
錬成は“読み合い”だ。殴って、壊して、瞬時に作る。
アニメ放送初期の熱気のなかで発売されたPS2用アクションRPG『鋼の錬金術師 ― 翔べない天使』。原作者・荒川弘がオリジナルストーリーを監修し、エドとアルの旅に“ゲームならでは”の敵や事件を差し込んだ一本だ。開発はラクジン、発売はスクウェア・エニックス。日本では2003年12月25日にリリース(北米は2005年1月18日)。ジャンルはアクションRPGで、フィールドのオブジェクトをエドの錬金術で瞬時に武器へ錬成し、アル(AI)が援護する“兄弟タッグ”のプレイフィールが核になっている。
作品概要・基本情報

- タイトル:鋼の錬金術師 ― 翔べない天使(英題:Fullmetal Alchemist and the Broken Angel)
- 機種:PlayStation 2
- ジャンル:アクションRPG
- 発売日:2003年12月25日(日本)/2005年1月18日(北米)
- 発売:スクウェア・エニックス/開発:ラクジン(Racjin)
- 監修:荒川弘(原作)によるオリジナルストーリー
- 特色:その場の樽・瓦礫・柵などを“武器に錬成”→コンボへ繋ぐ、AIアルの連携が要。ウィキペディアウィキペディア
開発の裏話として、キャラゲーにしては開発期間を長く確保したという談話が残る(当時のインタビュー)。シリーズ初の家庭用本格作としての気合いが感じられる。
📜 原作との違い・ゲームオリジナル要素

完全オリジナルの事件と舞台
『翔べない天使』は原作者・荒川弘監修のオリジナルストーリーで、原作漫画やアニメの既存エピソードとは直接つながりません。舞台は山間の交易都市「ヒーゼガルド」とその周辺。街は鉱山資源と交易で栄えていますが、その裏では国家軍と地方勢力の対立、そして“翔べない天使”と呼ばれる謎の存在が暗躍しています。
この舞台設定は、原作に登場しない地名や組織を盛り込みつつも、軍や錬金術師の階級制度などは原作準拠で描かれています。
ゲームオリジナルキャラクター
物語の核を担う複数の人物が、ゲームのために新規で作られています。
- アーシェ:天真爛漫だが重大な秘密を抱える少女。エド&アルと行動を共にする。
- カーディアス大佐:軍人。都市の秩序維持を名目に動くが、裏の意図も見え隠れする。
- クロム:非国家系の錬金術師。エド達の前に敵として立ちはだかる。
これらのキャラは本作限定のため、ストーリーの完結もゲーム内でのみ描かれます。原作キャラの出番はエド、アルを中心に、ウィンリィやロイ・マスタングなどが脇を固める形。
原作要素とのブレンド
- 錬金術のルールは原作通り、“等価交換”をセリフやイベントで何度も強調。
- 国家錬金術師制度や軍部の権力構造はそのまま採用。
- 一方で、軍の内部抗争や陰謀のスケール感はゲーム用に小規模化され、舞台をコンパクトにまとめています。
プレイヤーの行動で変化する演出
ストーリー進行に関しては一本道ですが、フィールド探索やサブイベントの達成度によって会話やイベントシーンが微妙に変化します。例えば、あるサブクエストを終えてから本編イベントに入ると、アーシェの反応や台詞が追加されるなど、原作にはない“寄り道でキャラを深掘り”できる仕様があります。
総評(ストーリー面)
原作の主要テーマである「兄弟の絆」と「錬金術の倫理観」を崩さず、まったく新しい事件と人物を絡めた“サイドストーリー”として成立させています。既存エピソードの繋ぎ合わせではなく、完全新規の脚本で原作世界を補完した点は、ファンにとっても大きな魅力です。
📈 発売当時の評価と市場反応

