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聲の形(1)レビュー|“謝れば終わり”じゃない、人と向き合い直す物語

発売情報

  • 発売日:2013年11月15日
  • 出版社/レーベル:講談社/講談社コミックス(週刊少年マガジンKC)
  • 判型・ページ数:新書判・192ページ
  • ISBN-13:978-4063949735(ISBN-10:4063949737)
  • 電子版(Kindle)配信開始:2013年11月15日/ASIN:B00HJYUJ9C
    (講談社公式・Amazon商品ページを確認)

どんな物語?(ネタバレなし導入)

聴覚に障害のある転校生・西宮硝子と、彼女をからかい続けた同級生・石田将也。教室の空気はやがて反転し、“加害者”と“被害者”の立場が入れ替わる。1巻は過去の出来事を中心に、「赦し」と「贖罪」の原点がどのように生まれたかを描き出す導入編だ。声や音が届かない場面の“間”と、届かせようとする手話・筆談の“努力”が対になり、読者は伝わらない痛みに触れながらページを進めることになる。

読み味のコア:感情を“所作”で語る

本作は説明的なナレーションに頼らず、手の動き・視線・間で感情を伝える。たとえば、ノートへ走る文字、視線の逸れ方、口元のわずかな歪み——それらの“手触り”が、言葉では届かない気持ちを運ぶ。聴覚情報が弱い世界を、視覚の密度で補う設計が絶妙だ。結果、読者は“理解”より先に体感として物語に巻き込まれる。

テーマの骨格:“普通”は誰の基準か

からかい・傍観・同調——教室で起きることは極端な怪物の仕業ではなく、普通の延長で起きる。だからこそ痛い。作品は“悪意”だけを責めない。見ないふり、笑って流す、注意しない——無関与の連鎖が状況を悪化させる現実を、淡々と積み上げる。加害の構造を“誰か一人の悪”に還元しない姿勢が、この物語を安っぽい救済譚から遠ざける。

“音のない演出”が生む緊張

吹き出しの無音、コマ間の空白、手話の形の細やかさ。音が消えた瞬間、画面のが広がり、読者の呼吸が浅くなる。逆に、教室のざわめきや笑い声を想起させるコマではが増え、密度が圧を生む。視覚的コントラストがそのまま感情の起伏に接続され、1巻ラストの引きは“出来事”以上に温度差で刺さる。

見どころ(ネタバレを避けた表現で)

  • 硝子の“伝えようとする”反復:諦めない所作の積み重ねが胸に来る。
  • 将也の“ズレ”の描写:軽い悪戯がいつの間にか線を越える危うさ。
  • 教室の空気の反転:立場の入れ替わりが“救い”ではなく別の痛みを生む設計。

参考映像:映画『聲の形』特報(2016年/松竹公式)

※もし再生できない場合は こちら を直接開いてください。

初心者ガイド:どこから楽しめる?

『聲の形』は“いじめの話”としてだけ読むと重すぎて疲れてしまいます。けれど大切なのは「人がどうやってやり直そうとするのか」を見ていくこと。
1巻では、石田将也という少年が聴覚障害を持つ西宮硝子をからかい、そのことで彼自身が周囲から孤立していくまでが描かれます。物語の面白さは「悪いことをしたから罰を受けた」ではなく、
“その後どう生き直すか”を探るところにあるんです。

読む時のコツは3つ。

  • 手の動きや視線など、言葉にならないしぐさに注目すること。
  • 教室の空気がどんなふうに変わっていくかを感じ取ること。
  • 誰か1人のせいではなく、周りの沈黙や笑いも積み重なっていると気づくこと。

こうすると「ただ暗い話」ではなく、“人の関わり方”を考える物語として楽しめます。

赦しと贖罪は誰のもの?

本作の大きなテーマは「謝れば終わりじゃない」という点です。
将也にとって謝ることは「もう一度やり直したい」という気持ち。でも硝子にとっては、彼がどう変わったかより自分の気持ちがどう扱われるかの方が大切です。そして教室の他の子たちも“見て見ぬふりをした責任”を抱えている。
つまり、赦しや贖罪はひとりだけの問題ではなく、関わった全員の問題なんですね。これが、1巻を読んだあとに重く心に残る理由です。

音がない世界の表現

『聲の形』の面白さのひとつは、音がない場面の描き方です。
セリフが空白のまま進むページ、手話や筆談だけでやり取りするシーン。こうした静けさが、逆に強い緊張感を生みます。読みながら「どう伝えればいいのか」「どう受け止めればいいのか」と一緒に考えさせられるんです。感動させようとする“泣かせ演出”ではなく、等身大の不器用さが描かれているのがリアルで共感を呼びます。

似ている作品との比較

  • 『君と宇宙を歩くために』:こちらは“どう生きやすく環境を整えるか”を描いた作品。対して『聲の形』は“どう人間関係を立て直すか”が軸。
  • 『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』:同じように贖罪をテーマにしているが、あちらはサスペンス色が強い。『聲の形』はもっと身近で、学校や日常の人間関係に根差している。

これらと一緒に読むと「贖罪」や「普通の関係の再定義」というテーマが立体的に見えてきます。

まとめ:終わりではなく“始まり”の物語

『聲の形(1)』は、謝ることを“終わり”にせず、“始まり”として描いている点が魅力です。
人は過去を消せないけれど、そこからどう向き合い直すかは選べる。音が届かない世界でも、手や視線で想いを伝えようとする姿はとても人間的で、読む人の胸に残ります。
この1巻を読んだあと、きっと誰もが「自分ならどうしただろう」と考えたくなるはずです。重いテーマを扱いながらも、優しさの芽を信じさせてくれる物語なんです。

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