えていた研究とは、まったく別の目的で利用されることだってあるだろう。
ここが重要なのだ。
今の研究者には、100年後の科学者が何を調べようとするのか分からない。新しい技術が生まれれば、かつては調べられなかったことまで分かるようになるかもしれない。
だから、現在の研究目的だけを基準にして資料を残すかどうか決めてしまうと、未来の研究者が必要とする証拠を失う可能性がある。
国立科学博物館も、標本・資料の収集と長期保管を重要な仕事として位置づけている。研究の素材になるだけではなく、過去の研究結果を検証するための物的な証拠にもなるためだ。
国立科学博物館の標本資料に関する公式情報でも、こうした資料を次世代へ継承する意義が説明されている。
薄井は、今ある仕事から無駄をなくすことに長けた人物だ。
一方、清棲たちは、今すぐ必要かどうか分からないものを残すために働いている。
この二つは必ずしも対立しない。効率的な管理があるからこそ、大量の資料を長く残せる場合もある。
しかし、何を価値あるものとみなすかについては、大きな違いがある。
現在の便利さだけでは測れない仕事がある。
それを薄井と一緒に発見していくことが、第1巻の面白さにつながっている。
第1巻は8話収録|珍しい生き物を追うだけでは終わらない
第1巻には、カモシカとの出会いから博物館の特別展準備まで、全8話が収録されている。
| 話数 | タイトル | 主な内容・注目点 |
|---|---|---|
| 第1話 | この出会い、運命カモシカ? | 薄井と清棲の出会い、カモシカの標本づくり |
| 第2話 | 飛ぶ苦労を探すクロウ | フクロウの巣立ちと野外での調査 |
| 第3話 | 深海魚を採取シナサイヨ | 海生動物を調べる研究者と採集の仕事 |
| 第4話 | ケッキョク南極 | 研究者たちのお花見と、薄井が感じる距離 |
| 第5話 | 咲きまじる花はいずれとわかねども | 植物研究者への同定依頼、薄井の働き |
| 第6話 | 幻の大ツバメ | 台風後の珍しい鳥をめぐる調査 |
| 第7話 | ツバメの神様に願いを | 清棲の幼少期と研究者になるまでの原点 |
| 第8話 | 千客万来、珍客到来! | 特別展の準備と、傷ついたコノハズク |
各話の題材は幅広い。鳥類、海生動物、植物に加えて、研究者たちの普段の会話や過去の経験まで描かれている。
第1話から第3話では、薄井が知らない仕事に出会う面白さが中心だ。第4話以降は、薄井自身が何を感じ、研究者たちとどう関わっていくのかにも重心が移る。
第6~7話では清棲の過去を扱い、最後の第8話では博物館の展示準備へつながる。
一話ごとに題材が変わりながら、博物館の「調べる」「残す」「伝える」という仕事のつながりを見せる構成になっている。
第4話のお花見|薄井には、夢中になって語れるものがない
第1巻の中でも、薄井の人物像を考えるうえで外せないのが、第4話「ケッキョク南極」だ。
博物館の研究者たちがお花見に集まり、自分の専門分野について楽しそうに話している。
普通の職場の飲み会なら、仕事の話ばかりすることを嫌がる人もいるだろう。ところが、彼らにとって研究対象の話は、義務的な仕事の話ではない。
好きだから、つい話してしまう。知りたいことがまだあるから、話題が尽きない。
薄井は、そんな彼らの姿を見ながら、自分には同じように夢中で語れるものがないと感じる。
この場面が良いのは、薄井を単に「研究者たちを冷静に見ている常識人」として扱っていないことだ。
彼自身もまた、周囲の人たちを少しうらやましく思っている。
特別な才能があるわけではない。何か一つのことに人生を懸けているわけでもない。仕事はそれなりにできるけれど、そこに強い情熱があるわけではない。
そういう人物が、好きなものを見つけてしまった人たちに囲まれている。
研究者たちを見て笑っていた薄井が、いつの間にか自分自身のことを考え始める。ここで物語は、博物館の職業紹介から薄井の内面へ踏み込む。
「好きなものがある人は、なぜこんなにも楽しそうなのか」。
この問いは、研究者でなくても分かるものだろう。
第1巻が自然科学に詳しくない読者にも届くのは、薄井の中にこうした身近な悩みがあるからだと思う。
