つぶログ深掘り

テレビの「砂嵐」には宇宙誕生の痕跡が映っていた?有名な“1%はビッグバン説”を本気で検証する

テレビの砂嵐の1%はビッグバン?宇宙マイクロ波背景放射説を検証

砂嵐を映す昔のブラウン管テレビと宇宙から届く電波を表現したイメージ

昔のアナログテレビで、放送のないチャンネルに合わせると画面いっぱいに現れた「砂嵐」。白と黒の点が激しくちらつき、「ザーッ」という音が鳴る、あの画面です。

この砂嵐について、昔からこんな話があります。

「テレビの砂嵐の約1%は、ビッグバンの名残だった」

もし本当なら、子どものころ何気なく見ていたブラウン管テレビに、宇宙が誕生した時代の痕跡が映り込んでいたことになります。

あまりにも出来すぎた雑学にも聞こえますが、調べていくと、この話は単なる都市伝説ではありません。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は実在し、昔のテレビアンテナにもその成分は入っていました。

ただし、問題になるのが「1%」という数字です。

結論から言えば、「砂嵐の中に宇宙初期の放射が混ざっていた」は本当。一方で、「どのテレビでも砂嵐の1%が正確にCMBだった」と考えると話は変わってきます。

結論|砂嵐に宇宙の痕跡は混ざっていた。ただし「1%」は目安

最初に今回の検証結果を整理します。

よくある説明判定実際はどうなのか
CMBは実在する本当現在の温度は約2.725K。人工衛星などによって精密に観測されている
昔のテレビでもCMBを受信していた原理的に本当CMBは空全体から届いており、テレビ放送帯にも低周波側の成分がある
砂嵐の約1%はCMB概算としては成立約3Kと約300Kを比べた、分かりやすい目安として専門家も使っている
どんなテレビでも必ず1%そうとは言えない受信機、周波数、アンテナ、周囲の電波環境などで雑音量は変わる
白い点100個のうち1個が宇宙由来違うさまざまな雑音が電気信号として混ざり、一つの砂嵐として表示される
ビッグバンの瞬間をテレビで見ていた違うCMBは宇宙誕生から約38万年後に自由に進み始めた光

つまり、「砂嵐の1%はビッグバン」という有名な話には、ちゃんと科学的な土台があります。

ただし、「1%」を精密な測定値ではなく、仕組みを直感的に説明するための概算と考えることが重要です。

そもそもテレビの「砂嵐」は何だったのか

アナログテレビは、アンテナで受け取った電波を電気信号へ変換し、その強弱から映像や音声を作っていました。

放送局の信号を十分な強さで受信している間は、番組の映像が画面に現れます。

ところが、放送されていないチャンネルなどに合わせると、テレビへ入ってくる有効な映像信号がほとんどありません。

それでも受信機の中が完全に「無」になるわけではありません。

アンテナが拾った弱い電波、テレビ内部の電子回路が発生させる雑音、周囲の人工的な電波、大気や地面から入る成分、さらに宇宙から届く電波まで、さまざまなランダムな信号が残っています。

