令和ロマンのM-1史上初2連覇はなぜすごい?歴代王者と勝因を考察

2024年12月22日、お笑いコンビ「令和ロマン」がM-1グランプリ史上初となる2連覇を達成した。
2023年に初優勝を果たし、翌2024年も頂点へ。M-1グランプリが2001年に始まって以来、誰も実現できなかった記録だった。
しかも、ただ2年連続で優勝したわけではない。
2年とも決勝ファーストラウンドのトップバッターとして登場し、どちらも最終決戦で逆転優勝している。
歴代王者にも再出場したコンビはいた。前年の優勝者が再び決勝で高得点を獲得した例もある。それでも、2度目の優勝には届かなかった。
では、令和ロマンはなぜその壁を越えられたのだろうか。
歴代大会の結果、2年間の審査記録、4本の漫才、そして髙比良くるま・松井ケムリ本人たちの発言を手掛かりに、M-1史上初の2連覇が持つ意味を考察していきたい。
令和ロマンのM-1史上初2連覇は何がすごかったのか
令和ロマンの2連覇を理解するには、まず2023年と2024年の決勝結果を並べてみるのが分かりやすい。
| 比較項目 | 2023年 | 2024年 |
|---|---|---|
| 大会回数 | 第19回 | 第20回 |
| 開催日 | 12月24日 | 12月22日 |
| エントリー数 | 8,540組 | 10,330組 |
| 決勝1本目の出番 | 1番手 | 1番手 |
| 審査員数 | 7人 | 9人 |
| 1st得点 | 648点 | 850点 |
| 1st順位 | 3位 | 2位 |
| 1st首位との差 | 11点 | 11点 |
| 最終決戦得票 | 4票/7票 | 5票/9票 |
| 最終結果 | 優勝 | 優勝 |
注目したいのは、令和ロマンは2年ともファーストラウンドの最高得点を獲得していないという点だ。
2023年はさや香が659点、ヤーレンズが656点、令和ロマンが648点。2024年はバッテリィズが861点、令和ロマンが850点、真空ジェシカが849点だった。
どちらの大会でも、最初の審査では令和ロマンより高く評価されたコンビがいた。
それでも最後には優勝している。ここに、M-1という大会の特徴と令和ロマンの強さが表れている。
M-1はファーストラウンドの最高得点だけで優勝が決まらない
M-1の決勝では、まずファーストラウンドで審査員が各コンビに点数をつける。
その上位3組が最終決戦へ進み、もう1本漫才を披露。最終決戦では審査員が優勝にふさわしいと考える1組に投票し、その結果によって王者が決定する。
つまり、1本目の得点で首位になることと、優勝することは同じではない。
ファーストラウンドで高得点を獲得しても、最終決戦でもう一度評価を獲得できなければ優勝には届かない。一方、上位3組に残れば、1本目で首位でなくても逆転の機会がある。
令和ロマンは、この2段階の勝負を2年連続で勝ち切った。
2023年と2024年では審査員数も7人から9人へ変わっている。648点と850点を単純比較して「2024年の方が202点高く評価された」と解釈することはできないが、異なる審査体制のもとで優勝を繰り返したことは確かな記録である。
歴代王者でも実現できなかった2度目の優勝
令和ロマンの偉業を考えるうえで欠かせないのが、過去のM-1王者たちの再挑戦だ。
M-1には、一度優勝したコンビでも、結成年数などの出場資格を満たしていれば再び参加できる仕組みがある。優勝経験そのものが再出場を禁止する条件にはなっていない。
実際、令和ロマン以前にも王者として再出場し、決勝まで進んだコンビが存在する。
| コンビ | 初優勝 | 再挑戦 | 再挑戦の結果 |
|---|---|---|---|
| フットボールアワー | 2003年 | 2006年 | 準優勝 |
| NON STYLE | 2008年 | 2009年 | 3位 |
| パンクブーブー | 2009年 | 2010年 | 3位 |
| 令和ロマン | 2023年 | 2024年 | 優勝 |
ここでフットボールアワーは初優勝から3年後の再出場であり、厳密には連覇への挑戦ではない。一方、NON STYLEとパンクブーブーは翌年に再挑戦しており、令和ロマンと直接比較しやすい。
フットボールアワーは2006年に準優勝
2003年王者のフットボールアワーは、2006年に再びM-1決勝へ進出した。
