- フジテレビの生成AIドラマ導入はどこまで?『救命病棟24時』の使用場面と全作品対応の時期
- フジテレビが生成AIをドラマ制作に本格導入|すでに複数作品で活用
- 『救命病棟24時』のどのシーンに生成AIが使われた?
- AI Sandboxとは?なぜフジテレビは生成AIを導入するのか
- 2027年からすべてのドラマがAI制作になる?導入スケジュールを確認
- 生成AIで作業工数を最大70~80%削減|制作費が8割減るわけではない
- 俳優や脚本家の仕事はAIに置き換えられるのか
- 生成AIの著作権や肖像権は大丈夫?フジテレビの公式方針
- 生成AIを使うテレビドラマはフジテレビが初めて?
- まとめ|フジテレビの生成AI導入でドラマ制作はどう変わる?
フジテレビの生成AIドラマ導入はどこまで?『救命病棟24時』の使用場面と全作品対応の時期

テレビドラマの爆発事故シーンが、実際には存在しない風景を生成AIで作って表現されていた。そんな新しい制作手法が、フジテレビの人気医療ドラマ『救命病棟24時』ですでに使われています。
2026年11月5日、フジテレビは実写ドラマ制作への生成AI活用を本格的に進めていると発表しました。専用の制作チームを設け、今後は2027年10月をめどに、自社が制作するすべてのドラマでAIを利用できる体制を整える計画です。
ただし、ドラマをすべてAIで制作するという発表ではありません。俳優の演技や実際の撮影、従来のCG・VFXなどを残しながら、生成AIを映像制作の新しい選択肢として加える取り組みです。
すでにどの場面で使われているのか。最大70~80%の作業工数削減とは何を意味するのか。そして、俳優や脚本家の仕事、著作権への影響はどうなるのでしょうか。フジテレビの公式発表をもとに、現在わかっていることを詳しく見ていきます。
フジテレビが生成AIをドラマ制作に本格導入|すでに複数作品で活用
フジテレビが今回発表したのは、ドラマ制作の現場とAI技術者が協力し、新しい映像表現を試す「AI Sandbox(AIサンドボックス)」というプロジェクトです。
2026年7月の組織変更で、デジタル戦略統括室内に「AIセンター」を新設。そのもとで湾岸スタジオにAI Sandboxを設置し、9月から運用しています。
11月5日の発表によると、すでに2026年10月期の『救命病棟24時』をはじめ、複数のドラマで生成AIが活用されています。つまり、将来的に導入するかどうかを検討しているだけではなく、実際の放送作品に使われる段階まで進んでいるわけです。
ただし、生成AIを使用した作品の総数や、『救命病棟24時』以外の具体的な作品名は、今回の発表では明らかになっていません。
フジテレビは現在、地上波のゴールデン・プライム帯で年間16本の連続ドラマを制作していると説明しています。この16本という数字は制作規模を示したものであり、すでに16作品すべてでAIが使用されているという意味ではありません。
なお、今回の発表内容はフジテレビの2026年11月5日付公式ニュースリリースで公開されています。
『救命病棟24時』のどのシーンに生成AIが使われた?
今回、生成AIの使用箇所が具体的に明らかになったのが、2026年10月12日に放送を開始した『救命病棟24時』第6シリーズです。
江口洋介さんと松嶋菜々子さんがダブル主演を務め、2013年の第5シリーズ以来、約13年ぶりに制作された新シリーズ。フジテレビの月曜21時枠で放送されています。
第1話の爆発事故シーンで架空の空撮映像を生成
フジテレビが公開した具体例は、第1話に登場する爆発事故のシーンです。
この映像では、空撮したように見える架空の風景を生成AIで作成し、そこに煙を合成する方法が使われました。
一見すると、上空から事故現場を撮影したような映像でも、実際には存在しない風景をAIによって作り出せるということです。大がかりなセットを組んだり、危険を伴う現場を再現したりする以外にも、映像を完成させる方法が生まれています。
ただし、爆発事故シーンのすべてがAIだけで制作されたわけではありません。公式発表で確認できるのは、架空の空撮風景をAIで生成し、煙を合成したという制作方法です。煙そのものもAIが生成したのか、別のVFX技術で作られたのかまでは説明されていません。
この爆発事故シーンの実際の画像は、フジテレビの公式発表ページに掲載されています。
医療シーンの映像処理にも生成AIを活用
生成AIの用途は、爆発事故のような大がかりな場面だけではありません。
フジテレビによると、『救命病棟24時』では医療シーンの細かな映像処理にもAIを使用しています。ただし、医療器具や処置のどの部分を生成したのか、具体的なカットまでは公表されていません。
