- モンハン3はなぜPS3からWiiへ変更された?開発費説とPS3版の真相を検証
- まず結論|PS3からWiiへの変更は事実、「開発費」も当時のカプコン幹部が理由として語っていた
- 2006年5月9日、『モンスターハンター3』はPS3向けとして正式発表された
- 2007年10月10日、MH3はWiiへ向かった
- では、なぜPS3からWiiへ?「開発費説」には当時の発言があった
- 当時のWiiはPS3より売れていた。それでも「だからWiiにした」とは言い切れない
- もう一つの大変化|Wii移行時にはPSPのモンハンがすでに急成長していた
- 完成したMH3は「PS3版をWiiへ縮小移植したゲーム」には見えない
- 「Wiiリモコンを振って狩りたかったからWiiへ」は違う
- しかもMH3と同じ日に「クラシックコントローラPRO」が発売された
- オンラインでは「ロックラック」に集まり、最大4人で狩った
- Wii版MH3は売れたのか|初回100万本、世界190万本
- カプコン自身の評価は「計画を少し下回ったが、全体として悪くない」
- その後、モンハンはWiiに定着せず3DSへ向かった
- 『3G HD Ver.』はWii版MH3をHD化したゲームではない
- 2026年現在、2009年のWii版MH3そのものを遊ぶには?
- PS3では結局モンハンが一本も出なかった?
- ネットで語られる「PS3版MH3」の話を整理すると
- なぜMH3はハード史の中で妙な位置にいるのか
- まとめ|「開発費説」は本当だった。ただし、それだけでMH3の機種変更を説明すると足りない
- 主な参照資料
モンハン3はなぜPS3からWiiへ変更された?開発費説とPS3版の真相を検証

2006年5月9日、カプコンは『モンスターハンター』シリーズのナンバリング最新作を発表した。
タイトルは『モンスターハンター3(仮称)』。
対応機種は、まだ日本で発売される半年前だったPLAYSTATION 3だった。
ところが約1年5か月後の2007年10月10日、状況は一変する。
『モンスターハンター3(トライ)』はPS3ではなく、Wii向けとして開発されることが正式発表された。
そして2009年8月1日、実際にWiiで発売される。
この機種変更は、長い間さまざまな説明と一緒に語られてきた。
「PS3は開発費が高かったから」
「PS3が売れていなかったから」
「Wiiの方が圧倒的に普及していたから」
「完成間近だったPS3版を捨ててWiiへ移植した」
「任天堂がモンハンを引っ張ってきた」
このうち、意外にも「PS3の開発費が高かった」という説明には、当時のカプコン幹部による発言まで遡れる。
ただし、それだけですべてを説明すると、今度は別の部分がおかしくなる。
カプコンの公式発表には、Wiiの特性や幅広いユーザーへの訴求、ゲームに適したハードを選ぶという戦略も書かれている。開発者も後に、シリーズを一度「更地」にして作り直すタイミングとWiiの登場が重なったと振り返っている。
さらに、PS3版がどこまで作られていたのかは、現在確認できる資料だけでは分からない。
PS3からWiiへ変わったことは事実。
PS3の高い開発コストが変更理由として語られたことも事実。
しかし、そこから先に付け加えられてきた話には、事実と推測がかなり混ざっている。
今回は2006年のPS3版発表まで戻り、約20年の間に付着した説明を一つずつ剥がしていく。
まず結論|PS3からWiiへの変更は事実、「開発費」も当時のカプコン幹部が理由として語っていた
最初に、この記事で確認できたことを整理しておきたい。
| 疑問 | 確認できたこと |
|---|---|
| MH3は最初PS3向けだった? | 本当。2006年5月9日にカプコンがPS3向け『Monster Hunter 3(working title)』の開発決定を正式発表 |
| Wiiへ変更された? | 本当。2007年10月10日にWii向け開発決定を正式発表 |
| PS3の開発費が理由? | カプコン執行役員だった一井克彦氏が、PS3タイトルの高い開発コストを理由にMH3の発売プラットフォームを変更したと当時の通信社取材で説明している |
| それだけが理由? | そこまでは確認できない。カプコン公式発表はWiiの特性、幅広いユーザー、ゲーム内容に最適なハードへの投入も説明している |
