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BLAME!(1)レビュー|言葉を超えた巨大建築と孤独の旅

発売情報

  • 作品:BLAME!(1)
  • 著者:弐瓶勉
  • 出版社:講談社 アフタヌーンKC
  • 巻数:全10巻(完結)
  • 電子:Kindle版配信中(講談社)

無言の世界に投げ込まれる読者

『BLAME!』を開いた瞬間、まず驚かされるのは圧倒的な静寂だ。説明文はほとんどなく、登場人物の台詞すら極端に少ない。読者はいきなり巨大構造物の迷路へと放り込まれ、方向感覚を失ったまま物語を読み進めることになる。
主人公・霧亥(キリイ)は、無骨な姿で無限に広がる都市を歩き続ける。彼が何者で、どこへ向かっているのか、当初は一切説明されない。ただ「ネット端末遺伝子を持つ人間を探している」という一言が、かすかな道標となる。言葉の少なさそのものが、世界の絶望と孤独を体感させる装置なのだ。

建築的ビジュアルが描く“都市という怪物”

弐瓶勉の筆致は、緻密な線で構築された建築物にこそ真価を発揮する。果てしなく積層する壁、直線で切り取られた巨大空間、鉄骨と配管が絡み合う迷宮。そこに人間のスケール感はほとんどなく、人間が都市の一部品にすぎないことを示している。
読者は常に「建物に圧倒される人間」を俯瞰させられる。怪物や敵と戦うシーンよりも、むしろ背景そのものが一番の脅威であり、都市が意志を持った怪物のように迫ってくるのがBLAME!という作品の異質な魅力だ。

断片的に見える人類の残滓

1巻で描かれる人間たちは、ほとんどが“都市の片隅に寄生する存在”に過ぎない。肉体を機械化した集団、異形のシステムに適応してしまった住人。そこにかつての“人間らしさ”は薄く、ただ生き延びるために身体を変え続けている。
キリイは彼らと交わりながらも、常に外部者としての距離を保つ。人類の痕跡を探し続ける彼の姿は、「もはや人類は人類であることをやめてしまったのではないか」という問いを読者に突きつける。

無音のアクションと恐怖

BLAME!の戦闘は、台詞ではなく銃声と破壊の光景で描かれる。防弾を超える威力を持つキリイの重力子放射線射出装置(グラビティ・ビーム・イミッター)の一撃は、ページを割くほどの巨大な光の奔流として描かれ、理屈抜きで「圧」を体感させる。
しかし戦闘後に訪れるのは、やはり無音の空間だ。敵を倒しても、都市は変わらず増殖を続け、キリイは再び歩き出す。その繰り返しが、読者に「虚無と執念の旅」を叩きつける。

テーマ深掘り:人間と都市の主従が逆転する

『BLAME!』の世界は、かつて人間が作り上げたネットワークと都市構造が自己増殖を続け、人間を置き去りにしてしまった舞台だ。
通常、建築は人間の生活を支えるための器である。しかしBLAME!では逆に、人間が都市に利用され、都市が意思を持ったかのように拡張を続ける
この主従の逆転は、「テクノロジーに支配される人類」という現代的な恐怖の極端な表現であり、無数の配管や壁面の積層はそのまま“人間の無力さ”を可視化している。

虚無の旅と探求心

主人公・霧亥(キリイ)の旅は、目的を語らないまま淡々と続く。彼が探す「ネット端末遺伝子を持つ人間」が何を意味するのかすら、読者には明かされない。
だが、説明不足が不親切なのではない。むしろその空白こそが物語の本質だ。
霧亥がひたすら歩き続ける姿は、答えの見えない現実を生きる我々の比喩でもある。希望を持つでもなく、絶望で立ち止まるでもなく、ただ“歩き続ける”。その執念こそが、人間を人間たらしめる唯一の証明として描かれている。

無言の恐怖と美学

BLAME!の恐怖は、怪物の造形以上に無音のページから立ち上がる。セリフや説明がないことで、ページをめくる手は迷路のように都市をさまよう感覚に近づき、読者自身がキリイと同じ孤独に晒される。
同時に、その静けさが生む美学もある。何百ページもの静寂の中で放たれる一撃の重力子放射線射出装置は、言葉以上の説得力で読者を撃ち抜く。

読後感:理解不能な世界に立つ“孤独の人”

1巻を読み終えたとき、物語の全貌はまだ霧の中だ。だが、理解不能な世界に翻弄されながら歩みを止めない霧亥の姿に、奇妙な安堵を覚える。
説明の欠如はむしろ“生きることの不確かさ”を反映しており、読者は「わからないままでも進む」という勇気を手渡される。BLAME!は虚無に抗う物語ではなく、虚無を背負ってなお進む物語なのだ。

総評

『BLAME!(1)』は、漫画表現の常識を突き崩した異色作だ。台詞も説明も極端に削ぎ落とし、建築的ビジュアルと沈黙のコマ割りだけで読者を圧倒する。
その難解さは敷居を高くするが、一度足を踏み入れれば、他では味わえない孤独と美の体験が待っている。BLAME!は“読む”というより“漂う”作品。1巻はその漂流の入り口であり、読者は帰る場所を失いながらも、この世界に囚われていく。

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