- 「強くてニューゲーム」の元祖はクロノ・トリガー?起源を調査
- 結論|クロノ・トリガーは仕組みそのものの最初ではない
- まず「2周目」と「強くてニューゲーム」を分ける
- 引き継ぎの発想は1979年まで遡る
- Wizardryでは「育てたキャラクターを次のシナリオへ」
- 1984年『Ghostbusters』には「前回のお金を持って最初から」があった
- 初代『ゼルダの伝説』の「裏ゼルダ」は別系統
- 1987年『リンクの冒険』で現在の形にかなり近づく
- では『クロノ・トリガー』は何が特別だったのか
- なぜクロノ・トリガーが「元祖」のように記憶されたのか
- 「つよくてニューゲーム」という言葉もクロノが世界初?
- 『魔界村』や初代『女神転生』はどう扱う?
- 「世界初」を無理に一つへ決めない方が正確
- まとめ|クロノは「最初」ではなく、強くてニューゲームを代表する形にした
「強くてニューゲーム」の元祖はクロノ・トリガー?起源を調査

「強くてニューゲーム」と聞いて、まず『クロノ・トリガー』を思い浮かべる人は多いだろう。
一度クリアしたデータから、成長したキャラクターや所持品などを引き継ぎ、物語の最初へ戻る。いまでは珍しくない仕組みだが、『クロノ・トリガー』ではこれに「つよくてニューゲーム」という、非常に分かりやすい名前が付いていた。
では、ゲーム史上最初の「強くてニューゲーム」は『クロノ・トリガー』だったのか。
調べてみると、仕組みそのものはクロノより前から存在していたことが分かる。
育てたキャラクターを次の冒険でも使う発想は1970年代まで遡り、1984年の『Ghostbusters』には、ゲームを成功させた後に前回の資金を持って新しいプレイを始める仕組みがあった。1987年の『リンクの冒険』になると、レベルや魔法などを保持して同じ冒険を最初からやり直せる。
一方で、「だから世界初は○○」と単純に決めるのも難しい。
今回は、単なる2周目とデータ引き継ぎを分けながら、現在のNew Game+につながる流れを追っていく。
結論|クロノ・トリガーは仕組みそのものの最初ではない
先に結論を整理すると、今回確認できた歴史は次のようになる。
| 年代 | 作品 | 確認できる仕組み | 今回の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 1979年 | Temple of Apshai | 育てたキャラクターを繰り返し使う | 永続キャラクターの前史 |
| 1981年~ | Wizardry | 育てたキャラクターを別シナリオへ移す | シナリオ間継承の前史 |
| 1984年 | Ghostbusters | 成功後の資金を次のゲームへ持ち越す | クリア後資産引き継ぎの最古級有力例 |
| 1986年 | ゼルダの伝説 | クリア後に「裏ゼルダ」 | 2周目だがNG+とは別 |
| 1987年 | リンクの冒険 | 能力・魔法・剣技を残して再スタート | 現在のRPG型NG+に近い有力な先行例 |
| 1995年 | クロノ・トリガー | 成長や多くの所持品を引き継ぎ、「つよくてニューゲーム/New Game +」として再プレイ | 名称と遊び方を定着させた決定的作品 |
つまり、『クロノ・トリガー』が1995年にゼロから発明した仕組みではない。
ただし、1984年『Ghostbusters』を「世界初の強くてニューゲーム」と断定するのも避けたい。古いコンピュータゲームやアーケードゲームのすべてについて、それ以前に同種の仕組みが存在しなかったことまで証明するのは難しいためだ。
現時点で最も正確なのは、「クリア後に前回の資産を持って新しいプレイへ入る仕組みは、少なくとも1984年まで遡れる」という整理になる。
まず「2周目」と「強くてニューゲーム」を分ける
起源を調べるうえで厄介なのが、昔のゲームには「2周目」が大量に存在することだ。
最終面をクリアすると1面へ戻る。敵が強くなる。配置が変わる。2周目を終えて初めて真のエンディングに到達する。
こうした仕組みまで全部New Game+に含めると、何を探しているのか分からなくなる。
この記事では、強くてニューゲームを「一度ゲームを終えた後、進行を最初へ戻しながら、前回得た能力・資産・成長要素の一部または全部を保持して再プレイする仕組み」として考える。
重要なのは、ただもう一度始まることではない。
前回の冒険で得たものが、次の最初からのプレイを変えることだ。
引き継ぎの発想は1979年まで遡る