| PS3版はかなり完成していた? | 確認できる証拠なし。2006年発表時は発売日・価格とも未定だった |
| PS3版をWiiへそのまま移植した? | 裏付ける一次資料を確認できない。Wii版開発陣はシリーズを一度「更地」にして作り直したと説明している |
| PS3が売れていなかったから? | 当時Wiiの方が普及していたことは事実だが、それを直接の変更理由とするカプコンの説明は確認できない |
| 任天堂が金を払って奪った? | そのような契約内容を裏付ける一次資料は確認できない |
つまり、「開発費説」は後年のネット上だけで生まれた話ではない。
一方で、「開発費が高いから、それだけを理由にPS3を捨てて安いWiiへ逃げた」まで単純化すると、一次資料から確認できる範囲を超えてしまう。
ここを押さえてから、時間を2006年まで戻してみよう。
2006年5月9日、『モンスターハンター3』はPS3向けとして正式発表された
PS3版『モンスターハンター3』は噂だったわけではない。
2006年5月9日、カプコンは英語版の公式プレスリリースで、ソニー・コンピュータエンタテインメントのPLAYSTATION 3向けに『Monster Hunter 3(working title)』の開発を正式決定したと発表している。
日本のGAME Watchも同日、「カプコン、『モンスターハンター』シリーズ最新作はPS3で」と報じた。
カプコンはPS3によって向上する映像表現やオンライン機能を活用していく考えも示している。
ここまでは明確だ。
問題は、ここから「PS3版は実際どこまで作られていたのか」である。
発表時点では発売日も価格も決まっていなかった
2006年5月9日時点で、発売日は未定。価格も未定だった。
GAME Watchも「今回発表されたのは『モンスターハンター3(仮称)』のみ」としており、現在確認できる当時資料から、具体的な発売時期や完成したゲームシステムまでは見えてこない。
もちろん「開発決定」と発表している以上、社内で企画そのものが存在しなかったという意味ではない。
しかし、
「PS3版として正式発表された」
ことと、
「PS3版のゲーム本編がかなり完成していた」
ことは別の話だ。
今回確認したカプコン資料や当時報道からは、完成度を何割と表現できるような情報も、完成間近だったと判断できる資料も見つからない。
ネット上で「幻のPS3版MH3」とされる映像や画像を見かけても、カプコン公式のPS3実機ゲームプレイだと出所を確認できないものを、PS3版の開発画面として扱うべきではないだろう。
2007年10月10日、MH3はWiiへ向かった
大きく状況が変わったのは2007年10月10日。
幕張メッセで開催された「任天堂カンファレンス2007.秋」で、『モンスターハンター3(トライ)』がWii向けタイトルとして発表された。
カプコンも同日、
「カプコン、人気シリーズ最新作『モンスターハンター3(トライ)』をWii向けに開発決定」
という公式リリースを出している。
ここで細かいが重要なのが、カプコン公式文書の表現だ。
公式リリースは「PS3版を開発中止しました」という題名ではない。
Wii向けに『モンスターハンター2(ドス)』の続編を開発すると発表し、同社のマルチプラットフォーム戦略について説明している。
その中では、各タイトルのゲーム性を活かせる最適なハードへソフトを投入する方針を示したうえで、MH3についてはWiiの特性を活かし、従来のファンだけでなく幅広いユーザー層へ訴求するとしていた。
なお、この発表は東京ゲームショウ2007ではない。
TGS2007は9月に終了しており、Wii版発表はその後の10月10日である。この時期の流れについては、つぶログの「東京ゲームショウ30年の歴史」でも整理している。
では、なぜPS3からWiiへ?「開発費説」には当時の発言があった
ここが、この話でもっとも重要な部分になる。
「PS3は開発費が高かったからMH3をWiiへ変更した」
現在ではあまりにも広く語られているため、後年になって作られた説明にも見える。
ところが原典を遡ると、2007年10月10日当日の報道まで戻ることができる。
当時のThomson Financial Newsは、カプコンの執行役員だった一井克彦氏の説明として、PS3タイトルの高い開発コストを理由に『モンスターハンター3』を発売するプラットフォームを変更した、と報じている。
