- ネコが近くにいると活力が高い?京都大学の研究結果を解説
- ネコと近くで過ごす飼い主ほど「活気・活力」が高かった
- 京都大学と麻布大学は何を調べた?ネコ29匹と飼い主19人の1か月間
- 「活気・活力が高い」とは、体力が上がるという意味?
- ネコと飼い主のオキシトシンにも関連が見つかった
- オキシトシンが高いネコほど、人に近づきやすい?
- 長く飼っていることより、毎日そばにいることが重要なのか
- ネコを撫でなくてもいい?どれくらい近くにいれば元気になる?
- 犬と飼い主の研究とは何が違うのか
- ネコが飼い主を元気にするとは、まだ言い切れない理由
- ネコとの暮らしで見えてきた、もう一つの関係
- まとめ|ネコとの近さと飼い主の活力には関連があった
ネコが近くにいると活力が高い?京都大学の研究結果を解説

家でくつろいでいると、いつの間にかネコが隣に座っている。膝に乗ってきたり、少し離れた場所で眠っていたり。そんな何気ない時間が、飼い主の気分と関係しているのかもしれません。
2026年10月15日、京都大学と麻布大学の研究グループが、ネコと飼い主の関係について興味深い研究成果を発表しました。
ネコと近くで過ごしている飼い主ほど、気分の指標である「活気・活力」が高い傾向にあったというのです。
さらに、飼い主とネコの双方で、社会的な絆に関わるホルモン「オキシトシン」の濃度に関連があることも確認されました。
ただし、ネコが近くにいることで活力が上昇した、と証明されたわけではありません。今回見つかったのは、日常的な距離やホルモン、飼い主の気分の間にある関連性です。
では、研究者たちは何を調べ、どんな結果を得たのでしょうか。ネコと暮らす期間の長さとの違い、触れ合いの効果、研究から読み取れることを順番に見ていきます。
ネコと近くで過ごす飼い主ほど「活気・活力」が高かった
今回の研究で特に注目したいのは、ネコとの日常的な距離と、飼い主の活気との関係です。
京都大学白眉センター/人と社会の未来研究院の高木佐保特定助教、麻布大学獣医学部の菊水健史教授らの研究グループは、ネコと飼い主が日常生活でどれくらい近くにいるのかを記録しました。
その結果、ネコと近くで過ごしている飼い主ほど、気分を評価する質問紙の「活気-活力」という項目で高い値を示していました。
意外なのは、ネコと暮らしている期間の長さと、活気との間には明確な関連が見られなかったことです。
長年飼っているから必ず活力が高いわけではなく、毎日の暮らしの中でどのようにネコと過ごしているかが、飼い主の気分と関係している可能性があります。
研究グループが確認した主な結果を整理すると、次のようになります。
| 調べた関係 | 確認された結果 |
|---|---|
| ネコとの近さと飼い主の活気 | 近くで過ごす飼い主ほど活気・活力が高い傾向 |
| 飼育期間と飼い主の活気 | 明確な関連は見られなかった |
| ネコと飼い主のオキシトシン | 双方の濃度に正の関連が見られた |
| ネコのオキシトシンと飼い主の気分 | ネコの濃度が高いほど飼い主のネガティブな気分が低い傾向 |
| ネコのオキシトシンと接近行動 | 濃度が高いネコほど人に近づきやすい傾向 |
ここで気になるのが、そもそも「近くにいる」という状態を、どうやって測ったのかという点でしょう。
京都大学と麻布大学は何を調べた?ネコ29匹と飼い主19人の1か月間
研究成果は、2026年10月14日午前11時(米国東部時間)に国際学術誌『iScience』へオンライン掲載されました。
研究に参加したのは、SNSやチラシを通じて募集された飼い主19人と、その家庭で暮らすネコ29匹です。
- 飼い主:19人(18~60歳、女性16人・男性3人)
- ネコ:29匹(生後4か月~13歳)
- 調査期間:各家庭で1か月間
- ホルモン測定:飼い主とネコの尿をそれぞれ3回採取
- 調査内容:ホルモン濃度、日常的な距離、飼い主の気分、ネコの接近行動
ネコ5匹については尿を採取できなかったため、ホルモンの解析は24組で行われています。
飼い主19人に対してネコ29匹という構成なので、解析に使われた24組は24人の異なる飼い主を意味するわけではありません。
ネコの首輪に小型機器を付け、スマートフォンで距離を記録
今回の研究では、ネコが飼い主のそばにいる時間を、飼い主の記憶や自己申告だけに頼らず調べています。
使われたのは「BLEビーコン」という小型の装置です。
ネコの首輪に取り付けたビーコンから発信されるBluetoothの電波を、飼い主のスマートフォンで受信。その電波の強さを1か月間連続して記録し、両者の近さを推定しました。
ただし、GPSのように正確な位置を特定していたわけではありません。電波の強さを利用するため、あくまでおおよその距離を示す指標です。
「30cm以内なら効果がある」「1日に何時間そばにいればよい」といった具体的な距離や必要時間が判明したわけでもありません。
飼い主の気分とネコの行動も調査
飼い主には、気分の状態を評価する「POMS2」という質問紙に回答してもらいました。
また、ネコについては、飼い主と見知らぬ人に対する行動を観察しています。
具体的には「安全基地テスト」を応用し、床に描いた円の中へ飼い主または見知らぬ人が座ったとき、ネコが近づくか、その場所でどれくらい過ごすかを調べました。
つまり今回の研究は、ネコと飼い主の気分をアンケートだけで比べたものではありません。家庭内での距離、双方のホルモン、飼い主の気分、ネコの行動を組み合わせて調べたことに特徴があります。
「活気・活力が高い」とは、体力が上がるという意味?