この大会は、過去の優勝経験者が初めて再出場し、決勝進出を果たした大会でもある。
フットボールアワーはファーストラウンドで640点を獲得し、2位で最終決戦へ進んだ。
しかし、この年はチュートリアルが664点で首位通過。最終決戦でも審査員7人全員から票を獲得し、優勝している。
フットボールアワーは準優勝という結果を残したものの、2度目の頂点には届かなかった。
一度優勝したコンビでも、再び同じ舞台に立てば、さらに強い漫才を披露するライバルと競わなければならない。そのことがよく分かる大会だった。
NON STYLEも翌2009年に3位まで勝ち残った
2008年王者のNON STYLEは、翌2009年にもM-1へ出場している。
この年は敗者復活戦を勝ち上がって決勝に進出。ファーストラウンドで641点を獲得し、最終決戦まで残った。
ただし、ファーストラウンド首位は668点の笑い飯。前年王者のNON STYLEにとっても簡単な戦いではなかった。
最終的にはパンクブーブーが優勝し、NON STYLEは3位となった。
前年の王者が再び決勝へ進み、上位3組に残るだけでも十分な実績だ。それでも、2度目の優勝を実現するには、さらにもう一段階の勝負が残されている。
パンクブーブーは2010年に最高得点を出しながら連覇を逃した
令和ロマンの2連覇を考察するうえで、特に重要なのが2010年のパンクブーブーだ。
2009年に優勝したパンクブーブーは、翌2010年にも出場。敗者復活戦を突破して決勝へ進んだ。
ファーストラウンドでは668点を獲得し、笑い飯と同点の最高得点を記録。同点時の審査員別得点による比較では、パンクブーブーが上位となる内容だった。
しかし、最終決戦では笑い飯が4票、スリムクラブが3票を獲得。パンクブーブーには票が入らず、最終順位は3位となった。
前年王者が再びファーストラウンドで最高得点を獲得しても、連覇できるとは限らない。
この事実は非常に大きい。
令和ロマンは2023年に3位、2024年に2位でファーストラウンドを通過した。それに対してパンクブーブーは、再挑戦時に最高得点を獲得しながら優勝を逃している。
もちろん、両者の漫才の実力をこの結果だけで比較することはできない。審査員も対戦相手も、披露されたネタも異なるためだ。
それでも、M-1では1本目の強さだけでなく、2本目でも勝負を成立させることが優勝に直結するという点は、歴代記録から読み取れる。
2年連続トップバッター優勝はどれほど珍しいのか
令和ロマンの2連覇には、もう一つ見逃せない記録がある。
2023年も2024年も、決勝ファーストラウンドの出番が1番手だったことだ。
2025年までに開催されたM-1は全部で21大会。その中で、トップバッターから優勝したのは次の3回だけである。
- 2001年:中川家
- 2023年:令和ロマン
- 2024年:令和ロマン
初代王者の中川家以来、2002年から2022年までトップバッター優勝者は現れなかった。
令和ロマンは2023年にその記録を22年ぶりに更新し、翌2024年も同じ出番から優勝したのである。
歴代21大会で3回しかないトップバッター優勝のうち、2回を令和ロマンが占めている。
これは2連覇という記録に加えて、令和ロマンならではの特徴を示す数字といえる。
トップバッターはなぜ難しいと言われるのか
トップバッターには、ほかの出番にはない難しさがあると考えられている。
会場の観客は、まだその日の決勝漫才を一本も見ていない。どのくらい笑ってよいのか、どの程度のテンションで楽しむ大会になるのか、空気が定まっていない場合もある。
審査員にとっても、最初のコンビはその大会の採点の基準を考えるうえで重要な位置にある。後続のコンビと直接比較したうえで点数を調整することはできない。
実際、髙比良くるまは2023年の優勝後のインタビューで、過去の決勝を見返し、トップバッターで観客の笑いが生まれるまでの時間を意識していたことを語っている。
ただし、トップバッターだから必ず不利になると断定するのは正確ではない。
21大会中3回という記録だけでは、出番順による優勝確率の違いを統計的に証明できないからだ。また、最初に大きな笑いを生み出せば、大会全体の空気を自分たちの側に引き寄せる可能性もある。
令和ロマンのすごさは、単純に「不利な順番を引いたから」ではない。
過去の大会で長く実現していなかったトップバッター優勝を、2年続けて再現したことにある。
