『イジメの時間』は、くにろうによるダークヒューマンドラマです。主人公は中学生の天童歩。半年前までは普通の学校生活を送っていた少年が、身に覚えのない疑いをきっかけに少しずつ追い詰められていきます。
1巻で強く残るのは、最初から大事件が起きる怖さではありません。「これくらいなら我慢できる」「言い返せばもっと悪くなる」と小さな譲歩を重ねるうちに、歩の逃げ道が狭くなっていく過程です。題材は重いですが、作品が描こうとしているのは単純な勧善懲悪ではなく、被害と加害、その後の復讐まで連鎖していく人間関係です。
『イジメの時間』1巻の基本情報
- 作品名:『イジメの時間』
- 作者:くにろう
- 掲載:マンガボックス
- 紙コミックス出版社:双葉社
- 第1巻発売日:2019年10月11日
- 第1巻:176ページ
- ISBN:9784575853636
- シリーズ:全15巻完結
作品の出発点は商業連載ではありません。マンガボックス公式によると、2014年5月ごろに『マンガボックスインディーズ』へ投稿され、その後マンガボックス本誌のチャレンジ枠で連載が始まりました。本編は2019年に第134話で最終回を迎え、その後2020年には別の可能性を描く外伝『イジメの時間外伝 ~もうひとつの世界~』も始まっています。
1巻のあらすじ|始まりは“身に覚えのない疑い”
歩は、ごく普通の中学生でした。しかしクラスの不良生徒の筆箱を盗んだと疑われたことで状況が変わります。本人には身に覚えがありません。それでも相手は、その疑いを口実に歩へ要求を突きつけるようになります。
最初から全てを奪われるわけではありません。小さな要求に従わせ、反抗しにくい空気を作り、次の要求へ進む。1巻は、その積み重ねによって歩が「断る」という選択肢を失っていく過程を描いています。
怖いのは、いじめが段階的に強くなること
本作の1巻が重く感じられる理由の一つは、状況が一気に悪化するのではなく、少しずつ境界線がずらされていくことです。
歩自身も、早い段階では「大ごとにするほどではない」と受け止められる余地があります。ところが一度要求に応じると、それが次の要求を断りにくくする材料になる。この繰り返しによって、本人の中でも「どこから助けを求めればよかったのか」が曖昧になっていきます。
いじめを題材にした作品の中には、加害側を極端な悪役として配置するものもあります。『イジメの時間』はそれだけではなく、関係が固定されていく過程そのものを長く見せるため、読者にとっても逃げ場のなさを感じやすい構成です。
“傍観者がいる空間”まで含めて描く
1巻で重要なのは、歩と加害側だけを切り取っていない点です。教室には他の生徒がいて、周囲の反応があります。
直接手を出していない人物でも、空気を読んで距離を取る、見えていても深入りしない。こうした周囲の態度が、結果として歩を孤立させていきます。本作の息苦しさは、暴力的な場面そのものより、「誰かがいるのに止まらない」状況から生まれている部分が大きいです。
ネット発作品らしい、整いすぎていない描写
作者のくにろうは、マンガボックス公式インタビューで、最初はインディーズ作品だったこともあり、定石とは違う表現を意識していたと話しています。セリフ文字を歪ませたり、音の表現に独特の違和感を残したりするのもその一例です。
そのため、画面が常に洗練されているタイプの漫画ではありません。ただ、その粗さが場面によっては人物の焦りや居心地の悪さにつながっています。商業漫画として整えられすぎていない感触を、欠点と見るか、生々しさと見るかで評価は分かれるでしょう。
1巻だけでは“復讐漫画”の全体像はまだ見えない
『イジメの時間』はシリーズ全体では「いじめと復讐による連鎖と葛藤」を描く作品です。ただし、1巻だけを読む段階では、復讐そのものより「歩がなぜそこまで追い込まれたのか」を積み上げる比重が高くなっています。
そのため、最初から強い反撃や逆転を期待すると、かなり重く感じるかもしれません。1巻は後の展開のための被害描写を担う巻であり、歩の立場が変わっていくのはさらに先です。
読む前に知っておきたいこと
題材上、いじめ、暴力、追い詰められた心理状態、自傷を想起させる場面などが描かれます。気軽な学園ドラマではありません。こうした内容が負担になりやすい場合は、読むタイミングを選んだ方がよい作品です。
公式紹介動画
総評|1巻の怖さは“大きな事件”より逃げ道が消えていく過程
『イジメの時間』1巻は、派手な逆転劇で読ませる巻ではありません。普通の中学生だった歩が、身に覚えのない疑いを入口にして、少しずつ拒否しにくい立場へ追い込まれていく。その過程を長く描くことが、この巻の役割です。
重い題材のため読み手は選びますが、被害者・加害者だけではなく、その周囲の空気まで含めて人間関係の崩れ方を描く点には、この作品ならではの強さがあります。シリーズ全体では復讐とその連鎖へ進むため、1巻はその出発点として読むべき一冊です。
過去の加害と、その後に人がどう向き合うのかを扱った作品では、『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』1巻レビューも公開しています。