アナログテレビはそれらも増幅してしまうため、映像として現れたのが、あの細かな白黒のちらつきです。

つまり砂嵐は、一つの何かを映していたのではありません。

いろいろな雑音が全部混ざった結果として見えていた画面です。

そして、その「いろいろ」の中にCMBも含まれていました。

宇宙マイクロ波背景放射(CMB)とは何なのか

CMBは「Cosmic Microwave Background」の略で、日本語では宇宙マイクロ波背景放射と呼ばれます。

現在の宇宙をほぼあらゆる方向から満たしている、非常に弱い電磁波です。

その温度は現在、およそ2.725K。絶対零度からわずか2.7度ほど上という非常に低い温度に相当します。

NASAの宇宙背景放射観測衛星COBEに搭載されたFIRASは、CMBのスペクトルが約2.725Kの黒体放射と極めてよく一致することを確認しました。

これは、宇宙がかつて非常に高温・高密度だったという「熱いビッグバン宇宙」の強力な証拠の一つになっています。

「ビッグバンの瞬間の光」ではない

ここは、よく誤解されるところです。

CMBはビッグバンが起きた瞬間に飛び出し、そのまま138億年ほど飛んできた光ではありません。

初期の宇宙は非常に高温で、電子や原子核が自由に飛び回るプラズマ状態でした。光は電子などと次々に衝突するため、遠くまでまっすぐ進むことができません。

例えるなら、非常に濃い霧の中に光が閉じ込められているような状態です。

宇宙が膨張して冷え、誕生からおよそ38万年がたつと、電子と原子核が結びついて原子を作れるようになります。

自由な電子が大幅に減ったことで宇宙は透明になり、それまで物質と相互作用していた光が遠くまで進めるようになりました。

この時代の光が宇宙の膨張によって長い波長へ引き伸ばされ、現在は約2.7Kのマイクロ波として観測されています。

したがって、

「ビッグバンそのものをテレビで見ていた」

という表現は正確ではありません。

「宇宙が誕生して約38万年後の、非常に若い宇宙から届いた光の名残」

と考える方が実態に近いでしょう。

では、なぜ「砂嵐の1%」と言われるようになったのか

「1%」という数字は、出所不明のネット雑学というわけではありません。

宇宙論研究者のウェイン・フーとマーティン・ホワイトは、2004年に『Scientific American』へ掲載したCMBの解説で、放送のないチャンネルへテレビを合わせたときに見える砂嵐について、約1%がCMBに由来すると説明しています。

プリンストン大学の宇宙論研究者ライマン・ページも、同じ「約1%」という説明をしています。

その考え方は意外なほど単純です。

CMBはおよそ3K。

一方、私たちの周囲や室温程度の熱雑音をおおまかに300Kと考えます。

3 ÷ 300 = 0.01

つまり約1%です。

電波受信の世界では、雑音の強さを「雑音温度」という形で表現できます。十分に低い周波数では、同じ帯域幅なら熱雑音の電力は温度にほぼ比例します。

代表的な関係は、

P = kTB

です。

Pは雑音電力、kはボルツマン定数、Tは温度、Bは帯域幅を表します。

難しい式を覚える必要はありません。

ここで重要なのは、同じ条件なら「約3K」と「約300K」を比べて、ざっくり100分の1と考えられることです。

これが「テレビの砂嵐の約1%は宇宙誕生の名残」という説明の大きな根拠になっています。

ところが、実際のテレビは「3K対300K」だけではない

ここまでなら、「じゃあ本当に1%だったんだ」で終わりそうです。

しかし、家庭用テレビそのものを考えると事情はもう少し複雑になります。

テレビ画面に現れる砂嵐の原因は、CMBと室温の熱雑音だけではありません。

実際には、受信機の内部雑音、アンテナやケーブルの損失、大気や地面から来る電波、銀河系からの電波、人工的な無線通信や電気機器による雑音などが重なります。

そのため、

「CMBが約3K、周囲が約300Kだから、どのテレビでも必ず1%」

という計算を、そのまま実機へ当てはめることはできません。

テレビ受信機そのものが雑音を作る

特に無視できないのが、テレビ内部の受信回路です。

電子回路は理想的な受信機ではないため、信号を増幅するときに自身も雑音を加えます。

米国FCCがアナログテレビ放送の受信計画で長く使用していた値を見ると、受信機の雑音指数としてVHFで12dB、UHFで15dBといった値が設定されていました。

これは日本の家庭用テレビすべてについて実測した数字ではありません。しかし、「現実のテレビ受信機では、300Kだけを考えれば済むわけではない」ことを理解する例にはなります。

こうした雑音指数を等価な雑音温度へ置き換えると、条件によっては数千K相当になります。

その中へ約2.7KのCMBが加わるなら、その割合は1%よりかなり小さくなる場合があります。

逆に、低雑音の受信装置を使えばCMBの相対的な割合は大きくなります。

要するに、テレビの機種を決めずに「必ず1%」と断言することはできないのです。

もう一つの伏兵が「天の川」だった

さらに面白いのが、宇宙から来る電波=CMBだけではないという点です。

私たちが住む天の川銀河も、電波を放っています。

特に低い周波数では、銀河系からのシンクロトロン放射などが強くなります。

国際電気通信連合(ITU)の資料では、銀河背景放射の輝度温度は100MHz付近では数千Kに達する一方、1GHz付近では1~10K程度まで低下すると説明されています。