トップバッターを自分たちで選んだわけではない
なお、令和ロマンが戦略として2年連続のトップバッターを選んだわけではない。
当時のM-1では「笑神籤(えみくじ)」という方式が採用されており、決勝ファーストラウンドの出番はくじによって決定された。
2年続けて1番手になったこと自体は、本人たちが意図したものではなかった。
しかし、その結果を受けてどのネタを披露し、どう会場の空気を作るかについては、準備と判断が必要になる。
偶然決まった出番順と、その場で披露する漫才の完成度。この2つを分けて考えると、令和ロマンの強さが見えてくる。
2023年の初優勝|4本の候補とトップバッターへの準備
令和ロマンの初優勝は、2023年12月24日だった。
初めて進出したM-1決勝で、いきなりトップバッターとなった令和ロマン。そこで披露したのが、少女漫画の定番場面を題材にしたしゃべくり漫才「少女漫画」だった。
1本目の「少女漫画」は観客との距離を縮める漫才だった
「少女漫画」は、登校中にパンをくわえた人物が誰かとぶつかるといった、おなじみの展開を題材にしたネタである。
多くの人が知っている場面を入口に、現実的に考えるとおかしな部分を次々と指摘していく。
令和ロマンはこの漫才の冒頭で、観客に語りかけるようなつかみを披露した。
ここで重要なのは、単に面白い設定を選んだというだけではない。
トップバッターとして何も始まっていない会場に登場し、観客との距離を縮めることを意識したネタ選択だった点だ。
くるまは優勝後、決勝の出番順に応じて披露するネタを考えていたことを明かしている。
つまり、2023年の令和ロマンは、単に一番自信のあるネタを順番に披露するつもりだったわけではない。
どの順番で出るか、観客がどのような状態かを想定し、複数の選択肢を用意していた。
この準備が、初出場でトップバッターという状況に対応する助けになったと考えられる。
令和ロマンの公式YouTubeチャンネルでは、この「少女漫画」が公開されている。
2023年の決勝には4本のネタを持ち込んでいた
2024年4月に公開されたNumber Webのインタビューで、くるまは2023年のM-1決勝に向けて4本の候補ネタを用意していたと説明している。
ただし、これは決勝のために新作を4本制作したという意味ではない。
実際に決勝で披露した2本に加え、準々決勝・準決勝で披露したネタ、さらに以前の準決勝で披露したネタを含む4本だった。
過去に作ったネタも含めて候補をそろえ、その日の出番や客席の様子に合わせて選ぶという方法である。
また、くるまは2015年以降のM-1決勝を見返して準備していたことも語っている。
これらは、令和ロマンが決勝の漫才を単なるネタ披露ではなく、観客、出番順、審査を含めた一つの勝負として考えていたことを示している。
ただし、実際の大会がすべて計算どおりに進んだわけではない。本人は優勝後、1本目のネタ選択について別の選択肢もあったと振り返っている。
準備していた選択肢を本番に合わせて使いながら、最終的な優勝までたどり着いたと捉えるのが自然だろう。
3位通過から「町工場」で逆転優勝
2023年のファーストラウンドで令和ロマンが獲得したのは648点。
さや香の659点、ヤーレンズの656点に続く3位で最終決戦へ進出した。
そこで令和ロマンが披露したのが「町工場」だった。
1本目の「少女漫画」が身近な設定について言葉を交わすしゃべくり漫才だったのに対し、「町工場」は舞台となる世界に登場人物を置き、その人物を演じながら笑いを生み出していく漫才コントである。
同じコンビが、1本目とは違う形式の漫才を披露したことになる。
最終決戦の結果は令和ロマンが4票、ヤーレンズが3票、さや香が0票。
わずか1票差で令和ロマンの優勝が決まった。
決して最初から最後まで圧倒的な差をつけていたわけではない。1本目で3位に残り、2本目で最終決戦の支持を獲得したのである。
2023年の初優勝は、ネタの選択肢を用意していた準備力と、異なる形式の2本で決勝を勝ち切った実行力が印象的な大会だった。
2024年の2連覇|王者として再挑戦した理由と勝ち方
2023年に優勝した令和ロマンは、その直後から翌2024年のM-1への再挑戦を宣言していた。
そして実際に2024年大会へ出場し、再び決勝に進出した。
