
休載は突然ではなかった。作品の歩みと周辺の出来事を、感情抜きでフラットにたどる。
2000年代を代表する少女漫画『NANA』は、2009年に作者・矢沢あい氏の体調不良をきっかけに休載へ。以降、正式な連載再開は発表されていません。一方で、展覧会やコラボ、公式ムックなど“作品と読者を再接続する動き”はこの数年で加速しています。本稿では、連載開始から休載、そして現在に至るまでの要点を時系列で整理。噂や憶測を排し、公開情報から読み取れる事実だけをまとめます。
1. 『NANA』の歩みと休載までのタイムライン

- 連載開始~ブレイク:2000年代初頭、少女漫画誌で『NANA』の連載がスタート。バンド活動と恋愛を軸にした群像劇は同世代の読者に強く刺さり、単行本は巻を追うごとにロングヒット。アニメ化・実写映画化・主題歌ヒットとメディアミックスが重なり、社会的な存在感を確立します。
- 物語の中盤へ:BLACK STONESとTRAPNEST、ナナとハチ、レンやレイラ、シン、ヤス……主要人物の選択が絡み合い、物語は“未来の回想”を織り交ぜながら緊張を高めていきます。単行本は二十巻超に到達し、読者の関心は「この先、どこへ向かうのか」へ。
- 休載の発表:2009年、作者の体調不良により連載は無期限休載へ。明確な再開時期は示されないまま、誌面から作品は姿を消します。単行本は休載直前の収録分まで刊行され、物語は“未完”の状態でストップ。
- ファンが置かれた状況:結末が見えないまま年月が過ぎ、読者側は既刊の読み返しやアニメ・映画・サントラといった関連作品で“作品の温度”を保つ期間へ。ネット上では考察や時系列整理が継続し、静かな熱は消えませんでした。
- ここが転機:2020年代に入ると、原画展や特集企画、コラボ商品など公式のアウトプットが増加。2025年には作者インタビューを含む公式ムックが刊行され、「物語は最終段階」「結末はほぼ決まっている」という趣旨の発言が伝えられます。ただし連載再開の日時は未定という点は変わらず、現状は“完結へ向かう意思はある/時期は未発表”が最新の整理です。
2. 休載後に何が起きていたか(公式の動き・周辺企画)

2009年の休載以降、『NANA』は長く誌面から姿を消しましたが、作品が完全に止まっていたわけではありません。まず大きかったのは、2022~23年にかけて全国を巡回した大型原画展『ALL TIME BEST 矢沢あい展』です。初公開を含む原画やラフ、制作メモがまとまった形で提示され、単なる回顧に留まらない“現在進行形の創作”の気配が可視化されました。会場で頒布された図録はファンの標準資料となり、休載期に生まれた疑問点を一次情報で確認できる貴重な手がかりにもなりました。
この動きと並走するように、アパレルや雑貨のコラボレーションが再加速します。とりわけUTなどのTシャツは、作品のモチーフを日常に取り戻す入り口となり、かつての読者だけでなく若い層の新規流入を生みました。SNSでは購入報告やコーデ写真が自然発生的に広がり、作品名が日常のタイムラインに再定着。映画版やサントラも再び聴かれ、紙面で触れにくい“音の質感”が読書体験を補強していきます。
決定打になったのは、2025年に刊行された公式ムック『矢沢あい「NANA」の世界』です。豊富なビジュアルとともに掲載された最新インタビューで、作者は「物語は最終段階」「結末はほぼ決まっている」という趣旨を明言。これは“すぐ再開する”という約束ではないものの、少なくとも「終わらせる意志」と「着地点の輪郭」が公式に示されたという点で大きな前進でした。以後、国内外のメディアが同書を一次ソースとして再整理記事を出し、読者側の理解も「完結へ向かう意思は確認できた/時期は未発表」という共通認識に収斂していきます。
『矢沢あい「NANA」の世界』をAmazonでチェック出版面では電子版の整備や既刊の重版・再入荷が進み、“読み直すための環境”が整いました。結末を待つ読者が、紙・電子いずれでもスムーズにシリーズへ戻れる状態になったことは、コミュニティの体温を落とさないうえで重要です。加えて、展覧会図録やムックの普及によって、二次情報に依存せず一次資料へ直接アクセスする読者が増えたことも、噂と事実を分ける基盤づくりに寄与しました。
総じて言えば、休載後の十数年は空白ではなく、「作品と読者の回線を少しずつ太くする期間」でした。原画展で制作の現場に触れ、コラボで日常に作品を戻し、音楽や映画で感情の輪郭を補い、公式ムックで作者の最新の言葉を受け取る。こうした複合的な動きの先に、いまの「未完だが、終わりに向けた意志は共有された」という現在地があります。次のアナウンスを待つ私たちに求められるのは、過剰な期待で想像を走らせることではなく、一次資料を起点に静かに温度を保つこと。その温度は、再びページがめくられる日のための、もっとも確かな下準備になるはずです。
3. なぜ“未完”のまま続報待ちになっているのか

