
作品概要|『赤毛のアン』とは
1979年に放送された世界名作劇場シリーズ第5作目。原作はカナダの作家ルーシー・モード・モンゴメリによる世界的ベストセラー児童文学『赤毛のアン』。
舞台はカナダ・プリンスエドワード島。孤児院からやってきた少女アン・シャーリーが、グリーン・ゲイブルズのマリラとマシュウ兄妹のもとで新たな生活を始めます。豊かな想像力と明るさで周囲の人々と交流し、成長していくアンの姿を丁寧に描いた感動作です。
本作は世界名作劇場シリーズの中でも特に高い完成度と評価を誇り、日本国内では“アニメ版赤毛のアン”として長年親しまれています。シリーズ全50話という長編の中で、アンの心の変化や日常生活がゆっくりと描かれるのが特徴。孤児として生きてきた少女が初めて「家族」を知り、人とのつながりを築いていく過程は、多くの視聴者に深い感動を与えました。
牧歌的な背景美術と静かな人間ドラマが調和した、名作劇場の中でも代表的な一本です。
あらすじ
プリンスエドワード島のグリーン・ゲイブルズに暮らすマリラとマシュウは、孤児院から少年を引き取るはずだったが、手違いでやってきたのは赤毛の少女アン・シャーリー。
最初は戸惑う二人だったが、アンの明るさと想像力あふれる会話に次第に心を開いていく。学校生活や友達との出会い、さまざまな失敗と成功を重ね、アンは成長していく──。
作品の魅力
- 少女の成長物語:孤児だったアンが“本当の家族”を得て大人へと成長していく過程。
- カナダの美しい自然描写:プリンスエドワード島の四季折々の風景が繊細に描かれる。
- 心温まる人間関係:マリラ、マシュウとの親子のような絆、親友ダイアナとの友情など。
- アンの前向きさと想像力:どんな困難も空想力と明るさで乗り越えるアンの姿が視聴者を勇気づける。
加えて本作では、アンが持つ“失敗することを恐れず、何度でも前向きに挑戦する心”が大きな魅力となっています。彼女は何度も失敗し、叱られながらも決してくじけることなく「自分の世界」を広げていきます。
物語序盤の彼女は自己肯定感が低い少女でしたが、グリーン・ゲイブルズでの生活や学校での学びを通じて少しずつ自信を身につけていく過程は、誰もが共感できる普遍的な成長物語と言えるでしょう。
アン自身の豊かな空想世界や美しい言葉選びも作品の魅力のひとつであり、視聴者は彼女と共に“心豊かな世界”を体験できます。
マリラという存在

アンの育ての親となるマリラ・カスバートは、本作において重要な存在です。
厳格で口数の少ない女性でありながら、内には深い愛情を秘めています。
物語序盤では、アンの突拍子もない言動や空想話に困惑し、度々叱責する姿が描かれます。しかし、アンと過ごす日々の中で、次第に母親のような優しさを見せるようになります。
マリラの不器用な愛情表現は視聴者の心を打ち、彼女自身もアンと共に少しずつ変わっていきます。
アンが失敗を重ねながらも前向きに成長していく一方で、マリラもまたアンとの生活を通じて、人を信じ、心を開くことの大切さを学んでいくのです。頑固でありながら温かな心を持つマリラの存在は、本作の“家族の物語”としての側面をより深く印象づけています。マリラとアンの母娘のような関係は、多くの視聴者にとって心温まる大きな魅力となっています。
見どころ解説
- アンとダイアナの友情:親友ダイアナとの交流はシリーズ屈指の名シーン。
- アンの失敗と成長:間違いを繰り返しながら成長していくアンの姿に共感と感動。
- マシュウの優しさとマリラの厳しさ:育ての親となる二人との関係の変化にも注目。
- 豊かな自然と丁寧な背景作画:背景美術はアニメーションの歴史的傑作とされるほど美しい。
また注目すべきは、アンの前向きな性格が周囲の人々に与える影響です。最初は戸惑いや反発を抱いていたマリラや、周囲の大人たちがアンと接するうちに少しずつ変わっていく様子は見どころのひとつ。
アン自身の成長と同時に、周囲の大人たちもまたアンと共に変化し、温かな家庭が築かれていく過程は、物語全体の大きな魅力と言えるでしょう。また、背景となるプリンスエドワード島の風景は物語の象徴でもあり、美しい自然とアンの空想世界がリンクする描写も視覚的な楽しさを提供します。
登場人物たちの表情や細かな仕草、心の機微を丁寧に描いた演出面にも注目してほしい作品です。
トリビア・豆知識
- 原作は1908年に出版された児童文学の金字塔。
- ペリーヌ役の鶴ひろみに代わり、アン役は山田栄子が担当。
- 「グリーン・ゲイブルズの家」は実際にカナダに現存し、観光名所となっている。
- シリーズ放送後、日本でも“赤毛のアンブーム”が起こった。
- アニメ制作は高畑勲(演出)・宮崎駿(初期背景)らが参加した名作劇場黄金期の作品。
また、当初宮崎駿は背景美術だけでなく演出にも関わる予定だったが、最終的には高畑勲が全編の演出を担当したことで、作品全体に重厚で繊細な語り口が生まれたと言われています。
さらに、アニメ制作において実際のカナダの風景写真や現地調査が活かされており、背景のリアリティは放送当時から高く評価されていました。
主題歌「きこえるかしら」やエンディング曲も視聴者に深く印象づけられ、放送終了後もCDやコンサートなどで親しまれ続けています。
世界名作劇場シリーズにおける評価
『赤毛のアン』は、少女の成長物語と心温まる人間ドラマという、名作劇場シリーズの王道スタイルを確立した作品として高く評価されています。前作までの“苦難と逆境”というテーマから一転し、前向きで明るい家庭アニメとして、多くの視聴者の心に残る作品となりました。
また背景美術や音楽など演出面でも高評価を得ており、「アニメーション作品としての完成度が最も高い」とする評価もあります。
さらに本作は、世界名作劇場シリーズの中でも特に“海外文学の原作らしさ”を活かした作品とも言われています。カナダの文化や自然風景が丁寧に描かれたことで、単なる家庭ドラマにとどまらない“異国情緒”や“文化背景”の表現にも成功しました。
児童文学らしい哲学的なセリフや、詩的なナレーションも他作品にはない特徴であり、世界観の奥行きを演出しています。原作の魅力を壊すことなく、アニメ作品としての芸術性とエンターテインメント性を両立した点が、本作をシリーズ屈指の完成度を誇る作品たらしめています。
まとめ
『赤毛のアン』は、家族・友情・自然の美しさ、そして成長を描いた普遍的な物語。 空想力と前向きな心で困難を乗り越えるアンの姿は、時代を超えて多くの人に愛されています。
世界名作劇場シリーズ屈指の名作であり、アニメ史にもその名を刻む感動作です。
本作は特に、“子どもの視点から世界を見つめること”の大切さを静かに伝えてくれる作品でもあります。アンは常に自分なりの言葉で世界を語り、誰よりも自由に夢を描きます。その姿は、視聴者自身が持つ空想力や創造力の原点を思い出させてくれるはずです。
さらに、登場人物たちとの関係性の変化や、グリーン・ゲイブルズという居場所を得て成長していく姿は、家族とは何か、生きるとは何かという根源的な問いを自然と投げかけてきます。大人になってから改めて観ると、新たな発見と深い感動を味わえる──それが『赤毛のアン』という作品です。