「ネコが近くにいると活力が高まる」と聞くと、体力が付いたり、疲れにくくなったり、仕事のやる気が増したりすることを想像するかもしれません。
しかし、今回測定された活力は、筋力や持久力のような身体能力ではありません。
研究で使用されたPOMS2は、回答者の気分を7つの側面から評価する質問紙です。
- 怒り-敵意
- 混乱-当惑
- 抑うつ-落込み
- 疲労-無気力
- 緊張-不安
- 友好
- 活気-活力
今回の研究では、このうち「活気-活力」という気分の指標と、ネコとの日常的な近さに関連が確認されました。
言い換えれば、飼い主がどれくらい生き生きとした気分で過ごしているかという心理的な側面の話です。
ネコのそばで過ごすと運動能力が上がる、睡眠の質が改善する、病気にかかりにくくなる、といったことまで示されたわけではありません。
一方、日常生活の中で感じる活気や前向きな気分は、私たちにとって身近なものです。身体能力を測った研究ではないからといって、今回の発見の意味が小さくなるわけでもありません。
ネコと飼い主のオキシトシンにも関連が見つかった
もう一つの大きな発見が、ネコと飼い主のホルモンの関係です。
研究グループが調べたのは「オキシトシン」と「コルチゾール」の2種類でした。
オキシトシンとは?社会的な絆に関わるホルモン
オキシトシンは脳で作られるホルモンの一つで、親子の絆や他者への信頼など、社会的な結びつきに関わることが知られています。
一般には「幸せホルモン」「愛情ホルモン」と呼ばれることもありますが、その働きは単純ではありません。オキシトシンの濃度が高ければ、どんな状況でも必ず幸せになるというものではないのです。
今回の研究では、飼い主の尿中オキシトシン濃度が高いほど、ネコの尿中オキシトシン濃度も高いという関連が確認されました。
さらに、ネコのオキシトシン濃度が高いほど、飼い主の「怒り-敵意」「混乱-当惑」「抑うつ-落込み」「緊張-不安」といったネガティブな気分が低い傾向も見られています。
京都大学の高木佐保特定助教は、研究者コメントの中で、飼い主自身のオキシトシンよりも、ネコのオキシトシンの方が飼い主のネガティブな気分を予測していた点に注目しています。
飼い主の心理状態を考えるうえで、ネコ自身の生理的な状態にも注目する必要があるのかもしれません。
ただし、これらはホルモン濃度の関連です。ネコから飼い主へオキシトシンが移動した、あるいはネコのホルモンが直接飼い主の気分を変えた、という意味ではありません。
ストレスに関わるコルチゾールでは違う結果に
コルチゾールは副腎から分泌されるホルモンで、ストレス反応に関わっています。
研究では、飼い主のコルチゾール濃度が高いほど、ネコのオキシトシン濃度が低いという関連が見られました。また、飼い主自身のコルチゾール濃度が高いほど、ネガティブな気分も高くなっていました。
一方、飼い主とネコのコルチゾール濃度同士には、明確な関連が確認されていません。
この違いは興味深いところです。
同じ家庭で生活しているからといって、ネコと飼い主のすべてのホルモンが同じように変化するわけではありません。
今回の結果から研究グループは、ネコと人の生理的な結びつきについて、コルチゾールよりもオキシトシンが重要な役割を担っている可能性を指摘しています。
オキシトシンが高いネコほど、人に近づきやすい?
