- 千本桜はなぜ有名?本家は誰?初音ミク曲がカラオケ・紅白まで広がった歴史
- 『千本桜』は誰の曲?本家は和楽器バンドではない
- 2011年9月17日、ニコニコ動画から始まった
- 投稿から約2日で「他人の曲」にもなり始めた
- 2012年、『千本桜』はすでにネットの外へ出ていた
- 2013年3月、一曲が「作品世界」へ変わっていく
- 初音ミクが歌わなくても『千本桜』だった
- 和楽器バンド版は「本家」ではない。それでも巨大な入口になった
- 2015年、初音ミクと小林幸子が地上波へ
- では、2015年に「第二次ブーム」が起きたのか
- 総合ランキングから消えても、『千本桜』そのものは消えなかった
- 10周年アルバムは「全部、千本桜」だった
- 2025年、オリジナル制作陣がもう一度MVを作った
- 2026年にも「千本桜」の新しい入口がある
- 『千本桜』を知った入口は、世代によって違う
- 他のボカロ名曲と比べても「唯一」とまでは言えない
- 『千本桜』は、なぜここまで残ったのか
- まとめ|一つの姿に固定されなかったから、終わりも一つではなかった
千本桜はなぜ有名?本家は誰?初音ミク曲がカラオケ・紅白まで広がった歴史

2011年9月17日、ニコニコ動画に一曲のVOCALOID楽曲が投稿されました。
黒うさPによる『千本桜』です。
それから約15年。曲は過去のヒット曲として消えるどころか、2026年9月現在もJOYSOUNDのボカロ週間ランキングで上位に入っています。2025年には新しい公式MVが作られ、2026年には2015年発売の「ねんどろいど 初音ミク 千本桜Ver.」が再販され、「千本桜の世界展」も再び開催されました。
なぜ、ここまで残ったのでしょうか。
よく語られるのは「和楽器バンドのカバーで有名になった」「初音ミクの代表曲だったから」といった説明です。しかし、時系列を追うと話はもう少し複雑です。
『千本桜』は、和楽器バンド版が登場する2年前の2012年に、すでにJOYSOUND年間カラオケ総合ランキング3位まで上がっていました。
その後もゲーム、小説、舞台、ピアノ、テレビCM、和楽器バンド、小林幸子、地上波音楽番組、NHK紅白歌合戦へと場所を変え続けます。
一つの巨大なブームが15年続いた、というよりも、別の人が歌い、別の人が弾き、別のメディアへ移るたびに、新しい入口が増えていった曲だったのではないか。
2011年まで戻り、その道のりを順番に追ってみます。
『千本桜』は誰の曲?本家は和楽器バンドではない
最初に、現在でも混同されやすい「誰の曲なのか」を整理しておきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 楽曲 | 千本桜 |
| オリジナル公開日 | 2011年9月17日 |
| 作詞・作曲 | 黒うさP |
| 歌唱音源 | 初音ミク |
| イラスト | 一斗まる |
| 動画 | 三重の人 |
| ギター | hajime |
| オリジナル公開先 | ニコニコ動画 |
つまり、作詞・作曲者は黒うさPです。初音ミクは歌唱に使用されたバーチャル・シンガーであり、「初音ミクが作った曲」という意味ではありません。
一方で、長年にわたって初音ミクのライブやゲーム、カラオケなどで親しまれてきたため、「初音ミクの代表曲の一つ」と呼ぶことには十分な背景があります。
もう一つ紛らわしいのが「WhiteFlame」です。
WhiteFlame公式プロフィールでは、WhiteFlameは2004年に発足したゲーム・音楽などの制作サークルと説明されています。黒うさPはそこで音楽全般を担当するサウンドクリエイターです。
そのため資料によって「黒うさP」「WhiteFlame」「WhiteFlame feat.初音ミク」と表記が変わりますが、WhiteFlameを単純に黒うさP個人の別名と考えるより、制作母体と黒うさPの関係として見た方が正確です。
『千本桜』以前から黒うさPは知られた制作者だった
『千本桜』だけが突然現れたわけでもありません。
黒うさPはそれ以前から『カンタレラ』『紅一葉』『ACUTE』などのVOCALOID楽曲を発表していました。WhiteFlame公式もこれらを代表的な作品として挙げています。
2011年の時点で、すでにVOCALOID界隈で実績を持った制作者が、一斗まる、三重の人らと組んで作った作品。それが『千本桜』の出発点でした。
2011年9月17日、ニコニコ動画から始まった