医療ドラマでは、手術室や救急医療の緊迫感を伝えるために、細部まで整った映像表現が求められます。その一部にAIを活用することで、従来とは異なる方法で映像を仕上げられるようになります。
一方、AIを使えば必ずリアルな映像になるとは限りません。人体の構造や医療器具の形状など、正確さが求められる部分では、生成した映像に不自然な点がないか確認する作業も重要になります。
撮影前の完成イメージ作成にも使われている
もうひとつ注目したいのが、実際に撮影を始める前の段階です。
ドラマの制作では、監督が思い描いている映像を、カメラマンや照明、CGなどの担当者に伝える必要があります。しかし、言葉や絵コンテだけでは、光の当たり方やカメラの動き、空間の広がりまで共有するのが難しい場合もあります。
AI Sandboxでは、監督が目指す映像を生成AIによって可視化し、制作スタッフと技術スタッフで完成イメージを共有しています。
その映像を参考にしながら、実際に撮影するのか、CGで再現するのか、生成AIを組み合わせるのかを検討する仕組みです。
生成AIは完成映像を作るだけでなく、撮影方法を決めるための道具としても利用されているのです。
AI Sandboxとは?なぜフジテレビは生成AIを導入するのか
AI Sandboxは、特定の生成AIサービスの名前ではありません。ドラマ制作に携わる人たちとAI技術者が協力し、実際の作品を通じて新しい制作手法を検証するプロジェクトです。
運営にはフジテレビの第1スタジオ(ドラマ・映画制作センター)、テックアートデザイン局のほか、AI関連企業の株式会社ANDENTが参加。同社のAI開発ユニット「stu」も制作に携わっています。
ドラマ制作のディレクターやプロデューサー、技術スタッフと、外部のAIプロデューサーやAIデザイナーが協力し、作品ごとに適切な方法を探っています。
撮影の制約を減らし、映像表現の幅を広げる
ドラマは脚本に書かれた場面を、必ずしもそのまま撮影できるわけではありません。
危険な事故現場、大規模な災害、特殊な場所、天候に左右される風景など、撮影にはさまざまな制約があります。実際の場所で撮影できたとしても、多数のスタッフや機材を配置する必要があり、費用や時間、安全面の問題が生じることもあります。
こうした場面で、実写撮影や従来のVFXと生成AIを組み合わせれば、これまで実現が難しかった演出にも取り組みやすくなります。
フジテレビが導入の目的として挙げているのも、表現の幅を広げることに加え、制作現場の負担軽減と安全性の向上です。
ただし、安全性の向上は今回の取り組みが目指す効果であり、事故件数の減少など、具体的な安全実績が公表されたわけではありません。
従来のCGやVFXがなくなるわけではない
ここで混同しやすいのが、生成AIと従来のCG・VFXの違いです。
CGはコンピューターを使って映像や物体を作成する技術で、VFXは実写映像とさまざまな映像処理を組み合わせ、現実の撮影だけでは表現できない場面を作る技術です。
生成AIは文章や画像などの指示・素材をもとに、新しい映像を生成できる点が特徴ですが、細部を思いどおりに制御することや、同じ人物・建物を場面ごとに一貫して表現することには課題もあります。
そのため、AIを使えばCG制作のすべてが不要になるわけではありません。作品によっては実写の方が自然で、特定の動きや構図を正確に作り込むには従来の技術が適している場合もあります。
フジテレビの技術統括を担当する真崎晋哉氏も、AIだけですべてを作るのではなく、従来のVFXなどと組み合わせて作品に適した手法を考える方針を説明しています。
2027年からすべてのドラマがAI制作になる?導入スケジュールを確認
今回の発表で、特に誤解されやすいのが2027年10月という目標時期です。
フジテレビが目指しているのは、2027年10月までに、自社が制作するすべてのドラマで、必要に応じてAIを利用できる体制を整えることです。
すべてのドラマをAIだけで制作することでも、各作品の全シーンに生成AI映像を使用することでもありません。
2026年11月5日時点で公表されている主な経緯と今後の予定を整理すると、次のようになります。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年7月 | フジテレビにAIセンターを新設 |
| 2026年9月 | AI Sandboxの運用開始 |
| 2026年10月期 | 『救命病棟24時』などで活用。毎クール1本以上をAI強化枠に設定 |
| 2026年11月5日 | フジテレビが導入成果と今後の計画を正式発表 |
| 2027年10月めど | フジテレビ制作の全ドラマでAIを活用できる体制を整備する目標 |