第5話で見えてくる、薄井にしかできない仕事
第4話で自分には夢中になれるものがないと感じた薄井だが、それは彼に価値がないという意味ではない。
第5話「咲きまじる花はいずれとわかねども」では、そのことが違う角度から描かれる。
博物館に警察官が訪れ、捜査に関係する資料の同定を依頼する。
同定とは、採集したものがどの生物・種類に属するのかを調べる作業のこと。植物の専門家であれば、わずかな植物片から種類を判断するための知識や比較資料を持っている場合がある。
この依頼に関わるのが、植物研究者の立花だ。
立花は自分の関心事にも強いこだわりを持っている人物で、薄井は専門家と依頼者の間に立つことになる。
ここで効いてくるのが、薄井の事務職員としての能力だ。
研究者の知識がどれほど優れていても、その知識を必要とする人へ届けられなければ、役に立つ機会を逃してしまう。
一方、薄井は植物の専門家ではない。自分で同定することはできない。
しかし、人を動かし、仕事をつなぎ、相手に必要なことを伝える力がある。
この場面によって、研究者たちだけが博物館を支えているわけではないことが見えてくる。
薄井が清棲のような研究者になる必要はない。自分には自分のやり方で、研究を支えることができる。
第1巻の人物描写で、特に評価したい部分だ。
なお、この第5話は東洋経済オンラインで漫画として紹介されている。博物館が警察の捜査へ協力するという、普段はあまり知られていない仕事を知る入口にもなっている。
清棲あかりは、なぜ研究者になったのか?
第6話「幻の大ツバメ」と第7話「ツバメの神様に願いを」では、清棲の過去が重要になる。
それまでの清棲は、とにかく生き物に詳しく、興味が湧いたらすぐ行動する人物として登場してきた。
薄井の目には、あまりにも好き勝手に動く研究者として映る場面もある。
けれど、清棲が昔から周囲の人々と同じように過ごしてきたわけではないことや、鳥への関心が彼女の人生に深く根づいていることが見えてくる。
子どものころから鳥に惹かれ、それを調べ、残そうとする大人と出会ったことが、研究者を目指す道につながっている。
ここまで来ると、清棲の仕事ぶりの見え方が変わる。
珍しい鳥を追って走り回るのも、標本を大切にするのも、ただの奇人だからではない。
彼女にとって「知りたい」という気持ちは、子どものころから自分を動かしてきたものなのだ。
そして、清棲が自分の道を見つけるきっかけとなった経験と、現在の薄井が研究者たちから刺激を受けている姿には、似たものがある。
人は、誰かが夢中になっている姿を見て、自分の世界を広げることがある。
第1巻の中でその関係が繰り返されるから、薄井と清棲の出会いにも、単なる先輩・後輩以上の意味が生まれている。
科学に詳しくなくても読みやすい理由
本作には動物や植物の名前、調査方法、標本づくりなど、専門的な話題が頻繁に登場する。
それでも、科学の予備知識がなければ理解できない作品ではない。
最大の理由は、薄井自身が博物館の仕事をよく知らない立場だからだ。
読者が驚きそうなところで薄井も驚き、疑問に思いそうなところで彼も戸惑う。研究者たちの説明は、その疑問に答える形で自然に入ってくる。
また、動物の姿や調査現場を絵で見られることも大きい。
知らない鳥や深海生物について長々と文章で説明されるより、研究者がそれを見つけようと苦労し、発見して喜ぶ場面を追う方が、関心を持ちやすい。
漫画としての笑いも、知識の説明と切り離されていない。
研究者が生き物に夢中になりすぎること自体が面白く、その熱中ぶりを見ることで、なぜその仕事を続けているのかも伝わってくる。
科学を題材にした漫画の読み方としては、『Dr.STONE』第1巻のレビューともつながるものがある。あちらは科学を知らない大樹を入口にして千空の知識を見せるが、本作では事務職員の薄井が、研究者たちの仕事に驚くことで読者を案内している。
どちらも、最初から知識を持った人物だけを追わせないことで、専門外の読者が入りやすくなっている。
作者・早良朋には、国立科学博物館で働いた経験がある
『へんなものみっけ!』の背景を知るうえで、作者の経歴にも触れておきたい。
