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『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』FDS版レビュー|原作は今遊んでも面白い?Switch版との違い

『消えた後継者』FDS版レビュー|Switch版との違い・前編後編・今遊ぶ方法

1988年にファミリーコンピュータ ディスクシステムで発売された『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』。

シリーズ第1作ですが、最初から一本のソフトとして発売されたわけではありません。

前編は1988年4月27日、後編は6月14日。

約1か月半を空けた二部構成で、前編をクリアすることで後編へ進める作りでした。後年のバーチャルコンソールなどでは「前後編」として一本にまとめられていますが、1988年当時の姿を知るうえでは外せない特徴です。

ゲームは殺人事件の犯人を自由入力して当てるタイプではありません。

人に話を聞く。

気になる場所を調べる。

別の場所へ移動する。

得た情報をもとにもう一度質問する。

ときには「すいりする」「おもいだす」を選ぶ。

そうして事件の輪郭を少しずつ組み立てていく、コマンド選択式のミステリーアドベンチャーです。

古い形式ゆえの回りくどさはあります。

それでも、音楽が突然止まる瞬間や文字がゆっくり送られる場面まで使って「次に何が起こるのか分からない」空気を作る演出は、現在遊んでも本作の強い部分です。

『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』の基本情報

項目内容
タイトルファミコン探偵倶楽部 消えた後継者
ハードファミリーコンピュータ ディスクシステム
ジャンルアドベンチャー
発売元任天堂
前編発売日1988年4月27日
後編発売日1988年6月14日
プレイ人数1人
主人公17歳の空木探偵事務所助手
構成前編・後編の二部構成
セーブディスクへの保存
基本操作コマンド選択式

任天堂の現在の公式ページも、タイトルを『消えた後継者(前編・後編)』として扱い、前編と後編それぞれの発売日を記録しています。

草むらで目覚めた主人公は、自分の名前すら思い出せない

物語の始まりは海上の崖。

主人公は崖から滑り落ち、途中の草むらで気を失っていたところを天地という男に助けられます。

ところが目を覚ました主人公には記憶がありません。

自分が誰なのか。

何をしていたのか。

自分の名前さえ思い出せない。

やがて橘あゆみという17歳の少女と出会い、自分が空木俊介探偵事務所で働く探偵助手だったことを知ります。さらに残された「明神村 綾城」というメモから、記憶を失う前に何を調べていたのかが見えてきます。

舞台となる明神村で亡くなったのは、綾城財閥の当主・綾城キク。

78歳で心不全とされていますが、その死に疑問を抱いた執事の田辺善蔵が調査を依頼していました。

綾城家には莫大な財産が残され、相続に関係する複数の人物がいる。

さらに村には、綾城家の財産を狙う者が現れると死者が墓から蘇るという不気味な言い伝えまで残されています。

ここから、

キクの死に何があったのか。
消えた後継者はどこにいるのか。
主人公自身はなぜ記憶を失ったのか。

という複数の疑問を追うことになります。

本作について「女子高校生の不審死を調べるゲーム」と紹介されることがありますが、それは次作『PART II うしろに立つ少女』の事件です。

『消えた後継者』で調べる中心事件は、綾城家当主の死と後継者の行方です。

主人公には名前を付けられる

主人公は公式資料で固有名ではなく「主人公」と表記されています。

ただし、ゲーム内でも最初から最後まで名前のない人物というわけではありません。

物語序盤で記憶を取り戻していく途中、プレイヤー自身が主人公の名字と名前を入力します。姓・名はそれぞれ4文字まで設定できます。

「名前を持たない主人公だからプレイヤーと完全に一体化する」という作品ではなく、記憶を失った主人公へプレイヤーが名前を与えて調査を進める形式です。

記憶喪失そのものについても、後年になって制作経緯が明らかになっています。

坂本賀勇氏によれば、主人公を記憶喪失にする案は、当時開発に参加していた外部開発会社側から提示されたものでした。

結果としてプレイヤーと主人公が同じように状況を知らない状態から始まるため導入としてよく機能していますが、それを最初から「プレイヤーとの一体化」を目的に坂本氏が設計したものとして語るのは違います。

実際に何をする?10種類のコマンドで事件を調べる

原作FDS版で使われる主なコマンドは次の10種類です。

コマンド内容
ばしょいどう別の場所へ移動
よぶ人物を呼ぶ
きく相手へ質問する/周囲の音を聞く
しらべる人物や場所を調べる
とる対象物を取る
あける対象物を開ける
みせる所持品を相手へ見せる
すいりする集めた情報から推理する
おもいだす主人公が何かを思い出す
そうさやめるセーブして捜査を中断

