
『シドニアの騎士』1巻の谷風長道は、宇宙船シドニアで育ったのに、その社会をほとんど知りません。
彼はシドニアの最下層で祖父と暮らし、人目から離れて育ってきました。
地上へ出れば、学校も人間関係も、シドニアの常識も初めてのものばかりです。
ところが衛人の操縦だけは、最初から妙にうまい。
なぜ弐瓶勉は、主人公を「シドニア社会の外側で育った少年」にしたのか。
1巻では、この設定によって世界説明と主人公の人物像を同時に進めています。
- 長道が知らないから、読者もシドニアを「初めて見る」ことができる
- 社会では初心者なのに、衛人だけは最初から扱える
- 継衛に乗せることで、長道の過去とシドニアの過去を接続する
- 訓練学校を置くことで、戦闘より先に「シドニアの人間社会」へ入れる
- 初陣を早く置くから、訓練学校が「安全な学園もの」にはならない
- 星白との関係は、長道に「他人から見られる自分」を意識させる
- 巨大建築を細かく説明しないから、「分からなさ」まで世界観になる
- SF設定を「人間とは何か」という一文にまとめすぎない
- 弱点|固有用語が多く、1巻だけでは世界の全体像をつかみにくい
- 原作は全15巻で完結。アニメ版も2021年の映画で完結
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- まとめ|長道を「社会の外」で育てたから、シドニアそのものが物語になる
- 書誌情報
長道が知らないから、読者もシドニアを「初めて見る」ことができる
シドニアは、人類が宇宙で生き延びるために作られた巨大な播種船です。
そこには独自の生活、制度、技術、身体のあり方があります。
こうしたSF設定を最初から説明文で並べれば、1巻はかなり重くなります。
そこで主人公自身を「それを知らない人」にする。
長道が上層へ出て、見る。驚く。聞く。失敗する。
その順番で世界の仕組みが見えるため、読者も長道とほぼ同じ位置からシドニアへ入れます。
主人公の無知が、読者の入口として機能しているわけです。
社会では初心者なのに、衛人だけは最初から扱える
長道は人間関係に慣れていません。
同年代の少年少女に囲まれた生活も、訓練学校も初めてです。
ところが衛人の操縦になると話が変わります。
最下層で長く訓練を続けてきた経験があり、実機へ乗ったときも完全な初心者ではありません。
このアンバランスが長道の個性です。
何も知らない田舎者でも、最初から完成した天才エースでもない。
生活では周囲に教わる側なのに、操縦では周囲から見られる側になる。
同じ主人公の中に「遅れている部分」と「先に進んでいる部分」を置くことで、単純な成長物語になりません。
継衛に乗せることで、長道の過去とシドニアの過去を接続する
長道が搭乗を許されるのは、歴史的な機体である一七式衛人・継衛です。
新参の訓練生に、なぜそんな機体が与えられるのか。
1巻では、その違和感自体が長道の出自への疑問になります。
彼が操縦できることと、上層部が彼をどう扱うかは、本人の知らないところでつながっている。
そのため「ロボットに乗れたから主人公になった」のではなく、なぜこの少年がこの機体へ乗せられるのかが別の謎として残ります。
訓練学校を置くことで、戦闘より先に「シドニアの人間社会」へ入れる
ガウナとの戦いは、人類の存亡に関わります。
それでも1巻は、長道をすぐ最前線の英雄にはしません。
まず訓練生として同年代の集団へ入れます。
星白閑、岐神海苔夫をはじめ、長道とは違う環境で育った人々と接することで、戦闘以外の摩擦が生まれます。
長道にとっては、ガウナだけでなく「他人とどう接するか」も未知です。
宇宙戦争の設定を持ちながら、1巻のかなりの部分を学校と人間関係へ使うことで、シドニアが単なる戦艦ではなく、人が生活する社会として見えてきます。
初陣を早く置くから、訓練学校が「安全な学園もの」にはならない
長道たちは訓練生ですが、シドニアの置かれた状況には余裕がありません。
1巻のうちに、訓練と実戦の距離は急速に縮まります。
ここで作品は、「学校で仲間と成長してから、いつか本当の戦場へ」という長い助走を取りません。
人類がガウナとの戦いを続けている以上、若い訓練生も現実の危険から切り離されていない。
この速さによって、学校での競争や人間関係にも、ただの青春ものとは違う緊張が入ります。