発売直後の話題性
『鋼の錬金術師 ― 翔べない天使』が発売された2003年末は、原作漫画が連載3年目、アニメ第1作が放送中というタイミング。特にアニメ版は全国ネットのゴールデン枠で放送されており、ゲーム化はファンの注目を集めました。スクウェア・エニックスが初めて手掛ける家庭用ハガレンゲームという点も、当時のニュースサイトや雑誌で大きく取り上げられています。
レビュー・メディア評価
発売当時の専門誌レビューでは、グラフィックやキャラクター再現度が高く評価されました。特に、当時としては珍しい「フィールドのオブジェクトをその場で錬成する」というシステムは**“原作らしさを直接プレイ感覚に落とし込んだ好例”**とされました。
一方で、錬成できるオブジェクトの種類やパターンは限られており、アクション部分は単調になりやすいとの指摘も。長時間遊ぶと“繰り返し感”が出るという声が目立ちました。
ファン層の反応
当時のファン掲示板やレビューサイトでは、完全オリジナルの物語に賛否が分かれました。
- 肯定派:「原作にない舞台やキャラも違和感がなく、外伝として成立している」
- 否定派:「原作キャラの出番が少なめで、ウィンリィやマスタングの活躍が物足りない」
ただし総じて、“兄弟の掛け合い”やイベント演出は好感を持たれており、アーシェという新キャラも印象に残ったという意見が多く見られます。
市場での動き
初週売上はファミ通調べで約15万本前後(推定)。年末商戦の話題作としては堅調なスタートでしたが、長期的な販売曲線は緩やか。翌2004年には廉価版「アルティメットヒッツ」に選ばれ、比較的早い段階で価格改定が行われたことからも、初動型の売れ方だったことがうかがえます。
海外での受け止められ方
北米版『Fullmetal Alchemist and the Broken Angel』は2005年1月発売。アニメがAdult Swimで放送されていた影響もあり、一定の注目を集めました。ただし、海外レビューでは「探索要素や戦闘テンポは単調」「ファン向けの補完作品」という評価が多く、平均スコアはMetacriticで60点台前半に留まりました。
総括
発売当時は原作人気とシステムの独自性が評価され、ファンアイテムとしては成功。だがゲーム単体としては、繰り返し感やバランス面の課題も指摘されました。結果的に、本作は“外伝として遊ぶと満足度が高いが、汎用アクションRPGとしては平均点”という位置付けに落ち着いたといえます。
🧩 厳選トリビア3選(鋼の錬金術師 ― 翔べない天使/PS2)
① 原作監修+新作アニメ映像──キャラゲーの枠を超えた制作体制
本作は企画段階から原作者・荒川弘が参加し、ストーリー監修やゲームオリジナルキャラクターのデザインを担当。単なる「原作の切り貼り」ではなく、完全新規脚本として構築された。さらにアニメ制作のボンズが本作のために約30分もの新作アニメ映像を制作。ゲーム中のイベントに自然に挿入され、アニメとゲームが地続きの世界として感じられる構成になっている。当時の開発スタッフは、これらの作業により「キャラゲーとしては異例の一年以上の開発期間が必要だった」と語っており、ファンアイテムを超えた本格外伝としての地位を確立していた。
② 地域別の難度調整──海外版はより手強く
2003年末に日本で発売された後、北米版『Fullmetal Alchemist and the Broken Angel』は2005年1月にリリース。この際、単なるテキストローカライズではなく、敵AIの攻撃性や行動パターンを強化し、全体的な難易度を引き上げる調整が施された。開発陣は海外プレイヤーのアクションゲーム慣れを考慮したとされる。結果として、同じ『翔べない天使』でも日本版と北米版では戦闘のテンポや緊張感が異なり、海外版を逆輸入して遊ぶ国内ファンも存在した。
③ “錬成”の遊び心──スチームローラーで敵を薙ぎ払う快感
本作の代名詞である“フィールド錬成”は、ただの攻撃手段に留まらない。ステージ上の樽や瓦礫を武器や砲台に変えるのはもちろん、スチームローラーやミニタンクといった“移動可能な兵器”にも変換できるのが特徴だ。これらは敵集団を一気に薙ぎ払える破壊力を持ち、通常攻撃とは異なる爽快感を演出。特にスチームローラーは、敵をなぎ倒すたびに効果音と画面揺れが入り、プレイヤーの脳内報酬系を直撃する。多くのレビューで「錬成の中でも最も笑えて気持ちいい瞬間」と評され、単調さが指摘されることもあったアクションパートに強烈なアクセントを与えていた。
原作再現度と“ガンガン原作ゲーム”としての評価