GameSpot、Ars Technicaなど複数の海外媒体も当時、この通信社報道を引用した。
つまり、
「PS3の開発費が高かった」という話自体は、後年のまとめサイトが作った俗説ではない。
少なくとも、Wii版発表当日にカプコン幹部がMH3を直接指して説明した記録が残っている。
ただし、カプコン公式リリースには「開発費」と書かれていない
ここで話を単純化してはいけない。
同じ2007年10月10日に発表されたカプコンの公式プレスリリースを見ると、「PS3の開発費が高いため変更した」とは書かれていない。
書かれているのは、ゲーム内容に適したハードを選ぶという同社の戦略と、Wiiの特性を活かし、幅広いユーザーへ訴求するという方向性だ。
さらに後年、Wii版を実際に作った辻本良三氏と藤岡要氏は、任天堂の「社長が訊く」で別の角度から開発を振り返っている。
辻本氏によれば、据置機シリーズには開発側として「行き詰まってる感」があり、『3』を作るにあたって、それまで築いてきたものを一度「更地」にしてシステムから考え直そうとしていた。
そのタイミングでWiiが登場し、新しい操作や新しい『モンスターハンター』に挑戦できるハードとして選んだと説明している。
したがって、現在確認できる資料から言える範囲はこうなる。
PS3タイトルの高い開発コストは、カプコン幹部がMH3のプラットフォーム変更理由として実際に挙げている。
しかし、
カプコン社内で行われた判断のすべてが「開発費だけ」だったとまでは確認できない。
開発費、ハード選択の戦略、Wiiで新しいモンハンを作るという開発上の判断。この複数の話を一つに潰さず見る必要がある。
当時のWiiはPS3より売れていた。それでも「だからWiiにした」とは言い切れない
もう一つよく語られるのが、普及台数だ。
PS3は2006年11月11日、Wiiは同年12月2日に日本で発売された。
発売時期には約3週間しか差がない。
ところが2007年には、Wiiがかなり速いペースで普及していた。
任天堂の2007年9月末決算資料では、Wiiは発売からの世界累計で約1,317万台に達していた。一方、ソニーの同時期資料ではPS3の世界累計販売数量は約559万台だった。
ただし、当時のソニーはハード販売数量の集計方法を「生産出荷」から売上計上ベースへ変更している時期でもある。企業をまたいで数字を比較するときは、集計基準まで同一だと決めつけない方がいい。
日本国内の実売推計でも差は大きかった。
| 2007年9月末ごろ | 国内累計実売推計 |
|---|---|
| Wii | 約361万台 |
| PS3 | 約117万台 |
調査会社の推計では、WiiはPS3のおよそ3倍の規模だった。
MH3のWii移行発表時、Wiiの方が大きな市場を形成していたこと自体は否定する必要がない。
ただし、ここでも因果関係には線を引く必要がある。
Wiiの方が普及していた。
これは事実。
普及台数差があったからMH3をWiiへ変更した。
これは、今回確認したカプコンの一次資料では直接確認できない。
市場状況としては非常に重要だが、一井氏が実際に語った「開発コスト」という理由を、後から「本当は普及台数だった」と置き換える根拠もない。
もう一つの大変化|Wii移行時にはPSPのモンハンがすでに急成長していた
MH3を2007年のシリーズ状況から見ると、さらに面白い。
初代『モンスターハンター』は2004年にPS2で発売された。
『モンスターハンターG』、『モンスターハンター2(ドス)』もPS2。
ここまでを見ると、ナンバリングを中心とした据置モンハンはPlayStation系で育ったシリーズだった。
しかし、その横でPSP版が急速に大きくなっていた。
| 作品 | 機種 | 国内発売 | MH3との位置関係 |
|---|---|---|---|
| モンスターハンター | PS2 | 2004年3月 | シリーズ第1作 |
| モンスターハンターG | PS2 | 2005年1月 | 据置シリーズを拡張 |
| モンスターハンター ポータブル | PSP | 2005年12月 | 携帯機展開が本格化 |
| モンスターハンター2(ドス) | PS2 | 2006年2月16日 | MH3の前作 |