星白との関係は、長道に「他人から見られる自分」を意識させる
星白閑は、長道が上層へ出てから関係を作る重要人物です。
長道はそれまで、祖父との閉じた生活が中心でした。
同年代の相手と話し、自分がどう見られるかを意識する経験そのものが新しい。
だから星白との距離は、恋愛要素だけではありません。
長道が「シドニアの一員」として他人との関係へ入っていく変化を、もっとも分かりやすく見せる役でもあります。
巨大建築を細かく説明しないから、「分からなさ」まで世界観になる
弐瓶勉の漫画では、建築物や機械が大きく画面を占めます。
『シドニアの騎士』1巻でも、船内の構造や衛人の機械的な形を、すべて言葉で説明しません。
長道が巨大な空間へ放り込まれることで、読者も「この社会の全体像をまだ把握できていない」という感覚を持ちます。
狭い生活圏から広大な船内、さらに宇宙空間へ視界が開く。
主人公の行動範囲が広がるほど、世界の大きさも絵で更新されていきます。
SF設定を「人間とは何か」という一文にまとめすぎない
シドニアでは、長い宇宙生活に適応した身体や制度が存在します。
こうした設定から大きな思想テーマを読み取ることはできます。
ただ1巻では、まず長道が「自分の知らない人間社会」としてそれらへ触れていく段階です。
ここで早くから「人間性の喪失」「文明の代償」と結論づけるより、何が長道にとって普通で、何がシドニア側にとって普通なのか、そのずれを見る方が1巻の読み方として具体的です。
弱点|固有用語が多く、1巻だけでは世界の全体像をつかみにくい
1巻から「奇居子」「衛人」「継衛」など独自の用語が続きます。
シドニアの社会制度や長道の出自についても、すべてが最初から説明されるわけではありません。
設定を完全に理解してから話へ入りたい人には、かなり不親切に感じるでしょう。
また弐瓶勉の絵は建築や機械に強い存在感がある一方、人物の感情を長い台詞で説明するタイプではありません。
長道が何を感じているかを、表情や行動から拾う場面も多くあります。
この説明の少なさを「分からない世界へ入る感覚」として楽しめるかどうかで、序盤の印象はかなり変わります。
原作は全15巻で完結。アニメ版も2021年の映画で完結
原作『シドニアの騎士』は全15巻で完結しています。現在は全7巻の新装版も刊行されています。
アニメはTVシリーズ第1期、第2期『第九惑星戦役』を経て、2021年6月4日公開の映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』で完結しました。
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まとめ|長道を「社会の外」で育てたから、シドニアそのものが物語になる
『シドニアの騎士』1巻の長道は、シドニアの住人なのにシドニアを知りません。
だから上層へ出た瞬間から、日常の制度、人間関係、訓練学校まで、ほとんどすべてが新しい。
一方で、衛人だけは長年の訓練によって扱える。
社会では初心者、操縦では経験者。
このずれがあるから、長道は読者と一緒に世界を学びながら、物語の中心へすぐ入ることができます。
1巻は「人類最後の戦い」を説明する巻ではありません。
最下層に閉じていた一人の少年をシドニア社会へ放り込み、その少年の視界が広がる順番で、巨大な世界を見せる巻です。
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シドニア最下層で育った谷風長道が、初めて上層社会へ出て衛人操縦士訓練学校へ入り、継衛に乗ることになる第1巻。
価格・在庫・版の違いなどは変動します。新装版も刊行されていますので、購入時は各ショップで版を確認してください。
書誌情報
- 作品:『シドニアの騎士』1巻
- 著者:弐瓶勉
- 出版社:講談社
- レーベル:アフタヌーンKC
- 発売日:2009年9月23日
- 判型:B6判
- ページ数:180ページ
- 定価:770円(税込)
- ISBN:9784063145977
書誌・作品概要は講談社公式、アニメ完結情報は映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』公式サイトを基準に確認しています。