| 2029年度 | フジ・メディア・ホールディングス全体でAI活用機能を高度化する目標 |
2026年10月期から設定する「AI強化枠」は、実際の作品制作を通じてAI活用の経験や知見を蓄積するための枠です。毎クール1本以上という設定は、重点的に取り組む作品の最低数を示しており、それ以外のドラマでAIを使わないという意味ではありません。
さらに、2027年10月以降はフジ・メディア・ホールディングスの映像関連企業にも取り組みを広げ、2029年度にはグループ全体で国内トップベンダーレベルのAI活用機能を持つことを目指すとしています。
ただし、これらはいずれも今後の計画です。2027年10月の体制整備が完了したという実績や、2029年度の目標をすでに達成したという発表ではありません。
生成AIで作業工数を最大70~80%削減|制作費が8割減るわけではない
今回の発表で、大きな数字として注目されているのが「最大70~80%」という削減効果です。
フジテレビとANDENTは、生成AIを活用した一部の映像制作工程について、従来の手法と比較して作業工数を最大70~80%削減できたと説明しています。
ここでいう作業工数は、特定の仕事を終えるために必要な作業量を指します。例えば、同じ映像処理に必要な作業時間や人手が減れば、その工程の工数を削減できたことになります。
しかし、ドラマ1作品の制作費が80%減少したという意味ではありません。
ドラマ制作には出演者やスタッフの人件費、撮影場所の確保、セット、衣装、美術、照明、編集、音響など、さまざまな工程と費用が存在します。そのうち一部の映像制作工程が効率化されても、作品全体の費用や制作期間が同じ割合で減るとは限りません。
実際、フジテレビとANDENTの発表でも、この数値は特定工程における検証結果であり、作品全体の制作費削減率や制作工程全体の平均削減率ではないことが明記されています。
また、どの工程で何時間の作業が削減されたのか、何件の制作事例で検証したのかといった詳細な条件までは公開されていません。
したがって、現段階でわかるのは、生成AIによって大幅な効率化を実現できた工程があるということです。すべてのドラマで同じ効果が得られるかどうかは、今後の導入実績を見なければ判断できません。
俳優や脚本家の仕事はAIに置き換えられるのか
生成AIをドラマ制作に本格導入すると聞けば、出演者や制作スタッフの仕事がどう変わるのか気になる人も多いでしょう。
映像を生成できる技術が進歩すれば、実際に撮影しなくても人や風景を表現できる場面が増えていく可能性があります。さらに、人物の姿や声を再現する生成AIも存在するため、俳優や声優、脚本家、CG制作者などの仕事への影響は、映像業界全体で考えていく必要のある問題です。
ただし、今回のフジテレビの発表で具体的に説明されているのは、撮影前のイメージ作成や、医療・事故シーンなどの映像制作への活用です。
出演者の顔や声をAIで置き換える計画、脚本家の仕事をAIに全面移行する計画、人員削減の具体的な方針などは、今回の発表では確認できません。
脚本をAIが自動で書いているわけではない
フジテレビの公式発表には、撮影前の準備段階から脚本や目指す映像を共有するという説明があります。
しかし、これは制作スタッフが脚本や映像の完成イメージを共有し、どのような撮影方法が適切か検討するための説明です。
AIが脚本を自動執筆しているという意味ではなく、『救命病棟24時』の脚本が生成AIによって書かれたという事実も今回の資料からは確認できません。
また、将来のAI利用についても、すべての脚本が自動生成に移行するといった計画は発表されていません。
制作の効率化と人間の仕事の変化は別問題
生成AIの導入によって、映像を作るための作業内容が変化する可能性はあります。
例えば、これまで時間をかけて作っていた背景イメージをAIで短時間に生成できれば、スタッフは別の作業に時間を使えるようになります。一方、AIが作った映像の品質を確認したり、作品の世界観に合うよう修正したりする仕事も必要になります。
制作工程の一部が効率化されることと、特定の職種が不要になることは同じではありません。今回の発表だけで雇用への影響を断定することはできないものの、どの仕事をAIに任せ、どの判断を人間が担うのかは、今後ますます重要になるでしょう。
なお、声の生成AIについては、実演家の権利を守るための動きも進んでいます。日本俳優連合が公表したAI音声ガイドラインと本人同意のルールについても、別の記事で詳しく解説しています。
生成AIの著作権や肖像権は大丈夫?フジテレビの公式方針
映像制作に生成AIを導入する際、避けて通れないのが著作権や肖像権の問題です。
