『大草原の小さな天使 ブッシュベイビー』の終盤で、ジャッキーは大切に育てたマーフィをイギリスへ連れて帰ろうとします。
輸出許可も取っていたため、最初から「野生動物は飼ってはいけない」と諦めていたわけではありません。ところがモンバサで船に乗ったあと、許可証を紛失していることに気づく。そこでジャッキーは、家族と一緒に出航するのではなく、一人で船を降り、マーフィをケニアの自然へ返すことを選びます。
この決断が、本作を単なる「少女とかわいい動物の友情物語」で終わらせないところです。好きだから一緒にいるのではなく、好きだからこそ相手が生きる場所を考える。40話の最後に向かって、ジャッキーの愛情の形が変わっていきます。
『大草原の小さな天使 ブッシュベイビー』の基本情報
- 放送期間:1992年1月12日~12月20日
- 全40話
- 放送局:フジテレビ系
- 原作:ウィリアム・スチーブンソン
- 舞台:独立を間近に控えた1960年代初頭のケニア
- 主人公:ジャッキー
- ブッシュベイビー:マーフィ
日本アニメーション公式では、ジャッキーはイギリス人の野生動物保護官を父に持つ少女として紹介されています。旧記事にあった「父は外交官兼動物保護官」という説明は撤去しました。
マーフィは最初から“別れのための動物”ではない
ジャッキーが育てるのは、母親を亡くしたブッシュベイビーの赤ん坊です。彼女はマーフィと名付け、生活の中で世話をしていきます。
ここで大切なのは、物語が最初から「野生へ返すのが正解」と答えを置いていないことです。ジャッキーにとってマーフィは、保護対象という言葉だけでは片づけられない存在になります。
一緒に過ごす時間が長いほど、別れは難しくなる。だから終盤の選択に意味が生まれます。簡単に手放せる動物なら、40話をかけて育てる必要はありません。
舞台が“独立直前のケニア”である意味
公式紹介では、舞台はイギリス統治領からの独立を間近に控えた1960年代初頭のケニアです。
つまりジャッキー一家の生活も、ずっと同じ形で続く前提ではありません。家族がイギリスへ戻ることになり、ジャッキーは自分が育った土地と離れることになります。
ここで、人間側の「帰る場所」とマーフィの「帰る場所」がずれます。ジャッキーにとっては英国が家族の行き先でも、マーフィにとって同じ場所が自然な行き先とは限りません。
一度はマーフィをイギリスへ連れて帰ろうとしている
本作の終盤を「ジャッキーが動物愛護に目覚め、最初から野生へ返す」とまとめると、重要な揺れが抜け落ちます。
公式あらすじでは、一家の帰国が決まったあと、マーフィも輸出許可を得てイギリスへ連れていく予定でした。ジャッキーは別れるつもりではなかったのです。
だから許可証紛失は、単なるトラブル以上の意味を持ちます。「連れていけなくなった。ではどうするか」と、ジャッキー自身に選択を迫ります。
なぜジャッキーは船を降りるのか
モンバサで船に乗ったあと、許可証を失っていることに気づいたジャッキーは、マーフィを故郷の自然へ帰そうと決意し、一人で船を降ります。
この行動が大きいのは、「仕方なく置いていく」のではないことです。船に残れば家族と安全に帰れる。それでも、マーフィを人間側の都合だけで処理せず、自分で最後まで向き合おうとします。
ジャッキーの成長は、マーフィを守り続ける力だけではありません。自分がそばにいたい気持ちと、相手にとって何がいいかを分けて考えるところまで進みます。
“飼う”と“守る”が同じではないと分かる
マーフィを大切にするなら、ずっと自分のそばへ置く。子どもの感情としては、それが一番自然です。
しかし野生動物との関係では、愛情と所有が同じとは限りません。本作はこの難しさを、説教ではなく「英国へ連れて帰れると思っていた少女が、自分で船を降りる」という行動で見せます。
マーフィとの別れが強く残るのは、友情が失敗したからではありません。一緒に過ごした時間があったからこそ、最後に手放す判断までできるようになった。その逆説があります。
前作『トラップ一家物語』とは違う“故郷を離れる”物語
前年1991年の『トラップ一家物語』も、最後には家族が住んでいた土地を離れる作品です。
ただしトラップ一家はナチス侵攻の中で祖国を離れ、家族全員で新天地へ向かいます。『ブッシュベイビー』では、人間の家族は英国へ戻る一方、マーフィにはケニアの自然という別の行き先がある。
「大切な相手なら一緒に行く」という答えをあえて崩したところに、本作独自の別れがあります。
総評|マーフィを連れて帰らないことが、ジャッキーの成長になる
『大草原の小さな天使 ブッシュベイビー』は、かわいい動物と少女の交流だけを描いた作品ではありません。
ジャッキーはマーフィを育て、一度はイギリスへ連れて帰ろうとします。それでも最後には、自分の生活へマーフィを連れていくのではなく、マーフィの生活へ戻す方を選びます。
「好きだから離れない」から「好きでも離れることがある」へ。その変化を40話かけて描くから、別れが単なる悲しい最終回ではなく、主人公の到達点になります。
世界名作劇場全体での位置づけは、世界名作劇場Tier表でもまとめています。