2024年のM-1は第20回の記念大会であり、エントリー数は10,330組。大会史上初めて1万組を突破した年でもあった。
参加規模が拡大する中、前年王者が再び頂点を目指したのである。
なぜ令和ロマンは優勝後もM-1に出場したのか
多くの芸人にとって、M-1優勝は長年の目標である。
全国的な知名度が一気に高まり、テレビやライブで活躍する機会も増える。ようやく大きな目標を達成したことで、賞レースへの挑戦から一区切りをつける王者もいる。
しかし、令和ロマンのくるまは違った。
2024年のインタビューでは、もう一度M-1に出場して優勝したいという意思を明確に示している。
また、初優勝後には、漫才を仕事として続けていくことや、王者になってから新しい挑戦をすることへの考え方も語っていた。
ここで興味深いのは、令和ロマンにとってM-1が、単なる知名度獲得の手段ではなかったことだ。
王者になっても新しいネタを作り、劇場に立ち、再び同じ大会で勝負する。そうした活動自体に意味を見いだしていたことが、本人の発言からうかがえる。
優勝をゴールにするのではなく、優勝した状態から次の勝負を始めた。
この姿勢は、令和ロマンの連覇を考えるうえで重要な特徴だろう。
2024年は「名字」と「タイムスリップ」の2本で勝負
2024年の令和ロマンは、前年と異なるネタの準備方法で決勝に臨んだ。
2023年は複数の候補から本番に合わせて選んでいたが、2024年は決勝に持ち込む2本を定めていた。
ただし、これはネタ作りの過程で2本しか考えていなかったという意味ではない。優勝後のインタビューでは、最終的に選んだ2本へたどり着く前にも、別の候補を制作していたと説明している。
その中から決勝に持ち込んだのが、1本目の「名字」と2本目の「タイムスリップ」だった。
「名字」は、名字にまつわる身近な話題を広げていくしゃべくり漫才。
一方の「タイムスリップ」は、戦国時代へのタイムスリップという設定を使った漫才コントである。
2本の形式を変えるという点では、2023年と共通している。
しかし、その制作過程には2024年ならではの変化があった。
「名字」はラジオの投稿から生まれた
「名字」の発想の出発点は、令和ロマンが配信しているラジオ番組『令和ロマンのご様子』へのリスナー投稿だった。
くるまは公式YouTubeの動画説明欄で、この投稿をきっかけに名字に関する話題を広げ、劇場の先輩や後輩からも名字にまつわる話を集めてネタに発展させたことを説明している。
さらに、M-1の決勝で披露するために、時間内に収まるようセリフや構成を調整していたことも明かしている。
日常的な会話から発想を得て、複数の人から材料を集め、それを舞台で成立する漫才に組み立てていく。
この制作過程からは、身近な題材を漫才へ変える工夫が見えてくる。
2024年の決勝では、再びトップバッターとなった令和ロマンが「名字」を披露し、850点を獲得した。
公式YouTubeチャンネルでは「名字」の完全版が公開されている。
「タイムスリップ」は既存の漫才を発展させたネタだった
一方、最終決戦で披露した「タイムスリップ」は、完全にゼロから作られた新しい設定ではなかった。
令和ロマンの公式YouTubeによる説明では、もともと「戦国」というネタがあり、それを寄席で披露しながら発展させていたという。
そこにタイムスリップの設定を加え、さらにドラマ『SHOGUN 将軍』を見たあと、物語の土台を変更したと説明している。
つまり、以前からあるネタの要素を残しながら、新しい設定と物語を組み合わせた漫才だった。
この点は、2023年の「町工場」とも共通する。
令和ロマンは、既存のネタを一度作った完成品として固定するのではなく、劇場での経験や新しい発想を取り入れながら変化させていた。
新しいネタを作る力だけでなく、過去のネタを磨き直し、新しい漫才として成立させる力も持っていた。
このことは、2年間の決勝で披露した4本を考えるうえで重要だ。
公式YouTubeチャンネルでは「タイムスリップ」の完全版も公開されている。
2024年も首位ではなかったが最終決戦で逆転
2024年のファーストラウンドでは、バッテリィズが861点を獲得し、令和ロマンを上回った。
令和ロマンは850点で2位。さらに真空ジェシカが849点、エバースが848点と続いており、上位の点差は非常に小さかった。
前年王者だからといって、最終決戦進出が確約されていたわけではない。