『千本桜』のオリジナルは2011年9月17日、ニコニコ動画へ投稿されました。
ここは現在のYouTube再生数から逆算すると間違えやすいところです。現在YouTubeにあるWhiteFlame公式の『千本桜』も正規の動画ですが、2011年の原点はYouTubeではなくニコニコ動画です。
現在公式YouTubeで公開されているオリジナルMVも、当時の映像を確認する入口として見ることができます。
桜、大正浪漫を思わせる衣装、軍服風のデザイン、近代と未来が入り交じった言葉。
音だけではなく、一斗まるのイラストと三重の人の映像を含めた「動画」として世界が提示されていたことも大きな特徴です。
ただし、後に小説で描かれた「帝都桜京」や「初音未來」といった詳細な物語設定まで、すべて2011年の原曲MVに最初から存在していたと考えるのは危険です。原曲のビジュアルと、後から拡張された小説版の設定は分けて見る必要があります。
歌詞を特定の政治・戦争メッセージと断定する根拠はない
『千本桜』の歌詞には、大正浪漫を思わせる言葉だけでなく、光線銃やICBMなど時代の異なる語彙が同居しています。
このためネット上では「戦争を描いた曲」「反戦歌」「特定の歴史事件を表した曲」など、さまざまな解釈が語られてきました。
ただ、黒うさP自身の説明と、後から生まれたファンの考察は分けた方がいいでしょう。
2015年のBillboard JAPANのインタビューで黒うさPは、大正浪漫的な「ジャパン」というイメージがあり、自身では応援歌のようなものとして作っていたと振り返っています。また曲自体は東日本大震災以前から作っており、歌詞を書き上げたのは震災後だったとも説明しています。
少なくとも確認できる制作側の発言から、特定の戦争や政治的主張を描いた歌だと断定することはできません。
投稿から約2日で「他人の曲」にもなり始めた
『千本桜』の歴史で早くから起きていたのが、二次創作です。
黒うさPは2015年のインタビューで、投稿から2日ほどで「歌ってみた」動画が大量に現れていたと振り返っています。
作曲者本人が予想していた展開ではありませんでした。
原曲を聴く人が増えるだけではなく、「自分も歌う」「自分も弾く」「自分の映像を作る」という人が現れる。『千本桜』は公開直後から、完成した一つの音源だけを消費する曲ではなくなっていきました。
この現象は『千本桜』だけに起きたものではありません。2010年前後のニコニコ動画では、原曲から「歌ってみた」「演奏してみた」「踊ってみた」「描いてみた」などへ枝分かれしていくこと自体が文化になっていました。
当時の空気については、つぶログの「ニコニコ動画文化はなぜ特別だったのか?」でも詳しく振り返っています。
ただ、『千本桜』の場合は、この二次創作の連鎖が後の商業展開まで途切れずにつながっていきます。
2012年、『千本桜』はすでにネットの外へ出ていた
ここが今回、時系列を追って最も誤解しやすかったところです。
『千本桜』が一般にも知られるようになった転機として、2014年の和楽器バンドや2015年の小林幸子を思い浮かべる人は多いかもしれません。
ところが、その説明では遅すぎます。
JOYSOUNDの2012年年間カラオケ総合ランキングで、『千本桜』は3位でした。
| JOYSOUND年間ランキング | 総合順位 | 補足 |
|---|---|---|
| 2012年 | 3位 | 1位「ヘビーローテーション」、2位「女々しくて」に続く |
| 2013年 | 3位 | 「残酷な天使のテーゼ」などと同じ総合上位 |
| 2014年 | 3位 | 「Let It Go」「恋するフォーチュンクッキー」に続く |
| 2015年 | 9位 | VOCALOID部門では4年連続1位 |
| 2016年 | 11位 | VOCALOID部門1位 |
| 2017年 | 18位 | 総合TOP30を維持 |
2012年の3位という数字はかなり大きいものです。
同じランキングにはAKB48、ゴールデンボンバー、高橋洋子、ゆず、MONGOL800、GReeeeNなど、通常のJ-POPやアニメソングの定番曲が並んでいます。
しかも2013年、2014年も3位です。
つまり『千本桜』を「ニコニコ動画の中だけで流行していた曲」とするのは無理があります。投稿翌年には、カラオケという別の場所で非常に大きな存在になっていました。
和楽器バンドが初めて一般層へ届けた、という説明も成立しません。
