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ゲーセンは店ごとに難易度が違った?|DIPスイッチとオペレーター設定の世界

目次
  1. ゲーセンは店ごとに難易度が違った?DIPスイッチと店舗設定を検証
  2. ゲーセンは店ごとに難易度が違った?答えは「違う状態にできた」
  3. DIPスイッチとは何だったのか
  4. 『ドンキーコング』を見ると「DIP=難易度」ではないことが分かる
  5. 『ハングオン』では本当に難易度を変えられた
  6. 「同じゲームなのに違う」を作ったのは難易度だけではない
  7. 店員はどうやって設定を変更していた?
  8. やがて設定は「画面を見ながら行う」方式へ
  9. 『バーチャファイター』では難易度も対戦本数も店側設定
  10. デモ画面の音まで店が決められた
  11. 店はなぜ難易度を変えられるようになっていたのか
  12. 昨日の店より難しい――プレイヤーは設定差を見抜けた?
  13. 「あの店だけ敵弾が多かった」=DIP設定とは限らない
  14. 同じタイトルでも「違う基板」だった可能性もある
  15. コイン設定も店ごとに変えられた
  16. 設定を変えられるなら、全国ハイスコアはどうやって比べた?
  17. 大会では店舗設定を変えることも想定されていた
  18. 工場出荷時設定は何のためにあった?
  19. 2000年代になってもオペレーター設定は消えていない
  20. では、本当に「難しい店」「易しい店」はあったのか
  21. 「店ごとに難易度が違った」を整理すると
  22. 同じゲームなのに、別の店では何かが違う。その正体
  23. まとめ|ゲームセンターでは「店」もゲーム体験の一部だった

ゲーセンは店ごとに難易度が違った?DIPスイッチと店舗設定を検証

ゲームセンターのアーケード筐体内部に基板とDIPスイッチが見えるイラスト

いつものゲームセンターでは何度も遊んでいるゲームなのに、別の店でやると妙に難しい。

敵が多い気がする。時間が短い。残機が少ない。いつもなら届くはずの場所まで進めない。

1980~1990年代のゲームセンターを知る人なら、そんな「店によって何か違う」という感覚に覚えがあるかもしれません。

では、本当にゲームセンターごとに同じゲームの難易度は違ったのでしょうか。

結論から言えば、店舗側がゲームの難易度やプレイ条件を変更できるアーケードゲームは実在しました。

しかも変えられたのは「EASY・NORMAL・HARD」といった難易度だけではありません。作品によっては、残機、エクステンド条件、制限時間、コンティニュー、対戦本数、コインとクレジットの比率、デモ画面の音まで設定できました。

その方法も一つではありません。基板上の小さなDIPスイッチを切り替える作品もあれば、筐体内部のTESTスイッチから専用画面へ入り、メニュー上で設定する作品もあります。

ただし、ここで一つ線を引いておく必要があります。

「店が設定を変えられた」ことと、「昔のゲーセンはどの店も好き勝手に難易度を変えていた」ことは別です。

メーカーのオペレーター向け資料から前者は確認できます。一方、全国の店舗で実際にどの程度設定変更が行われていたのかを示す包括的な資料までは確認できません。

今回は、普段プレイヤーからは見えなかった筐体の「裏側」へ入ってみます。

ゲーセンは店ごとに難易度が違った?答えは「違う状態にできた」

まず、一番知りたいところから整理します。

同じタイトルを置いているゲームセンターでも、オペレーターがメーカーの用意した設定を変更していれば、ゲーム内容や1プレイの条件が異なる状態にすることは可能でした。

変更できたもの実際に確認できる例
ゲーム難易度EASY、NORMAL、HARDなど
残機・プレイヤー数3機、4機、5機など
エクステンド何点で残機が増えるか
制限時間ステージや試合の持ち時間
コンティニュー続行を許可するか
対戦条件ラウンド数、試合形式など
コイン設定1コイン1クレジット、1コイン2クレジットなど
デモ音待機中の音声を鳴らすか

