
原作ギャグと90年代3Dの勢いが交錯する、“こち亀”唯一のサターン大レース
1997年、セガサターンに突如現れた“こち亀”ゲーム――それが『こちら葛飾区亀有公園前派出所 中川ランド大レース!の巻』です。原作のドタバタギャグと、90年代らしい荒削りながらも勢いのある3D表現が交錯する、唯一無二のレース&アクション作品。当時のゲーマーにも、そしてこち亀ファンにも強烈なインパクトを残した一本です。
作品概要・基本情報
- タイトル:こちら葛飾区亀有公園前派出所 中川ランド大レース!の巻
- 対応機種:セガサターン
- 発売日:1997年8月29日(※廉価版「サタコレ」:1998年8月20日)
- 発売元:バンダイ
- 開発:童(Warashi Inc.)
- ジャンル:3D表現のボードゲーム(ミニゲーム要素あり)
- プレイ人数:1〜6人
概要:
大富豪・中川圭一が建設した巨大テーマパーク「中川ランド」を舞台に、マップ上を進みつつイベントやミニゲームで資金・ポイントを競う立体ボードゲーム。キャラクターデザインやキャストはテレビアニメ版準拠で、両津・中川・麗子ほか“こち亀”主要キャラの掛け合いとドタバタ感を、90年代後半の3D表現で味わえる一本。サターン向けの“こち亀”タイトルとして本作が発売され、同年にはPSで別内容の『ハイテクビル侵攻阻止作戦!の巻』も登場している。
ゲームの舞台「中川ランド」と原作の関係

本作の主舞台「中川ランド」は、原作『こちら葛飾区亀有公園前派出所』には直接登場しないゲームオリジナルのテーマパークです。大富豪にして完璧超人、中川圭一がプライベート資金で建設したという設定で、原作の中川らしさ――超豪華・超スケール・超ハイテク――が全開の施設になっています。
原作でも中川は高級リゾートや最新設備を軽々と用意するキャラとして描かれており、本作はその“財力ネタ”を極端に拡大したパロディ的舞台づくりが特徴です。ジェットコースター型のマップや、リゾートホテル風のエリア、未来的なアトラクション施設など、当時の3D表現で「超豪華さ」を視覚的に再現。これは原作のギャグ的背景を踏まえたオリジナル展開であり、こち亀の世界観に新たな観光名所を足したような位置付けといえます。
また、原作キャラが園内を移動しながら会話やイベントを繰り広げる演出は、漫画の“こち亀節”に近いテンポ感を持たせており、両津と中川、麗子の掛け合いはもちろん、本田や寺井ら脇役もイベントで登場します。実在しない場所ながらも、ファンが「ありそう」と思える説得力を持たせている点が、この舞台設定の魅力です。
🎭 原作キャラクター再現度

本作の魅力は、「中川ランド」というゲーム独自の舞台を使いながらも、登場人物の“らしさ”を会話テンポとイベントのノリでしっかり出している点にあります。3Dモデル自体は当時水準のデフォルメ寄りですが、シルエットや仕草、テキスト演出で原作の空気を引き寄せています。
- 両津勘吉
功名心とちゃっかり精神が前面に出るイベント構成で、“得を狙って痛い目を見る/それでも懲りない”というお約束の循環が随所に仕込まれています。選択肢の文言や結果のオチが、両津的な“ツッコミ待ち”の笑いに収束する作り。 - 中川圭一
舞台そのものが“中川の資金力とセンスの結晶”という設定で、冷静沈着・スマートな立ち回りが物語の軸を支えます。最先端アトラクションのプレゼン役や、両津の暴走に対するクールな返しなど、原作の“優等生”像に寄せた描写が中心。 - 秋本・カトリーヌ・麗子
お嬢様キャラの余裕と鋭いツッコミがテキストに反映され、イベントでは“場を整える聞き役”から“ピシャリと締める役”まで幅広く担当。華やかさを出す衣装・所作の見せ方も、パーク内という舞台とマッチしています。 - 本田
原作でおなじみの二面性(普段は気弱、スイッチが入ると豹変)を連想させる小ネタがイベントに織り込まれ、スピード系の見せ場では“本田ならでは”の盛り上げ方が意識されています。 - その他レギュラー
責任者気質の“お約束の雷”や、下町的な掛け合いなど、脇役が出るシーンは短くてもキャラ性を伝える台詞回しになっており、シーン単位で「誰がしゃべっているか」がわかる読後感を重視した作りです。
総じて、刑事ドラマ寄りの重い事件性は抑えめで、アトラクション=舞台装置/ドタバタ=推進力という“こち亀らしい笑いの設計”に振り切った再現。原作の長所であるテンポ感と掛け合いが、パーク内の出来事として自然に回るように調整されています。
🎢 オリジナル要素とゲーム独自の展開