早良朋は2019年の「ほぼ日刊イトイ新聞」のインタビューで、子どものころから虫や小さな生き物が好きだったこと、北海道の大学で動物研究に関わったこと、国立科学博物館で働いたことなどを語っている。
大学ではネズミに関する研究を行い、別の研究者の野外調査を手伝った経験もあったという。
その後、漫画家を目指すため東京へ出て、博物館でアルバイトを始めた。剥製づくりについても、そこで改めて教わったことが語られている。
特に印象的なのは、昔の採集家が残した標本を見て、長い年月を経ても研究資料として残っていることに強い感銘を受けたという話だ。
作中に登場する「100年後に届く仕事」という考え方は、こうした作者自身の経験とつながっている。
ただし、実際の博物館に勤めていたからといって、作中のすべての出来事が実話というわけではない。研究者や標本に関する知識を土台としたフィクションとして読むのが適切だ。
作者本人の詳しい話は、ほぼ日刊イトイ新聞「100年後へのギフト」で読むことができる。
『へんなものみっけ!』1巻の長所と気になる弱点
第1巻の優れたところは、毎回異なる自然科学の題材を扱いながら、薄井の変化という一本の流れを持たせていることだ。
第1話では清棲に驚き、第4話では好きなものを語れる研究者たちをうらやましく思い、第5話では自分の得意な仕事を通して研究者を支える。
そして第7話では、清棲が今の仕事を選ぶまでの過去が描かれる。
こうした人物描写があるから、科学知識の紹介を読んでいるだけにはならない。
一方、気になる点もある。
研究者たちの行動が大げさに見える場面もある
清棲をはじめ、本作の研究者たちは驚くほど行動的だ。
その姿は漫画として楽しい反面、博物館で働く人が全員こんなに自由奔放なのかと誤解されるかもしれない。
実際の博物館では、資料管理、研究計画、安全管理、予算など、さまざまな条件のもとで仕事が行われる。全員が好きなことだけを追いかけられるわけではないだろう。
本作はそうした現実の仕事を下敷きにしながら、人物の個性や研究の面白さを漫画らしく強調している。その表現をどう受け止めるかで、好みは分かれそうだ。
一話ごとに題材が変わるため、物語の連続性は控えめ
第1巻には8つのエピソードが収録され、それぞれ違う生き物や研究分野が登場する。
次から次へと知らない世界に出会えるのは長所だが、ひとつの事件を長く追いかける漫画ではない。
大きな謎を中心に物語が進む作品や、強い対立と決着を期待する読者には、少し散漫に感じられる可能性がある。
その一方で、第4話や第7話のような人物の掘り下げが入ることで、短編的なエピソードをつなぐ役割を果たしている。
標本や動物の死に関する描写は、人を選ぶ
本作は動物をかわいがるだけの漫画ではない。
研究のために死んだ動物を扱い、標本を作る仕事も描かれる。
生き物が好きでも、死体や標本づくりの場面は苦手という人もいるはずだ。
ただ、動物の死を軽く扱った笑いが中心というわけではない。むしろ、命が失われたあとにも残せるものがあるという視点が、作品の重要な部分になっている。
この題材を受け入れられるかどうかは、読み始める前に知っておきたいポイントだろう。
漫画の博物館と、現実の博物館は同じなのか?
『へんなものみっけ!』の舞台は架空の博物館だが、収集・調査研究・保存・展示といった仕事には、現実の博物館と共通する部分がある。
ただし、博物館によって専門分野も規模も違う。自然史博物館と美術館では必要な技術が異なり、同じ自然史系の施設でも、野外調査と資料管理をどのように分担するかはさまざまだ。
また、作中の人物が野外で動物を採集するからといって、一般の人が見つけた野生動物を自由に持ち帰ってよいわけではない。
法律や保護上の制限がある生物もおり、死亡した野生動物には衛生上の危険がある場合もある。見つけた際は安易に触れたり持ち帰ったりせず、必要に応じて自治体などの案内を確認したい。
作品を読むと、実際の博物館でも研究者が活躍していることに興味が湧く。ただ、漫画の展開をそのまま現実の業務手順として受け取らないことも大切だ。
『へんなものみっけ!』は全何巻? 完結している?