研究では、ネコ自身の行動にも違いが見つかっています。
オキシトシン濃度が高いネコほど、飼い主だけでなく、見知らぬ人にも近づきやすい傾向が見られました。
ここで注目したいのは、相手が飼い主かどうかにかかわらず、接近行動との関連が見られたことです。
ただし、オキシトシン濃度の高いネコが必ず人懐っこい性格だと判断できるわけではありません。ホルモン濃度と行動の関連を調べた結果であり、性格そのものを決定する仕組みが分かったわけではないからです。
また、コルチゾール濃度が高いネコほど、見知らぬ人の近くで過ごす時間が短い傾向も見られましたが、こちらの関連は明確ではありませんでした。
ネコが人へ近づく行動と、飼い主との日常的な距離。この二つを考えると、ネコと人の関係を理解するには、飼い主側だけでなくネコ側の状態も大切になりそうです。
長く飼っていることより、毎日そばにいることが重要なのか
今回の研究結果の中でも、日常生活に結びつけて考えやすいのが、飼育期間と距離の違いです。
ネコと暮らし始めて数か月の人もいれば、10年以上一緒に暮らしている人もいます。
長い時間を共に過ごせば、それだけ飼い主の気分にも良い影響があるように思えますが、今回の調査では、飼育期間の長さと活気との間に明確な関連は見られませんでした。
一方、家庭内でネコと近くにいることは、活気の高さと関連していました。
この結果は、ネコを飼っているかどうか、何年間飼っているかという情報だけでは、ネコと人の関係を十分に説明できない可能性を示しています。
たとえば同じ10年間でも、生活空間を共有している時間や、ネコとの関わり方は家庭によって異なるでしょう。ネコが自然に飼い主へ近づく家庭もあれば、互いに離れた場所で過ごすことの多い家庭もあるはずです。
そうした日々の違いを考える手がかりとして、今回の距離の測定には意味があります。
もっとも、今回の調査だけで「長く飼うことに意味がない」とは言えません。少人数の研究で関連が検出されなかったことと、実際に効果が存在しないことは別です。
飼い主の気分との関係を考えるなら、飼育年数という数字だけでなく、普段の生活の中でネコとどう関わっているかにも目を向ける必要がある、というのが今回の研究の重要な示唆でしょう。
ネコを撫でなくてもいい?どれくらい近くにいれば元気になる?
研究結果を知ると、実際の暮らしに当てはめたくなります。
ネコが隣で眠っているだけでもよいのか。膝に乗せたり、撫でたりする必要があるのか。毎日どれくらい一緒に過ごせばよいのか。
ただ、今回の研究は、こうした条件ごとの効果を比較したものではありません。
「近くにいるだけ」と「触れ合うこと」は別
距離の測定に使用されたのは、首輪のビーコンとスマートフォンの電波です。
そのため、ネコが近くにいたことは推定できても、その間ずっと撫でていたのか、抱っこしていたのか、同じ部屋で別々のことをしていたのかまでは、距離の記録だけでは分かりません。
つまり、ネコに触れなくても同じ結果が得られるのか、触れ合うことで結果が変わるのかは、今回の研究だけでは判断できないのです。
また、飼い主の活気との関連が見つかったからといって、ネコを無理に近くへ連れてきたり、抱き続けたりする理由にはなりません。
ネコにはそれぞれ好む距離感があります。人のそばで眠るのが好きなネコもいれば、少し離れた場所から家族の様子を見ている方が落ち着くネコもいます。
今回の結果は、ネコとの自然な関わり方を考える材料にはなりますが、特定の接し方を推奨するものではありません。
犬と飼い主の研究とは何が違うのか
動物と人間の絆をホルモンから調べる研究は、今回が初めてではありません。
犬については、飼い主と見つめ合うことで双方のオキシトシンが上昇することや、長期的なコルチゾール濃度に関連が見られることが報告されてきました。
一方、ネコについては、飼い主かネコの一方だけのホルモンを調べた研究が中心で、日常的な家庭環境で双方のオキシトシンを調べた知見は限られていました。
今回の研究が新しいのは、ネコと飼い主の双方のホルモンを測定し、それを家庭内での距離や飼い主の気分と合わせて調べた点にあります。
また、犬と人の関係で報告されてきたコルチゾール同士の関連が、今回のネコと飼い主では明確に見られなかったことも興味深い違いです。
研究グループは、犬とネコでは家畜化の歴史や祖先の社会性が異なることが、生理的な結びつき方にも関係している可能性を挙げています。