| モンスターハンターポータブル 2nd | PSP | 2007年2月 | 2007年3月に国内100万本出荷 |
| モンスターハンターポータブル 2nd G | PSP | 2008年3月27日 | Wii移行発表より後 |
| モンスターハンター3(トライ) | Wii | 2009年8月1日 | 据置ナンバリングがWiiへ |
特に重要なのが『ポータブル 2nd』だ。
2007年2月に発売され、翌3月にはPSPソフトとして初めて国内100万本出荷を達成した。
つまり同年10月にMH3のWii移行を発表した時点で、カプコンはすでに「携帯機のモンハンが急激に伸びている」ことを把握していた。
実際、Wii版MH3の公式発表でも、ポータブルシリーズが学生を中心に支持され、PSP向けとして大きな成功を収めていることに触れている。
ただし、ここで『ポータブル 2nd G』を持ち出すと時系列がおかしくなる。
350万本級まで伸びた『2nd G』は、Wii移行決定より後
後に『モンスターハンターポータブル 2nd G』は国内350万本出荷へ達し、「モンハン=携帯機」というイメージを決定的なものにした。
しかし発売は2008年3月。
MH3のWii向け発表は2007年10月10日である。
したがって、
「2nd Gが350万本売れたのを見て、カプコンがMH3をWiiへ変更した」
という説明は時系列上成立しない。
2007年の判断材料として使えるのは、初代ポータブルや『2nd』までの成功である。
完成したMH3は「PS3版をWiiへ縮小移植したゲーム」には見えない
では、実際のWii版はどのように作られたのか。
2009年の任天堂「社長が訊く」では、辻本良三氏と藤岡要氏がかなり詳しく語っている。
辻本氏によれば、据置シリーズを作り続ける中で開発側には行き詰まりを感じる部分があり、『3』という節目で一度「更地」にすることを決めた。
カプコンの2009年アニュアルレポートでも、辻本氏は「モンスターを狩る」という原点へ戻り、システムからすべて新しく作り直したと説明している。
完成したMH3では、水中という新しい狩猟空間が登場した。
モンスター同士の関係や生態表現も強化され、フィールドやモンスター、武器体系にも大きく手が入った。
単に旧作へWii用操作を付けた作品ではない。
Wii版の本格制作時期から見ても「完成間近のPS3版」という話には慎重になるべき
「社長が訊く」の最後で、岩田聡氏から開発期間を尋ねられた藤岡氏は、プロジェクト開始から3年、実際に作り始めて2年と答えている。
インタビューは2009年の発売直前。
単純計算すれば、実制作が本格化したのは2007年前後になる。
もちろん、この証言だけで2006年のPS3企画が社内でどこまで進んでいたかを完全に復元することはできない。
それでも、
「PS3版がほぼ完成していたところで突然Wiiへ移植した」
という説を裏付ける証拠にはならない。
PS3向けの企画が存在したことは確実だが、そのゲームデータをどこまで作り、何をWii版へ引き継いだのかについては、確認できる一次資料が足りない。
分からないものは、分からないままにしておく方が正確だ。
「Wiiリモコンを振って狩りたかったからWiiへ」は違う
Wiiへの変更を聞くと、もう一つ思いつきやすい理由がある。
Wiiリモコンだ。
剣を振るようにリモコンを振り、モンスターを攻撃する。
いかにもWiiらしい。
ところが、開発者の説明はかなり違う。
辻本氏は「社長が訊く」で、Wii版を発表した際に周囲から「振るの?」と何度も聞かれたものの、開発チームではWiiリモコンを振って狩ることは当初から考えていなかったと話している。
長時間遊ぶゲームなので、疲れにくい操作を重視した。
モーションセンサーを主役にするのではなく、Wiiリモコンとヌンチャクを一つのコントローラとして捉え、ボタン配置から考え直したという。
むしろ開発初期には、従来のモンハンが多くのボタンを使うゲームだったため、Wiiリモコンのボタン数の少なさに苦労している。
つまり、
Wiiリモコンでモンハンを作りたかったからWiiを選んだ
というより、
Wiiで作ることになったので、モンハンをどうWiiの操作へ落とし込むか考えた
という順番の方が、開発者証言には近い。
しかもMH3と同じ日に「クラシックコントローラPRO」が発売された