和楽器バンド版が公開される前から、すでにカラオケでは年間総合3位を2年続けていたからです。
2013年3月、一曲が「作品世界」へ変わっていく
カラオケの次に起きた変化を追うと、2013年3月が妙に濃いことに気づきます。
ゲームで「聴く曲」から「遊ぶ曲」へ
2013年3月7日に発売されたPlayStation 3用『初音ミク -Project DIVA- F』には、『千本桜』が収録されました。
セガの公式楽曲一覧にも「千本桜」が掲載され、同月にはアーケード版『初音ミク Project DIVA Arcade』にも加わっています。
ここで『千本桜』との接点は、動画を見る、カラオケで歌うだけではなくなります。
音に合わせてボタンを押し、映像を見ながら何度もプレイする曲になりました。
その後も『Project DIVA』シリーズで扱われ、『Future Tone』などへつながっていきます。ゲーム収録のすべてを並べる必要はありませんが、「動画で見る曲」が「自分で遊ぶ曲」に変わったことは、長く接点を持ち続けるうえで無視できません。
3月9日には小説『千本桜』が発売
そのわずか2日後、2013年3月9日にはKADOKAWAから小説『千本桜』が発売されました。
原作は黒うさP/WhiteFlame。著者・イラストは、原曲のビジュアルを担当した一斗まるです。
KADOKAWAは発売時、この作品を「新たなるストーリー」と紹介していました。
数分間の楽曲とPVから、登場人物や場所、物語を持った作品世界へ。
曲が売れたからCDが出た、というだけではありません。『千本桜』という名前とビジュアル自体が、音楽以外でも作品として成立し始めています。
さらに4日後、舞台になる
2013年3月13日から24日まで、銀座・博品館劇場ではニコニコミュージカル第10弾「音楽劇 千本桜」が上演されました。
原作は黒うさP/一斗まる。加藤和樹、石田晴香、富田麻帆、市川美織ら人間の俳優が出演し、ニコニコ生放送でも公演が配信されています。
整理すると、2013年3月だけでも、
| 日付 | 展開 | 変わったこと |
|---|---|---|
| 3月7日 | 『初音ミク -Project DIVA- F』 | 遊ぶ |
| 3月9日 | 小説『千本桜』 | 読む |
| 3月13日~24日 | 音楽劇『千本桜』 | 人間が舞台で演じる |
という変化が起きています。
2011年の動画から1年半ほどです。
『千本桜』が長く残った理由を考えるとき、この時期はかなり大きな分岐点だったと考えられます。
初音ミクが歌わなくても『千本桜』だった
もう一つ、大きく性質を変えたのがピアノです。
ピアニストのまらしぃは『千本桜』をピアノで演奏し、その演奏は後にトヨタ「AQUA」のテレビCMへ使われました。
まらしぃ自身の公式プロフィールでも、2013年のトヨタAQUAでのCM演奏を、その後の企業CMなどへつながる大きな出来事として紹介しています。
ここで流れた『千本桜』は、初音ミクの原曲音源そのものではありません。
ピアノです。
初音ミクの歌声も、原曲MVのキャラクターも出てこない。それでもメロディーだけで『千本桜』として成立しました。
これは曲の寿命を考えるうえで面白い変化です。
VOCALOIDを普段聴かない人でも、テレビを見ていればピアノ曲として耳にする可能性が生まれたからです。
ただし、「このCMによって初めて一般層へ広まった」とは言えません。すでに2012年のカラオケ総合ランキングで3位です。
CMは最初の一般化ではなく、それまでとは違う経路を追加したと見る方が時系列に合っています。
和楽器バンド版は「本家」ではない。それでも巨大な入口になった
2014年になると、現在でも『千本桜』と強く結び付けて記憶されている別の演奏が登場します。
和楽器バンド版です。
和楽器バンドは2013年3月4日に結成。2014年4月23日にアルバム『ボカロ三昧』でメジャーデビューしました。
その前の2014年1月31日に公開された『千本桜』のミュージックビデオは、和太鼓、尺八、箏、津軽三味線とロックバンドの音を組み合わせた編成で、原曲とはまったく違う姿を見せます。
この動画は長期にわたって再生され、和楽器バンドにとっても代表的なレパートリーの一つになりました。
ここから初めて『千本桜』を知った人も当然いるでしょう。
ただし、本家が和楽器バンドに変わったわけではありません。
原曲は黒うさP作詞・作曲、WhiteFlame feat.初音ミクによる『千本桜』。和楽器バンド版はそのカバーです。