つまり、テレビが使う周波数によって、空から入ってくる雑音の中身そのものがかなり変わります。

日本の地上アナログテレビでは、VHFの90~108MHz、170~222MHzや、UHFの470~770MHzなどが使われていました。

特に低いVHF帯では、約2.7KのCMBより天の川銀河から来る電波雑音の方がはるかに強くなる場所や条件もあります。

ここまで考えると、「砂嵐=ほぼ地上の雑音+1%だけビッグバン」という単純な図ではないことが分かります。

テレビの砂嵐には、地上の世界だけでなく、私たち自身の銀河から来る電波も、そのさらに奥にあるCMBも重なっていたのです。

白い点100個のうち1個が「138億年前の光」ではない

「1%」という数字から、もう一つ生まれやすい誤解があります。

砂嵐を眺めて、

「この白い点は地上のノイズ。こっちの点は宇宙から来たCMB」

というように、一つひとつ分けられるわけではありません。

アンテナや受信機へ入ってきた雑音は、電気信号として全部重なります。

テレビはその合成されたランダムな信号を増幅し、画面の明暗として表示していました。

そのため、「100個の点のうち1個がCMB」という意味ではありません。

仮にCMBが総雑音電力の1%を占めていたとしても、特定の点だけを取り出して

「これは宇宙誕生から届いた光だ」

と判別することはできません。

砂嵐全体を作っていた雑音の、ごく一部として混ざっていたと考えるのが正確です。

CMBはどうやって発見された?テレビを見て気づいたわけではない

ここも、有名な話が少し混ざりやすいところです。

CMBを発見したのは、ベル研究所のアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンです。

ただし、二人が家庭用テレビの砂嵐を見て「これは宇宙から来ているのでは?」と気づいたわけではありません。

使っていたのは、米ニュージャージー州ホルムデルにあった巨大な20フィートのホーンリフレクターアンテナでした。

このアンテナはもともと、初期の衛星通信実験などに使われていた非常に感度の高い装置です。

ペンジアスとウィルソンは1964年から観測を進める中で、どうしても説明できない雑音に悩まされます。

地上からの電波なのか。

アンテナの問題なのか。

大気なのか。

受信装置自身が出している雑音なのか。

原因になりそうなものを一つずつ調べても、余分な信号が消えませんでした。

1965年に発表された二人の論文では、4080MHz(4.08GHz)で、予想より約3.5±1.0K高いアンテナ温度が残ったと報告されています。

しかも、その雑音は観測できる範囲では方向にほとんど依存せず、季節による変化も確認できませんでした。

これは現在測定されている約2.725Kとは数字が少し違います。当時の測定誤差や他の成分を含む初期観測だったためで、後の精密観測によってCMBの温度はより正確に決められていきました。

有名な「鳩のフンを掃除した」話は本当

この発見には、科学史上でも特に有名なエピソードがあります。

ホーンアンテナには鳩が入り込み、内部にフンなどが残っていました。

ペンジアスとウィルソンは、それが余計なマイクロ波雑音を生んでいる可能性まで疑い、鳩を追い出してアンテナ内部を掃除しています。

しかし、問題の雑音は消えませんでした。

とはいえ、

「鳩のフンを掃除したらビッグバンを発見した」

とまとめてしまうのは少し乱暴です。

本当に重要なのは、二人が考えられる雑音源を徹底して調べ、取り除いてもなお信号が残ったことでした。

その後、近くのプリンストン大学ではロバート・ディッケ、ジム・ピーブルズらが、初期宇宙から残る背景放射を検出しようとしていたことが分かります。

ベル研究所の「消えない雑音」と、プリンストン側が探していた宇宙初期の放射が結びつきました。

ペンジアスとウィルソンの観測論文と、ディッケらによる宇宙論的な解釈の論文は、1965年の『The Astrophysical Journal』に並んで掲載されます。