最終決戦には、バッテリィズ、令和ロマン、真空ジェシカの3組が進出した。
最終決戦の出番順は、真空ジェシカ、令和ロマン、バッテリィズ。令和ロマンが1番手だったのはファーストラウンドであり、最終決戦では2番手だった。
そして審査員9人の投票結果は、令和ロマン5票、バッテリィズ3票、真空ジェシカ1票。
令和ロマンは、審査員の過半数となる5票を獲得して2度目の優勝を決めた。
この大会では、前年から審査員が7人から9人へ増えていた。顔ぶれも変わり、新たな評価を受ける必要があった。
2023年と2024年に共通して審査員を務めた4人のうち、令和ロマンに投票した人数は2023年が3人、2024年が2人だった。
2年連続でまったく同じ審査員から同じ支持を受けたという結果ではない。それぞれ異なる最終決戦の中で、新たに過半数の支持を獲得したのである。
4本の漫才から考察する令和ロマンの強さ
ここまでの記録を整理すると、令和ロマンの2連覇は単純にネタの数が多かったからでも、1本目で圧倒的な得点を獲得したからでもないことが分かる。
では、4本の漫才にはどのような特徴があったのだろうか。
| 年 | 出番 | ネタ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 1本目 | 少女漫画 | 身近な定番場面を題材にしたしゃべくり漫才 |
| 2023年 | 2本目 | 町工場 | 人物を演じながら展開する漫才コント |
| 2024年 | 1本目 | 名字 | 名字に関する話題を広げるしゃべくり漫才 |
| 2024年 | 2本目 | タイムスリップ | 戦国時代を舞台に2人が人物を演じる漫才コント |
こうして並べると、2年間で共通する構成がある。
1本目は身近な題材を使ったしゃべくり漫才、2本目は設定の中に入って演じる漫才コント。
もちろん、形式を変えれば必ず優勝できるわけではない。しかし、2種類の漫才を用意して決勝で披露できることは、コンビとしての表現の幅を示している。
強さの一つ目は、観客が入りやすい題材を漫才へ変える力
2023年の「少女漫画」と2024年の「名字」は、どちらも多くの人にとって理解しやすい題材を扱っている。
少女漫画にありがちな展開や、身近な名字についての会話は、特別な予備知識がなくても意味を理解しやすい。
これは大勢の観客が集まり、テレビでも放送されるM-1決勝と相性のよい特徴と考えられる。
ただし、分かりやすい題材を選ぶだけで漫才が面白くなるわけではない。
誰もが知っている場面から意外な疑問を生み出し、その疑問を次の笑いへつなげていく必要がある。
令和ロマンは、身近な題材をそのまま説明するのではなく、通常とは違う角度から見つめ直すことで漫才に変えていた。
この発想の転換が、しゃべくり漫才における大きな魅力といえるだろう。
二つ目は、既存のネタを改良して使い続ける力
「町工場」も「タイムスリップ」も、過去のネタや設定とつながりを持っている。
特に「タイムスリップ」は、もともとの「戦国」というネタに新しい要素を重ねて発展させたものだった。
漫才のネタは、一度完成したら二度と変えられないものではない。
舞台で披露して観客の反応を確かめ、セリフを調整し、設定を変え、より伝わりやすい形に作り直すことができる。
令和ロマンのネタ制作の経緯を見ると、そうした改良を繰り返してきたことが分かる。
この姿勢は、優勝後の活動ともつながっている。
王者になったからといって漫才の制作を終えるのではなく、次の大会に向けて新しい見せ方を模索し続けた。
過去の成功を再現するだけでなく、過去に作ったものを別の形へ発展させられること。
これも連覇を支えた要素の一つとして考えられる。
三つ目は、くるまとケムリの役割を変えられること
令和ロマンの漫才を語る際、髙比良くるまの分析力やネタ作りの能力が注目されることは多い。
実際、本人のインタビューでも過去のM-1を分析したことや、ネタの選択、構成を細かく考えていたことが語られている。
しかし、コンビとしての強さを考えるなら、松井ケムリの存在も欠かせない。
2024年の優勝後、くるまはFANY Magazineのインタビューで、前年と当年の漫才コントの違いを説明している。
2023年の「町工場」では、くるまがコントの人物を演じ、ケムリが外側からツッコミを入れる形だった。
それに対して2024年の「タイムスリップ」では、2人ともコントの世界に入る形を意識していたという。