さらに象徴的なのが、クラシックコントローラPROである。
任天堂公式によれば発売日は2009年8月1日。
MH3とまったく同じ日だ。
偶然ではない。
「社長が訊く」で岩田氏は、MH3の発売に合わせて新しいクラシックコントローラを出したいと任天堂側から提案したことを明かしている。
開発には藤岡氏らも関わり、アナログスティックの位置について意見を求められたという。
MH3にはWiiリモコン+ヌンチャク操作だけでなく、クラシックコントローラ操作も用意された。
カプコンのアニュアルレポートでも、ヌンチャク+リモコンによる新しい操作と、従来シリーズのファンが安心して遊べるクラシックコントローラ操作の両方を採用したことが説明されている。
クラシックコントローラPROを同梱したパッケージまで販売された。
Wiiを選んだゲームでありながら、「Wiiリモコンらしい振る操作」だけへ寄せなかった。
ここにもMH3の少し変わった立ち位置が見える。
オンラインでは「ロックラック」に集まり、最大4人で狩った
初代『モンスターハンター』は、もともとカプコンが家庭用ネットワークゲームへ本格的に取り組む中で生まれた作品だった。
そのためMH3も、据置モンハンとしてオンラインプレイを大きな柱にしている。
ネットワークモードでは、オンライン上の街「ロックラック」にハンターが集まり、最大4人でクエストへ向かうことができた。
ただし、日本版のオンラインは常時無料ではない。
| ハンティングチケット | 料金 |
|---|---|
| 30日券 | 800 Wiiポイント |
| 60日券 | 1,500 Wiiポイント |
| 90日券 | 2,000 Wiiポイント |
発売時には20日間の無料お試しキャンペーンも用意された。
このオンラインサービスは現在利用できない。
カプコンは2013年3月にサービス終了を告知し、2013年9月12日をもってWii版『モンスターハンターG』『モンスターハンター3(トライ)』のネットワークモードを終了した。
オフラインのシングルモードはサービス終了後も遊べる。
なお、これはWii全体の「ニンテンドーWi-Fiコネクション」が終了した時期とは別の話である。MH3はそれより先に独自のネットワークサービスを終了している。
Wii版MH3は売れたのか|初回100万本、世界190万本
PS3からWiiへ変更した以上、「結局売れたのか」は気になるところだ。
2009年7月30日、発売を目前にしたカプコンは、MH3の国内初回100万本出荷が確定したと発表した。
カプコンによれば、当時サードパーティーが発売するWii向けタイトルとして国内最高の初回出荷だった。
発売後の初週実売は調査会社によって数字が異なる。約52万本とする集計と、約58万本とする集計があるため、初回100万本「出荷」と初週100万本「実売」を混同してはいけない。
現在のカプコン「ミリオンセールスタイトル」では、Wii版『モンスターハンター3(トライ)』は世界190万本と記録されている。
発売前のカプコン計画は世界200万本だった
ここも比較できる。
カプコンの2009年3月期決算説明資料では、MH3について全世界200万本の販売計画を掲げていた。
現行のカプコン集計は190万本。
数字だけを見ると、最終的に200万本計画をわずかに下回ったことになる。
では、カプコンはMH3を失敗と評価していたのか。
そう単純でもない。
カプコン自身の評価は「計画を少し下回ったが、全体として悪くない」
2009年の第2四半期決算説明会では、まさにMH3の社内評価について質問されている。
カプコンは、販売が計画をやや下回ったことは認めながらも、サードパーティー製Wiiタイトルとして初めて100万本に達したことを挙げ、全体的なパフォーマンスは悪くなかったと評価した。
さらにオンライン利用が計画以上に活発だったこと、その経験が今後の『モンスターハンター』シリーズ拡大に役立つという見方も示している。
その後の決算資料でも、MH3について「healthy growth」と表現され、Wiiサードパーティー初のミリオンを成果として扱っている。
したがって、
「PSP版より少ないから失敗」
「100万本を超えたから大成功」
のどちらか一方へ寄せる必要はない。