重要なのは、この全部をすべてのゲームで変更できたわけではないことです。

作品によって設定項目は違います。

難易度そのものを変更できないゲームでも残機やエクステンドは変えられる。逆に、難易度は変更できても残機数は固定という場合もあります。

そのため「あの店のゲームは難しかった」という記憶が正しかったとしても、原因が必ず難易度設定だったとは限りません。

DIPスイッチとは何だったのか

昔のアーケードゲームを調べると、頻繁に出てくる言葉が「DIPスイッチ」です。

DIPは「Dual Inline Package」の略で、電子基板などに取り付けられる小型スイッチの一種。小さなON/OFFスイッチが複数並び、その組み合わせによって機器の動作を設定します。

アーケードゲームでは、このDIPスイッチがゲーム基板上に搭載され、店舗を運営するオペレーターが各種設定に利用する例がありました。

たとえば8個のスイッチが並んでいたとしても、「1番が難易度、2番が残機」という単純なものとは限りません。

2本、3本と組み合わせ、そのON/OFFのパターンによって設定値を選択する方式があります。

そして、ここでよくある誤解があります。

DIPスイッチは「ゲームを難しくするための装置」ではありません。

難易度は数ある設定項目の一つにすぎませんでした。

『ドンキーコング』を見ると「DIP=難易度」ではないことが分かる

1981年のアーケード版『ドンキーコング』は、その違いが分かりやすい例です。

確認できる設定には、残機数、ボーナスライフを獲得するスコア、コインとクレジットの比率、筐体タイプなどがあります。

項目設定例
残機3/4/5/6
ボーナスライフ7,000点/10,000点/15,000点/20,000点
コイン設定1コイン1クレジットのほか複数パターン
筐体アップライト/カクテル

ところが、この設定表には独立した「DIFFICULTY」はありません。

それでも残機が3機の店と6機の店では、同じ100円を入れたときの条件はかなり違います。ボーナスライフの獲得条件が違っても、遊びやすさは変わります。

つまりプレイヤーが「この店の方が楽だ」と感じても、それが敵そのものの強さを変える難易度設定とは限らないのです。

『ハングオン』では本当に難易度を変えられた

一方、セガの『ハングオン』では、難易度に直結する設定がはっきり確認できます。

1985年のオーナーズマニュアルには、基板上のDIP SW #2を使った設定が掲載されています。

その中には他車の出現頻度を調整する「GAME DIFFICULTY」があり、EASY、MEDIUM、HARD、HARDESTの4段階が用意されていました。

MEDIUMを基準にすると、マニュアル上ではEASYで他車の出現頻度が30%低く、HARDで40%高く、HARDESTでは80%高くなると説明されています。

さらに別のスイッチでゲーム時間も調整できます。

そして重要なのが、出荷時の状態です。

他車の出現頻度はMEDIUM、時間設定もマニュアル上で出荷時の位置が示されています。

つまり『ハングオン』では、メーカーが基準となる設定を用意したうえで、オペレーターが客の腕前などに応じて変更することを想定していました。

ここまで来ると、別の店で同じ『ハングオン』を遊んだときに「今日は他車が妙に多い」と感じる状況は、少なくとも機械の仕様上は成立します。

ただし、ある実在店舗が実際にHARDへ変更していたことまで、この資料だけで証明できるわけではありません。

「同じゲームなのに違う」を作ったのは難易度だけではない

ゲームセンターでの体験を考えると、実は「DIFFICULTY」よりこちらの方が重要かもしれません。

プレイヤーが感じる難しさは、敵の強さだけで決まりません。

スタート時の残機が少ない。エクステンドまで遠い。時間が短い。負けたあとコンティニューできない。

これだけでも、同じゲームの印象は大きく変わります。

ゲームセンターごとの差を考えるときは、次の二つを分ける必要があります。

種類意味例
難易度設定ゲームそのものの難しさを調整CPUの強さ、敵の出現頻度など
ゲーム条件1プレイを成立させる条件を調整残機、時間、エクステンド、対戦本数、コンティニューなど

プレイヤーにとってはどちらも「難しくなった」と感じられますが、内部では別の設定です。

店員はどうやって設定を変更していた?