同じ漫才コントでも、2人の役割分担が変化していたのである。
ケムリは単にくるまの発言に反応するだけの存在ではない。ネタに応じて、観客に状況を伝える役割と、設定の中で人物を演じる役割を担い分けている。
こうした役割の変化が可能だからこそ、令和ロマンは異なる形式の漫才を成立させられるのだろう。
四つ目は、漫才の内容だけでなく舞台での見え方も変えていたこと
2024年の令和ロマンは、ネタだけでなく舞台での見え方にも変化を加えていた。
優勝後のインタビューでは、王者として再び決勝に出場することを踏まえ、衣装を選び直したことが語られている。
また、劇場での経験を重ねたことで、声量や舞台上の立ち振る舞い、観客からの見え方についても変化があったという。
漫才は言葉だけで成立する芸ではない。
表情、姿勢、声の出し方、相手との距離、ツッコミを入れる間など、観客が受け取る情報は数多くある。
令和ロマンは2023年に優勝したあとも、こうした表現の部分を考え続けていた。
2024年の連覇は、前年と同じ漫才をそのまま繰り返して達成したわけではない。
新しいネタの制作に加え、王者になった自分たちをどのように舞台で見せるかまで考えていたことが、本人たちの発言から確認できる。
令和ロマンはM-1歴代最強のコンビなのか
M-1で史上初の2連覇を達成したことで、令和ロマンを歴代最強のコンビと評価する声が出るのも自然なことだろう。
ただし、記録と実力評価は分けて考えたい。
2025年大会終了時点で、M-1を2度優勝したコンビは令和ロマンだけである。
これは客観的な大会記録であり、異論を挟む余地はない。
一方、漫才師として歴代最強かどうかは、何を基準にするかで評価が変わってくる。
たとえば、決勝での得点、最終決戦の得票数、漫才の完成度、ネタの独創性、観客への影響など、評価できる要素は一つではない。
また、M-1は開催年によって審査員や出場者が異なり、審査方式にも変更がある。
過去のすべての王者を同一条件で競わせたわけではない以上、優勝回数だけで時代を超えた実力の絶対順位を決めることはできない。
令和ロマンはM-1史上唯一の2度優勝したコンビである。しかし、それだけで漫才師としての歴代最強が客観的に証明されたわけではない。
この区別は大切にしておきたい。
むしろ注目すべきは、勝つための準備を変え続けたこと
令和ロマンの2年間を振り返ると、2023年と2024年では大会への向き合い方が変化している。
2023年は初めての決勝に向けて過去の大会を分析し、複数のネタを候補として用意していた。
2024年は前年王者として再出場し、選び抜いた2本の漫才で勝負した。衣装や舞台での立ち振る舞いも変化させていた。
注目したいのは、前年の成功をそのまま繰り返していないことだ。
一般に、優勝した方法には再び頼りたくなるものだろう。しかし令和ロマンは、そのときの自分たちや大会の状況に合わせて準備の仕方を変えている。
これは、漫才の技術だけでなく、自分たちの現在地を見直し、新しい勝負に合わせて表現を調整する力ともいえる。
もちろん、それが連覇の唯一の原因だったと証明することはできない。
しかし、本人の発言と実際の大会結果を合わせて考えると、連覇を実現した重要な要素の一つだったと考えることはできる。
令和ロマンの2連覇はM-1の歴史に何を残したのか
令和ロマンの2連覇が残したものは、優勝回数の記録だけではない。
それまでのM-1には、まだ全国的に知られていない漫才師が大きな舞台で結果を残し、一夜にしてスターになるという側面があった。
もちろん、知名度のあるコンビや過去の決勝進出者も多数出場している。それでも、M-1優勝は漫才師にとって大きな到達点として見られてきた。
ところが令和ロマンは、その頂点に立ったあと、再び同じ大会に参加した。
そして初優勝時とは異なるネタで勝ち、2度目の王座を獲得した。
優勝したコンビが、もう一度優勝を目指してよい。しかも、それを実現することもできる。
令和ロマンは、その可能性を実際の結果によって示したコンビだった。
M-1は新しいスターを生み出す場であり、王者が挑戦する場でもある
2024年大会では、前年王者の令和ロマンと、初めて決勝に進んだバッテリィズが最終決戦で優勝を争った。
そこに真空ジェシカも加わり、異なる芸歴と持ち味を持つ3組が最終決戦に進んだ。
