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『BLAME!』1巻レビュー|なぜ霧亥の正体も世界の仕組みも説明せず「歩く姿」から始める?

弐瓶勉『BLAME!』第1巻の表紙

『BLAME!』1巻は、主人公・霧亥が誰なのかを丁寧に説明してから始まりません。

どこまで続くのか分からない巨大構造体の中を、霧亥が歩いている。

読者に分かるのは、彼が「ネット端末遺伝子」を持つ人間を探していることくらいです。

なぜ『BLAME!』は、世界の仕組みや霧亥の正体を説明せず、「歩いている姿」から始めるのか。

1巻では、この説明不足そのものが読み方になります。読者は霧亥と同じく、目の前に現れる構造物や人々から、その都度「この世界はどうなっているのか」を推測しなければなりません。

霧亥を「案内役」にしないから、読者も迷う

SF作品では、主人公が世界のルールを説明する役になることがあります。

霧亥はそうしません。

彼自身が知っていることを、読者へ順番に教えてくれるわけではない。

目的地までの地図も、都市全体の構造も示されません。

そのため読者は「今どのくらい進んだのか」「ここは前の場所とどうつながっているのか」を完全には把握できません。

不親切に見える作りですが、巨大構造体の中で方向感覚を失う体験と一致しています。

ネット端末遺伝子という目的だけを先に置く

1巻で霧亥の旅に与えられる明確な言葉が、「ネット端末遺伝子」です。

ただし、その意味や世界全体にとっての重要性まで最初から詳しく説明されるわけではありません。

何かを探している。

それが見つかっていない。

そして霧亥は止まらず進んでいる。

この最低限の情報だけで、物語には方向ができます。

答えは分からないが、探しているものだけは分かる。

その状態を維持することで、読者は設定を理解してから進むのではなく、進みながら理解することになります。

人間より建築物を大きく描くことで、世界の主従関係を見せる

『BLAME!』1巻では、人間より建築物の方が圧倒的に大きく描かれます。

通路、階層、壁、柱、吹き抜け。

霧亥が画面の中で小さく見える場面が多く、人間の生活サイズへ合わせて作られた都市には見えません。

ここで背景は、物語を置くための飾りではなくなります。

霧亥がどれだけ強くても、この構造体全体を支配しているようには見えない。

人間が都市を使うのではなく、都市の中に人間が点在しているように見える。

世界設定を説明文で語る前に、画面の比率だけで人間の小ささを伝えます。

出会う人々を「仲間候補」として固定しない

霧亥は旅の中でさまざまな人間や集団へ出会います。

しかし1巻は、出会った人物がそのまま長期パーティーへ加入する冒険ものではありません。

一時的に接点を持ち、情報や状況が動き、また霧亥が進む。

この繰り返しが、彼の旅の長さを感じさせます。

「この人たちと物語が始まる」と思ったところで、都市の広さがそれを飲み込む。

霧亥を一つの共同体へ定着させないことが、探索そのものを主人公の状態として保ちます。

重力子放射線射出装置が、霧亥の強さより都市の巨大さを見せる

霧亥が使う重力子放射線射出装置は、非常に大きな破壊力を持っています。

普通なら「主人公の最強武器」として強さを誇示する場面になるでしょう。

ところが『BLAME!』では、一撃で構造物を大きく貫いても、その向こうにさらに空間が続きます。

武器の威力が大きいほど、「それでも都市全体から見れば一部分しか壊していない」と分かる。

主人公の力を見せながら、同時に世界の方がさらに大きいと示す使い方です。

戦闘の説明を減らすから、「何に襲われているのか」まで不安になる

1巻の戦闘では、敵の能力や組織構造を毎回丁寧に説明しません。

姿を見ても、何者なのかすぐ分からないことがある。

霧亥はすでに知っているように動いても、読者には情報が足りない。

そのため戦闘は、「どちらが強いか」だけでなく「そもそも何が起きているのか」という不安を持ちます。

台詞の少なさは静かな雰囲気づくりだけではありません。情報不足そのものを危険として機能させています。

1巻で世界の全貌を見せないから、巨大さが保たれる

もし最初に都市の全体図が示され、「何層あって、誰が管理し、どこへ行けばいい」と分かれば、世界は把握可能なものになります。

『BLAME!』はそれをしません。

霧亥が進んでも進んでも、全体像は見えない。

だから一つの巨大建築を見たあとに、さらに大きい空間が現れても矛盾しません。

読者が世界を理解し切れない状態そのものが、「どこまで続くのか分からない都市」を成立させています。

漫画表現では、台詞の少なさより「人間が小さくなるコマ」が効く

『BLAME!』は「台詞が少ない漫画」とよく説明されます。

ただ、1巻の特徴は文字数だけではありません。

人物より空間を大きく取るコマ、奥行きのある通路、どこまで続くのか分からない構造物。

人間の顔を大きく見せて感情を説明するより、人物を空間の中へ置くことで状況を読ませます。

霧亥が孤独だと書かなくても、巨大な空間に一人だけいる姿を見れば分かる。

台詞を減らした分を、背景と配置が引き受けています。

弱点|1巻だけでは用語も人物像もかなり分かりにくい

説明を削る構成は、本作最大の特徴である一方、そのまま大きな壁でもあります。

霧亥が何者なのか、ネット端末遺伝子が何なのか、敵や都市の仕組みがどうなっているのか。

1巻を一度読んだだけでは、整理し切れない部分がかなり残ります。

登場人物の感情も長い独白で説明されないため、人物ドラマを分かりやすく追いたい読者には距離があります。

「分からないまま進む」こと自体を楽しめない場合、難解さがそのまま読みづらさになります。

原作は全10巻で完結。新装版は全6巻、2017年に劇場アニメ化

旧版『BLAME!』は全10巻で完結しています。

2015年からB5判の新装版が刊行され、こちらは全6巻で完結。1冊あたりの収録量が旧版とは異なるため、購入時は版を確認した方が安全です。

2017年にはポリゴン・ピクチュアズ制作の劇場アニメ『BLAME!』が公開されました。

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まとめ|説明しないから、霧亥の旅と読者の理解が同時に進む

『BLAME!』1巻は、世界設定を理解させてから物語を始めません。

霧亥はすでに旅の途中にいて、読者だけがそこへ途中参加します。

だから分からない。

でも霧亥が何かへ出会うたび、少しだけ情報が増えます。

都市を歩く距離と、読者が世界を理解する距離を同じにする。

そのため1巻の難解さは、設定を隠して格好よく見せるためだけではありません。

全体像を持てない巨大都市の中で、何かを探して歩き続けるという霧亥の状態を、読者にも同じ形で経験させるための始まり方です。

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BLAME!(1)

探索者・霧亥が、果ての見えない超構造体を歩きながら「ネット端末遺伝子」を持つ人間を探し続ける旧版第1巻。

旧版は全10巻、新装版は全6巻で収録構成が異なります。購入時は版を確認してください。

書誌情報

  • 作品:『BLAME!』1巻(旧版)
  • 著者:弐瓶勉
  • 出版社:講談社
  • レーベル:アフタヌーンKC
  • 発売日:1998年6月20日
  • 判型:B6判
  • ページ数:236ページ
  • 定価:660円(税込)
  • ISBN:9784063141825

書誌・版情報は講談社公式を基準に確認しています。

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