それでも興味深いのは、本家とは別の演奏が、それ自体で非常に大きな入口になったことです。
通常ならカバーを聴いた人が原曲へ向かいます。しかし『千本桜』では、原曲を知らずに和楽器バンド版から曲を覚え、その後で初音ミク版の存在を知った人も生まれました。
曲の入口が一方向ではなくなっていきます。
2015年、初音ミクと小林幸子が地上波へ
2015年になると、『千本桜』はさらに別の場所へ現れます。
初音ミク自身が『ミュージックステーション』へ
2015年9月23日、テレビ朝日系『MUSIC STATION ウルトラFES』の公式出演ラインアップには、「初音ミク/千本桜」が掲載されています。
2011年には動画投稿サイトで広がったバーチャル・シンガーと楽曲が、4年後には全国ネットの大型音楽番組へ登場しました。
この間に初音ミクそのものの知名度も大きく変化しています。
そして大晦日、小林幸子がNHK紅白で歌う
2015年12月31日の第66回NHK紅白歌合戦では、小林幸子が『千本桜』を歌いました。
ただし、ここは表現に注意が必要です。
小林幸子はこの年、通常の紅組出場歌手として選ばれたのではなく、「ザッツ、日本!ザッツ、紅白!」の特別企画として登場しています。
そのため「『千本桜』で紅白に通常出場した」と書くより、「紅白の特別企画で『千本桜』を披露した」とするのが正確です。
演出にはニコニコ生放送との連動も入りました。ドワンゴは翌2016年、紅白で小林幸子が『千本桜』を歌い、背後にニコニコ生放送のコメントが流れる特別衣装を披露したことを紹介しています。
2011年。
ニコニコ動画へ投稿された初音ミクのオリジナル曲。
2015年。
NHK紅白歌合戦のステージで、大御所演歌歌手の小林幸子が歌う。
この間はわずか4年です。
では、2015年に「第二次ブーム」が起きたのか
和楽器バンド、まらしぃ、小林幸子、地上波、紅白。
こう並べると、「2014~2015年に『千本桜』がもう一度大ブレイクした」と書きたくなります。
しかし、カラオケの数字を見ると少し違います。
JOYSOUNDの年間総合順位は、
2012年3位 → 2013年3位 → 2014年3位 → 2015年9位 → 2016年11位 → 2017年18位
と推移しました。
2015年にカラオケ人気がもう一度上向いたわけではありません。
むしろ、最初の巨大なピークは2012~2014年にあり、その後は緩やかに順位を落としていったと見るべきです。
ところが同じ時期に、曲に触れる経路は増えています。
ピアノで知る人。
和楽器バンドで知る人。
小林幸子で知る人。
テレビ番組で初音ミクを初めて見る人。
紅白で初めて曲名を知る人。
だから2014~2015年を表すなら、「第二次ブーム」というより、別ルートからの再拡張と考える方が実態に近そうです。
黒うさP自身も2015年のインタビューで、和楽器バンドや小林幸子らが歌ったことで、さらに創作の輪が広がったという趣旨の話をしています。
総合ランキングから消えても、『千本桜』そのものは消えなかった
ヒット曲は、いつか年間総合ランキングから下がります。
『千本桜』も例外ではありません。
2017年にはJOYSOUND年間総合18位。やがて総合TOP30からは外れました。
ここだけを見れば、2010年代前半に流行した一曲が通常のヒット曲と同じように落ち着いた、とも見えます。
ところがVOCALOIDランキングを見ると様子が違います。
| 年 | JOYSOUND VOCALOID/ボカロ年間順位 |
|---|---|
| 2015年 | 1位 |
| 2016年 | 1位 |
| 2017年 | 1位 |
| 2018年 | 2位 |
| 2019年 | 4位 |
| 2020年 | 3位 |
| 2021年 | 6位 |
| 2022年 | 6位 |
| 2023年 | 4位 |
| 2024年 | 4位 |
| 2025年 | 5位 |
2018年、JOYSOUNDは『千本桜』についてはっきり「カラオケ定番曲」と表現しています。
新しいVOCALOID楽曲が毎年大量に生まれている中で、2011年の曲が2025年にも年間5位です。
さらに2026年9月21日~27日のJOYSOUNDボカロ週間ランキングでは、
1位「シャルル」、2位「少女レイ」、3位「千本桜」
でした。
投稿から15年が経過した2026年の週間ランキングでも3位です。