すでに王者になったコンビが再挑戦する一方で、新しいコンビが大きな注目を集める。
この2つが同時に起きていたことも、2024年大会の面白さだった。
王者の再挑戦が増えれば、今後も同じような構図が生まれる可能性はある。ただし、すべての王者が再出場するとは限らず、再挑戦が広く定着するかどうかも現時点では分からない。
確かなのは、令和ロマンがそれまで誰も達成していなかった結果を残し、M-1の歴史に新しい前例を作ったということだ。
そもそもM-1という大会が日本のお笑い界にどのような影響を与えてきたのかについては、M-1が休止した4年間と、お笑い界への影響を考察した記事でも詳しく取り上げている。
2025年以降も2連覇の記録は特別なものとして残る
令和ロマンが2連覇を達成した翌2025年には、新たにたくろうがM-1王者となった。
2025年大会終了時点で、2度の優勝を達成したコンビは令和ロマンだけである。
そして2026年も大会は続いている。予選から決勝までの流れは、M-1グランプリ2026の日程・結果まとめで確認できる。
今後、令和ロマンに続いて2度目の優勝を果たすコンビが現れる可能性はある。
しかし、誰かが再び2度優勝したとしても、令和ロマンが史上初の連覇を達成したという歴史は変わらない。
さらに、2年連続でファーストラウンドのトップバッターから優勝したという記録も、令和ロマンの2連覇を際立たせる要素として残り続ける。
令和ロマンのM-1連覇についてよくある疑問
M-1で2連覇を達成したコンビは令和ロマン以外にいる?
2025年大会終了時点では、令和ロマンだけである。
2023年に初優勝し、2024年にも優勝。M-1史上初の2連覇を達成した。
2009年のNON STYLE、2010年のパンクブーブーなど、前年王者が翌年も決勝に進出した例はあったが、連覇には届いていなかった。
M-1で優勝したコンビは翌年も出場できる?
出場資格を満たしていれば再出場できる。
2024年大会では結成15年以内などの条件が定められていたが、過去の優勝者という理由だけで参加を禁止するものではなかった。
ただし、参加資格は大会ごとの募集要項に従う必要があるため、今後の大会についても当該年度の公式規定を確認することが大切だ。
令和ロマンは2年とも1本目で最高得点だった?
いいえ。2023年は648点で3位、2024年は850点で2位だった。
両年ともファーストラウンドで上位3組に残り、最終決戦の投票によって優勝している。
令和ロマンが2年連続トップバッターだったのは偶然?
出番順は「笑神籤」によって決められたもので、令和ロマンが自分たちで1番手を指定したわけではない。
ただし、決まった出番に合わせて披露するネタや舞台での見せ方を準備することはできる。2023年には、くるまが複数の候補から出番順に応じてネタを選ぶ方針だったことを明かしている。
まとめ|令和ロマンの2連覇が歴史的だった理由
令和ロマンが2023年と2024年に達成したM-1グランプリ2連覇は、大会史上初の記録だった。
その価値は、単純に優勝回数が2回になったことだけではない。
- 歴代王者が再挑戦しても達成できなかった2度目の優勝を実現したこと。
- 2年連続でファーストラウンドのトップバッターから優勝したこと。
- 2年とも1本目の最高得点ではなく、最終決戦で勝ち切ったこと。
- 異なる4本の漫才を披露し、しゃべくりと漫才コントの両方で結果を残したこと。
- 前年の優勝を到達点とせず、王者として再び大会に挑戦したこと。
特に印象的なのは、2023年と2024年で準備の方法や漫才の見せ方を変えていたことだ。
2023年は出番順に対応できるよう複数のネタを用意し、2024年は選び抜いた2本と王者としての舞台表現で勝負した。
もちろん、優勝にはライバルの漫才や審査員の評価も関わる。連覇の理由を一つに決めつけることはできない。
それでも、令和ロマンが2年間で見せた準備、ネタの構成、コンビとしての表現の幅は、結果を理解するための重要な手掛かりになる。
一度頂点に立った漫才師が、もう一度同じ舞台に挑み、再び優勝する。
令和ロマンの2連覇は、M-1という大会にそれが実現可能であることを初めて示した出来事だった。
これからどれほど多くの王者が誕生しても、2023年と2024年に令和ロマンが刻んだこの記録は、M-1の歴史を語るうえで欠かせないものとして残り続けるだろう。