『こちら葛飾区亀有公園前派出所 中川ランド大レース!の巻』は、原作漫画には存在しない“超大型テーマパーク”を舞台にした完全オリジナルストーリーが展開されます。パークの名称も象徴的で、中川圭一の財力とセンスを反映した設定となっており、アトラクションや施設のデザインも本作専用に制作されています。
主なオリジナル要素
- 中川ランドという新舞台
原作では単発の遊園地回こそありますが、ここまで大規模なテーマパークが専用の世界観として登場するのは本作が初。近未来的な建造物や大型ライドが点在し、3Dフィールドで探索できる構造になっています。 - レース形式のストーリーミッション
タイトルにもある「大レース」が物語の軸。プレイヤーは両津を中心としたキャラを操作し、パーク内のアトラクションを舞台にしたレースや障害物イベントをこなしながらシナリオを進行します。各エリアにはコミカルなトラップやギミックが仕掛けられ、レースの最中にもギャグや小ネタが挿入されます。 - ゲームオリジナルキャラクターの登場
パーク運営スタッフやレースのライバルとして、原作にいないキャラクターが複数登場。見た目や性格は原作のタッチに合わせて作られており、“こち亀世界の住人”として違和感なく溶け込むよう配慮されています。 - 原作キャラの役割再編
原作では脇役的なキャラクターにも、レースの実況・審判・仕掛け人といった役割が与えられており、ゲーム内での出番や発言量が増加。ファンにとっては意外なキャラの新しい一面が見られる構成です。
ゲーム独自の展開
ストーリーは、開業イベントで開催される“中川ランド大レース”に両津が参加するところから始まります。
最初は賞金目当ての軽いノリですが、レースが進むにつれてアトラクションのトラブルや予想外のアクシデントが多発。両津がその原因を追いながらも賞金を諦めきれない、という二重構造の展開になります。
終盤には、オリジナルキャラクターや意外な人物が仕掛けた“真の目的”が明らかになる小さなミステリー要素もあり、単なるレースゲームで終わらないストーリードリブンな体験になっています。
🎮 3D表現とセガサターンらしさ

当時の3Dグラフィック水準
『中川ランド大レース!の巻』は、セガサターンのポリゴン描画能力をフル活用したタイトルで、舞台となる中川ランドは立体的に再現されています。建物やアトラクションは色彩豊かで、アニメ的なテクスチャが貼られているため、リアル寄りではなく原作のコミカルさを保った世界観になっています。
ただし、当時のセガサターンはポリゴン処理能力でプレイステーションに劣る部分があり、オブジェクトの表示距離やポリゴン数はやや控えめ。遠景ではオブジェクトが簡略化される“ポップイン”も見られ、背景が急に描画される場面もありますが、それも90年代半ばの3Dゲームらしい味わいといえます。
操作感とゲームデザイン
プレイヤーはキャラクターを直接操作してレースやアトラクション攻略を行いますが、操作感はセガサターンらしくやや重めの慣性が効いており、キャラの挙動は“滑るような”独特の感覚。
カーブやジャンプのタイミングには慣れが必要で、序盤は思わぬ方向に突っ込んでしまうことも多いですが、パーク内の障害物やギミックはその挙動を前提に設計されているため、慣れるとスムーズに攻略できます。
セガサターンらしさ
- 鮮やかな色彩表現
サターンの強みである2Dスプライト処理と組み合わせ、背景の看板やキャラの表情パターンは2D絵で表示され、立体マップと融合する“ハイブリッド3D”感が強い構成。 - 独特のポリゴン質感
サターン特有の平面ポリゴン描画により、光沢感や陰影はシンプルで、当時のアニメ調ポリゴンゲーム特有のカクカクした輪郭が再現度を逆に引き立てています。 - 読み込み演出の工夫
各アトラクションへの移動時は短いロードが入りますが、その間にキャラの掛け合いやギャグが挿入され、テンポを崩さない演出が施されています。
結果的に、当時のハード特性をうまく使い、完全リアル志向ではなく“こち亀のドタバタ感”を3D空間で再現する方向性が取られていました。
🧠 原作ファン満足度・初見プレイヤー評価

