10月28日は「記録と表現の技術が進化した日」

10月28日は、映像も言葉も“記録する力”に注目が集まる一日です。
フランスで世界初のアニメーション上映が行われた日に由来する「国際アニメーション・デー」、言葉を瞬時に残す技術を称える「速記の日」、そして地域の誇りを祝う「群馬県民の日」。
創造と伝達、記録と継承——いずれも人間の表現力が築いてきた文化の形です。デジタルが主流となった現代においても、その原点にある“残す技術”への敬意を改めて感じさせる日といえるでしょう。
国際アニメーション・デー(International Animation Day/国際)
10月28日は、アニメーションの歴史と表現の可能性に光を当てる日です。19世紀末、フランスのパリでエミール・レイノーが「テアトル・オプティック」を用いた公開上映を行った日付に由来し、後年アニメーションの国際団体がこの日を記念日に位置づけました。手描きや切り紙、コマ撮りから始まった映像の魔法は、映画やテレビ、ウェブ、ゲーム、教育、医療、研究まで、幅広い分野へ広がっています。
アニメーションの本質は「動かないものに生命を与える」ことにあります。数枚の絵や粘土の人形、日用品の配置を少しずつ変えて連続撮影すれば、画面の向こうで世界が動き出す。限られた予算や機材でも創作に参加できる間口の広さは、社会の多様な声を物語に乗せて可視化してきました。視覚言語として国境や言語の壁を越えやすい点も、アニメーションならではの強みです。
技術面では、セル画やミニチュアに加え、デジタル合成、3DCG、モーションキャプチャ、リアルタイムレンダリングなどが定着しました。一方で、鉛筆一本から始めるドローイングや、光学的なトリック、アナログ撮影の偶然性といった“古い技法”も再評価されています。新旧の手法を横断し、素材や質感、時間の伸縮を自在に扱う総合芸術――それが現在のアニメーションの姿です。
記念日の周辺では、各国の美術館や映画祭、学校、スタジオが作品上映やトーク、ワークショップを行い、制作の舞台裏や保存修復の取り組みも共有されます。制作者にとっては表現の幅を試す機会であり、観客にとっては“動きで語る物語”の奥行きを知る入口。10月28日は、身近な映像の一コマの裏に、描く手・撮る手・つなぐ手が重なっていることに思いを巡らせる一日です。
速記の日(日本)
10月28日は「速記の日」。日本語速記の草創期に、田鎖綱紀が東京で初の速記講習会を開いた日にちなみ、のちに公益社団法人 日本速記協会がこの日を記念日に定めました。耳で捉えた言葉を、意味を崩さずに即座に記録へ変える――その技術は、議会や法廷、報道の現場で公共の知を支えてきました。
速記は“記号の暗号化”ではなく、音と文の構造を理解し、要点を落とさずに再現するための訓練の積み重ねです。話し手の意図や言い直し、間合いを読み取りながら、後から検証可能な形に整える。録音・AI文字起こしが普及した現在でも、ノイズや同時発話、専門用語への対応、要約と検証の設計など、人の判断が欠かせない領域で価値を発揮しています。
教育や福祉の現場では、難聴のある方への情報保障(ノートテイク/パソコン要約筆記)としても技術が活きています。単に“速く書く”のではなく、誰もがアクセスできる形で情報を届けるための工夫――読みやすい整形、語句の補い、図表の取り込み、同時通訳チームとの連携――まで含めた総合的な実務として受け継がれてきました。
この記念日は、会議や授業、地域イベントなど、身近な場の記録の在り方を見直すきっかけでもあります。後から読み返せる資料があるだけで、意思決定の透明性はぐっと高まります。言葉の瞬間を確かな記録へ――10月28日は、その静かな技術に感謝する一日です。
群馬県民の日(日本)
10月28日は「群馬県民の日」。昭和60年(1985年)に条例で定められた、郷土の歴史を知り自治の意識を高めるための記念日です。毎年この日には県内の公立学校が休校となり、博物館や文化施設の無料・割引開放、記念イベントが各地で行われます。
制定のきっかけには、昭和58年に県内で開催された国民体育大会・全国身体障害者スポーツ大会を通じて県民意識が高まったことが挙げられます。翌59年に各界代表による懇談会が設置され検討を重ね、60年3月に条例化、4月に施行されました。