「前回育てたものを次でも使う」という考え方だけなら、1984年よりさらに古い。
1979年のコンピュータRPG『Temple of Apshai』では、作成したキャラクターを一度きりで使い捨てるのではなく、繰り返し冒険へ連れていくことが前提になっていた。
同作のマニュアルでも、ロールプレイングゲームのキャラクターは一回のゲームセッションが終わっても存在し続け、通常は同じキャラクターを何度も使うという考え方が説明されている。
ただし、これは現在の「強くてニューゲーム」とは違う。
ゲームをクリアし、そのクリアデータから物語を最初へ巻き戻すわけではない。育てたキャラクターを継続して使う、いわば永続キャラクターの文化だ。
それでも、「今回育てたものを次回にも残す」という発想が1970年代のコンピュータRPGにすでに存在したことは、後のNew Game+を考えるうえで重要になる。
Wizardryでは「育てたキャラクターを次のシナリオへ」
1981年に始まった『Wizardry』も、引き継ぎの歴史では外せない。
シリーズ初期には、育成したキャラクターを別のシナリオへ転送する仕組みが整えられていった。長い時間をかけて育てた冒険者を、新しい舞台でも使える。
ただ、これも今回の強くてニューゲームとは分ける。
同じゲームの物語を強い状態で最初からやり直すのではなく、別のシナリオへキャラクターを移す仕組みだからだ。
現在でいえば、続編へのセーブデータ引き継ぎに近い。
1970~80年代初頭にはすでに、「育てたものをプレイヤーの財産として次へ残す」という土台はできていた。
そこから「同じゲームをもう一度、前回より強い状態で始める」方向へ進んだ例として、興味深いのが1984年の作品になる。
1984年『Ghostbusters』には「前回のお金を持って最初から」があった
今回の調査で特に重要だったのが、Activisionの『Ghostbusters』だ。
ここで扱うのは、後に発売されたファミコン版ではない。デイビッド・クレーンが手掛け、1984年にCommodore 64などのコンピュータ向けに登場した『Ghostbusters』である。
ゲームでは、まず資金を使って車やゴースト捕獲用の装備をそろえ、街で仕事をしながらお金を増やしていく。
そしてゲームを成功させると、プレイヤーにはアカウント番号が発行される。
次のゲーム開始時にその番号を入力すると、前回終了時に残っていた資金を持った状態から再びスタートできる。
この仕様は、後世の攻略情報だけから確認したものではない。
当時のマニュアルにもアカウント番号と所持資金の仕組みが記載され、スミソニアン国立アメリカ歴史博物館も、成功後に得られるコードによって未使用資金を次のゲームへ持ち越し、進行を早められた作品として記録している。
さらに1985年1月21日放送のテレビ番組『The Computer Chronicles』には、開発者デイビッド・クレーン本人が出演。『Ghostbusters』を実演しながら、アカウント番号があれば前回のゲームを終えたときと同じ金額から始められ、資金を積み上げていける仕組みを説明している。
開発者本人が『Ghostbusters』を実演する1985年の映像
下の映像は『The Computer Chronicles』の「Computer Games」回。デイビッド・クレーン本人による『Ghostbusters』の実演が収録されている。40年以上前の映像だが、今回の記事では資料として非常に価値が高い。
「昔のゲームにもNew Game+があった」と後から分類しているだけではなく、発売直後の時点で開発者自身が前回の資産を次回へ持ち越す機能として説明している。ここは大きい。
それでも現在のRPG型New Game+とは違う
『Ghostbusters』で持ち越すのは、RPGのレベルや習得技ではなく主に資金だ。
ただし、その資金でゲーム開始時の車や装備を購入するため、単なるスコア記録ではない。前回うまく稼いだプレイヤーほど、次はより有利な環境からゲームを始められる。
つまり、
ゲームを成功させる → 成果を記録する → 次の新しいプレイでその成果を使う
という構造はすでに成立している。
そのため本記事では、『Ghostbusters』をクリア後の資産引き継ぎ周回を確認できる最古級の有力例と位置づける。
初代『ゼルダの伝説』の「裏ゼルダ」は別系統
クロノ以前の2周目を考えると、1986年の『ゼルダの伝説』も思い浮かぶ。
