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旅はオールパス(1)レビュー|降りずに進むと見えてくるもの。JKふたりの“ゆる旅”が連れていく穏やかな驚き

春の空気が少しだけ軽くなった放課後。林小鈴(リン・シャオリン)は、駅のベンチでペットボトルの水をひと口だけ飲み、時刻表に目をやる。
彼女の趣味は電車旅。甲府へ向かう一人旅の途中で、北欧出身の留学生エレオノーラと出会った瞬間、見慣れた車窓が小さく“違う”色を帯びる。
『旅はオールパス(1)』は、移動そのものを主役にした物語だ。派手な事件は起きない。けれど、切符を買い、席を見つけ、車内アナウンスに耳を澄ます——その連続が、読者の心拍をゆっくり整えていく。

発売情報(まず事実)

  • 発売日:2025年8月12日
  • 出版社/レーベル:KADOKAWA/MANGAバル コミックス
  • 判型・頁:B6判・196ページ
  • 定価:792円(税込)
  • ISBN-13(紙):978-4048116176/Amazon商品ページ(10桁):4048116177
  • クレジット:企画:少年FLY/原案:高橋美鈴(Friendly Land)/漫画:iimAn(Friendly Land)

一次情報:KADOKAWA公式の書誌ページ(発売日・判型・価格・ISBN・クレジット)、カドコミ(連載・作品紹介)、Amazon書誌。

どんな物語?(1巻の範囲・ネタバレ最小)

高2の春休み、鉄道旅が趣味の小鈴は甲府へ向かう途中、駅で困っている留学生のエレオノーラと出会う。ふたりは自然な流れで富士山を見に行く“相席の旅”を始めることに。
目的地への到達よりも、移動の間に起きる小さな会話や気づきが主役だ。切符の買い方、乗車位置の工夫、座席の譲り合い、車窓の“撮りどころ”。どれも大事件ではないけれど、読後に自分の次の移動を少し丁寧にしてみたくなる。

読みたくなる具体:この1巻が刺さる5つのポイント

1) 「降りない選択」が物語になる

旅は観光地で完結しない。乗っている時間に、提示されない選択肢がある。降りる/乗り続ける、窓側/通路側、静かな車両/にぎやかな車両。
小鈴とエレオノーラが選ぶのは、多くの場合「大げさじゃない方」だ。だからこそ、同じ日本の景色でも他人と共有すると違って見えることに気づく。

2) ふたりの会話の“速度”がちょうどいい

異文化トークを無理に盛らない。日本語が堪能なエレオノーラにも、ふいに出る“異国の見立て”がある。そのズレを笑い飛ばすのではなく、見方の違いとして受け止める呼吸が心地よい。
旅先でのちょっとした失敗(乗り換えの勘違い、方向音痴あるある)も、ふたりならただのエピソードになる温度感がある。

3) 鉄道“らしさ”の描写が、旅情を丁寧に組み立てる

駅の掲示、車内アナウンス、座席の布地の目、車窓の反射。
コマの端に置かれた「ちょっとした実在感」が、路線図を広げずとも移動をイメージさせる。地名の提示が必要最小限なのも、読者自身の旅の記憶を重ねやすい理由だ。

4) “友達未満→旅の相棒”への距離感

観光地の名物にテンションが上がる瞬間もあれば、沈黙のまま車窓を眺める時間もある。
この温度差の許容が、ふたりの関係をゆっくり育てる。親友になる約束はしない。ただ、次の切符を一緒に買ってみる——そんな小さな約束が重なる。

5) 読後に“やってみたくなる”小ワザが自然に身につく

車内での荷物の置き方、窓の映り込みの避け方、座席を立つタイミング。作中はハウツー本のように語らないが、会話の端々からコツが拾える。
旅の難易度を下げつつ、楽しさの凸を増やしてくれるタイプの読み心地だ。

作画とレイアウト:余白の使い方が“移動の静けさ”を連れてくる

説明過多にならない台詞。小道具のクローズアップ。車窓の見開き。
ページをめくるテンポが列車の加減速に似ている。スピードを出す場面もあるが、最終的にはよく眠れる読後感に着地するのがうれしい。

こんな人に刺さる

  • 派手な展開より日常の発見が好きな人
  • 鉄道は詳しくないけど車窓は好き、という人
  • “初対面から始まる旅の相棒関係”に弱い人
  • スマホ片手の小旅行を計画中の人(読後に行き先がひとつ増える

まずは公式の試し読みから

📖 カドコミ(コミックウォーカー)で第1話~試し読み

連載開始時の第1~3話公開と作品紹介はこちら。読む前に“呼吸”が合うか確認できます。

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用語メモ(初学者向けの“やさしい鉄道”)

  • ローカル線:都市部以外を走る地域の線区。車両は少なめ、停車駅は多め。景色の変化が楽しみやすい。
  • 乗り継ぎ:別の路線・列車への乗り換え。焦らず一本見送る余裕があると失敗が減る。
  • 車窓撮影:スマホを窓に近づけすぎると自分が映り込む。窓から少し離して、身体を影にすると反射が抑えられる。

まとめ:次の“ちいさな遠回り”をしたくなる本

どこかへ行く理由が見つからない日でも、駅に向かうだけで世界は少し広がる。
『旅はオールパス(1)』は、移動の価値を思い出させてくれる一冊だ。観光名所の写真より、誰かと分け合った窓の景色のほうが後から効いてくること。
それをやさしく、具体的に教えてくれる。次は、あなたの最寄り駅から——。 出典・参考情報(クリックで開く)

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