まず前提として、『NANA』は物語構造の密度が極めて高い作品です。現在と未来が交差する“回想的語り(未来モノローグ)”によって、序盤から結末の気配が全体に拡散しており、どこか一部だけを切り出して再開すると、全体の伏線配置・時間軸の整合に大きな負荷がかかります。つまり「少し描いて少し止める」よりも、終幕に向けたまとまった制作時間が必要になりやすい設計なのです。
次に、制作体制と健康の両立という現実的要因。長期休載のきっかけが体調だったことは広く知られており、仮に再開するにせよ、以前の週刊/隔週ペースに準じる形ではなく、無理のない進行が優先されます。物語の最終段階は作画・構成に加え、過去巻との整合確認、単行本の編集工程まで含めて“誤差を最小化”する作業が求められるため、制作側の準備と安全マージンを見込んだスケジューリングが必須です。
また、媒体とフォーマットの選択も重要です。雑誌連載で段階的に出すのか、ウェブや増刊で短期集中なのか、あるいは長編読切や終章の分冊なのか——方式によって告知のタイミング、編集・校閲・印刷のライン、書店・電子の配信設計が異なります。読者告知の順序を誤ると期待と現実にギャップが生じるため、方式決定→制作進行→確定事項のみ告知という慎重なフローにならざるを得ません。
さらに、関係各所の調整も見逃せません。『NANA』はコミックスだけの案件ではなく、アニメ・映画・音楽・展示・コラボなど多層に広がったIPです。完結に向けた展開は、場合によっては販促・重版・映像/音楽サイドの動線とも連動します。情報解禁を統一するには、出版社・流通・権利窓口の足並みを揃える必要があり、結果として“確かなことだけを遅れて伝える”ほうが読者に対して誠実になります。
最後に、期待管理の観点。長い休載を経た大作は、読者の期待が自然と肥大化します。ここで最大のリスクは、“未確定の工程”を前のめりに出してしまうこと。作者自身が「結末はほぼ決まっている」「必ず終わらせたい」と意思を明言しつつも、時期だけは未発表を貫くのは、創作の純度を守り、読者の失望を避けるための妥当な判断です。言い換えれば、現在の“静かな待機”は、終幕を正確に届けるための前向きな沈黙だと整理できます。
総合すると、未完のまま続報待ちになっているのは、
(1)構造的に再開にはまとまった制作ブロックが必要
(2)健康と体制の最適化が先
(3)フォーマット決定と権利・流通の調整に時間が要る
(4)期待管理として確定事項のみ告知——という複合的な理由の帰結です。
いずれも作品と読者を守るための“必要な遅さ”であり、上滑りのスピード感より正確さを優先している、と捉えるのが公平でしょう。
4. いま読者が把握しておくべき要点(Q&A)

Q. 『NANA』はなぜ休載しているの?
A. 2009年に作者・矢沢あい氏が体調不良により無期限休載を発表しました。以降、連載再開の時期は正式には告知されていません。
Q. 作者はもう描かないの?
A. いいえ。2025年刊行の公式ムック『矢沢あい「NANA」の世界』のインタビューで、「物語は最終段階」「結末はほぼ決まっている」と明言。完結の意思ははっきり示されています。
Q. 再開はいつ?
A. 日時は未定です。制作体制やフォーマットの調整、健康面への配慮などから、確定事項が揃うまでは告知しない方針とみられます。焦点は「いつ」よりも「どう届けるか」に移っています。
Q. 休載後、作品は完全に止まっていた?
A. いいえ。2022~23年に原画展が開催され、図録が公式資料として普及。2025年には公式ムックが刊行され、アパレルや雑貨のコラボも増加。作品に触れる機会はむしろ増えており、“静かな再接続”が続いています。
Q. いま読者ができることは?
A. 既刊の再読、映画やサントラで作品の質感を補う、展覧会図録や公式ムックで一次情報に触れることです。SNSで考察やお気に入りの場面を共有するのも有効。「待つ時間もまた物語の一部」という姿勢が、健全な楽しみ方になります。
Q. ネットの噂やリークは信用していい?
A. 注意が必要です。休載の長さゆえに憶測が出やすいですが、事実確認は**公式発表や一次資料(展覧会図録・公式ムック・出版社サイト)**に基づくのが安心です。
小まとめ
- 休載は継続中だが、完結の意思は作者自身が確認済み。
- 公式の動きは近年むしろ活発化し、一次資料が整ってきている。
- 読者に求められるのは「情報源を選び、静かに温度を保つこと」。
ローマも一日にして成らず。NANAの結末もまた、静かに時をかけて築かれていくのです