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『君と宇宙を歩くために』1巻レビュー|宇野は小林を変えようとしないのに、なぜ小林は動き始める?

泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』第1巻の表紙

『君と宇宙を歩くために』1巻は、「生きづらさを抱えた二人が支え合う物語」とだけまとめると、少し違って見えます。

転校生の宇野は、小林を正しい方向へ導こうとはしません。説教もしないし、「こうすれば普通になれる」とも言わない。ただ、自分が困る場面で何をしているのかを、小林の前で隠さない。

すると、それまで何を始めても続かなかった小林が、自分から少しずつ動き始めます。

宇野は小林を変えようとしていないのに、なぜ小林は変わり始めるのか。

1巻でいちばん面白いのは、その関係の作り方です。

小林は「何もできない人」ではなく、続け方が見つからない

小林は、学校生活にもアルバイトにもなかなか馴染めません。

やる気がないわけではない。始めてみることもある。でも、その場で求められる手順や周囲との距離がうまく噛み合わず、途中で投げ出したり、失敗したりする。

1巻は、そんな小林を「怠けている人」として処理しません。同時に、「本当は特別な才能がある」と持ち上げて解決することもしない。

うまくいかない事実を残したまま、彼が何に引っかかっているのかを場面ごとに見せていきます。

宇野は小林へ「正しいやり方」を教えない

宇野にも、日常の中で苦手なことがあります。

ただ、宇野はそれを隠して「みんなと同じようにできる人」を演じるのではなく、自分が動きやすいようにノートへ書く、手順を確認する、必要な準備をする。

ここで重要なのは、宇野がその方法を小林へ押しつけないことです。

「君もこうした方がいい」と指導するのではなく、自分はこうしていると見せる。小林はその姿を見て、初めて「やり方そのものを変えてもいい」と気づいていきます。

つまり宇野が小林へ渡すのは答えではありません。できないときに、自分の側だけを責めなくてもいいという別の見方です。

小林が惹かれるのは、宇野が「できる人」だからではない

宇野は万能ではありません。むしろ、苦手なことをかなり具体的に抱えています。

それでも小林が彼を気にするのは、宇野が自分の苦手さを理由に世界から降りていないからでしょう。

宇野は困ったとき、自分に合う方法を探し直します。その姿は小林にとって、「うまくできないなら終わり」以外の選択肢として見えてきます。

だから小林の変化も、「宇野に救われて前向きになった」という一本線ではありません。宇野を観察し、自分でも試し、失敗し、また考える。少しずつ行動の仕方が変わっていきます。

二人を「救う側/救われる側」にしないのが強い

この1巻が気持ちいいのは、友情を上下関係にしないところです。

宇野が小林を助ける場面はあります。しかし、宇野だけが完成した人間で、小林だけが問題を抱えているわけではありません。

小林にも、宇野だからこそ助けられる場面が出てくる。相手の弱点を消してあげるのではなく、相手が困っているときに何ができるかを考える。

その積み重ねによって、「助けてあげる人」と「助けられる人」だった関係が、友達へ変わっていきます。

ノートや持ち物が、そのまま人物説明になっている

本作は、人物の内面を長い説明台詞だけで伝えません。

何を持っているか。どう準備するか。どこで手が止まるか。ノートをどう使うか。

そうした所作が、その人物にとって世界のどこが難しいのかを説明しています。

そのため、宇野の工夫も「生活術の紹介」には見えません。小道具や行動がキャラクター造形そのものになっています。

小林が宇野を見る場面でも、台詞より先に手元や行動へ視線が向く。読者も小林と同じ順番で宇野を知ることになります。

「普通」という言葉を、こちらから診断名へ置き換えない

作品は、二人が日常のさまざまな場面で困る姿を具体的に描きます。

ただし、少なくとも1巻を読むうえで大切なのは、それを読者側が先回りして一つの診断名へまとめないことです。

何が苦手なのか、どんなときに止まるのか、本人はどう対処しているのか。漫画はその具体を一つずつ描いています。

「普通にできない人」という大きな括りより、目の前の相手を具体的に見る。その姿勢は、小林と宇野の関係にも通じています。

弱点|小さな変化を追う作品なので、派手な展開は少ない

1巻は大事件を連発する作品ではありません。

友達になること、学校で過ごすこと、アルバイトをすること。日常の中で起きる小さな引っかかりと、小さな成功を積み上げていきます。

そのため、強い謎や大きな対立で次へ引っ張る漫画を求める場合は、かなりゆっくり感じるでしょう。

また、人物の困りごとを丁寧に描くぶん、読む側によっては「説明が細かい」と感じる場面もあります。

ただ、その細かさを飛ばすと二人の変化も成立しません。劇的な一言ではなく、行動が少しずつ変わること自体がこの作品の進行です。

マンガ大賞2024受賞。現在は6巻まで刊行

『君と宇宙を歩くために』はマンガ大賞2024の大賞を受賞し、『このマンガがすごい!2025』オトコ編でも1位となりました。

ただし、受賞歴を1巻の評価理由にはしません。1巻の面白さは、宇野と小林がどう友達になっていくのか、その過程だけで十分に説明できます。

2026年10月2日時点ではコミックス6巻まで発売済みで、7巻は2026年10月22日発売予定です。

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まとめ|宇野が小林を変えたのではなく、小林が別のやり方を見つけた

『君と宇宙を歩くために』1巻は、「うまくできない人へ正しい生き方を教える物語」ではありません。

宇野は、自分がどうしているかを見せます。小林はそれを見て、自分でも試してみる。

誰かに「変われ」と言われたからではなく、自分とは違うやり方で生きている人を知ったことで、自分にも別の選択肢があると気づく。

その変化を、大げさな成功談にせず、ノートや会話や日々の失敗で積み上げる。だから二人が友達になることにも無理がありません。

1巻で描かれるのは「普通になる方法」ではなく、相手を具体的に知ることで、自分の動き方まで少し変わっていく過程です。

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君と宇宙を歩くために(1)

何をやっても続かない小林と、自分なりの方法で日常を進む転校生・宇野。二人の友情の始まりを描く第1巻。

価格・在庫・版の違いなどは変動します。購入時は各ショップの商品ページで最新情報をご確認ください。

書誌情報

  • 作品:『君と宇宙を歩くために』1巻
  • 著者:泥ノ田犬彦
  • 出版社:講談社
  • レーベル:アフタヌーンKC
  • 発売日:2023年11月22日
  • 判型:B6判
  • ページ数:208ページ
  • 定価:946円(税込)
  • ISBN:9784065334874

書誌・刊行情報は講談社公式情報を基準に確認しています。

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