任天堂が公開している原作ページでも、このコマンド体系が当時の説明書をもとにそのまま掲載されています。

基本となるのは「きく」と「しらべる」です。

誰に何を尋ねるか。

画面のどこを見るか。

新しい名前を聞いたら、その人物について再び質問する。

情報が増えたところで「すいりする」「おもいだす」を試す。

こうして次の情報や移動先を開いていきます。

事件を自由に推理して犯人名を入力するゲームとは違います。

用意されたコマンドの中から、今必要な調査行動を見つけること自体がゲームになっています。

「推理できた」だけでは先へ進めない

現在遊ぶと、もっとも古さを感じやすいのもこの部分でしょう。

プレイヤー自身が「たぶん、この人物に聞けばいい」と分かっていても、ゲーム側で必要な情報フラグが揃っていなければ話は進みません。

任天堂自身も攻略のヒントとして、

  • 同じ人物に何度も同じことを聞く
  • 新しい情報を得たら一通りのコマンドを再確認する
  • ときどき「おもいだす」を使う
  • 探偵事務所へ戻ってあゆみと情報を整理する

ことを案内しています。

ここを「選択によって物語が大きく変化する」と説明すると、本作のゲーム性を取り違えてしまいます。

大きな物語を自由に分岐させるというより、一本の事件を追いながら、正しい調査行動を積み重ねて進行条件を満たしていくタイプです。

「必要なコマンドをまだ選んでいないから進まない」ことと、「選択によって別のストーリーへ分岐した」ことは別です。

『消えた後継者』では前者の比重が大きくなっています。

それでも、情報がつながる瞬間には探偵ものらしい手応えがある

コマンド総当たりだけを考えれば、現在ではかなり古いシステムです。

しかし、ゲームのすべてが当てずっぽうというわけでもありません。

ある人物から名前を聞く。

別の人物にその名前について尋ねる。

証言を持ち帰ってあゆみと整理する。

以前は意味の分からなかった話が、別の情報を得たあとに意味を持つ。

そうして人物関係が少しずつつながります。

明神村では綾城家の親族、執事、医師、住職など多くの人物から話を聞くことになり、同じ事件についても立場によって知っていることが違います。

プレイヤー自身が頭の中で「この人の話と、さっきの証言はつながるのではないか」と考える余地はある。

ただし、その推理を自由入力してショートカットすることはできません。

プレイヤーの推理と、ゲームを進めるためのフラグ探しが並行している。

この二つが噛み合ったときは気持ちよく、噛み合わないと「あと何を聞けばいいのか」とコマンドを繰り返すことになります。

「死人蘇り」の伝説が、普通の相続事件を不穏にする

物語の入口だけを見れば、財閥当主の死と遺産相続を調べるミステリーです。

そこへ明神村に残る「死人よみがえり」の伝説が重なります。

綾城家の財産を狙う者が現れれば、先祖が墓から蘇ってその者を殺す。

さらに村には土葬の風習が残っている。

捜査を進めていると、新しい事件も起き始める。

本当に怪異なのか。

人間が起こしている事件なのか。

そもそも主人公が失った記憶は何に関係しているのか。

ゲームは、この境界をすぐには答えてくれません。

怖さを怪物のグラフィックだけに任せず、話を聞くたびに状況が少し嫌な方向へ変わっていくのが『消えた後継者』らしいところです。

音楽を止める。文字を遅くする。それだけで空気が変わる

『消えた後継者』の演出については、坂本賀勇氏本人が2024年にかなり具体的な証言を残しています。

たとえば、ある場面で音楽を突然止める

緊迫した場面では文字を送るタイミングを意図的に遅らせる

映画が好きだった坂本氏は、こうした時間の使い方をアドベンチャーゲームへ取り入れていました。

これは現在でも分かりやすい演出です。

ずっと鳴っていた音が消えると、それだけで次の文章を待つ時間が長く感じる。

普段と同じ速度で出ていた文字がゆっくりになると、一文字ずつ読むことになる。

画面上で派手なアニメーションが起こらなくても、何かが起こる直前の時間そのものを引き延ばせるわけです。

「顔グラフィックを見れば嘘が分かる」といった特殊な推理システムがあるわけではありません。

文章、静止画、音楽、表示のタイミング。

使える材料は少なくても、その組み合わせで不安を作っています。

『ポートピア連続殺人事件』を遊んだことが制作の転機になった

シリーズ誕生の経緯も、現在は坂本氏本人の言葉でかなり具体的に分かっています。

出発点には、当時の任天堂社長・山内溥氏から開発第一部長の横井軍平氏へ渡された「ファミコン少年探偵団」という企画のお題がありました。