初期のアーケードゲームでは、筐体を開けて基板上のDIPスイッチを確認する方式が多く見られます。

『ハングオン』のマニュアルでも、DIPスイッチはプリント基板上にあるものとして説明されています。

プレイヤーが操作パネルから簡単に触れるものではありません。

設定表を見ながら、必要なスイッチの組み合わせを変更する。これが物理DIP方式です。

ただし「営業中に筐体を開け、電源を入れたままスイッチを適当に切り替えていた」と考えるのは危険です。

少なくとも『ハングオン』のマニュアルは、機械内部で作業する前に電源を切るよう注意しています。タイトルや基板によって手順が違うため、DIPスイッチ変更時の電源状態や再起動の必要性は一律には扱えません。

もう一つ、筐体内部にはTESTスイッチやSERVICEスイッチを備えた例があります。

『ハングオン』ではコイン扉を開けた内部にSERVICE SWITCHとTEST SWITCHがあり、SERVICE SWITCHには料金メーターへ記録せずクレジットを増やしてゲームを確認する用途も説明されています。

プレイヤーが普段見る操作系とは別に、店員側には保守・営業のための操作系が存在していたわけです。

やがて設定は「画面を見ながら行う」方式へ

アーケードゲームの設定は、ずっと物理DIPだけで行われていたわけではありません。

ゲーム機の高性能化とともに、TESTスイッチから専用メニューを呼び出し、画面を見ながら設定する方式が重要になっていきます。

ただし、歴史を「昔はDIP、ある年から全部テストモード」ときれいに二分することもできません。

物理スイッチと画面設定が併存した時代があるからです。

NEO GEO MVSには「Hard DIP」と「Soft DIP」があった

SNKのNEO GEO MVSのオペレーションマニュアルを見ると、この過渡期がよく分かります。

1991年版のマニュアルにはTEST MODEがあり、その中に「SETTING UP THE HARD DIP」と「SETTING UP THE SOFT DIP」が別々に用意されています。

Soft DIP側ではゲームごとの難易度、コンティニュー、デモ音、ボーナス条件などを画面上で設定できます。

さらにBOOKKEEPINGでは、ゲームの稼働状況やプレイ数なども確認できました。

つまり、物理DIPを完全に捨ててから画面設定が始まったのではありません。

ハードウェア側のDIPとソフトウェア上の設定が同時に存在する仕組みもあったのです。

『PANG!3』では設定画面を見ながら変更

『PANG!3』の取扱説明書にも、画面上の設定メニューが確認できます。

難易度のほか、エクステンド、プレイヤー数、フリープレイ、画面反転、デモサウンド、コンティニューなどを選択できる構成です。

説明書では、従来の物理的なDIPスイッチ操作とは異なり、画面を見ながら設定する方式として説明されています。

「DIPスイッチ」という言葉自体が画面内の設定名称として残っている例もあり、物理スイッチとソフトウェア設定の境目は想像以上に複雑です。

『バーチャファイター』では難易度も対戦本数も店側設定

セガ『バーチャファイター』のサービスマニュアルでは、TESTモード内に「GAME ASSIGNMENTS」があります。

そこで変更できる項目には、次のようなものが含まれます。

設定内容
MATCH COUNT(1P)1人プレイ時に何本先取で勝利とするか
MATCH COUNT(対人戦)対人戦の勝利本数
DIFFICULTYEASY~HARDEST。標準設定はNORMAL
ADVERTISE SOUNDデモ時の音を鳴らすか
CONTINUEコンティニューを許可するか
COUNTRY地域・表示言語関連
CABINET TYPE使用する筐体タイプ

