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きのう何食べた?(1巻)|食卓から描かれる日常と愛情

作品概要

  • 作者:よしながふみ
  • 掲載誌:『モーニング』(講談社)2007年〜連載中
  • 単行本:既刊22巻以上(モーニングKC)
  • メディア展開:実写ドラマ(2019年・2023年)、劇場版映画(2021年)
  • 受賞歴:第43回講談社漫画賞・一般部門受賞

弁護士と美容師の二人暮らし

『きのう何食べた?』の主人公は、弁護士の筧史朗(通称:シロさん)と、美容師の矢吹賢二(ケンジ)。
一見すると正反対の二人――几帳面で節約家のシロさんと、明るくおおらかなケンジ――が、一つ屋根の下で暮らしています。
物語は、この二人の「毎日の食卓」を中心に展開。豪華な料理ではなく、家庭的で身近なメニューを通じて、愛情や価値観、時には社会問題までが浮き彫りにされていきます。

※以下はテレビ東京公式の『きのう何食べた?』予告・関連動画プレイリストです


“食べること”が紡ぐ物語

1巻から印象的なのは、シロさんがスーパーでの買い物や料理に工夫を凝らす場面。旬の食材を安く手に入れ、無駄なく使い切る様子は、現実の読者の生活ともリンクします。
「毎日の食事をどう作り、どう楽しむか」というテーマは、特別なドラマではなく日常そのもの。
その日常に「同性愛カップルのリアルな生活」を自然に重ねることで、作品は多くの人に共感と気づきを与えています。


家庭料理の温かさ

シロさんの作る料理は、決して華やかではありません。肉じゃがやぶり大根、野菜炒めや味噌汁といった、どこにでもある家庭料理です。
しかし、その一皿一皿に「誰かのために作る」という思いが込められています。
ケンジが「おいしい!」と笑顔で食べる姿は、ただの食事シーン以上に心を温かくし、読者に“食卓を囲む幸せ”を思い出させます。

『きのう何食べた?』1巻は、派手な展開はないけれど、日常の尊さを丁寧に描いた物語です。
食卓に並ぶ料理が、その日の出来事や二人の関係性を映し出す。読者は「こんな風に誰かと食事を楽しみたい」と自然に思わされるのです。
同時に、同性愛カップルの日常を描くことで、社会にある偏見や課題を浮かび上がらせつつ、それを押しつけずに“普通の生活”として提示している点も本作の魅力です。

二人の関係性のリアルさ

1巻を読むと、シロさんとケンジのやり取りが非常にリアルに描かれていることに気づきます。
シロさんは節約志向で「電気代や食費をどう抑えるか」に細かい一方、ケンジは浪費家で感情豊か。
生活リズムも性格も違う二人ですが、食卓を囲む時間を通じて互いを理解し合い、すれ違ってもまた歩み寄ります。
読者はその姿に「どんなカップルでも同じように悩み、同じように幸せを感じるんだ」と共感し、自然と心を寄せてしまうのです。


同性愛を“特別”に描かない

『きのう何食べた?』の革新性は、ゲイカップルを題材にしながらも「珍しい存在」としてではなく、あくまで“普通の暮らしを送る二人”として描いている点です。
シロさんが弁護士として働き、ケンジが美容師として働き、帰宅後に夕飯を一緒に食べる。
その日常にこそリアリティがあり、読者は違和感なく彼らを“身近な隣人”のように感じます。
同性愛に偏見を持つ人にとっても、この自然な描写が「理解の入り口」になるのは間違いありません。


ドラマ化・映画化による広がり

2019年に西島秀俊さんと内野聖陽さん主演で実写ドラマ化されると、原作の温かさを丁寧に再現した映像が話題になりました。
特に料理シーンは原作のレシピをそのまま映像化しており、視聴者が「実際に作ってみたい!」と思えるリアリティを持っていました。
その後、劇場版映画(2021年)、続編ドラマ(2023年)と展開し、原作ファン以外の層にも作品の魅力が浸透しました。
料理・日常・人間関係をテーマにした本作は、メディアを超えて幅広い人に受け入れられたのです。


なぜ長く愛されるのか

『きのう何食べた?』が1巻から支持され続ける理由は、大きく3つ挙げられます。

  • 料理のリアルさ:レシピがそのまま実用的で、読者も真似できる。
  • 日常の共感性:誰もが経験するような生活の悩みや喜びが描かれる。
  • 社会性と優しさ:LGBTQを扱いつつも説教臭さがなく、自然な理解につながる。

このバランスが、単なる“料理漫画”でも“恋愛漫画”でもない、唯一無二のジャンルを作り出しているのです。


後半まとめ

『きのう何食べた?』1巻は、派手さはなくとも、日常を大切に生きる尊さを伝えてくれる作品です。
食卓を通じて描かれる愛情や信頼、そして社会との関わりは、読む人の心に温かい余韻を残します。
「誰かと一緒にご飯を食べること」の価値を思い出させてくれる、まさに人生に寄り添う一冊です。

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