生成AIは大量のデータをもとに学習を行う技術であり、利用するサービスや生成方法によって、既存作品との類似、素材の利用許諾、人物の容姿や声の再現など、さまざまな問題が生じる可能性があります。
フジテレビは今回の発表以前となる2026年6月26日、「AI利活用ポリシー」を公表しています。
このポリシーでは、AIを人間の創造性を支える手段と位置づけ、出演者、原作者、脚本家、制作関係者などの権利を尊重する方針を明示しています。
また、AIによる生成物は人間が確認し、重要な意思決定や判断は最終的に人間の責任で行うとしています。
AI生成映像には必ず表示が付くのか
フジテレビのAI利活用ポリシーでは、現実を撮影した映像と、AIによって生成または大幅に改変された映像を区別する方針が示されています。
特に報道分野では、AI生成物を使用する際、視聴者が現実の出来事と誤認しないよう明確な表示などを行うとしています。
ただし、これは報道に関する説明であり、フィクションであるテレビドラマのすべてのAI使用場面に、必ず表示を付けると定めたものではありません。
今回の発表でも、ドラマ本編におけるAI利用の表示方法や、エンドクレジットでの具体的な表記ルールなどは明らかになっていません。
使用AIの学習データや権利処理の詳細は未公表
今回の発表では、実際に使用した生成AIモデルの名称や、その学習データ、個々の映像に関する権利処理の詳細までは確認できません。
そのため、フジテレビが権利尊重の方針を公表していることと、すべての生成映像の権利処理の詳細が明らかになっていることは区別して考える必要があります。
実際にどのAIサービスを使い、どのような素材を入力し、必要な許諾をどのように取得しているのか。こうした具体的な運用については、今後の説明が注目されます。
フジテレビの基本方針は、公式のAI利活用ポリシーで確認できます。
生成AIを使うテレビドラマはフジテレビが初めて?
今回の発表は、フジテレビがドラマ制作に生成AIを本格的に取り入れるという点で注目されていますが、日本のテレビドラマで初めての導入事例というわけではありません。
TBSは2025年10月30日、日曜劇場『VIVANT』続編において、Googleの動画生成AI「Veo 3」を地上波ドラマ本編の映像に使用する方針を発表していました。
この取り組みも、AI技術を映像制作に取り入れ、従来の制作工程を効率化することなどを目的としています。詳細はTBSの公式発表で説明されています。
一方、今回のフジテレビの特徴は、個別のドラマへの導入にとどまらず、専用のプロジェクトチームを設け、将来的に自社制作の全ドラマで活用できる体制を整えようとしている点にあります。
個々の作品で新しい技術を試す段階から、制作現場全体で継続的に利用できる仕組みを作る段階へ。今回の発表は、そうした制作体制の変化を示すものといえます。
ただし、AIを導入すること自体がドラマの面白さや完成度を保証するわけではありません。映像がどれほど美しくなっても、物語の説得力や俳優の演技、演出の工夫が作品の魅力を左右することに変わりはないでしょう。
むしろ、これまで予算や撮影条件によって難しかった場面を表現できるようになるなら、脚本家や監督が描こうとする世界を広げられる可能性があります。効率化のためだけではなく、どんな作品を生み出せるようになるのかが、視聴者にとっては重要な部分です。
まとめ|フジテレビの生成AI導入でドラマ制作はどう変わる?
フジテレビは2026年11月5日、ドラマ制作への生成AI活用を本格的に進めていることを発表しました。
すでに『救命病棟24時』第6シリーズでは、第1話の爆発事故シーンにAIで生成した架空の空撮映像を使用。医療シーンの細かな映像処理や、撮影前のイメージ共有にも活用されています。
今後は2027年10月をめどに、フジテレビが制作するすべてのドラマでAIを利用できる体制を整える計画です。ただし、全作品をAIだけで制作するという意味ではなく、実写撮影や従来のCG・VFXと組み合わせて使う方針です。
一部工程で最大70~80%の作業工数削減を確認したという成果も発表されましたが、ドラマ全体の制作費が同じ割合で削減されるわけではありません。また、出演者や脚本家の代替計画、使用AIモデル、個別の権利処理の詳細についても、現時点では明らかになっていません。
今回の取り組みで注目したいのは、人間が作るドラマをAIに置き換えることではなく、人間が描きたい物語を映像にする方法が増えることです。
AIを利用した作品が増えていくなかで、映像の完成度がどう変わるのか。新しい表現が生まれる一方、出演者や制作者の権利をどのように守っていくのか。今後の具体的な導入作品と制作現場の変化が注目されます。