つぶログ深掘り レトロゲーム

ゲームショップで流れていた謎のVHSは何だった?|「店頭用」と「受注用」ビデオの正体

ゲームショップの店頭VHSは何だった?「店頭用」と「受注用」の違いを調査

1990年代のゲームショップでブラウン管テレビにゲーム映像を流すVHSとビデオデッキのイメージ

ゲームショップへ入ると、どこかからゲームの音が聞こえてくる。

棚にはまだ発売されていない新作のポスター。少し上を見ると、ブラウン管テレビには知らないゲームが映っている。雑誌では静止画しか見たことがなかった作品が、目の前ではキャラクターを動かし、戦い、音楽まで鳴らしていた。

1990年代のゲームショップを知る人なら、そんな売り場を覚えているかもしれない。

では、あの映像は何だったのだろう。

店員がテレビCMを録画して流していたのか。それとも、メーカーからゲームショップへ特別なVHSが届いていたのか。

現存するテープやゲーム業界の販促資料を追っていくと、答えは「メーカー側が用意した店頭用映像は実在した」。ただし、それだけではなかった。

ゲームショップへ渡る映像の中には、客に見せるための「店頭用」と、客には見せてはいけない「受注用」まで存在していた。

今回は、まだYouTubeも高速インターネットもなかった時代に、「動くゲーム」がどのように売り場まで運ばれていたのかを追ってみる。

この記事での「店頭PV」について
当時の現物には「プロモーションビデオ(店頭用)」「販売促進用ビデオ」「受注用ビデオ」など複数の表記があります。本記事では読みやすさのため、一般客へ見せる目的で店頭上映された販促映像を便宜上「店頭PV」と表記します。当時すべてのメーカーがこの名称を使っていたという意味ではありません。

まず結論|ゲームショップへ届く「販促VHS」は本当に存在した

ゲームショップのモニターで流すことを目的としたゲーム映像は、実際に存在した。

確認しやすい現物の一つが、スーパーファミコン用ソフト『ロマンシング サ・ガ3』のVHSだ。ケースにもテープ本体にも、はっきりと「プロモーションビデオ(店頭用)」と記されている。

つまり、「昔のゲームショップで見た映像は、メーカー側から用意された販促映像だったのではないか」という記憶そのものは間違いではない。

一方で、ここから「ゲームショップにあったVHSは全部、客へ見せるためのものだった」と考えると話が変わってくる。

1995年のバンプレスト製VHSには、さらに興味深い言葉が残っている。

「受注用ビデオ(店頭上映禁止)」。

同じゲーム関連のVHSでも、こちらは客へ見せるための映像ではない。

昔のゲームショップの「謎のVHS」を調べると、売り場には少なくとも客が見る映像と、販売する側が見る映像という二つの世界があったことが分かる。

ゲーム売り場で映像が流れ始めたのはいつ頃なのか

ゲーム売り場と映像の関係は、1990年代になって突然始まったわけではない。

2026年のCEDECでは、スクウェア・エニックスで宣伝・営業・ゲーム資料保存に携わってきた井上敏行氏が、ゲーム販促ツールの歴史を紹介している。

その講演を取材したGameBusiness.jpによると、1980年代後半にはゲーム売り場へPR用テレビモニターが導入され、プロモーション映像の上映と、モニター周辺を飾る販促物が登場し始めたという。

ファミコンが発売された1983年頃からゲームを専門的に扱う売り場が広がり、ポスター、チラシ、POPだけでなく、テレビ画面そのものも商品の魅力を伝える場所になっていった。

ここで重要なのは、1980年代後半から使われた映像媒体がすべてVHSだった、とまでは確認できないことだ。

確認できるのは、まず「店頭でゲームのプロモーション映像を見せる文化」がこの時期には成立し始めていたこと。その後、1990年代にはVHSによる多数の販促映像が現存している、という順序になる。

当時の売り場全体をもう少し広く追体験したい場合は、1万円だけ持って1997年のゲームショップへ行くで、価格や発売予定、購入場所まで含めた1997年のゲーム売り場を再現している。

