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『なるたる』1巻レビュー|なぜ“かわいい生き物との出会い”がこんなに不穏なのか?

鬼頭莫宏『なるたる』第1巻は、小学6年生の玉依シイナが島で不思議な存在と出会うところから始まります。明るい夏休み、海、空、ヒトデのような姿をしたホシ丸。入口だけを見れば「少女と不思議な生き物」の物語ですが、読み進めるほど、その出会いが人間の日常では測れない大きさを持っていることが見えてきます。

シリーズ後半の過酷さで語られやすい作品ですが、1巻の時点では残酷描写を前面に押し出すより、「これは本当に安心してよい存在なのか」という違和感を少しずつ積み上げる巻です。かわいい見た目と、正体の分からなさ。その距離が『なるたる』の不穏さを作っています。

『なるたる』1巻の基本情報

  • 作品名:『なるたる』
  • 作者:鬼頭莫宏
  • 出版社:講談社
  • レーベル:アフタヌーンKC
  • 第1巻発売日:1998年8月19日
  • 第1巻:220ページ
  • ISBN:9784063141863
  • 旧版:全12巻・完結

第1巻の初出は『アフタヌーン』1997年5月号から9月号。旧版は2003年12月22日発売の第12巻まで刊行され、完結しています。2017年には全8巻の新装版も刊行されました。新装版1巻は312ページあるため、旧版1巻とは収録範囲が同じではありません。

主人公・玉依シイナは「中学生」ではなく小学6年生

講談社の公式紹介では、玉依シイナは「今年小学校6年生」。島で、ヒトの認識外にある存在たち――乙姫、成竜、そしてホシ丸と出会い、日常が少しずつ変わり始めます。

この年齢は作品の読み味にも関わります。シイナは世界の裏側を知っている人物ではなく、目の前に現れた不思議をまず受け入れてしまう側です。大人の警戒心より先に好奇心が動くからこそ、ホシ丸との距離が急速に縮まっていきます。

1巻のあらすじ|島で出会った“星のカタチ”

シイナは島で、ヒトデを思わせる不思議な姿の存在と出会います。彼女が「ホシ丸」と呼ぶその存在は、普通の動物とは明らかに違います。

しかし1巻は、すぐに正体を説明してくれません。シイナの日常へホシ丸が入り込み、その存在によって「これまで普通だと思っていた世界」の外側が少しずつ見え始める。作品はそこに時間を使います。

なぜ“かわいい出会い”なのに不穏なのか

ホシ丸の見た目は丸く、シイナとのやり取りにも愛嬌があります。それなのに、読者は完全には安心できません。

理由は単純で、ホシ丸が「何なのか」がほとんど分からないからです。人間の常識で分類できず、どこまで力を持ち、何を考えているのかも見えにくい。かわいい外見は安心材料になる一方、その力の大きさとは釣り合っていません。

『なるたる』1巻は、このアンバランスを急いで解消しません。「かわいいから味方」「不気味だから敵」と簡単に分類させないまま、シイナと読者を同じ位置に置きます。

明るいシイナが“入口”になる

シイナは活発で、好奇心が強く、未知のものに対して比較的まっすぐ接します。作品の世界観が重くなりすぎないのは、序盤を彼女の視点で入っていけるからです。

逆に言えば、読者が不穏さを感じても、シイナ自身はすぐに恐怖へ切り替わらない。この温度差が効いています。周囲で起きていることの意味を読者の方が先に疑い始めるため、「本人は大丈夫だと思っているが、本当に大丈夫なのか」という緊張が生まれます。

1巻では“シリーズ後半の残酷さ”を先回りしすぎない方がいい

『なるたる』はシリーズ全体では暴力や死、性的な被害など非常に重い内容を含む作品として知られています。ただ、1巻レビューでその印象だけを前へ出すと、この巻そのものの読み味から離れてしまいます。

第1巻でまず描かれるのは、シイナの日常に「人間の理解を超えたもの」が入り込む瞬間です。後に何が起こるかを知っている読者には不穏に見えても、初読ではまだ分からないことの方が多い。その未知の大きさこそ、1巻の面白さです。

絵柄の軽さと題材の重さが少しずつずれていく

鬼頭莫宏の絵は、人物の線が比較的シンプルで、シイナやホシ丸にも親しみやすさがあります。一方、空や海、機械、巨大な存在を見せる場面ではスケールが急に広がります。

この「身近な日常」と「人間より大きな何か」の落差が、作品の見た目にも表れています。1巻はまだ世界の全貌を説明しませんが、シイナの生活圏だけでは収まらない物語になることは、早い段階から伝わってきます。

旧版と新装版、どちらから読めばいい?

現在は旧版全12巻のほか、2017年刊行の新装版全8巻があります。新装版1巻は312ページで、旧版1巻の220ページより収録量が多いため、「1巻」という番号だけで内容を同一視しない方がよいでしょう。

このレビューは1998年発売のアフタヌーンKC版第1巻を基準にしています。シリーズをこれからまとめて読む場合は、新装版や電子版も選択肢になります。

読む前に知っておきたいこと

第1巻は比較的静かな導入ですが、シリーズ全体では暴力、死、いじめ、性的な被害など心理的負荷の大きい描写があります。後半まで読む場合は、明るい絵柄だけで作品のトーンを判断しない方がよい作品です。

総評|1巻の怖さは“残酷描写”ではなく、ホシ丸をまだ理解できないこと

『なるたる』第1巻の入口は、あくまで小学6年生の少女と不思議な存在との出会いです。海や空の開放感、シイナの明るさ、ホシ丸の愛嬌があり、最初から暗い漫画として始まるわけではありません。

それでも不安が残るのは、ホシ丸を人間の常識で説明できないからです。何者なのか、何ができるのか、他にも同じ存在がいるのか。答えが出ないまま日常へ入り込んでくる。その「分からなさ」が、後の大きな物語へつながる最初の亀裂になっています。

同じ1990年代後半の『アフタヌーン』SFとして、災厄後の世界と世代の変化を描く『EDEN』1巻レビューも公開しています。

『なるたる』1巻をチェック

なるたる(1)

鬼頭莫宏による長編第1巻。小学6年生の玉依シイナと、謎の存在・ホシ丸との出会いから物語が始まります。

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