ペンジアスとウィルソンはその後、CMB発見の功績によって1978年のノーベル物理学賞を共同受賞しました。

発見に使った電波とテレビの電波は同じだったのか

ここにも少し注意が必要です。

ペンジアスとウィルソンが1965年の論文で報告した観測周波数は4.08GHzです。

一方、日本の地上アナログテレビが使っていたのは主に数十~数百MHz台のVHF・UHFでした。

つまり、CMBの発見に使われた観測装置と、家庭にあったテレビは同じ周波数を測っていたわけではありません。

それでもテレビにCMBが入ってくるのは、CMBが一本の決まった周波数だけで飛んでいる電波ではないためです。

CMBは約2.7Kの黒体放射に非常によく一致したスペクトルを持っており、幅広い周波数にわたって放射があります。

強度のピークは波長約2mm付近で、昔のテレビ放送に使われた電波よりずっと高い周波数側ですが、低周波側にも放射は続いています。

だからこそ、テレビアンテナにもその一部が入ってきます。

昔のテレビなら誰でも「宇宙」を見られたのか

ある意味では、そう言えます。

アナログテレビにアンテナを接続し、放送信号のないチャンネルで砂嵐を出せば、その受信系へCMBの電波も届いていました。

ただし、その場で「CMBだけ」を見ることはできません。

家庭用テレビは宇宙観測装置ではなく、受信機自身の雑音や地上・銀河から来る電波も大量に混ざります。

見えていた砂嵐のごく一部に、CMBも含まれていた――という表現が一番近いでしょう。

それでも考えてみれば不思議な話です。

テレビ局が何も放送していない画面を眺めていたはずなのに、アンテナそのものは完全な「何もない空間」を見ていたわけではありませんでした。

目の前の部屋。

街の電気機器。

大気。

地面。

天の川銀河。

そして、そのさらに奥にある宇宙初期の放射。

全部が同じ画面の雑音へ重なっていたのです。

では今のテレビでも砂嵐からCMBを見られる?

現在の地上デジタルテレビでは、昔のような砂嵐を見る機会はほぼなくなりました。

デジタル放送では、受信状態が悪くなってもアナログテレビのように雑音をそのまま映像へ変換する仕組みではありません。

信号を正常に復号できなくなると映像が乱れたり、止まったり、「受信できません」などの表示になったりします。

つまり、現代のテレビで放送のないチャンネルへ合わせても、受信回路のランダムなノイズを昔のような「雪」として眺めることは基本的にありません。

CMB自体が消えたわけではありません。

約2.7Kの宇宙背景放射は今も私たちの周囲を通り続けています。

変わったのはテレビ側です。

「砂嵐の1%」はウソなのか?

ここまで調べると、1%説を単純に「本当」とするのも、「間違い」と切り捨てるのも適切ではありません。

約3KのCMBと約300Kの周囲の雑音を比べ、約1%とする説明には物理的な根拠があります。実際に宇宙論の研究者や専門的な解説でも使われてきた数字です。

一方で、家庭用テレビの砂嵐を作る総雑音は300Kという一つの値だけでは決まりません。

テレビ自身の受信回路、周波数、アンテナ、大気、地面、銀河系、人工電波などによって変化します。

したがって、

「あらゆるアナログテレビで、砂嵐のちょうど1%がCMBだった」

という意味なら、その説明は正確ではありません。

しかし、

「あの砂嵐には本当に宇宙初期から届いたCMBが混ざっており、その大きさを直感的に説明する目安として約1%という数字が使われてきた」

のであれば、かなり実態に近い説明です。

まとめ|あの砂嵐には、本当に宇宙初期の光が混ざっていた

テレビの砂嵐の1%がビッグバン――。

この有名な話を調べると、完全な作り話ではありませんでした。

宇宙マイクロ波背景放射は現在も約2.725Kの放射として空全体から届いています。昔のアナログテレビのアンテナも、その電波を完全に避けることはできません。

ただし「1%」は、すべてのテレビで確認された固定値ではありません。

約3KのCMBと約300Kの雑音を比べた分かりやすい概算であり、実際の割合はテレビの受信性能や周波数、周囲の電波環境によって変わります。

そして、白い点100個に1個だけが宇宙由来だったわけでもありません。

CMBも、テレビ内部の雑音も、街から飛んできた電波も、天の川から届いた電波も、すべてが重なって「あの砂嵐」を作っていました。

だから最終的な答えは、こうなります。

「砂嵐の1%はビッグバン」という数字は少し単純化されている。でも、昔のテレビで何気なく見ていた砂嵐の中に、宇宙がまだ約38万歳だったころの光が本当に混ざっていた――そこは雑学ではなく、物理の話だった。

そう考えると、何も映っていなかったはずのあの画面も、少し違って見えてきます。

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