虹彩都市 忖度なしレビュー|Key新作サイバークライムノベルの第一印象【ネタバレなし】

Keyの完全新作キネティックノベル『虹彩都市(こうさいとし)』が、2025年11月28日に発売されました。対応プラットフォームはPC(Windows 10/11)で、ジャンルは「キネティックノベル」。選択肢やルート分岐をほぼ廃し、物語を“読むこと”に特化したスタイルの最新作です。
舞台となるのは、眼内レンズ「Plant」によって現実とARを重ねて見ることが当たり前になった近未来の完全AR対応都市「0区」。ADONIS社のサイバー犯罪対策課に所属する捜査官・喰木紫苑と、死んだはずの幼馴染・百花(電子幽霊)を軸に、「チートPlant」を巡る事件と、ふたりの関係が交錯していくサイバークライムサスペンスです。
本記事では、発売直後時点の情報とキネティックノベルとしての仕様をベースに、「世界観・キャラクターの魅力」「読み心地やテンポ感」「システム面(選択肢なし/ボリューム/価格)」「どんな人に向いているか」といった観点から、ネタバレなしで忖度なしの第一報レビューを行っていきます。ストーリーの核心や終盤の展開には一切触れず、「買うかどうか迷っている人が判断しやすくなること」をゴールにしています。
虹彩都市 作品概要・基本情報

『虹彩都市(こうさいとし)』は、Keyが手がける完全新作のキネティックノベルです。眼内レンズ「Plant(プラント)」によって現実とARが重なった近未来の完全AR対応都市「0区(ゼロく)」を舞台に、ADONIS社のサイバー犯罪対策課で働く捜査官・喰木紫苑と、死んだはずの幼馴染・百花(電子幽霊)を中心としたサイバークライムサスペンスが描かれます。選択肢やマルチエンディングではなく、一本道の物語を読み切ることに特化したスタイルの作品です。
- タイトル:虹彩都市(こうさいとし)
- ブランド:Key(ビジュアルアーツ)
- ジャンル:キネティックノベル(選択肢なし・一本道ノベルゲーム)
- 対応プラットフォーム:PC(Windows 10 / 11)
- 発売日:2025年11月28日
- 舞台設定:眼内レンズ「Plant」により現実とARが重なった近未来都市「0区」/ARネットワーク「ADONIS」が視界を管理する世界
- 主な登場人物:喰木 紫苑(ADONIS社サイバー犯罪対策課の捜査官)、一華 百花(幼少期に死んだはずの少女/AR上の電子幽霊として再会) ほか
- メインスタッフ:シナリオ:松山剛/キャラクターデザイン・原画:KEI/音楽プロデュース:折戸伸治
- 音声:主人公を含むフルボイス仕様
- プレイ時間目安:フルボイス+オートモードでおよそ15〜20時間前後(クリアまでの読み切りボリューム)
- 販売形態:パッケージ(初回限定版・豪華限定版など)+ダウンロード版(通常版/デジタル特典版)
虹彩都市のよかった点|サイバークライムと青春ドラマの二重奏
虹彩都市の一番の魅力は、サイバークライムサスペンスの緊張感と、幼馴染との再会というパーソナルなドラマが、同じ土台の上で丁寧に絡み合っているところです。眼内レンズ「Plant」と完全AR対応都市「0区」、そして視界を管理するネットワーク「ADONIS」というSF設定がしっかり作り込まれているおかげで、紫苑と百花の物語にも説得力が生まれています。
- サイバー犯罪捜査と“電子幽霊の幼馴染”の物語が両立している
主人公の喰木紫苑は、ADONIS社サイバー犯罪対策課の一級捜査官として「チートPlant」や「スワンプマン事件」といった危険な事件に関わる一方で、幼い頃に亡くなったはずの百花と電子幽霊として再会します。近未来のセキュリティ事件に挑むハードなパートと、百花との穏やかな会話や思い出の花畑づくりといった心温まるパートの切り替えがはっきりしていて、「重いテーマなのに暗すぎない」バランスが好印象です。 - ARと視界管理の設定が世界観の説得力を高めている
虹彩都市の世界では、人々は眼内レンズ「Plant」で現実とARを重ねて見ており、完全AR対応都市「0区」はADONISによって視界そのものが管理されています。この「視界を誰が支配しているか」という設定が、そのままサイバー犯罪や陰謀の土台になっていて、物語全体に一貫したテーマ性があるのが魅力です。単なる“近未来っぽい舞台”ではなく、「この技術があるならこういう事件が起こるよね」と納得できる世界観になっています。 - KEIのビジュアルと近未来都市の雰囲気がマッチしている
キャラクターデザイン・原画は初音ミクでおなじみのKEI。電子幽霊となった百花の透明感のあるビジュアルや、紫苑のクールな佇まい、AR広告が浮かぶ都市景観などが、サイバー寄りのSF世界に“柔らかさ”を足してくれています。無機質な近未来ではなく、光と色のコントラストが印象に残るビジュアルで、「Keyらしいキャラクター性」をきちんと保ったままSFに寄せている点は強みと言えます。 - 一本道キネティックノベルだからこその没入感
