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シャングリラ・フロンティア(1)レビュー|“下手でも、遅くても、うまくなる”——砂埃の広場から始まる神ゲー冒険譚

砂埃の立つログイン広場で、中古のゴーグルを額に押し当てる少年がいる。名は陽務楽郎(サンラク)。彼は最新の神ゲーに入る直前まで、誰も褒めてくれない“クソゲー”をやり込み続けてきた変わり者だ。
画質は粗い、理不尽だらけ、でも負けない——そんな経験が、ここ『シャングリラ・フロンティア』で牙をむく初期モンスターの一振りを、紙一重で避けさせる。1巻は、「できない」を「できるかもしれない」に変えるプロローグ。ページを閉じるころ、きっとあなたの指も、もう一度コントローラを握りたくなっている。

発売情報

  • 発売日:2020年10月16日/レーベル:KCデラックス/判型:B6判/208p/定価:715円(税込)
  • ISBN:978-4065212325(紙)
  • 原作:硬梨菜/漫画:不二涼介(『週刊少年マガジン』連載)
  • 第47回講談社漫画賞 少年部門を受賞(シリーズ)。

出典:講談社公式 書誌・著者・受賞情報。

どんな物語?(1巻範囲)

舞台はフルダイブ型VRが常識になった少し未来。総プレイヤー数3,000万人の“神ゲー”に、クソゲー専門のソロ狩人・サンラクが挑む。
彼の強みはステータスではない。理不尽に慣れた観察・回避・立て直しの手順だ。1巻は町はずれの草原から始まり、素材集め、装備の試行錯誤、初見殺しの罠……と、世界のルールを身体で覚える時間が主役になる。派手な勝利より、失敗のログが次の一手の地図になる読み味が心地いい。

読みたくなる具体:1巻が刺さる5つの瞬間

1) “負けた直後”の早さが違う

体力ゼロで倒れ、視界が暗転する。普通ならため息の場面で、サンラクはすでに次の手順を並べている。
「次は右に誘って、足首の軸を切る」「視界外から来る二発目は音で読む」。反省が具体だから、再挑戦が遅れない。読み手の呼吸が自然と早くなる。

2) 初期装備の“軽さ”に賭ける

重装で殴り合うのではなく、身軽さと反射で穴を抜ける選択。草むらのガサッという音、刃が空を切る風圧、土の感触——ページに並ぶ小さな感覚が、避ける快感を立ち上げる。「上手い人」だけの物語じゃない、習熟の気持ちよさがここにある。

3) 目撃だけで震える“ユニーク”の気配

夜の草原を裂く影。遠くで何かが消え、何かが現れる。名を呼ぶことも叶わない強者の“気配”だけが、紙面の温度を下げる。1巻はこの段階で深入りしないが、この遭遇の痕が先の戦いの伏線になると読者に悟らせる手つきが実にうまい。

4) NPCや街の“生活音”が世界を広げる

武具屋の軋む扉、鍛冶台の金属音、フィールドで風に揺れる看板。背景の音が丁寧で、稼ぎの退屈さすら物語になる。「素材10個だけ」「今日は北の丘だけ」——この小さな自制が、やがて大きな戦果を呼ぶ。日常の積み上げに手触りがある。

5) 「うまくなる」ストーリーとして読む快感

1巻の快感は、勝敗ではなく段取りの更新に宿る。敵のモーション表、地形の癖、体勢の崩し方。メモのように並ぶ知識が、戦いの最中に反射へと変わる瞬間、読者側の体も軽くなる。スポ根ではなく、知恵と経験の積み替えで読ませるのがいい。

“神ゲー”を神ゲーにしているもの

シャンフロが「神」なのは、グラフィックの豪華さだけではない。自由度と危険の釣り合いが絶妙だからだ。寄り道をすれば、予想外の素材やサブイベントが転がっている。だが、見過ごしてはいけない気配も潜む。
サンラクはそこに、クソゲーで鍛えた胆力で踏み込む。怖いのは難しさではなく、知らないままで終わることだと彼は知っている。

作画の手触り:避ける・斬る・息を整える

不二涼介の線は、スピードの方向が見える。刃の軌道、体の重心、土の崩れ方。視線がコマを移動するとき、読者の体はサンラクと一緒に沈み、跳ね、ひねる。
細密な情報量で押し切るのではなく、必要な情報だけを一撃で通すから、回避の気持ちよさがダイレクトに届く。

「はじめて」の人へ:1巻で分かること

分かるのは、この世界の重力と摩擦だ。どう動けば通るか、どう立て直せば死なないか。分からないのは、世界の頂点と深淵。そこに何がいるのか、どれほど遠いのか。1巻はその“手触り”と“遠景”を同時に渡してくれる。だから続きが読みたくなる。

まずは公式PV&試し読みで“呼吸”を合わせる

PV:週刊少年マガジン公式YouTube(cv.内田雄馬/和氣あず未)。試し読みは講談社の作品ページから。

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まとめ:負けた数だけ“上達の手順”が増える

1巻は、勝つ物語というよりうまくなる物語だ。負けて、気づいて、直す。その地味な連打が、やがて誰にも真似できないスタイルになる。
ゲームが苦手でもいい。遅くてもいい。「次はこうすればいける」と胸のどこかで言える人間は、必ず前に進む。サンラクはそれを証明してくれる。 出典・参考情報(クリックで開く)

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補足

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