ただし、今回の研究で犬とネコを同じ条件で直接比較したわけではありません。「犬よりネコの方が人を元気にする」といった優劣を示す結果ではないことも押さえておきたいところです。
ネコが飼い主を元気にするとは、まだ言い切れない理由
ここまでを見ると、ネコと近くにいることが飼い主の活気につながっているように感じられます。
しかし、同じ結果を別の方向から考えることもできます。
もともと気分が良く、活発に過ごしている飼い主だからこそ、ネコと積極的に関わる時間が多いのかもしれません。
あるいは、落ち着いた住環境や規則的な生活が、飼い主とネコの双方に影響している可能性もあります。
実際、研究グループも公式発表の中で、こうした逆方向の因果関係や、共通の生活環境の影響について言及しています。
今回の研究には、調査規模という面での限界もあります。
- 飼い主は19人と少人数である
- 飼い主の多くが女性で、男女の構成に偏りがある
- 事前登録を行っていない探索的な研究である
- 観察された関連から原因と結果の方向を決めることはできない
- 同じ家庭で暮らすことによる生活環境の影響を完全には切り分けられない
したがって、今回の結果をすべてのネコと飼い主へそのまま当てはめるのは早い段階です。
また、ネコを飼っていない人と飼っている人の健康状態を直接比較した研究でもありません。ネコを飼い始めれば活力が高まる、病気の予防につながる、といった結論も導けません。
今後は何を調べる必要があるのか
研究グループは今後、より多様な参加者を対象に、ネコと飼い主の双方から同じタイミングで繰り返しデータを取得する研究や、実験的な研究を進める方針を示しています。
たとえば、同じ飼い主とネコについて時間の経過に伴う変化を追えば、気分やホルモン、接近行動がどのような順番で変化するのかを詳しく調べられる可能性があります。
今後の研究で、ネコとの関わりが飼い主の気分に影響する仕組みが明らかになれば、今回の発見をより深く理解できるようになるでしょう。
ネコとの暮らしで見えてきた、もう一つの関係
今回の研究の面白さは、ネコを飼っている人が健康かどうかという大きな問いから、普段の暮らしの中にある小さな違いへ目を向けたところにあります。
同じ家で生活していても、ネコとの距離は常に一定ではありません。
飼い主の隣に座っている日もあれば、少し離れた場所で過ごしている日もあります。そうした何気ない距離感と、飼い主の気分との間に関連が見つかったのです。
さらに、ネコのオキシトシンと飼い主の気分にも関連がありました。人がネコから一方的に癒やしを受け取るという単純な話ではなく、双方の状態が関わり合っている可能性が見えてきます。
もちろん、どちらが相手に影響しているのかは、まだ十分には分かっていません。
それでも、ネコとの暮らしを考えるとき、飼育年数だけでなく、日々どのような時間を共有しているのかという視点が加わったことには意味があります。
ネコは必ずしも人の期待どおりに行動する動物ではありません。自分の好きな場所で眠り、気が向けば近づいてきて、また離れていく。
その自由な距離感を含めて、ネコと人はどのような関係を築いているのか。今回の研究は、そんな身近でありながら十分に解明されていない疑問に、新しい手がかりを与えました。
なお、ネコとの何気ない共同生活を描いた作品として、つぶログでは『夜は猫といっしょ』第1巻のレビューも紹介しています。科学研究とは違った角度から、ネコと人の距離感を楽しめる作品です。
まとめ|ネコとの近さと飼い主の活力には関連があった
京都大学と麻布大学の研究によって、ネコと飼い主の関係について、主に次のことが明らかになりました。
- ネコと近くで過ごす飼い主ほど、気分の指標である「活気-活力」が高い傾向にあった
- ネコと暮らしている期間の長さと、飼い主の活気には明確な関連が見られなかった
- ネコと飼い主のオキシトシン濃度には正の関連があり、ネコのオキシトシンは飼い主のネガティブな気分とも関連していた
- ただし、ネコが近くにいることで飼い主の活力が上がったという因果関係までは証明されていない
飼い主にとっては、ネコがそばにいるだけで心が和むように感じる瞬間があるかもしれません。
今回の研究は、そうした日常の感覚を考えるための一つの科学的な手がかりになりました。これからネコと人の関係がどこまで解明されていくのか、注目したいところです。