『ロマンシング サ・ガ3』には「店頭用」と書かれたVHSが残っている

店頭上映用だったことを確認するうえで、現物に残された表記は非常に強い証拠になる。

1995年11月11日にスーパーファミコンで発売された『ロマンシング サ・ガ3』には、現在も「プロモーションビデオ(店頭用)」と明記されたVHSが残っている。

映像には8人の主人公、物語の設定、バトルシステム、技や術などの紹介が収録されているとされる。

30秒程度のテレビCMだけでは伝えにくいゲーム内容を、売り場でより詳しく見せる役割を持っていたことが分かる例だ。

ただし、現在中古市場やネット上で「販促VHS」「非売品VHS」と呼ばれているテープを、すべて同じように店頭上映用と考えてはいけない。

「非売品」は販売されなかったことを示すだけで、誰が何のために見るものだったのかまでは分からないからだ。

客には見せない「受注用ビデオ」も存在した

今回、最も興味深かったのがこちらだ。

1995年にバンプレストが用意したVHSには、『ザ・グレイトバトルV』と『ファーランドストーリー2』のタイトルとともに、「受注用ビデオ(店頭上映禁止)」と記されている。

収録時間は約7分。ゲームの舞台設定やキャラクター、実際のゲームプレイなどを紹介する内容だった。

ゲームを紹介しているという点だけを見ると、店頭PVとよく似ている。

しかし、その対象は客ではない。

「受注用」という名称から、販売店や流通側が商品内容を理解し、仕入れ・受注の判断をするための資料だったとみるのが自然だ。そして、この現物については「店頭上映禁止」とまで明記されているため、少なくともこの一本を一般客向けの店頭PVとして扱うことはできない。

種類主に見る相手目的確認できる例
店頭上映用一般客ゲーム内容を見せ、予約・購入につなげる『ロマンシング サ・ガ3』「プロモーションビデオ(店頭用)」
受注用販売店・バイヤーなど商品理解や受注判断を助けるバンプレスト「受注用ビデオ(店頭上映禁止)」
テレビCMテレビ視聴者短時間で広く商品を認知させる作品ごとのテレビ広告

つまり「メーカーからゲームショップへビデオが来ていた」という話だけでは足りない。

誰に見せるビデオだったのか。

ここを分けなければ、当時の店頭映像文化は正確に見えてこない。

1本のVHSに1作品だけ入っていたとは限らない

販促VHSの形式も一つではなかった。

1989年のナムコ「新製品ご案内デモビデオ」には、『ドラゴンスピリット』『デビルマン』『マインドシーカー』『ドラゴンバスター』など複数作品の紹介が収録されている。発売時期や価格が表示され、途中には別作品のテレビCMも入る構成だった。

1994年のアスキー「'94年夏のアスキー新作ソフト」も、『ダウン・ザ・ワールド』『ウィザップ!』『サンリオ上海』の3作品をまとめたものだ。

そして、このアスキー製VHSにはアナログ時代ならではの面白い工夫が残っている。

約9分の内容を、テープの中で何度も繰り返していた

テープ本体のラベルには「販売促進用ビデオ <くり返し60分>」とある。

映像そのものは約9分。それを繰り返し記録し、約60分のテープにしていた。

現在なら動画ファイルに「ループ再生」を設定すれば、同じ映像を何時間でも繰り返せる。

しかしVHSは、最後まで再生すればそこで終わる。もう一度見るには巻き戻す必要がある。

そこで短い映像をテープの中へ何度も入れておけば、店員が巻き戻すまでの時間を長くできる。

これが全国共通の運用だったとは確認できないが、「くり返し60分」という現物表記から、少なくともこのVHSが繰り返し見せることを前提に作られていたことは分かる。

店頭PVはテレビCMをまとめただけだったのか

これも違う。

もちろん、販促VHSの中にテレビCMが収録される例はあった。しかし「テレビCM」と「店頭用プロモーション映像」は、同じ作品でも別々に用意された例が確認できる。

2007年のWii用ソフト『チョコボの不思議なダンジョン 時忘れの迷宮』では、ゲームショップなどで流す「店頭用プロモーションビデオ」が公式サイトでも公開された。一方、テレビCMは別の映像として案内されている。

2008年のニンテンドーDS用ソフト『シグマ ハーモニクス』でも、予約特典DVDに「店頭用プロモーション映像」と「テレビCM全バージョン」が別々に収録された。

テレビCMは短い時間でまず作品を知ってもらう広告。店頭PVは、すでにゲーム売り場まで来ている客へ、ゲーム画面やシステム、物語などをもう少し長く見せられる。

似た映像素材を共有することはあっても、「店頭PV=テレビCMの長尺版」と一括りにすることはできない。

VHSは誰がゲームショップへ届けていたのか

ここは、分かっていることと分からないことを分ける必要がある。

CEDEC 2026で紹介されたスクウェア・エニックスの販促ツールでは、営業部門が種類の選定や制作を担い、完成した販促物を地域ごとにまとめ、全国の販売店舗へ配送する流れが説明されている。