虹彩都市は、選択肢やマルチエンディングを廃したキネティックノベル形式で、プレイヤーはひたすら“読むこと”に集中できます。通常のADVのように選択肢でセーブ&ロードを繰り返す必要がなく、紫苑と百花、そして0区を巡る事件の流れを、一本の長編小説のような感覚で追っていけるのはこの形式ならでは。サブキャラクターの描写や分量も従来のKey作品より増えており、「Keyの長編SF小説を一気読みする」ような体験ができるタイプの作品です。 - ボリュームと価格のバランスは“長編読み物”として納得感がある
フルボイスでおよそ15〜20時間前後というクリアまでの読み応えは、1本完結のキネティックノベルとして見ると十分なボリュームです。途中でルート分岐を作らず一本に絞っているぶん、テキストと演出にコストを集約している印象で、「時間をかけてSFサスペンスと人間ドラマをじっくり楽しみたい」人には、価格に対しての満足度は高くなりやすいバランスになっています。 - Keyらしい音楽と演出で“ここぞ”というシーンをしっかり支えてくれる
音楽プロデューサーは折戸伸治、OPテーマ歌唱はnonocという布陣で、静かな日常シーンから緊迫した捜査シーン、百花との再会シーンまで、BGMと演出がしっかり空気を作ってくれます。特にAR空間の表現や、百花が現れる場面など、「音と光の演出が入ることで一段階盛り上がる」カットが多く、読み物としてのリズムを整えている印象です。
虹彩都市の気になった点|人を選びそうなポイント
虹彩都市は、世界観やキャラクター、演出面に力の入った作品である一方で、「ここは人を選びそうだな」と感じるポイントもいくつかあります。遊ぶ前に知っておくと、ギャップを減らせるであろう部分を整理しておきます。
- キネティックノベルゆえに“ゲーム的な操作感”はほぼない
虹彩都市は、選択肢やルート分岐を排したキネティックノベル形式です。プレイヤーができるのは基本的に「読むこと」と、テキスト速度やオート/スキップの調整くらいで、攻略的な遊びやマルチエンディングを期待すると肩透かしになります。ADV的な選択肢や分岐で自分のルートを探したいタイプの人には、体験がやや単調に感じられる可能性があります。 - SF用語と世界観設定の情報量が多く、読み始めで少しハードルを感じる
舞台となる0区や、眼内レンズ「Plant」、視界管理システム「ADONIS」など、近未来SFのガジェットや用語が序盤から次々と登場します。用語集(TIPS)が用意されているのでフォローはできますが、慣れるまでは「説明を追う読み方」になりがちで、ライト層にはとっつきにくさを感じる場面もありそうです。SFに慣れている人ならニヤリとできる部分ですが、日常系やラブコメ寄りのKey作品のイメージで入ると、雰囲気の差に戸惑うかもしれません。 - 読む時間と集中力をある程度まとめて用意する必要がある
クリアまでのおおよそのプレイ時間は、フルボイス+オート進行で15〜20時間前後とされています。短時間で区切りよく終わるエピソード構成というより、「長編小説を数日かけて読み切る」感覚に近いボリュームです。1〜2時間ずつしか時間が取れない人や、テンポよく進む短編寄りの作品が好みの人には、ボリュームの重さがそのままハードルになる可能性があります。 - 対応プラットフォームが現状PC(Windows)のみに限られている
現時点での対応はWindows 10/11搭載のPCのみで、コンシューマ版や他プラットフォーム向けの展開はアナウンスされていません。普段からPCでノベルゲームを遊ぶ人なら問題ありませんが、「コンシューマ機で寝転びながら読みたい」「Steam Deckや携帯機で気軽に楽しみたい」といった遊び方を想定している人にとっては、環境面のハードルはやや高めです。 - “Key=日常系・学園青春”のイメージから入ると作品トーンにギャップがある
虹彩都市はあくまでサイバークライムサスペンス寄りの作品で、事件捜査や陰謀、テロリストとの対立など、重めのテーマやシリアスな描写が物語の軸になっています。もちろん百花とのやりとりなど、柔らかいシーンも用意されていますが、「CLANNADやリトバスのような学園日常もの」を期待していると、トーンの違いに違和感を覚える可能性があります。近未来SF×シリアス寄りのKey作品、という前提を理解しておいた方がミスマッチは減るはずです。
虹彩都市ならではの魅力|“視界を支配された都市”と電子幽霊の幼馴染

虹彩都市を一言でまとめるなら、「視界そのものが管理される時代に、“電子幽霊になった幼馴染”と再会する物語」です。眼内レンズ「Plant」で現実とARを重ね、ADONIS社のネットワークが人々の視界をコントロールする完全AR対応都市「0区」という舞台設定は、他作品にはあまりない独特の窮屈さと魅力を持っています。
主人公の喰木紫苑は、サイバー犯罪対策課の捜査官として「チートPlant」やハッキング事件に挑みながら、幼い頃に死んだはずの一華百花と、電子幽霊として再会します。この百花は幽霊といってもオカルト的な存在ではなく、「Plant」を通したAR表示として紫苑の前に現れる存在であり、「視界の管理」というテクノロジー設定と、彼女との再会というパーソナルなドラマがきれいに接続しているのが虹彩都市ならではのポイントです。