ここまで来ると、格闘ゲームでもCPU戦の難易度を店舗側が変更できたことは明確です。

ただし対人戦でプレイヤー同士の強さそのものを店が変えるという話ではありません。

CPU難易度と対人戦のルール設定も、分けて考える必要があります。

デモ画面の音まで店が決められた

オペレーター設定を調べていると、難易度とは直接関係のない項目もかなり見つかります。

その代表が「ADVERTISE SOUND」「DEMO SOUND」です。

ゲームが遊ばれていない間、筐体はデモ画面を流します。そのときゲームの音を鳴らすかどうかを、店舗側で設定できる作品がありました。

『ハングオン』『バーチャファイター』、NEO GEO MVSなどで確認できます。

考えてみれば、これはゲームセンターという空間そのものに影響します。

ゲーム内容だけではなく、誰も遊んでいない筐体が店内で音を鳴らすかどうかまで、オペレーター設定の対象だったのです。

店はなぜ難易度を変えられるようになっていたのか

「難しくすれば客が早くゲームオーバーになり、100円をたくさん入れてくれるから」

昔のゲーセンを語るとき、よく聞く説明です。

しかし、これをそのまま事実として採用するのは危険です。

メーカー資料を見ると、もっと慎重な運用が想定されていた例があります。

『ハングオン』のマニュアルは、プレイヤーの技量に応じて適切な難易度を設定できると説明しています。

さらに後年のセガ『Strike Fighter』では、BOOKKEEPING画面に実際のプレイ時間を記録する仕組みがあります。

平均プレイ時間、最長・最短プレイ時間に加え、30秒刻みのTIME HISTOGRAMまで表示され、そのヒストグラムを難易度設定の参考にするようマニュアルに記されています。

これは非常に興味深い仕組みです。

  1. 客がゲームを遊ぶ
  2. ゲーム機がプレイ時間を記録する
  3. オペレーターがBOOKKEEPINGを見る
  4. 必要に応じて難易度を調整する

単に「店員の気分でHARDにする」という世界ではなく、実際の稼働データを見ながら運営する仕組みまで用意されていました。

だからといって、「難しくすれば必ず売上が上がった」とまでは言えません。

難しすぎれば、今度は客がそのゲームから離れる可能性があります。

確認できるのは、プレイ時間や客の技能を考えながら難易度を調整することをメーカー側が想定していた例がある、というところまでです。

昨日の店より難しい――プレイヤーは設定差を見抜けた?

では、ゲームを遊ぶ側は「この店はHARDにしている」と分かったのでしょうか。

これも設定によります。

残機が3機から5機になっていれば、ゲーム開始直後から気づける作品があります。

制限時間が画面に表示されるゲームなら、別の店と比較して違いに気づくこともあるでしょう。

1コインで2クレジット入れば、料金設定の違いはすぐ分かります。

しかし、敵の動きやCPUの強さだけが変化する難易度設定は別です。

通常のゲーム画面上に現在のオペレーター設定が常時表示されるとは限りません。

設定値そのものを見るには、基板上のDIPや店員向けテスト画面を確認しなければならない作品があります。

つまり、プレイヤー側からすると、

「確かに違う気がする。でも何が違うのかは分からない」

という状況が起こり得ます。

ここが、ゲームセンターという場所ならではの面白いところです。

「あの店だけ敵弾が多かった」=DIP設定とは限らない

特にシューティングゲームでは注意が必要です。

ゲームには、店舗側が設定する難易度とは別に、プレイ中の状況によって内部的に難しさが変動する仕組みを持つ作品があります。

一般に「ランク」などと呼ばれるものです。

たとえばプレイヤーの装備、ミスの回数、進行状況などをもとにゲーム内部の値が変動し、その結果として敵の攻撃が激しくなる作品があります。

これは、ゲーム開始前にオペレーターが設定したDIFFICULTYとは別物です。

店舗側の難易度設定ゲーム内部のランク
誰が変える?オペレーターゲーム内部
いつ変わる?基本的にプレイ開始前の設定プレイ中に変動する作品がある
何がきっかけ?DIP、TEST MODEなどプレイヤーの行動・進行など

したがって、「別の店では敵弾が多かった」という記憶だけから、その店がDIPをHARDにしていたと断定することはできません。

同じタイトルでも「違う基板」だった可能性もある

もう一つ避けなければならないのが、店舗設定とゲームそのもののバージョン差の混同です。

アーケードゲームには、同じタイトル名でも国内版と海外版、修正版、ROMのリビジョン、基板のバージョンなどが異なる例があります。

その違いによってゲーム内容や挙動が変わっているなら、店の難易度設定とは別問題です。

『バーチャファイター』のサービスマニュアルでもCOUNTRYやCABINET TYPEといった項目が用意され、筐体タイプによってDIFFICULTYの内容が異なることまで説明されています。

「同じタイトルだから内部条件も完全に同じ」とは限りません。

コイン設定も店ごとに変えられた

難易度とは別ですが、ゲームセンター文化として見逃せないのがコインとクレジットの設定です。

『ハングオン』のマニュアルには、1コイン1クレジットだけでなく、1コインで複数クレジット、複数コインで1クレジットなど、多数の設定パターンが掲載されています。

ここでも「昔のゲームは100円を入れたら必ず1回」というわけではありません。

ゲームセンターで「1プレイ100円」という価格がなぜ長く残ったのか、50円ゲームや100円2クレジットがどう成立していたのかについては、ゲームセンターの「1プレイ100円」はなぜ長く変えられなかった?で詳しく検証しています。

設定を変えられるなら、全国ハイスコアはどうやって比べた?