営業担当者が店舗を訪れ、売り場へ販促物を展開するケースもあった。

ゲーム会社側で作られた販促物が、実際のゲーム売り場まで運ばれていたこと自体は確認できる。

しかし、この説明をそのまま1990年代のすべての販促VHSへ当てはめることはできない。

メーカーから店舗へ直接送ったのか、問屋を経由したのか、チェーン本部へまとめて送ったのか、営業担当が持参したのか。具体的な経路はメーカー、時代、店舗によって違った可能性があり、一本のVHSについてそこまで追える資料は多くない。

そのため、「昔はメーカーから全国のゲームショップへ同じVHSが一斉に郵送されていた」といった説明は避けたい。

ゲームそのものの物流についても、メーカー→問屋→店という一本線では説明できない。発売日前から商品が店舗に届く仕組みについては、ゲームの「フラゲ」という発売日前日の文化でも詳しく追っている。

実際のゲームショップでは、映像を一日中流していた

では、店舗側ではどのように映像を使っていたのだろう。

後年の当事者証言として参考になるのが、元TVパニック店長による回想だ。

本人がアルバイトを始めた店舗には、店頭・店内に多数のブラウン管モニターがあり、プロモーションビデオが絶えず流れていたという。

具体例として挙げられているのは、PlayStation用ソフト『From TV animation ONE PIECE オーシャンズドリーム!』。約5分ほどで繰り返される音楽を、一日中聞くことになったという記憶まで残っている。

これは2000年代初頭の一店舗での証言であり、「1990年代の全国のゲームショップがすべて同じ運用だった」とする証拠ではない。

それでも、売り場のモニターで短いゲーム映像を何度も繰り返すという文化が、VHS全盛期だけの一瞬の現象ではなく、その後まで続いていたことは分かる。

発売前だから、製品版と違う映像も流れていたのか

販促映像には、発売前のゲームを収録したものも多い。

実際、1991年のゲーム展示会向け映像「CSG TV-GAME COLLECTION '91 夏・秋」には、後に発売中止となったタイトルや、製品版とはデザインが異なるゲームの映像が残っている。

ただし、これはゲームショップの一般客向け店頭VHSと確認された映像ではなく、展示会向けの資料だ。

そのため、「昔の店頭PVには開発途中の画面が大量に入っていた」とまでは言えない。

発売前の素材が後の製品版と違うケース自体は存在するものの、映像の用途を確認せずに店頭PVの話へ混ぜない方がよい。

試遊台と店頭PVは、似ているようで役割が違う

ゲームショップには、映像を見るだけでなく実際に遊べる試遊台もあった。

この二つも分けて考える必要がある。

店頭PVは、立ち止まっていなくても画面が勝手にゲームを紹介してくれる。操作方法を知らない人にも届き、複数の客が同時に見ることもできる。

一方、試遊台では実際にコントローラーを持ち、操作感を確かめられる。その代わり、一度に遊べる人数は限られる。

「試遊台が普及したからVHSが不要になった」と一本の交代劇にするのではなく、映像販促と試遊は目的の違うものとして長く併存していたと見る方が実態に近い。

VHSは消えたが、「店頭でゲーム映像を見せる文化」は消えていない

では、店頭VHSはいつ消えたのだろう。

ここにも「2005年に終了」のような一本の境界線は引けない。

2000年代に入ると、ゲームショップ向けの映像媒体にはDVDや各種ディスクが使われるようになる。PlayStation系では「見る見る プレイステーション」と呼ばれる店頭プロモーション用ディスクの現存例があり、2000年代前半から半ばにかけてDVD-Video形式のものも確認されている。