初代『ゼルダの伝説』には、通常とはダンジョン構成などが異なる「裏ゼルダ」が用意されている。
任天堂の開発者インタビューでは、ダンジョンを作成した際に使用していたデータ領域が想定より少なかったことをきっかけに、もう一組のダンジョンを作ることになった経緯も明かされている。
クリアした人にもう一度違う冒険を遊ばせるという意味では、非常に重要なSecond Questだ。
しかし、表の冒険で集めたハートや装備を保持して再スタートするわけではない。
今回の基準では、「クリア後の別周回」ではあっても「強くてニューゲーム」には含めない。
1987年『リンクの冒険』で現在の形にかなり近づく
初代『ゼルダの伝説』の翌年、1987年1月14日に『リンクの冒険』が発売された。
本作にはRPG的な成長要素があり、経験を積むことでATTACK、LIFE、MAGICの能力を上げられる。町では魔法を覚え、剣士から剣技も習得する。
そしてクリア後の再プレイでは、前周で上げた能力と、習得した魔法や剣技を保持して同じ冒険を最初から始められる。
一方、攻略用のアイテムやハート・マジックの上限を増やす要素などは改めて集め直す。
この構造は、現在のRPG型New Game+とかなり近い。
キャラクターそのものの成長は残す。しかし、ストーリーの進行状況は戻し、もう一度最初から攻略する。
「強くなった主人公でニューゲームを始める」という言葉から多くの人が想像する遊びが、少なくとも1987年には成立していたことになる。
『クロノ・トリガー』の発売より8年以上前だ。
ただし、『リンクの冒険』についても「世界初のRPG型New Game+」とは断定しない。1987年より前のすべてのゲームに同様の仕組みが存在しなかったことまで確認できたわけではないからだ。
では『クロノ・トリガー』は何が特別だったのか
『クロノ・トリガー』は1995年3月11日にスーパーファミコンで発売された。
一度ゲームをクリアすると利用できるのが「つよくてニューゲーム」だ。
クリア済みのデータを基にして、キャラクターの成長や習得した技、多くの所持品などを残しながら、物語の最初へ戻れる。
ここだけを見れば、「強い状態で同じゲームをもう一度」という発想はすでに『リンクの冒険』に存在している。
それでも『クロノ・トリガー』がゲーム史で特別な位置にいるのは、引き継ぎを単なる便利機能で終わらせなかったからだ。
強くなったこと自体が「別の歴史」を見る手段になる
『クロノ・トリガー』では、物語の途中にも最終ボス・ラヴォスへ挑む機会が存在する。
ただ、通常の1周目では序盤の戦力でラヴォスを倒すのは現実的ではない。
そこで「つよくてニューゲーム」が意味を持つ。
十分に成長した状態で最初から始めれば、1周目では事実上選べなかった早いタイミングでもラヴォスへ挑戦できる。そして、どの段階で倒したかによって異なる結末を見ることができる。
1995年当時の北米版攻略ガイドでも「New Game +」という名称が使われ、クリア済みデータから能力や所持品を保持して再開し、異なるタイミングでラヴォスを倒して複数のエンディングを探す遊びが説明されている。
つまりクロノでは、
強くなったから2周目が楽になる
だけではない。
強くなったからこそ、1周目にはできなかった行動を選べる。
タイムトラベル、マルチエンディング、周回プレイが一つのゲームデザインとしてつながっている。
なぜクロノ・トリガーが「元祖」のように記憶されたのか
ここまで見ると、『クロノ・トリガー』以前にも引き継ぎ周回が存在したことは明らかだ。
それでも「強くてニューゲーム」と聞けば、現在までクロノの名前が出てくる。
一つは、やはり名前の強さだろう。
「2周目」「Second Quest」だけでは、敵が強くなるのか、マップが変わるのか、同じゲームをもう一度遊ぶだけなのか分からない。
ところが「つよくてニューゲーム」なら、ほぼ説明はいらない。
強い状態でニューゲームを始める。
そのままである。
英語版でも1995年当時から「New Game +」という名称が使われていた。
もう一つは、周回する意味をゲームの中に作ったことだ。
資金を引き継げば次が楽になる。レベルを引き継げば敵を簡単に倒せる。そこからさらに一歩進み、クロノでは引き継いだ強さによって、初回には難しかった別の展開を見るところまで組み込まれた。
だからこそ、似た仕組みが以前から存在したにもかかわらず、『クロノ・トリガー』がNew Game+を代表する作品になったと考えると分かりやすい。
「つよくてニューゲーム」という言葉もクロノが世界初?
