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海が走るエンドロール(1)レビュー|65歳、映画は“観る側”から“撮る側”へ――その一歩が胸を熱くする

たらちねジョン『海が走るエンドロール』第1巻は、「はじめるのに遅すぎることはない」を、熱量と生活感で説得する導入巻だ。 夫と死別したうみ子が映画館で偶然出会う美大生海(カイ)との邂逅は、「観る側」だった自分を「撮る側」へと揺り動かす。 作品は2021年刊行直後から話題を集め、『このマンガがすごい!2022』オンナ編1位を獲得。世代や背景の違いを越えて届く“始動の物語”だ。

発売情報(まず事実)

  • 発売日:2021年8月16日
  • 出版社/レーベル:秋田書店/ボニータ・コミックス
  • 定価(紙):759円(税込)
  • ISBN-13:978-4-253-26521-8

出典:秋田書店 1巻商品ページ、Amazon書誌。:contentReference[oaicite:1]{index=1}

どんな物語?(1巻範囲・ネタバレ最小)

うみ子はふと足を踏み入れた映画館で圧倒され、ロビーでと出会う。彼のまなざしは“つくる側”のそれで、 うみ子は自分の中に眠っていた衝動――「撮りたい」――に気づく。1巻は、衝動を現実の行動に変えるまでを描く物語だ。 情熱を燃料に走り出すのではなく、暮らしと折り合いをつけ、手触りのある手順にほどいていく。その慎ましいスタートこそが、読者の背中を押す。:contentReference[oaicite:2]{index=2}

参考映像:コミックス1巻 発売PV(公式)

PV出典:秋田書店 公式YouTube。

具体レビュー:この導入の“何”が心を掴むのか

1. 衝動→行動の「段取り」を描く

本作が秀逸なのは、勢いではなく段取りで人が変わっていくプロセスを丁寧に描く点だ。うみ子は「撮りたい」と思った翌日に いきなり傑作を撮るわけではない。何を撮るのか、どう撮るのか――「自分の目」を養うための観察から始める。 海と会話を重ねるうち、映画が“正解を当てる競技”ではなく、“世界の見え方を言葉にする営み”だと分かっていく。 この“気づき→小さな一歩”の積み重ねが、読者の日常にもストンと落ちる。

2. 二人の“距離感”が物語を動かす

うみ子と海の関係は、恋愛ではなく同志に近い。年齢差による価値観の断絶を避け、相互に尊重し合う。 海は「撮る/学ぶ」ことに一直線だが、うみ子のペースに合わせて伴走する。うみ子は海のスピードに刺激を受けつつ、自分の言葉で追いつく。 この温度差の呼吸が、読後の余韻を静かに温める。二人のやり取りは、読者自身の“学び直し”にも重なるはずだ。

3. コマ割りが“映画的”に機能する

たらちねジョンの絵は、光源や視線の流れで感情のベクトルを示すのが巧い。静物のアップ、手の所作、背中の角度―― いわば「撮られる側」の構図を先取りするようなフレーミングが多い。セリフで説明せず、沈黙の間で心の揺れを見せるから、 ページをめくる指が自然と“編集”のリズムになる。漫画なのに、心は映画のカット割りで物語を体験している。

4. 現実と折り合う“覚悟”の描写

生活、年齢、体力、時間――現実の制約は甘くない。だが本作はそれを悲壮にしない。「いまの自分でできることから着手する」姿勢が、 うみ子の表情と所作に宿っている。背伸びをしない代わりに、積み上げる覚悟を持つ。 「何歳になっても始めていい」という言葉が、きれいごとに終わらないのは、段取りのリアリティがあるからだ。

5. 読み心地:静かなのに熱い

派手な成功譚ではないのに、読み終えると胸の内側がじんわり熱い。うみ子が拾い集めるのは、壮大な夢ではなく、 自分の生活に根づく「好きの輪郭」だ。読者は自分の生活にレンズを向け直したくなる。

まずは公式の試し読みから

秋田書店の商品ページや公式特設で、1話の冒頭を読める導線が用意されている。テンポ/空気/コマ運びが肌に合うか、 ここで確かめてから購入すると間違いがない。

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関連リンク(公式・一次情報)

まとめ

1巻は、「撮りたい」に名前を与える巻だ。うみ子は海と対話し、自分の生活を見直し、段取りを組み直していく。 それは大仰な決意表明ではなく、今日の自分の手が届く行動へと翻訳される。読者はページを閉じると、きっと何かひとつ行動を変えたくなる。 まずは試し読みで空気を吸い、刺さったら紙でも電子でも。

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参照元(一次情報)

  • 秋田書店:1巻商品ページ(発売日・定価・ISBN・試し読み)秋田書店
  • Amazon(紙/KindleのASIN確認)Amazon Japan+1
  • 1巻発売PV(秋田書店 公式YouTube)YouTube
  • 受賞(このマンガがすごい!2022 オンナ編1位)好書好日

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