そして2007年には、『チョコボの不思議なダンジョン 時忘れの迷宮』の「店頭用PV」が、ゲームショップだけでなく公式サイトからも見られるようになった。

映像を店まで物理的に届けなくても、ユーザー自身がインターネットで同じ映像を見られる時代へ入り始めたわけだ。

ゲームを買う場所そのものも変化していた。1990年代後半には、デジキューブがコンビニに専用モニターを置き、ゲーム紹介映像を流す仕組みまで登場している。

VHSからDVDへ、DVDなどの物理媒体からネット配信へ。さらに現在は、店舗側へ動画データを直接入稿する。

変わったのは、「ゲーム映像を売り場で見せる」という発想よりも、映像を売り場まで運ぶ方法だった。

2026年のゲオでも、ゲームのトレーラーは店頭で流れている

このことは、現在のゲームショップを見るとよく分かる。

ゲオが公開している2026年版のプロモーション媒体資料には、現在も「GAME 店頭動画配信」という広告メニューがある。

店頭モニターでゲームの予告映像やダイジェスト映像を流し、客へ映像で商品を訴求する仕組みだ。

ただし、1990年代との違いは決定的である。

動画素材はVHSではない。資料ではmp4またはmovによるデータ入稿が指定されている。

ゲームの映像を店で流し、購入候補の客へ見せる。

その役割自体は、今も残っている。

なくなったのは、映像そのものを磁気テープへ記録し、一本の物体としてゲームショップまで運ばなければならなかった世界だ。

「YouTubeが登場したから店頭PVが消えた」ではない

店頭VHSの終わりをYouTubeだけで説明するのも正確ではない。

VHSからDVDなどの光ディスクへ移る段階があり、その一方で店頭試遊機も発達した。公式サイトで動画を公開できるようになり、ブロードバンドが普及し、さらに動画配信サービスやSNSへ販促の場所が広がった。

しかも、インターネットでPVを見られるようになった後も、店頭モニターでの映像販促は残っている。

つまり、

VHS → DVD・各種ディスク → ネット配信
と単純に前の仕組みが消えて次へ置き換わったのではなく、複数の方法がしばらく併存しながら、映像を運ぶ手段が徐々に変わっていった。

と考えた方が実態に近い。

なぜ、わざわざ店頭で映像を流す必要があったのか

今なら、発売前のゲームが気になれば検索する。

公式サイトにはスクリーンショットがあり、YouTubeには数分のトレーラー、長時間のゲームプレイ映像、ライブ配信まである。

1990年代には、それが当たり前ではなかった。

雑誌なら多くの画面写真を見られる。テレビCMならゲームが動くところを見られる。ただしCMは短く、好きな時間に何度も確認できるものではない。

ゲームショップのモニターは、その隙間にあった。

店へ行けば、まだ持っていないゲームが動いている。

戦闘画面が見える。キャラクターが動く。音楽が聞こえる。パッケージの裏だけでは分からないゲームの速度や雰囲気を、買う前に確かめられる。

店側にとっては販売促進であり、客にとってはゲームを選ぶための情報源でもあった。

だからこそメーカー側は、ポスターやPOPだけでなく、「動くゲーム」そのものも売り場まで届けていた。

よくある疑問|昔のゲームショップVHSをどこまで断定できる?

よくある説明今回の確認結果
昔のゲームショップには販促VHSがあった確認できる。店頭用と明記された現物も残っている
店にあったVHSは全部客向けだった違う。「受注用ビデオ(店頭上映禁止)」の現物がある
「非売品」と書いてあれば店頭用断定できない。受注用、営業用、配布用など別用途もあり得る
店頭PVはテレビCMを長くしたもの一律には違う。店頭用映像とテレビCMを別々に制作した例がある
1本のVHSには1作品だけ入っていた違う。複数作品をまとめた販促テープも確認できる
全メーカーが同じ方法で店へ送っていた確認できない。メーカー、流通、チェーンごとの差を一般化できる資料は不足
使い終わったVHSは必ず返却した確認できない。返却・廃棄・保管のルールを業界全体で一括りにできない
店員が持ち帰ったから今も残っている由来不明の現存品については推測。個々の来歴を確認しない限り断定できない
YouTubeの登場で店頭映像は消えた違う。2026年現在も店頭モニターでゲーム映像を流す販促は存在する

一本のVHSを追うと、昔のゲーム情報がどう運ばれていたかが見えてくる

昔のゲームショップを思い出すと、ブラウン管テレビや派手なPOP、積み上げられたゲームソフトといった「売り場の風景」に目が向きやすい。

しかし、モニターに映っていた映像も、どこかから突然現れたわけではない。

メーカー側でゲームを紹介する映像を用意する。

それをVHSという物体へ記録する。

販売現場へ届ける。

店員が再生し、その前を通った客が初めて「動いている新作ゲーム」を見る。

すべてのVHSについて配送経路まで復元できるわけではない。それでも、こうした映像がゲーム販売のサプライチェーンの一部だったことは、現物と販促資料の両方から確認できる。

そして、その裏側には、客には見せない「受注用ビデオ」まであった。

ネットで検索すれば発売前のゲーム映像を何本でも見られる現在からすると、映像そのものを一本のテープにして、物理的に売り場まで運ぶという行為は遠い時代のものに見える。

だが、2026年のゲームショップでも、モニターには新作ゲームのトレーラーが流れている。

VHSはなくなった。

それでも「ゲームを売る前に、まず動いているところを見せる」という発想は残った。

あの店頭テレビで繰り返し流れていた映像は、単なる懐かしいBGMではない。

ゲームの情報を、メーカー側から発売を待つ客の目の前まで運ぶために作られた、かつての情報流通そのものだった。

-つぶログ深掘り, レトロゲーム
-, , , ,