ここまで来ると、一つ大きな疑問が出てきます。

店によって難易度や残機を変えられるのなら、「全国一のハイスコア」をどうやって公平に比較するのでしょうか。

現在の日本ハイスコア協会の基本ルールには、その答えが明記されています。

難易度など、スコアやプレイ内容に影響する設定は、原則として工場出荷設定と同じであること。

つまり店舗設定を完全に無視しているのではなく、比較可能にするための基準を設けています。

そして、これは形式だけのルールではありません。

同協会では、申請時の基板設定が工場出荷状態ではなかったことが判明し、記録が取り下げられた事例も公表されています。

『パイプドリーム』では、申請店舗とプレイヤー側から設定違いの申告があり、過去に『アルカディア』へ申請したスコアについても同様の問題があったとされています。

『バーニングライバル』でも、工場出荷設定ではなかったとして掲載スコアが取り下げられました。

店舗設定は、全国スコアの公平性を左右するほど実際的な問題だったことが分かります。

なお、かつての『ゲーメスト』時代の細かな集計規定については、今回確認できた資料だけで全期間を一括して説明することはできません。現在の日本ハイスコア協会のルールを、そのまま過去の『ゲーメスト』へ当てはめるのは避けるべきでしょう。

大会では店舗設定を変えることも想定されていた

通常営業とイベントで設定を使い分ける例もあります。

セガ『バーチャストライカー3』のマニュアルには、難易度、試合時間、試合形式などを変更するGAME ASSIGNMENTSが用意されています。

その中の「ONE MATCH MODE」は通常OFFが標準ですが、ゲーム大会などのイベントでONにする用途が明記されています。

試合時間も1分30秒から5分まで設定でき、標準値は2分です。

店舗設定は「ゲームを難しくするため」だけではなく、イベントのルールを作るためにも使われていました。

工場出荷時設定は何のためにあった?

各マニュアルを見ていると、「STANDARD」「DEFAULT」「When shipping」といった表記が何度も登場します。

メーカーが基準となる状態を決めていたわけです。

『ハングオン』では出荷時の設定位置が示され、『バーチャファイター』ではDIFFICULTYの標準がNORMAL、『バーチャストライカー3』でも難易度NORMAL、試合時間2分など標準値が明示されています。

この存在は重要です。

オペレーターが何でも自由に作り替えるのではなく、メーカーが用意した選択肢と基準値の中から店舗側が運営条件を調整するという構造だったことが分かります。

2000年代になってもオペレーター設定は消えていない

物理的なDIPスイッチの印象が強いため、「こうした文化は1980年代だけ」と思われがちですが、そうではありません。

セガ『バーチャファイター4 エボリューション』のマニュアルでもGAME TEST MODEからGAME ASSIGNMENTSへ入り、CPU戦の難易度、体力、対戦本数、制限時間、コンティニューなどを変更できます。

設定変更後はTEST MODEを正しく終了することで、基板上のICへ設定内容が保存される仕組みです。

さらに2019年版の『ATV Slam』オーナーズマニュアルにも、画面上のOperator Menuが存在します。

Game Time、Difficulty、Continue、Instant Rematchなどを変更でき、設定は自動保存されます。

つまり、

「昔は店が設定できたが、今は全部メーカー固定」

と考えるのも正確ではありません。

オンライン接続やアップデートが当たり前になった現在は、タイトルごとに店舗側で変更できる範囲が異なります。すべての現代アーケードゲームを一律に語ることはできませんが、オペレーター設定そのものが消滅したわけではありません。

