
発売情報
- 発売日:2023年11月22日
- 出版社/レーベル:講談社/アフタヌーンKC
- 判型・ページ数:B6判・208ページ
どんな物語?(ネタバレなしの導入)
不器用で学校にもバイトにもなじめない小林と、転校生の宇野。ふたりは“普通”のやり方に適合できない。けれど宇野は、困った世界でも生きる手順をひとつずつ発明し、行動で示す。その姿に小林は惹かれ、少しずつ自分も変わろうとする。1巻は、社会に馴染めない少年と「生きる工夫」を持つ少年が友になるまでの、静かで切実な序章だ。SNSで“泣ける”“優しいのに強い”と話題になり、連載は講談社のデジタルプラットフォーム「&Sofa」発。単行本化で一気に読者層が広がった。 X (formerly Twitter)ヨドバシ.com
受賞・話題性
本作はマンガ大賞2024「大賞」、さらに『このマンガがすごい!2025』オトコ編 第1位を獲得。講談社公式の記念PVでも“二冠達成”として告知され、作品の到達点と支持の広がりが可視化された。レビュー記事としては、この“批評性と大衆性の両立”を前提に読解を進めたい。 YouTubeAnime Trending | Your Voice in Anime!
この1巻で掴める“読み味”
1)「できない」を地図にする
物語は“できない自分”を責めない。階段の段差を細かく刻み、困りの具体(視線、人混み、手順の切り替え)を言語化・可視化する。宇野は「こうすれば回る」を提示するが、魔法の解決は出さない。読者は“明日まねできる工夫”として受け取れる。
2)説明より“手つき”で語る
台詞より先に所作がある。ノートの取り方、スマホの持ち方、鞄の詰め方——身体の段取りにキャラの思想が宿る。言葉が少ない場面でも、線のリズムで感情が伝わるので、感傷に沈まず読めるのが美点だ。
3)視線誘導と“余白”
黒を溜めて呼吸を詰め、白を開けて余裕を作る画面設計が巧い。ページ送りのテンポが読み手の心拍に同期し、クライマックスでは自然に胸が熱くなる。情緒の押し売りではなく、体感型の共感を誘う。
テーマの核:“普通”の再定義
本作が気持ちいいのは、“普通にできないこと”を恥ではなく設計課題として扱うからだ。宇野は「環境を整える」「段取りを替える」「助けを求める」など、条件づくりの技術を示す。小林はそれを見て、自分のペースをつかむ。ふたりの関係は“救う側/救われる側”に固定されず、相互に影響し合う。この水平な友情こそ、1巻の読後感を清々しくしている。
参考映像:第1巻発売記念PV(公式)
映像では、ページでは聞こえない“音”(足音、衣擦れ、息づかい)が補われ、所作の説得力がさらに増す。初読前後に一度ずつ観ると、シーンの情感が立体化する。
映像では、ページでは聞こえない“音”(足音、衣擦れ、息づかい)が補われ、所作の説得力がさらに増す。初読前後に一度ずつ観ると、シーンの情感が立体化する。初心者ガイド:どこから“面白くなる”?
構え方はシンプルで、「救いの物語」ではなく“条件づくりの物語”として読むこと。1巻は、“できないこと”を恥ではなく課題に置き換え、環境調整→段取り→確認という小さな手順で前に進む快感を、場面ごとに積み上げます。読みのコツは(1)台詞より所作を見る(ノートの取り方、荷物の持ち替え、視線の向け方)、(2)モノの配置と余白を見る(黒が増える場面は呼吸を短く、白が広がる場面は一拍伸ばす)、(3)“できた”の判定を当人基準で捉える、の3点。紙は見開きの呼吸が効き、電子は手指の動きや小物のニュアンスが拡大で拾えます。どちらでも、1巻の終盤には“この作品がどこを面白がってほしいか”が体感で掴めるはず。
「発達特性」の描写が誠実に感じられる理由
本作は、特性ラベルを安易に貼らず、困りの具体から出発します。まぶしさ・雑音・人混み・段取り変更——“何が”“どの場面で”“どう負荷になるか”を、身体のスケッチと導線の描写で示す。だから読者は、医学用語ではなく生活言語で理解できます。さらに宇野の提案は“魔法の解決”ではなく
(1)環境を変える(席・照明・導線)
(2)手順を小さく刻む(一つずつ確認)
(3)他者に頼む/伝える(合図や言い換えを用意)の三本柱。
ここに“できない自分を責めない”倫理が通っており、物語が終始やさしい温度を保てる。読者の側も「自分にも流用できる工夫」として受け取れるのが強みです。
“友だち”を道具にしない
友情が上下の救済に固定されないのも高評価ポイント。宇野は万能ではなく、時に限界を示す。小林も“守られる側”に留まらず、場を整える役に回る。関係は常に水平へ戻され、二人の相互編集で日常が少しずつ回り始める。ここに“優しさ=言葉”ではなく、“優しさ=段取り”という本作ならではの倫理が宿る。気まずさや静かな失敗も、その都度次の手順に畳み直されるので、感傷に沈まず読了後の足取りが軽い。
近縁作比較・回遊導線
「段差の細かさ」という読み味で近いのは『スキップとローファー』。あちらは集団内の視線と段差の渡り方を軽やかに描き、本作は当人の身体感覚により深く潜る。距離感の設計という点では『違国日記』とも相性がよく、言葉の温度管理と“居場所の作り方”の誠実さが共鳴します。障害/特性のテーマを“関係の技術”に落とす態度は『聲の形』の文脈からも読めるはず。記事の回遊としては、(A)学校生活×段差の渡り方=『スキップとローファー』、(B)距離の作法=『違国日記』、(C)コミュニケーションの設計=『聲の形』の3方向へ分岐させると、読者の関心に合わせて滞在時間を伸ばせます。
評価と受賞を“読みの入口”にしない
もちろん本作はマンガ大賞2024 大賞、『このマンガがすごい!2025』オトコ編1位という二冠を達成していますが、受賞歴は“入口”であって“答え”ではありません。評価の根拠は、ラベル化を避けつつ当人基準の成功を可視化した構図にあります。講談社公式や各種ニュースも受賞を伝えていますが、レビューでは受賞に納得する理由を言語化することが価値になります。この記事では、その要因を「条件づくりの技術」「所作で語る作画」「水平な友情」の3点に整理しました。 講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へHMV Japan映画.com
まとめ:“普通”はひとつじゃない、だから設計できる
1巻は、“普通”を強いる物語ではなく、“普通”を再設計する物語です。眩しさを避ける、順番を変える、合図を決める——その地味な工夫の積み重ねが、世界の手触りをやわらげていく。大声のカタルシスではなく、静かな成功が読者の胸を温める。ページを閉じた後、あなたの毎日に残るのは「頑張る」ではなく「回るように整える」という発想。今日の仕事や家事、人付き合いに、ひとつ小さな段取り変更を入れてみる。——それだけで、あなたと“宇宙”の間にある段差は、きっと少し低くなる。