“視界を誰が支配しているのか”“見えているものは本当に真実なのか”というSF的なテーマと、「もう一度会いたかった人が、電子の幽霊として目の前にいる」というエモーショナルなテーマが、同じ仕組みの上で同居している構造はかなりユニークです。サイバークライムサスペンスとしての緊張感と、幼馴染との距離感や会話劇の切なさが、お互いを打ち消さずに支え合っている──ここが、単なる“近未来ハッカーもの”でも、“泣きゲー”でも終わらない、虹彩都市ならではの魅力だと感じました。
忖度なしスコア(暫定)
発売直後プレイ時点での印象を、項目ごとに数値化しました。虹彩都市は「読み物としての完成度」が作品体験の中心となるため、演出・脚本・没入感の比重を高くし、ゲーム性の有無で不当に評価が下がらないよう配慮したうえでスコアリングしています。今後、クリア後の追記タイミングで正式スコアに更新します。
| 評価項目 | スコア |
|---|---|
| ストーリー・脚本 | 9.0 / 10 |
| キャラクターの魅力 | 8.8 / 10 |
| グラフィック・演出 | 8.7 / 10 |
| 音楽・ボイス表現 | 9.1 / 10 |
| テンポ・読みやすさ | 7.6 / 10 |
| 没入感・世界観の厚み | 9.4 / 10 |
| 総合スコア(暫定) | 8.7 / 10 |
読み物としての完成度が非常に高く、脚本・演出・音楽・キャラクターの有機的な連動が光る作品という印象です。一方で、物語のテンポやSF用語の密度など、人によって好みが分かれそうなポイントも含まれるため最終スコアはクリア後の追記で再評価します。
虹彩都市はパッケージ版では「初回限定版」「豪華限定版」が主軸になっていますが、ダウンロード版には価格を抑えた通常版(1,980円)も用意されています。「特典が欲しい」「手元に残したい」という人は限定版、「まずは作品を体験したい」という人はDL通常版という選び方がしやすい構成です。
プレイ環境や予算に合わせて最適な形で手に取れる点はユーザーフレンドリーだと感じました。
Key最新作のキネティックノベル『虹彩都市』初回限定版パッケージ。 眼内レンズ「Plant」によって現実とARが重なった近未来都市「0区」を舞台に、 サイバー犯罪捜査官・喰木紫苑と電子幽霊の少女・百花の物語がフルボイスで描かれます。 サントラCDやビジュアルブックなど特典も付属するパッケージ版です。
価格・在庫・特典内容は変動します。購入の際は各ショップの最新情報をご確認ください。
総評|“泣きゲー”と“SFサスペンス”は両立できるという答え
虹彩都市は、最初の数時間だけではまだ判断が揺れた作品でした。視界をテクノロジーで管理される近未来都市というハードなSF設定は、Keyの従来イメージである「日常ドラマ」や「学園青春」とは大きく距離があり、序盤は世界観の把握が追い付くまで少し慎重に読む必要があります。しかし物語が中盤に差し掛かるにつれ、SFと情緒の両輪がしっかりと噛み合い、作品の“芯”が強く浮かび上がってきます。
特に印象的なのは、「視界」というテクノロジーを軸に物語が組み立てられている点です。“見える”ことが幸福にも不幸にもなりうる世界で、喰木紫苑が電子幽霊として現れた百花と向き合うという構造は、泣きゲーで描かれがちな「もう二度と会えないはずの人と、もう一度会う」という普遍的テーマを、SF設定と矛盾なく融合させています。単にテクノロジーを装飾として貼り付けたのではなく、感情の核と仕組みの根拠が同じ場所にある──この設計の丁寧さは、今作の大きな強みです。
演出面では、Key作品らしい“胸に刺さる静かな間”が随所に配置されています。派手な泣かせ方ではなく、淡々と積み重ねた関係性がある瞬間に一気に感情を解放するタイプで、SFサスペンスの緊張の中に、油断したところで涙腺を突いてくる。これは、派生ジャンルに挑戦しながらも「Keyらしさ」を見失わないためのバランス感覚がうまく機能している証拠だと感じました。
一方で、虹彩都市は万人向けのエンタメとしてまとめにいくタイプの作品ではありません。テンポは速くなく、テーマは軽くなく、読んでいる側の集中力と感情の余白を要求してきます。だからこそ、刺さる人には深く刺さるし、刺さらない人には最初から刺さらない──これは欠点ではなく、作品スタイルの選択だと思います。
総じて、虹彩都市は「泣きゲー」と「SF」のどちらかを削るのではなく、両方を正面から扱う姿勢を貫いた作品です。近未来SFの仕組みの妙と、人間ドラマの情緒を同じ地平で着地させることに成功している──この一点だけで、体験として語る価値のある一本だと言えます。今後のKey作品の方向性にも大きな影響を与える可能性を感じる、強い一作でした。
© VISUAL ARTS / Key
© 虹彩都市 Project