🎨 原作再現度 ― 世界観・画・遊びの三拍子
『翔べない天使』は、原作者・荒川弘が直接ストーリー監修とオリジナルキャラクターデザインを担当した完全新作外伝。物語の舞台は原作やアニメには登場しない交易都市ヒーゼガルドで、軍と地方勢力の対立、そして“翔べない天使”と呼ばれる謎の存在を巡る事件が描かれます。事件の規模は原作本編より小さくまとめられていますが、兄弟の絆や等価交換の倫理観、軍の制度といったテーマはしっかり踏襲され、ファンが違和感なく入り込める構成になっています。
演出面の大きな特徴は、アニメ制作のボンズによる約30分の新作アニメ映像。PS2の3Dイベントに加え、このアニメが要所で挿入されることで、プレイ中に“アニメ版を観ている”感覚が自然に生まれます。絵柄や芝居、色使いはテレビ版そのままで、原作の画的トーンを崩さない点は高く評価されました。
プレイ体験における原作らしさの核心は、フィールド上のオブジェクトを瞬時に武器や設置兵器へ錬成するシステム。樽や瓦礫を戦闘用の砲台や槍に変換し、敵を迎撃したり足止めしたりする遊びは、原作の等価交換=素材から新しい形を生み出すという概念を直感的に操作へ落とし込んでいます。さらに、プレイヤーはエドを操作しつつ、AIのアルを呼び出して連携させることが可能。兄弟タッグの力学をアクションとして実感できる設計は、世界観の追体験としても優れています。
🏢 ガンガン原作ゲームとしての立ち位置
当時の『鋼の錬金術師』は、月刊少年ガンガンの看板タイトルかつスクウェア・エニックスの自社IP。自社漫画原作を、自社パブリッシング+外部開発(ラクジン)でゲーム化できる強みを最大限活かし、メディアミックス展開も非常に密度の高いものでした。
- 原作監修+ゲームオリジナル脚本
- 新作アニメ映像の制作(ボンズ)
- 小説版の刊行(ガンガン小説レーベル)
これらが同一グループ内で連動して動き、ゲームプレイと読書、映像鑑賞を循環させる導線が構築されていました。
📊 市場と評価のスナップショット
日本では2003年12月25日に発売。アニメ第1作の放送期かつ年末商戦という最高のタイミングでリリースされ、初動で大きな話題を獲得。販売は初週約15万本前後(推定)と堅調で、その後2004年に廉価版「アルティメットヒッツ」に早期選出されました。外伝でありながらシリーズ続編(『赤きエリクシルの悪魔』『神を継ぐ少女』)へ繋がる足掛かりとなった点は、戦略的成功と言えます。
海外版『Fullmetal Alchemist and the Broken Angel』(2005年1月発売)では、テキスト翻訳だけでなく敵AIや難度を引き上げる調整が行われ、地域ごとにプレイ感が異なる仕様に。海外レビューはMetacriticで56点前後(mixed)と中間評価で、「錬成のアイデアは秀逸だが戦闘が反復的」という声が多く見られました。国内でもファミ通30/40と堅実な評価で、“一般アクションRPGとしては中庸、ファン向け外伝としては高評価”という立ち位置に落ち着いています。
✅ 総括
本作は、原作再現度の高さとガンガン原作ゲームとしての戦略的成功を両立させた一本です。世界観・画・遊びの三層で原作性を保ちつつ、メディアミックスの厚みでファン体験を強化。ゲーム単体としての完成度は“並〜良”ですが、2000年代前半型キャラゲーの最適解のひとつと評して差し支えないでしょう。
📝 ファン視点で見た“不満点”