これは「15年間ずっと同じ勢いで大ヒットしていた」という意味ではありません。
むしろ逆です。
巨大ヒットのピークを終えたあと、定番曲として残った。
この変化こそ、『千本桜』の長寿を考えるうえで重要です。
10周年アルバムは「全部、千本桜」だった
その特徴が最も分かりやすい形になったのが、2021年の10周年です。
2021年12月29日、『10周年記念アルバム ALL THAT 千本桜!!!』が発売されました。
収録曲は16曲。
16曲すべて『千本桜』です。
WhiteFlame feat.初音ミクの原曲、小林幸子、まらしぃ、ヴァイオリニストの石川綾子、陸上自衛隊中央音楽隊、東京フィルハーモニー交響楽団、Poppin'Party、ニコニコ動画の歌い手、和楽器バンド、そして10周年盤のために録音されたAdo版まで入っています。
一曲だけでアルバムを16曲作れてしまう。
しかも同じ音源の別ミックスではなく、歌う人も楽器も編曲も違います。
これは、『千本桜』が10年間で何をしてきた曲なのかをそのまま示しているようにも見えます。
原曲を守り続けただけではない。
別の人が自分の演奏へ作り替え、その演奏からまた別の人が曲を知る。その繰り返しです。
WhiteFlame feat.初音ミクの原曲をはじめ、小林幸子、まらしぃ、和楽器バンド、東京フィル、Adoなど、多彩な『千本桜』を全16曲収録。ひとつの楽曲が10年間でどれほど違う姿へ広がったのかを、実際に聴き比べられる公式10周年アルバムです。
価格・在庫・仕様や版の違いなどは変動します。購入の際は各ショップの商品ページで最新情報をご確認ください。
2025年、オリジナル制作陣がもう一度MVを作った
10周年を迎えたことで、展開が終わったわけでもありません。
2025年7月には「千本桜公式チャンネル」から、『千本桜MV 2025年版 White Flame feat. 初音ミク』が公開されました。
作詞・作曲は黒うさP、イラストは一斗まる、動画は三重の人。
つまり、2011年の『千本桜』を形作った主要メンバーが再び名前を連ねています。
昔の動画がネット上に残っているだけなら、ここまで珍しくありません。
しかし『千本桜』では14年後に新しい公式MVそのものが作られています。
保存されている過去作ではなく、現在も再提示される作品になっています。
2026年にも「千本桜」の新しい入口がある
さらに2026年。
グッドスマイルカンパニーは「ねんどろいど 初音ミク 千本桜Ver.」を11年ぶりに再販しました。
これは原曲の初音ミク通常衣装ではなく、一斗まるがデザインした『千本桜』の「初音未來」を立体化した商品です。
ここでも、楽曲だけでなく2011年から育ってきたビジュアルと世界観が商品として生きています。
2026年9月22日・23日に新潟で開催された「初音ミク 夜空プログラム 2026」では、「千本桜の世界展」も実施されました。
さらに小説『千本桜』の世界観をもとにしたVR企画「初音 未來・靑音 海斗と巡る『大正百年帝都桜京』の世界」も用意されています。
ここまで来ると、2011年に投稿された「一曲」だけを見て現在の『千本桜』を説明するのは難しくなります。
曲、MV、キャラクター、ゲーム、小説、舞台、演奏、展示。
いくつもの形に分かれながら、同じ『千本桜』という名前へ戻ってきます。
『千本桜』を知った入口は、世代によって違う
ここまでを年代順に並べると、曲への入口が何度も入れ替わっていることが見えてきます。
| 時期 | 主な入口 |
|---|---|
| 2011年 | ニコニコ動画の原曲/歌ってみた・演奏してみたなど |
| 2012年 | カラオケ |
| 2013年 | 『Project DIVA』/小説/音楽劇/ピアノ |
| 2013~2014年 | トヨタAQUAのピアノCM |
| 2014年~ | 和楽器バンド |
| 2014~2015年 | 小林幸子 |
| 2015年 | 地上波音楽番組/NHK紅白歌合戦 |
| 2016年以降 | ゲーム/ライブ/カラオケ/各種カバー |
| 2021年 | 10周年企画・全16曲の記念アルバム |
| 2025年 | 2025年版公式MV |
| 2026年 | 再販商品/世界展/VR企画/現在のカラオケ |
2011年にニコニコ動画を見ていた人にとっては、「初音ミクの新曲」だったかもしれません。
別の人にとっては、友達がカラオケで歌っていた曲。
ピアノを弾く人なら、まらしぃ。
和楽器が好きなら、和楽器バンド。