会社の200万本計画にはわずかに届かなかった一方、国内ミリオンやオンライン運営を含め、カプコン自身は一定の成果を認めていた。
これが資料から見える実像に近い。
その後、モンハンはWiiに定着せず3DSへ向かった
ここまでだけでも十分に変わった経歴だが、MH3の位置をさらに妙にしているのがその後だ。
2011年9月13日、カプコンはニンテンドー3DS向けに『モンスターハンター3(トライ)G』と『モンスターハンター4(仮題)』を発表した。
『3G』は2011年12月10日に発売。
カプコン自身が、2009年のWii版MH3を基に3DSの機能を使った新要素を多数追加した作品と説明している。
立体視、タッチスクリーンを使った操作、G級クエスト、新モンスターなどが追加されているため、Wii版をそのまま3DSへ移植したゲームではない。
そしてナンバリング次回作『モンスターハンター4』、その拡張版『4G』も3DSで発売された。
シリーズのハード移動だけを並べると、かなり独特だ。
PS2で据置シリーズが始まる。
PSP版が急成長する。
ナンバリングの『3』はPS3向け発表からWiiへ変更。
その発展版『3G』と次のナンバリング『4』は3DSへ。
現在から見ると一つの大きな流れに見えるが、「最初から3DS展開まで計画してWii版MH3を踏み台にした」とする証拠は確認できない。
結果から過去の意図を作らないことが大切だ。
『3G HD Ver.』はWii版MH3をHD化したゲームではない
名前が似ているため、もう一つ誤解しやすい作品がある。
2012年12月8日にWii Uで発売された『モンスターハンター3(トライ)G HD Ver.』だ。
これはタイトルどおり、3DS版『モンスターハンター3(トライ)G』を基にしたWii U版である。
カプコンの公式発表にも明記されている。
| 作品 | 機種 | 位置づけ |
|---|---|---|
| モンスターハンター3(トライ) | Wii | 2009年のオリジナル |
| モンスターハンター3(トライ)G | ニンテンドー3DS | Wii版を基に新要素を多数追加 |
| モンスターハンター3(トライ)G HD Ver. | Wii U | 3DS版3Gを基にHD化・オンライン等へ対応 |
海外では3DS版とWii U版が『Monster Hunter 3 Ultimate』として展開された。
したがって「Wii版MH3が後にそのままHD化された」と説明するのは正確ではない。
2026年現在、2009年のWii版MH3そのものを遊ぶには?
ここまで読んで、現在オリジナル版を遊んでみたいと思う人もいるだろう。
2026年9月現在、2009年のWii版『モンスターハンター3(トライ)』そのものを遊ぶ正規の方法として分かりやすいのは、Wii実機とWii版ディスクを用意することだ。
もう一つ、Wii Uを使う方法もある。
任天堂はWii Uについて、Wii専用ディスクをWii Uの「Wiiメニュー」で利用できる互換機能を用意している。
そのため、Wii U本体+Wii版MH3のディスクでもプレイできる。
ただしWiiソフトをWii Uで動かしてもHD版になるわけではない。任天堂もWiiソフトはHD画質で表示されないと案内している。
また、Wii U GamePadだけでWii版を操作することもできない。Wii用の対応コントローラが必要になる。
そして前述したとおり、Wii版MH3の公式オンラインサービスは2013年9月12日に終了済み。
現在正規環境で遊べるのは、基本的にオフライン部分になる。
2026年9月現在、オリジナルWii版MH3そのものについて、Nintendo Switch/Nintendo Switch 2向け移植、Nintendo Switch Online収録、現行機向け公式ダウンロード販売は確認できない。
3DS版『3G』やWii U版『3G HD Ver.』も、ニンテンドー3DS/Wii Uのニンテンドーeショップでは新規購入できなくなっている。
歴史的には重要な作品なのに、オリジナル版へ現在触れるには当時のハードとパッケージが必要になる。
この点は、同じ「ハード史の中で妙な位置にいるゲーム」として取り上げた『セガガガ』にも少し似ている。歴史を振り返る価値が高くなった一方で、作品そのものへ触れるハードルは上がっている。
PS3では結局モンハンが一本も出なかった?