外部開発会社から案が提出されていましたが、坂本氏はその内容をゲームとして十分ではないと感じていたといいます。

そのころ坂本氏が遊んだのが、ファミコン版『ポートピア連続殺人事件』でした。

怪しい場所を調べて発見する。

電話番号を探す。

そうした行為まで「遊び」になることに面白さを感じ、横井氏へ、もっとしっかりしたアドベンチャーゲームを作ろうと提案します。

そこから坂本氏自身が制作へ踏み込みました。

『ファミコン探偵倶楽部』は坂本氏にとって、シナリオを書く仕事へ本格的に踏み込んだ最初の作品でもあります。

『ポートピア』と同じゲームを作ったわけではありません。

「怪しいところを調べる」「情報を探す」といった行為そのものがゲームになる。

そこに坂本氏が可能性を感じたことが、本人の証言から分かります。

任天堂だけで作られた作品ではない

『消えた後継者』を「任天堂開発第一部だけによる完全内製作品」と説明するのも正確ではありません。

坂本氏は開発当時に外部の開発会社が参加していたことを明言しています。記憶喪失という主人公設定も、その会社側から出された案でした。

後年の任天堂公式権利表記では『消えた後継者』にTOSE CO., LTD.の名前が入っています。

横井軍平氏は当時の開発第一部長として企画の経緯に関わり、坂本氏は物語と演出側へ深く参加しました。

一人の作者だけで完成した作品でも、R&D1だけですべてを作った作品でもありません。

音楽担当を「田中宏和氏」とだけ書くのは正確ではない

原作のスタッフロールでは、「おんがく」は「ひろみ」名義です。

一方で別に音楽監督側のクレジットがあり、田中宏和氏の名前が関連資料で挙げられることはありますが、「FC版の全楽曲を田中宏和氏が単独作曲した」とするのはスタッフロールと一致しません。

本作の音を語るうえで確実なのは、誰か一人の著名作曲家へ結びつけることより、坂本氏本人が音楽を止めるタイミングまで演出として調整していたことです。

前編・後編という1988年ならではの構成

『消えた後継者』は前編と後編の二部構成で、前編をクリアして初めて後編を遊べる設計でした。

後年のWiiバーチャルコンソール版では、この2本が一本にまとめられています。任天堂も当時、オリジナルがディスク2枚分で発売された作品だったと紹介しています。

セーブは「そうさやめる」から行います。

保存後に再開すると、主人公が助手を務める空木探偵事務所から捜査を続ける仕組みです。後年の3DS VC版マニュアルでも、原作由来のこのセーブ方法がそのまま説明されています。

現在のゲームのように任意の場所で瞬時にオートセーブする作品ではありません。

前後編という構成やディスクへの保存を含め、1988年のハード事情は現在遊ぶと明確に古さを感じる部分です。

現在ではコマンド総当たりが一番の壁になりやすい

ストーリーや雰囲気より先に古さを感じるのは、やはり進行方法です。

新しい証言を得た。

同じ人へもう一度聞く。

「しらべる」を使う。

もう一度「きく」。

「おもいだす」も試す。

必要なら事務所へ戻る。

正しい行動へたどり着けば話は進みますが、何が不足しているのか分からなくなると、候補となるコマンドを順番に試すことになります。任天堂の当時資料をもとにした攻略ヒントにも、この反復を前提にした説明があります。

推理が当たっているのに話が進まないこともある。

ここは現在のミステリーADVと比べると明確に不便です。

逆に、事件の筋そのものを追う楽しさは今でも理解しやすい。

「誰が何を知っているか」を聞き込みで埋め、少しずつ綾城家の関係が見えてくる構造は、インターフェースが古くなっても失われていません。

『うしろに立つ少女』は同じ事件の続きではない

翌1989年には第2作『ファミコン探偵倶楽部 PART II うしろに立つ少女』が発売されました。

発売順では2作目ですが、物語の時系列では『消えた後継者』より数年前の事件です。

こちらで扱われるのが、私立丑美津高校を舞台にした女子高校生殺人事件と「うしろの少女」の噂です。

つまり、

綾城家当主の死と消えた後継者
=『消えた後継者』

女子高校生殺人事件と学校の怪談
=『うしろに立つ少女』

です。

シリーズ作品ではありますが、事件そのものは混ぜて考えないほうが分かりやすいでしょう。

坂本氏は1作目を完成させたあと、今度はもっとゼロから自分の好きな世界を作りたいと思い、『うしろに立つ少女』へ進んだと振り返っています。

だからといって『消えた後継者』が未完成版という意味ではありません。

第1作で試した手法を経て、次に自分の好みをより強く出したという制作上の流れです。

2021年Switch版では何が変わった?