では、本当に「難しい店」「易しい店」はあったのか

ここまで資料を確認すると、「店ごとに違った」という話をすぐ事実にしたくなります。

しかし、最後にもう一度線を引いておきます。

今回、メーカーのマニュアルから確実に確認できたのは、店舗側が設定を変更できるゲームが実在したことです。

一方、

  • 繁華街の店はHARDが多かった
  • 子どもの多い店はEASYだった
  • 常連の多い店は最高難度にしていた
  • 売上を上げるために難易度を高くする店が多かった

といった全国的な傾向を裏付ける十分な当時資料は、今回確認できませんでした。

個々の店舗でそうした運用があった可能性と、日本のゲームセンター全体がそうだったという話は分けなければなりません。

「店ごとに難易度が違った」を整理すると

よくある説明判定実際は?
昔のゲーセンは店ごとに難易度が違った条件付きで正しい変更できる作品は実在。ただし全店舗に差があったとは確認できない
店員は好きなように何でも変えられた誤りメーカーが用意した設定項目の範囲内
難易度は全部DIPスイッチで変えた誤りテストモードやソフトウェア設定も存在
DIPスイッチは難易度専用誤り残機、料金、筐体など用途は多い
残機も変えられた作品によって正しい『ドンキーコング』などに実例あり
エクステンド条件も変えられた作品によって正しい設定項目を持つ作品がある
コンティニュー禁止にもできた作品によって正しい『バーチャファイター』などに設定あり
デモ音を消せた正しい例あり複数メーカー・作品で確認できる
難しくすれば必ず売上が上がった確認できない単純な因果関係としては証明できない
ゲーム内の「ランク」と店舗設定は同じ誤り別の仕組み
後年はDIPも店舗設定も完全になくなった誤り画面型のオペレーター設定は後年も存在

同じゲームなのに、別の店では何かが違う。その正体

改めて、1980年代のある一日を想像してみます。

いつものゲームセンターで遊んでいるゲームがある。

別の日、少し離れた街のゲームセンターへ行く。

同じタイトルが置いてある。

同じゲームに見える。

100円を入れて始める。

ところが、何かが違う。

時間が短い。残機が違う。敵が多い。いつもの店より早くゲームオーバーになる。

その原因が店舗設定だったかどうかは、プレイヤーからは分からなかったかもしれません。

内部ランクかもしれない。ROMのバージョンが違ったのかもしれない。単にその日のプレイが悪かっただけかもしれません。

しかし筐体の扉を開け、そのさらに奥を見ると、ゲーム基板には小さなスイッチが並び、あるいはTESTスイッチの先に店員だけが見る設定画面がありました。

そこには、DIFFICULTY、PLAYER、BONUS、TIME、CONTINUE、COIN、DEMO SOUNDといった項目が並んでいます。

家庭用ゲームなら、同じソフトを買えば基本的には同じ初期条件から遊び始めます。

ところがゲームセンターでは、ゲームを置く「店」もまた、その一回の体験を決める要素の一つでした。

これこそが、DIPスイッチそのものより面白い部分です。

まとめ|ゲームセンターでは「店」もゲーム体験の一部だった

昔のゲームセンターで、店ごとに同じゲームの難易度が違うことはあり得ました。

『ハングオン』のように難易度を複数段階から選べる作品があり、『ドンキーコング』のように難易度そのものではなく残機やボーナス条件を変えられる作品もあります。

さらに時代が進むと、設定方法は物理的なDIPだけではなく、TEST MODEやGAME ASSIGNMENTSといった画面上のメニューにも広がりました。

そこで変えられたのは難易度だけではありません。

残機、エクステンド、時間、対戦本数、コンティニュー、料金、デモ音。ゲームによっては大会用の動作まで設定対象でした。

一方、「昔の店はどこも勝手に難易度を上げていた」とまでは言えません。

メーカーが設定変更機能を用意していたことは確認できますが、それが日本全国の店舗でどの程度使われていたのかは別の問題です。

それでも一つだけ、はっきりしたことがあります。

プレイヤーには同じゲームに見えても、その筐体の内部では、店側が選んだ設定によって1プレイの条件が変わる可能性があった。

昨日遊んだゲームと同じはずなのに、今日は何か違う。

その違和感の一部は、ゲームセンターという場所そのものが作り出していたのかもしれません。

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