ここも誤解しやすい。
PS3向けとして2006年に発表された『モンスターハンター3(仮称)』そのものは発売されなかった。
しかし、PS3で『モンスターハンター』が一本も発売されなかったわけではない。
2011年には『モンスターハンターポータブル 3rd HD Ver.』がPS3で発売されている。
これはPSP『モンスターハンターポータブル 3rd』をPS3向けにHD化した「PSP Remaster」作品で、PSP版とのセーブデータ連携にも対応していた。
当然ながら、2006年にPS3向けナンバリングとして発表された『モンスターハンター3(仮称)』とは別物である。
「MH3のPS3版が後からHD Ver.として復活した」わけではない。
ネットで語られる「PS3版MH3」の話を整理すると
ここまでの一次資料と当時報道を基準に、よくある説明を改めて整理してみる。
「PS3は開発費が高すぎたのでWiiへ移った」
根拠はある。
2007年10月10日、カプコンの一井克彦氏がPS3タイトルの高い開発コストを理由として、MH3を発売するプラットフォームを変更したとThomson Financial Newsへ説明している。
ただし、カプコン公式プレスリリースでは開発費だけを理由としておらず、Wiiの特性や幅広いユーザーへの訴求、ゲームに適したハードを選択する方針も示している。
「開発費は根拠のある理由の一つ」とするのが安全だ。
「PS3が売れていなかったからWiiへ移った」
2007年秋にWiiがPS3より大きく普及していたことは確認できる。
しかし、それを直接の変更理由とするカプコンの説明は今回確認できなかった。
市場背景と変更理由を同一視しない方がいい。
「PS3版はかなり完成していた」
確認できる証拠がない。
2006年5月の正式発表時点では発売日も価格も未定。どの程度ゲーム本編が作られていたのかを示す一次資料も確認できない。
PS3版の開発ルートそのものについては、つぶログの「発売中止ゲームTier」でも取り上げているが、そこでも完成間近だった作品とは扱っていない。
「PS3版の素材をWii版へ流用した」
今回確認した資料では裏付けられない。
Wii版開発陣はシステムから「更地」にして作り直したと説明しているが、これはPS3企画のデータを一切流用しなかったことまで証明するものでもない。
したがって「流用した」「全部捨てた」のどちらも断定しない。
「任天堂が独占契約でモンハンを奪った」
当時の海外報道にはWii独占を意味する表現もある。
しかし、任天堂が金銭を支払ってPS3版を奪った、あるいは特定の独占料が機種変更を決めたという契約内容を示す一次資料は確認できない。
契約内容が確認できない以上、そこから先は推測になる。
「ソニーとカプコンの関係が悪化した」
これも裏付ける資料は確認できない。
カプコンはその後もPS3へ『バイオハザード5』『ストリートファイターIV』『ロスト プラネット2』など多数の大型作品を投入している。
MH3の変更だけから企業関係の悪化を推測するのは無理がある。
「Wiiリモコンを使いたかったからWiiにした」
単純には成立しない。
開発チームはリモコンを振って狩る操作を当初から考えておらず、クラシックコントローラにも対応した。
Wiiならではの操作へ挑戦したことと、それがPS3からWiiへ変更した唯一の理由だったことは別である。
「PSPモンハンが大ヒットしたのでライト層の多いWiiへ行った」
PSP版の急成長はWii移行時点ですでに始まっており、カプコン自身もWii版発表時にその成功へ触れている。
ただし「PSPで売れたからWiiへ」という直接の因果を示す発言までは確認できない。
まして『2nd G』の350万本という後年の数字を、2007年の判断理由にはできない。
なぜMH3はハード史の中で妙な位置にいるのか
『モンスターハンター3(トライ)』を単独のゲームとして見ると、水中戦を導入し、世界やモンスターを作り直したナンバリング第3作である。
だがハードの流れから見ると、もっと変わった位置に立っている。
初代から『2(ドス)』まで、据置シリーズはPS2で育った。
その次の『3』はPS3向けとして正式発表された。
普通に考えれば、そのままPlayStationの世代交代に乗るように見える。
ところが実際にはWiiへ進路を変えた。