1. 錬成は魅力的、でも戦闘が単調化しやすい
本作の最大の魅力である“その場のオブジェクトを武器や設置兵器に錬成する”システムは高く評価されました。しかし遊びの最終目標が「出現する敵を倒す」の繰り返しに収束しやすく、長く遊ぶと戦闘パターンが固定化して単調になると指摘されています。海外レビューでも「最も際立つ問題は反復性」と明記され、Wiredは「RPG要素はあるが、冒険や育成の深みは薄く、戦闘はテンポは速いが反復的」と総括しました。アイデアは秀逸だが、設計上の変化が足りなかったというのが共通した意見です。
2. ダンジョン構造と進行ルートの単調さ
外伝としてコンパクトにまとめた構成は好意的に受け止められた一方で、ルートの直線性やダンジョン再利用への不満も目立ちました。RPGFanは「筋書きは既視感が強く、ダンジョンの使い回しが目立つ」と評し、RPGamerも「ゲームとして短く、リプレイ価値が乏しい」と指摘。寄り道や探索の広がりが少ないため、一本道感が強くなっています。
3. 戦闘テンポを削ぐインターフェース
アクションRPGの爽快感を支えるはずのテンポが、アイテム使用時のメニュー操作で途切れる仕様は賛否が分かれました。RPGamerは「アイテムを使うたびに戦闘が一時停止し、スピード感を損なう」と明言。細かなUI設計が、連打や即応の流れにブレーキをかけてしまう瞬間があります。
4. 見た目の評価が二極化
ボンズによる新作アニメ映像の挿入は強く支持されましたが、ゲーム側のリアルタイム3D表現には賛否が分かれました。Metacritic掲載のレビューには「見た目が冴えない」との声があり、IGNなども同時期の『キングダム ハーツ』と比較して見劣りを指摘。イベント演出は素晴らしいのに、ゲーム画面でテンションが落ちる瞬間があるという意見が散見されます。
5. 難易度カーブのムラと地域差
国内版は難易度の波が急で、「序盤は易しいが中盤に急に難しくなる」などのムラが指摘されました。RPGamerは「単調さに加え、難易度が上下する」と批評。対して北米版では敵AIの攻撃性を高めるなどの調整が入り、全体的に手強い仕様に変更。しかし本質的な反復感は解消されず、「歯応えは増したが変化には乏しい」という声が残りました。
6. 物語の筋は既視感あり
オリジナルキャラや舞台設定は好評だった一方、物語の展開自体は「予測できてしまう」と感じるプレイヤーもいました。RPGFanは「先が読める展開」と述べ、IGN系の総評も“ファンなら楽しめるが長編RPGとしての厚みは並”としています。外伝としては満足度が高い一方で、単体の物語としてはもう一歩という評価です。
総括
ファンの目線で見た本作の“不満点”は、
- 錬成システムの反復性
- ダンジョンや進行の単調さ
- 戦闘テンポを阻害するUI
- 難易度カーブの不安定さ
- 物語の既視感
といった部分に集中しています。とはいえ、錬成のアイデア/兄弟タッグの連携/新作アニメ映像といった強みは揺るぎなく、外伝として“世界観を味わう”目的なら十分楽しめる作品です。発売当時から現在まで、この“惜しさ”と“独自性”が同居した評価は変わっていません。
🏁 総合評価(ファミ通レビュー風)

- レビュアーA:8/10
錬成→連携のループが気持ちいい。素材を見て即興で戦況を作る発想は原作体験のど真ん中。イベントの新作アニメも効いていて、 “観て遊ぶ”のバランスが佳。 - レビュアーB:7/10
外伝脚本は破綻なく、兄弟の掛け合いも心地よい。ただ、ダンジョンの使い回しと直線進行で“探検している”手応えは薄め。寄り道の厚みがもう一歩。 - レビュアーC:7/10
錬成のアイデアは唯一無二だが、戦闘が反復に寄りがち。UIの小さな引っかかり(アイテム使用でテンポが切れる等)が、爽快感の波を時々途切れさせる。 - レビュアーD:6/10
アニメ挿入は高揚する一方、リアルタイム側の見栄えは世代的に地味。難度カーブもムラがあり、ゲームとしての“もう一段の練り”を期待したくなる。
合計:28 / 40
一言まとめ
“世界観を味わう外伝としては高得点。 一般アクションRPGとしては中庸。”
錬成の発想と新作アニメで原作らしさは満点に近いが、反復と導線の平板さが伸びを止めた印象。
推しポイント(+)
- その場錬成×兄弟連携の“原作直結”な遊び心地
- ボンズ新作アニメ挿入でトーンが揺らがない演出
- 外伝脚本の安定感(倫理観・制度の踏襲)
気になる点(-)
- バトルと進行が単調に収束しやすい
- UIの細部がテンポを削ぐ場面あり
- ダンジョン再利用&直線進行で探索の広がりが乏しい
🎯 総合まとめ

総合評価 ― “外伝としての完成度”と“惜しさ”の同居
『鋼の錬金術師 ― 翔べない天使』は、原作監修・新作アニメ映像・オリジナル脚本と、キャラゲーとしては贅沢な制作体制で作られた一本です。世界観やキャラクターの描写は原作ファンも納得の仕上がりで、錬成システムは「操作感で原作を体験する」という点で非常にユニーク。
一方で、戦闘や進行構造の単調さ、UIや難易度カーブの粗さなど、アクションRPGとしての作り込みには惜しい部分が残りました。そのため評価は“ファン向け外伝としては高評価、一般向けアクションRPGとしては中庸”という位置に落ち着いています。
ガンガン原作ゲームとしての意義
スクウェア・エニックスが自社漫画を自社パブリッシングで家庭用ゲーム化し、さらに小説版やアニメ映像を含むメディアミックスを一貫して展開した成功例です。2000年代前半のキャラゲーにおいて、ここまで連動性を持たせた作品は多くなく、後の『赤きエリクシルの悪魔』『神を継ぐ少女』へと繋がるシリーズ化の起点にもなりました。
錬成×兄弟連携がビシッ!外伝は控えめでも“ハガレン味”は濃厚。アニメ挿入でテンション上がるよ〜!
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