2026年10月20日時点で、『へんなものみっけ!』の単行本は第13巻まで刊行されている。
第13巻は2026年8月10日発売。小学館の公式作品ページでは連載作品として掲載されており、現時点で本編が完結したという案内はない。
第1巻の発売は2017年7月12日なので、すでに長く続いているシリーズだ。
今から読み始める場合は、まず第1巻で薄井と清棲の出会いを追い、博物館の仕事の面白さが自分に合うか確かめるとよいだろう。
最新の刊行状況は小学館公式の既刊一覧で確認できる。
こんな人におすすめ
『へんなものみっけ!』第1巻を特におすすめしたいのは、博物館や動物が好きな人だけではない。
身近なものの仕組みを知ることが好きな人、今まで知らなかった仕事の世界に触れたい人にも向いている。
また、研究者たちのように熱中できるものを持っていないと感じている人にも、薄井の立場から入りやすいはずだ。
本作の第1巻は、夢中になれることがある人だけを称える漫画にはなっていない。
薄井のように研究者を支える立場にも価値があり、自分の専門分野を持たなくても、誰かの仕事へ関わることで新しい面白さを発見できる。
反対に、強い物語の対立や派手なアクションを求める人には、少し物足りないかもしれない。生物の死体や標本づくりが苦手なら、その点にも注意が必要だ。
「こんな研究があるんだ」「こんな仕事をしている人がいるんだ」という発見を楽しめる人には、かなり魅力的な一冊になると思う。
公式で第1巻を試し読みするには?
本作が気になったら、まずは小学館の公式試し読みを確認するのがおすすめだ。
最初のカモシカとの出会いを見るだけでも、清棲がどんな研究者なのか、薄井がどれほど博物館の仕事を知らなかったのかが伝わってくる。
また、東洋経済オンラインでは第5話の漫画も公開されている。こちらは薄井の人物像を知るうえで面白いエピソードだが、第1話から順番に読む方が変化を理解しやすい。
早良朋/小学館・ビッグコミックス。市役所から博物館へ出向した薄井透が、鳥類研究者・清棲あかりや個性豊かな研究者たちと出会い、自然科学と標本を残す仕事の面白さを知っていくシリーズ第1巻。
価格・在庫・仕様や版の違いなどは変動します。購入の際は各ショップの商品ページで最新情報をご確認ください。
まとめ|博物館の「へんなもの」は、未来の誰かへの贈り物
『へんなものみっけ!』第1巻は、博物館の裏側にある意外な仕事を知るだけでも十分に楽しい。
カモシカの標本づくり、フクロウの調査、海生動物の採集、植物の同定。展示室に並ぶ資料の向こう側には、さまざまな人たちの仕事がある。
しかし、この作品が本当に面白くなるのは、それを薄井の視点から描いているところだ。
無駄を減らすことが得意だった事務職員が、すぐには役に立たないかもしれないものを、大切に残そうとする研究者たちに出会う。
最初は理解できなかった行動も、その理由を知れば違って見える。
そして第4話では、好きなことを楽しそうに語れる人々を見て、薄井自身も心を動かされる。第5話では、研究者と同じ知識を持たなくても、自分の能力でその仕事を支えられることが見えてくる。
博物館の仕事は、未来の誰かが研究するための証拠を残す仕事でもある。
その考え方を知ると、展示室で何気なく見ていた標本の意味まで変わってくる。
今日、誰かが残したものが、100年後に新しい発見を生むかもしれない。
『へんなものみっけ!』は、そんな時間の長さを感じさせながら、今まで知らなかった世界を身近にしてくれる漫画だ。
博物館へ行ったとき、展示されている標本だけではなく、その標本を集め、調べ、残してきた人たちのことまで想像したくなる。第1巻には、そんな新しい見方を与えてくれる面白さがある。
参考資料:小学館『へんなものみっけ!』第1巻公式書誌/ビッグコミックBROS.NET公式作品紹介/ほぼ日刊イトイ新聞・早良朋インタビュー/国立科学博物館・標本資料センター。刊行状況は2026年10月20日時点。