しかも、その時期にはPSP版が急成長し、「据置機で育ったモンハン」が携帯機でも別の巨大市場を作り始めていた。
Wii版では、それまでの据置シリーズを一度「更地」にして作り直した。
そして、その発展版『3G』と次のナンバリング『4』は3DSへ向かう。
PS2からPS3へ素直に世代交代するはずだったシリーズが、その途中でWiiへ曲がり、同時にPSPでは社会現象級へ膨らみ、その先では3DSへ進んでいく。
MH3は、その分岐点の真ん中にいる。
まとめ|「開発費説」は本当だった。ただし、それだけでMH3の機種変更を説明すると足りない
『モンスターハンター3(トライ)』がPS3向けとして正式発表されていたことは間違いない。
2006年5月9日、カプコンは『Monster Hunter 3(working title)』をPLAYSTATION 3向けに開発すると正式発表した。
しかし2007年10月10日、MH3はWii向けとして改めて発表された。
そして、この変更について長く語られてきた「PS3の開発費が高かった」という話にも、きちんと原典があった。
カプコンの一井克彦氏が当時、PS3タイトルの高い開発コストを理由に、MH3を発売するプラットフォームを変更したと説明している。
だから、開発費説そのものを俗説として切り捨てるのも違う。
一方で、カプコン公式リリースはWiiの特性や幅広いユーザーへの訴求、ゲーム内容に最適なハードを選ぶという戦略も示していた。
開発者たちも後に、据置シリーズを一度「更地」にして作り直そうとしていた時期とWiiの登場が重なったと振り返っている。
当時WiiがPS3より大きく普及していたことも事実。
PSPで『ポータブル 2nd』がすでにミリオンへ達していたことも事実。
しかし、そうした事実を並べただけで、
「Wiiが売れていたから変えた」
「PSPでライト層が増えたから変えた」
「任天堂が奪った」
と結論づけることはできない。
そして、PS3版がかなり完成していたことを示す証拠も、完成したPS3版をそのままWiiへ移植したことを示す証拠も確認できない。
分かっていることだけをつなぐと、むしろMH3の妙な立ち位置がはっきりする。
PS2までPlayStationの据置機で育ったシリーズ。
その正統なナンバリング新作としてPS3版が発表された。
ところが発売前にWiiへ進路を変え、そこで一度シリーズを作り直した。
同じころPSPではモンハンが急成長し、その後の『3G』『4』『4G』は3DSへ向かった。
2009年の『モンスターハンター3(トライ)』は、単に「PS3版が中止されてWiiになったゲーム」ではない。
据置PlayStation中心だった初期モンハンと、複数のハードを渡り歩く巨大シリーズになった後のモンハン。その境目に置かれた一本なのである。
主な参照資料
- カプコン「Capcom’s “Monster” set to roar its way onto SCEI’s PLAYSTATION 3」(2006年5月9日)
- GAME Watch「カプコン、『モンスターハンター』シリーズ最新作はPS3で」(2006年5月9日)
- カプコン「カプコン、人気シリーズ最新作『モンスターハンター3(トライ)』をWii向けに開発決定」(2007年10月10日)
- Thomson Financial Newsによる一井克彦氏への取材報道(2007年10月10日)
- 任天堂「社長が訊く『モンスターハンター3(トライ)』」(2009年)
- カプコン「Annual Report 2009」
- カプコン「『モンスターハンター3(トライ)』の初回100万本出荷が確定」(2009年7月30日)
- カプコン 2010年3月期第2四半期決算説明会 質疑応答
- カプコン「ミリオンセールスタイトル」
- カプコン「『モンスターハンター3(トライ)G』『モンスターハンター4(仮題)』をニンテンドー3DS向けに発売決定」(2011年9月13日)
- カプコン「『モンスターハンター3(トライ)G HD Ver.』の発売を決定」(2012年9月14日)
- カプコン「Wii『モンスターハンターG』『モンスターハンター3(トライ)』ネットワークモード サービス終了のお知らせ」(2013年3月8日)
- 任天堂「Wiiのソフトで遊ぶ|Wii U」