ここは、仕組みの起源とは分ける必要がある。
1995年の『クロノ・トリガー』で「つよくてニューゲーム」が使われ、北米でも同時期の資料に「New Game +」が登場していることは確認できる。
また、「つよくてニューゲーム」という表現の起点としてクロノを挙げる資料も多い。
今回の調査でも、クロノ以前に同じ名称をゲームの正式な機能名として使った確実な例は確認できなかった。
ただし、1980~90年代前半の世界中のゲーム、雑誌、マニュアル、PCソフトをすべて確認し、「それ以前には一度も使われなかった」と証明することはできない。
そのため、『クロノ・トリガー』は「つよくてニューゲーム/New Game +」という名称の起点として広く認識される決定的な作品、というところまでに留めるのが正確だろう。
『魔界村』や初代『女神転生』はどう扱う?
New Game+の古い例を探すと、ほかにもいくつかの作品名が出てくる。
『魔界村』は「2周目」だが、今回のNG+とは違う
『魔界村』は1周目だけで完全には終わらず、もう一度攻略することで真の結末へ進む構造を持つ。
しかし、前周で育てた能力や蓄えた資産を保持してニューゲームを始めるものではない。
周回プレイの歴史としては重要でも、「強くてニューゲームの起源」という今回の条件からは外れる。
初代『デジタル・デビル物語 女神転生』は引き継ぎを確認できなかった
1987年の『デジタル・デビル物語 女神転生』も、クロノ以前のNew Game+例として名前が挙がることがある。
クリア後のいわゆる「裏面」が存在すること自体は確認できる。
ただし今回の調査では、1周目で得たレベル、仲魔、装備などを持ち越して最初から始めることを、採用できるだけの資料で確認できなかった。
そのため、単に候補として名前が挙がっていることだけを理由に「クロノ以前のNew Game+」とは扱っていない。
「世界初」を無理に一つへ決めない方が正確
このテーマは「結局、最初はどれ?」と一作品に決めたくなる。
しかし調べるほど、何を「最初」とするかで答えが変わることが分かる。
育てたキャラクターを次の冒険でも使う発想なら、少なくとも1979年まで遡れる。
ゲーム成功後の資産を持ったまま新しいプレイへ入る仕組みなら、1984年の『Ghostbusters』が一次資料でも確認できる非常に古い例になる。
RPGの能力を残したまま同じ冒険を最初から始める形なら、1987年の『リンクの冒険』がクロノ以前の強い先行例だ。
そして1995年、『クロノ・トリガー』がそれを「つよくてニューゲーム/New Game +」という分かりやすい形で提示した。
この4つは似ているようで、それぞれ少しずつ役割が違う。
まとめ|クロノは「最初」ではなく、強くてニューゲームを代表する形にした
『クロノ・トリガー』は、引き継ぎ周回そのものを初めて発明したゲームではなかった。
育てたものを次へ残す考え方は1970年代のコンピュータRPGにあり、1984年の『Ghostbusters』ではゲーム成功後の資金を次の新しいプレイへ持ち越せた。
1987年の『リンクの冒険』では、能力や魔法、剣技を保持したまま同じ冒険を最初からやり直す、現在のRPG型New Game+にかなり近い形まで確認できる。
それでも『クロノ・トリガー』の価値は薄れない。
むしろゲーム史を遡ったことで、何が新しかったのかがはっきりする。
強い状態で最初から遊び直すことに名前を与え、その強さを使って1周目とは違う歴史やエンディングを見る遊びへつなげた。
前回の成果を残す仕組みはクロノ以前にもあった。
しかし、それを「もう一度この世界を遊びたくなる仕組み」として強く印象づけた作品の一つが『クロノ・トリガー』だった。
「強くてニューゲームの元祖=クロノ」とだけ覚えるより、そこへ至る長い前史まで含めて見る方が、このシステムの歴史はずっと面白い。