
1990年代後半、日本のインターネットには「夜23時になると人が増える」という独特の生活リズムがありました。
理由の一つが、NTTの料金サービス「テレホーダイ」です。
テレホーダイは1995年に始まり、23時から翌朝8時まで、あらかじめ指定した電話番号への通話料金を月額定額にするサービスでした。ダイヤルアップ接続でインターネットを使っていた人は、プロバイダのアクセスポイントを指定先にすることで、深夜は接続時間を気にせずネットを使えました。
テレホーダイとは?
当時の家庭用インターネットは、電話回線を使うダイヤルアップ接続が主流でした。
インターネットへつなぐとき、パソコンのモデムからプロバイダのアクセスポイントへ電話をかけます。つまり、プロバイダ料金とは別に電話料金もかかりました。
長時間つなげば、そのぶん通話料金が増える。現在の常時接続とはまったく違う感覚です。
そこで大きな意味を持ったのがテレホーダイでした。23時〜翌8時の時間帯なら、指定した電話番号への通話料金が定額になります。
なぜ23時まで待った?
昼や夕方にもネットへ接続はできます。ただし電話料金を考えると、長時間の利用はためらわれました。
そのため、掲示板を読む、チャットをする、大きなファイルをダウンロードする、ホームページを更新するといった作業を23時以降にまとめる人が増えます。
「23時になったらネットへつなぐ」という生活習慣が生まれたのは、趣味というより料金体系に合わせた結果でもありました。

23時になると回線が混雑した
当然、多くの利用者が同じ時間に接続しようとします。
プロバイダ側のアクセスポイントが混み、なかなか接続できない。つながっても通信が重い。こうした現象も「テレホタイム」の記憶として残っています。
今なら回線が遅ければ不具合を疑いますが、当時は「23時だから混んでいる」が普通に通じました。
あの“ピー、ガー”という音は何だった?
ダイヤルアップ接続では、モデム同士が通信条件を合わせる過程で独特の接続音が鳴りました。
電話をかける音に続き、「ピー」「ガー」「ザー」といった音が流れ、接続が成立すると静かになる。
接続に失敗すればやり直しです。現在のWi-Fiやモバイル通信のように、端末を開けばすぐネットにつながるわけではありませんでした。
電話中はネットできない、ネット中は電話が使えない
一般的な電話回線をダイヤルアップ接続に使っている間、その回線はインターネット通信用に占有されます。
家族から「電話が使えない」と言われたり、電話をかけるために一度ネットを切ったりする。家庭の固定電話とインターネットが同じ回線を取り合うことも、当時ならではでした。
深夜だから育ったネット文化
23時から朝まで長くつなげる環境は、夜型のネット文化と相性が良いものでした。
- 掲示板へ長時間入り浸る
- チャットルームで夜更かしする
- 個人ホームページを巡回する
- 画像・音楽・ソフトを時間をかけてダウンロードする
- 自分のホームページを更新する
現在のSNSは24時間いつでも人がいます。対して当時は、料金の安い時間帯へ利用者が集まるため、ネットにも「開店時間」のような空気がありました。
常時接続で“23時を待つ”必要がなくなった
2000年代に入ると、ADSLやCATV、光回線などの常時接続が普及していきます。
接続時間で電話料金を気にする必要が薄れ、朝でも昼でもネットにつなぎっぱなしにできる。ここで「ネットは使う時間を決めるもの」から「常にそこにあるもの」へ変わっていきました。
常時接続の普及は、Webの作り方にも影響します。重い画像や動画、リアルタイム更新など、接続時間と転送量を強く意識していた時代からコンテンツが大型化していきました。
テレホーダイは2023年末で終了
テレホーダイは固定電話網のIP網移行に伴い、新規受付を2023年9月30日で終了し、2023年12月31日をもって提供を終えました。
サービス開始から約28年。終了時にはすでにインターネット接続のためにテレホーダイを使う時代ではなくなっていましたが、その名前は90年代ネット文化を象徴する言葉として残っています。
時系列で見るテレホーダイと家庭ネット
| 年 | 主な動き |
|---|---|
| 1995年 | テレホーダイ開始。23時〜翌8時の指定先通話を定額化 |
| 1995年 | Windows 95発売。家庭でインターネットへの関心が高まる |
| 1990年代後半 | ダイヤルアップ接続と個人ホームページ文化が拡大 |
| 2000年代初頭 | ADSL・CATVなど常時接続が急速に普及 |
| 2023年9月30日 | テレホーダイ新規受付終了 |
| 2023年12月31日 | サービス提供終了 |
まとめ|料金制度が“深夜のネット文化”を作った
テレホーダイは、インターネット専用サービスではありません。指定した電話番号への深夜通話を定額にする料金サービスでした。
それでも、ダイヤルアップ利用者がプロバイダのアクセスポイントを指定したことで、「23時からネット」という巨大な生活習慣が生まれました。
現在のネットには時間の境目がほとんどありません。だからこそ、料金が安くなる瞬間を待ち、人が一斉につながった時代は、インターネットがまだ“場所と時間を選んで行くもの”だったことを伝えています。
当時の個人サイト文化はMIDIが鳴る個人ホームページ、その後の発信文化はブログ黎明期で振り返っています。