2021年5月14日には、『消えた後継者』と『うしろに立つ少女』がNintendo Switch向けにリメイクされました。

『消えた後継者』のダウンロード版は1作単体で販売され、希望小売価格は4,378円(税込)です。

原作との大きな違いは表現と遊びやすさです。

FDS版Nintendo Switch版
ドット絵中心現代向けに描き直したグラフィック
静止画主体キャラクターがアニメーション
ボイスなしフルボイス
原作のコマンドUI現代向けに刷新
手作業で情報整理「調査メモ」搭載
前編・後編一本の作品としてプレイ

Switch版でも「移動する」「聞く」「呼ぶ」「見る・調べる」など、コマンドを選んで情報を集める基本構造は受け継がれています。

特に大きいのが「調査メモ」です。

調べた現場や人物の情報をゲーム内で確認できるため、どこまで捜査したのかを把握しやすくなっています。

原作の面倒さまで忠実に再現した作品ではなく、同じ事件を現在のADVとして追いやすく作り直したリメイクです。

SwitchリメイクはMAGES.からの提案で始まった

2021年版が生まれた経緯も興味深いところです。

MAGES.の担当者が任天堂へリメイク企画を持ち込み、別件の打ち合わせでも企画書や映像資料を更新しながら提案を続けました。

その期間は1年以上。

やがて任天堂社内でも企画が動き始めます。

坂本氏が決断する大きなきっかけになったのが、MAGES.が制作したデモでした。

そこではキャラクターがアニメーションし、物語がフルボイスで展開されていました。

FDS版ではできなかった表現を見て、坂本氏は「新しいファミコン探偵倶楽部」が作れる可能性を感じたと振り返っています。

原作の不足を否定するためのリメイクではなく、30年以上後の技術で同じシリーズをもう一度表現する試みでした。

そして2024年、『笑み男』で完全新作へ

シリーズは2021年のリメイクで終わりませんでした。

2024年8月29日には『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』がNintendo Switchで発売されています。

任天堂が「35年ぶりのシリーズ完全新作」と案内した作品です。

坂本氏は、MAGES.と2021年版を作ったことでシリーズに新しい可能性を感じ、再び新しいものを作りたいという気持ちが生まれた経緯も語っています。

1988年に始まった作品がいったん長い空白期間へ入り、2021年のリメイクを経て、2024年に完全新作へつながった。

『消えた後継者』は、過去だけで完結したシリーズの第1作ではなくなっています。

2026年現在、遊ぶならどの版がいい?

2026年8月現在、最も手軽なのは2021年Nintendo Switch版です。

Nintendo Storeでは現在もダウンロード版が販売されており、価格は4,378円(税込)。Nintendo Storeの商品情報ではNintendo Switch 2からの利用も案内されています。

一方、1988年FDS版そのものを遊ぶなら事情が違います。

原作はこれまで、

  • 2004年のゲームボーイアドバンス「ファミコンミニ」
  • Wii バーチャルコンソール
  • ニンテンドー3DS バーチャルコンソール
  • Wii U バーチャルコンソール

などでも復刻されてきました。任天堂の原作ページにも、Famicom/GBA/Wii/3DS/Wii Uで展開された履歴が残っています。

ただし、これらの旧バーチャルコンソールは現在新規購入するための現行ストアではありません。

現在普通に購入できるのは2021年のリメイク版であり、1988年FDS版そのものがNintendo Switch向けに配信されているわけではありません。

原作のコマンド進行やドット絵、FDS時代の演出まで体験したいなら実機・過去復刻。

ストーリーを現在の環境で遊びやすく追いたいならSwitchリメイク。

目的によって選ぶのがいいでしょう。

まとめ|怖さを作っているのは、怪談だけではない

『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』でプレイヤーが繰り返すのは、派手な推理アクションではありません。

人に聞く。

場所を調べる。

新しい人物についてまた聞く。

事務所へ戻って整理する。

何か思い出せないか試す。

その積み重ねで、綾城家の人物関係と事件が少しずつつながっていきます。

一方で、必要なコマンドを見つけられなければ先へ進まないため、現在遊ぶと総当たり的な古さもはっきり感じます。

それでも物語が動く場面では、急に音楽が消える。

文字がゆっくり出る。

死人蘇りの話が、ただの昔話では済まなくなってくる。

次の文章を読む前の数秒まで緊張へ変えるところに、このゲームの強さがあります。

後世のすべてのノベルゲームの原点だと持ち上げる必要はありません。

1988年の『消えた後継者』自身に、

聞き込みを重ねる楽しさと、次に何が起こるか分からない怖さがある。

そこだけで、今あらためて振り返る理由は十分にあります。

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