小林幸子や紅白から知った人もいるでしょう。
その後の世代なら、『Project DIVA』や別のゲーム、YouTube、カラオケから最初に触れていても不思議ではありません。
同じ曲なのに、「最初に見た本家」が全員同じではなくなった。
これが『千本桜』の少し変わったところです。
他のボカロ名曲と比べても「唯一」とまでは言えない
もちろん、二次創作や長期人気は『千本桜』だけのものではありません。
『メルト』『みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』『ワールドイズマイン』『マトリョシカ』『ローリンガール』など、VOCALOID史には現在まで知られている巨大なヒット曲がいくつもあります。
『千本桜』を「史上初」「唯一」「最も有名なボカロ曲」と決めるには、何を基準にするのかを固定しなければ比較できません。
一方で『千本桜』には、カラオケ総合ランキング、小説、舞台、ゲーム、テレビCM、異なる大物歌手によるカバー、地上波、紅白、オーケストラ、商品、展覧会まで、一曲から伸びた枝の数が非常に多いという特徴があります。
しかも、それぞれが同じ客層へ向いた展開ではありません。
そこが長寿を考える手掛かりになります。
『千本桜』は、なぜここまで残ったのか
黒うさP本人は、『千本桜』がここまでヒットした理由について「これが原因だった」と一つに決めてはいません。
コード進行についても、いわゆる小室進行で分かりやすかった可能性に触れながら、それだけでは説明できないという趣旨の話をしています。
「和風だったから」「メロディーが良かったから」「初音ミクだったから」の一つだけで15年を説明するのも難しいでしょう。
今回、時系列を通して見えたのは別のことでした。
『千本桜』は、一つの巨大なヒットが15年間続いた曲ではありません。
2011年にはニコニコ動画。
そこから歌ってみた、演奏してみた。
2012年にはカラオケ。
2013年にはゲーム、小説、舞台。
ピアノになり、テレビCMで流れた。
和楽器バンドが別の姿にした。
小林幸子が歌った。
初音ミク自身が地上波の大型音楽番組へ出た。
紅白でも流れた。
10周年には16種類の『千本桜』だけでアルバムができた。
14年後には新しい公式MVが作られ、15年後にもカラオケで歌われ、フィギュアが再販され、展示イベントが開かれています。
人気が落ちるたびに同じ宣伝を繰り返したのではありません。
誰かが自分の表現へ作り替えるたびに、曲へ入る新しい扉ができた。
資料から追える範囲では、この構造こそ『千本桜』が長く残った大きな特徴だったと考えられます。
初音ミクを知らなくても曲を知っている人がいる。
本家より先に和楽器バンド版を知った人がいる。
ピアノ曲として聞いた人も、カラオケで覚えた人も、ゲームで何度も遊んだ人もいる。
そして最後にたどると、すべて2011年9月17日の一本の動画へ戻っていきます。
まとめ|一つの姿に固定されなかったから、終わりも一つではなかった
『千本桜』は黒うさPが作詞・作曲し、初音ミクを歌唱に使用して2011年9月17日にニコニコ動画へ投稿された楽曲です。本家は和楽器バンドではありません。
そして「和楽器バンドによって初めて一般に知られた」という説明も、数字を見ると違います。2012年の時点でJOYSOUND年間総合3位、2013年と2014年にも3位でした。
その後、総合ランキングの順位は下がりました。
それでも曲は消えず、ゲーム、小説、舞台、ピアノ、CM、和楽器バンド、小林幸子、テレビ、紅白などへ場所を移し、2025年には新しい公式MV、2026年にもイベントや商品展開が続いています。
2025年のJOYSOUND年間ボカロランキングでは5位。2026年9月21~27日の週間ランキングでも3位でした。
15年間ずっと同じ流行が続いていたわけではありません。
むしろ、同じ形のまま残らなかった。
歌う人も、楽器も、映像も、出会う場所も変わった。
一曲の完成形が一つしかなければ、その形のブームが終わったところで歴史も止まっていたかもしれません。
『千本桜』には、それがありませんでした。
誰かが歌えば、その人から知る人が現れる。誰かが弾けば、今度はその演奏が入口になる。
2011年の一曲が現在まで残った理由を一つだけ選ぶことはできません。
ただ、その15年近い歴史を見る限り、「一つの完成形に固定されなかったこと」は、『千本桜』をここまで遠くへ運んだ大きな特徴の一つだったと言えそうです。