原作ファン満足度
『中川ランド大レース!の巻』は、こち亀のレギュラー陣が総出演し、舞台も中川が作った架空のテーマパークという、原作ファンがニヤリとする設定からスタートします。アトラクション内では両津・中川・麗子の掛け合いが頻繁に入り、原作同様のドタバタ劇が3D空間で展開。
さらに、パーク内の看板や施設名に細かい原作ネタが仕込まれており、「あの話のパロディだ!」と気づける要素も散りばめられています。こうした小ネタの豊富さは、連載ファンにとって強い満足ポイントとなりました。
一方で、ゲーム全体のボリュームはややコンパクトで、長時間遊ぶというよりは「こち亀世界を散策して遊ぶ」感覚に近いため、アクションやレースゲームとしての深いやり込みを期待していた層には物足りなさもありました。
初見プレイヤー評価
原作を知らないプレイヤーにとっても、テーマパークを舞台にしたバラエティ豊かなアトラクション構成はわかりやすく、取っつきやすい内容でした。特に、各エリアごとに異なる仕掛けやミニゲーム風のアクションが用意されており、純粋にミニゲーム集として楽しむことも可能。
ただし、キャラクターの言動やギャグは原作ありきの文脈が多く、ストーリーの背景を知らないと一部のネタが伝わりにくい面もありました。そうした意味では、原作知識がある方が確実に楽しめるタイトルといえます。
全体的に、原作ファンには“こち亀ワールドの再現度”で満足度が高く、初見プレイヤーには“賑やかなパーティゲーム風作品”として一定の評価を得た、というバランスでした。
📈 当時の評価とプロモーション

『こちら葛飾区亀有公園前派出所 中川ランド大レース!の巻』が発売された1997年は、セガサターン市場が3D表現の進化を競う時期で、同時期に人気アニメや漫画を題材にしたキャラクターゲームも多く登場していました。
本作は、その中でも“こち亀”初の3Dアクションゲームという話題性を持ち、発売前からゲーム雑誌や子供向け雑誌での紹介記事が複数掲載されました。特に「中川が作ったテーマパークを舞台にした完全オリジナルストーリー」という設定は、原作ファンへの訴求力が高く、連載20周年の盛り上がりとも重なっていました。
プロモーションでは、テレビCMよりも雑誌広告や店頭デモに力を入れており、セガサターン取扱店の試遊台で実際に触れられる機会が多かったのも特徴です。また、同時期のジャンプ系タイトルと比べると販促規模はやや小さめでしたが、その分ターゲットを原作ファン層に絞り込み、雑誌『Vジャンプ』や『週刊少年ジャンプ』での短期集中的な宣伝が行われました。
評価面では、ファミ通やセガサターン専門誌で「原作の雰囲気はしっかり再現されているが、アクション部分はやや単調」という意見が多く見られました。一方で、「こち亀の世界を3Dで自由に歩ける」という体験そのものは当時としては新鮮で、キャラクターゲームとしての存在意義は一定の評価を受けています。
結果的に、本作はセガサターン末期のタイトルながら、原作ファンにとって“思い出の一本”として語られる作品になりました。
まとめ

『こちら葛飾区亀有公園前派出所 中川ランド大レース!の巻』は、セガサターン後期に登場した、まさに“キャラゲー黄金期”の象徴ともいえる1本でした。
原作のドタバタ劇を、3Dレースという当時ならではの形でゲーム化した試みは、多少の粗さや独特な挙動も含め、ファンにとっては「こち亀らしさ」として受け止められました。
90年代末のアーケード&コンシューマーの3Dレース熱に、国民的ギャグ漫画が全力で乗っかった――そんな空気感は、今振り返れば愛すべき時代の産物です。
両さん、中川、麗子たちがポリゴンの世界を駆け抜ける光景は、当時のプレイヤーにとって、テレビの向こうのキャラと本当に遊んでいるかのような特別な体験だったはずです。
時代の勢いと原作愛が同居した、この“珍レース”は、こち亀ゲーム史の中でも異彩を放つ存在として記憶され続けるでしょう。
ポリゴン時代を駆け抜けた両さんたちの“珍レース”、今も色褪せないこち亀ワールド