いまでは、県内の子どもや家族連れが地域の文化・自然・産業に触れる年中行事として定着。公式サイトでは当年度の記念事業一覧が公開され、参加しやすい催しが多数用意されます。地元の魅力を“体験”として学び直す一日として、県内外からの来訪にも活用されています。
チェコ独立記念日(Independent Czechoslovak State Day/チェコの祝日)
10月28日は、第一次世界大戦末期の1918年にチェコスロバキア共和国が誕生した日を記念する祝日です。プラハで独立が宣言され、後に初代大統領となるトマーシュ・G・マサリクらが国家の基礎を築きました。多民族・多言語の帝国から独立し、議会制民主主義を志向する国家が生まれたことは、中欧の20世紀史の転換点の一つでした。
現在のチェコ共和国でもこの日は国の祝日として受け継がれ、プラハ城では大統領による国家功労者への叙勲が行われます。戦没者を悼む献花、博物館や文化施設の特別企画、街の記念行事などを通じて、歴史へのまなざしと市民社会の価値が静かに共有されます。
独立の記憶は、ただ過去を振り返るだけではありません。法の支配、表現の自由、隣国との協調といった現代的な課題へとつながり、教育やメディアを通じて次世代へ語り継がれています。10月28日は、自由と責任を両輪とする市民の成熟を考える一日として、今も息づいています。
オヒの日(Ohi/Oxi Day|ギリシャの祝日)
10月28日は「オヒの日」。1940年10月28日、ギリシャ政府がイタリアの最後通牒を拒否し、国土通過を認めなかった史実に由来します。首相イオアニス・メタクサスが示した“不服従”の意思は、夜明け前から全国に伝わり、人々が口々に「オヒ(ノー)」と応えた出来事として記憶されています。これを契機にギリシャは第二次世界大戦に参戦し、山岳戦や市民のレジリエンスが語り継がれることになりました。
現代のギリシャでは、この日は単なる軍事の記念日ではなく、国家主権と市民の自尊心、連帯をたたえる祝日として位置づけられています。各地で軍・学生のパレードや献花が行われ、学校では歴史の授業や朗読劇、詩の暗唱などを通じて出来事の背景を学び直します。青と白の国旗が街に翻り、教会では犠牲者の追悼が捧げられます。
「ノー」と言う勇気は、対立のためではなく、理不尽に屈しないための意思表示でもあります。外交や地域社会の課題に向き合ううえで、相手への敬意と自国の尊厳を同時に守るという難しいバランス――その理想を思い出す日として、オヒの日は今も静かな重みを持ち続けています。
おだしの日(日本・企業制定)
10月28日は「おだしの日」。大阪府箕面市の外食企業・太鼓亭が、日本の食文化を支える“だし”の魅力を広める目的で制定し、日本記念日協会が認定した記念日です。日付は、かつお節の燻乾・カビ付け製法を確立したと伝わる紀州印南浦の角屋甚太郎の命日・1707年10月28日に由来します。
“おだし”は旨味と香りで塩分に頼りすぎない味づくりを助け、地域ごとの素材(かつお節・昆布・いりこ・椎茸など)や取り方の違いが家庭の個性を生みます。企業や専門店も、製法の解説や試飲体験、料理提案を通じてだし文化の継承に取り組んでいます。
記念日を機に、普段の味噌汁や煮物を“だし”から丁寧に引いてみる、昆布とかつおの合わせ出汁を試す、地域の節や昆布の産地表示を確かめて選ぶ——そんな小さな実践が、台所に受け継がれてきた知恵を今に生かしてくれます。
まとめ
10月28日は、「記録し、残し、手渡す」営みが多面的に浮かぶ一日でした。
国際アニメーション・デーは“動きで語る”表現の源流に光を当て、速記の日は言葉の瞬間を確かな記録へ変える人の技を思い出させます。群馬県民の日は地域の歴史と誇りをたしかめる節目。さらに、チェコ独立記念日やギリシャのオヒの日は、主権と尊厳を選び取った記憶を現在へつなぎ直します。台所に立てば“おだしの日”。暮らしの味わいもまた、文化の継承です。
できることは小さくて十分です。短編アニメを一本観る、会議メモを丁寧に残す、地元の博物館や図書館をのぞく、歴史の出来事を家族で話題にする、だしを最初から引いてみる――そんな手触りのある行動が、文化と記憶を未来へ押し出してくれます。今日は、表現と記録、地域と世界が静かに交差する一日でした。