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SANDA レビュー|“サンタの本能”が世界を反転させる

はじめに――作品の手触り

ページを開いた途端、空気が一段冷えるような感覚がある。
舞台は、超少子化が極端に進み、子どもが“国の宝”として厳しく管理される近未来。

優しさの名を借りた窮屈さと、それに抗う小さな反逆。
SANDAは、そのぶつかり合いを、驚くほど軽やかなテンポで読ませてくる。

主人公・三田一重は“普通の中学生”として登場する。
けれど読み進めるほど、ここでの“普通”がどれほど脆い言葉かが分かってくる。
彼の背中に眠っているのは――サンタクロースの系譜。
突飛に見えるこの設定が、読み始めると自然に腑に落ちるのが本作の魔法だ。

あらすじ(ネタバレなし)

雪の降る12月25日。
クラスメイトの冬村四織は、行方不明の親友を探すために“三田の秘密”へ賭ける。

「サンタさん、友達を探してください」。
この短い祈りが、物語を一気に加速させる。

保護と統制の線引きを問うサスペンスへ。
そして、“願い”が世界を動かすアクションへ。

説明台詞は最小限。
コマ運びと“間”で語る構成が、とにかく小気味よい。

読み味――軽快さと重さの同居

重いテーマを、重く語らない。
板垣巴留の筆は、現実の痛点を直視しながら、読者の指を止めさせない。

緊張の場面でも、呼吸させる余白がある。
笑いは甘くないが、突き刺すための刃でもない。
痛みを知る者のユーモアとして、物語の温度をほんの少し上げてくれる。

理不尽な世界で“良さ”がまだ機能する瞬間。
SANDAはそこを丁寧に拾い上げ、読後に小さな灯りを残してくれる。

登場人物の“立ち方”

三田は、善良の記号ではない。
“善さに悩む”少年だ。

冬村は一直線で、でも弱さを隠さない強さがある。
読者は彼女の無茶にハラハラしつつ、いつの間にか背中を押してしまう。

大人たちは単純な悪では描かれない。
制度に絡め取られた表情の揺れが、判断を保留させる。
だからこそ、三田が“赤”をまとう瞬間、ページが一段明るくなる。
モノクロの紙面で色彩を感じさせる、この演出は快感だ。

テーマ――「願い」は誰のものか

この物語の核は、たった一語の「願い」。
子どもの願い。大人の願い。社会の願い。

善意の衣を着た圧力は、しばしば願いの主語を奪う。
SANDAはそこを一枚ずつ剥がし、もう一度“あなたの願い”として返してくる。

ヒーローは空から来ない。
誰かの小さな祈りが火種になるとき、私たちの日常の中に現れる。
サンタが運ぶのは、プレゼントではなく“本能の火”なのかもしれない。

なぜ今読むべきか

近未来の寓話でありながら、手触りはとても現代的だ。
過保護と自己責任の間で揺れる現実に、SANDAはまっすぐな物語で応える。

重い命題を掲げながら、読み味は驚くほどフレッシュ。
まずは1巻。掴みの強さに唸るはずだ。
そこから先は、あなた自身の“願い”がページをめくる――そんな読書体験が待っている。

読みどころ1:社会風刺を娯楽に昇華する力

「超少子化」というテーマだけなら、説教くさくなる危険もある。
けれどSANDAは、そこを軽快に跳ね飛ばす。

国が子どもを“保護”する建前で自由を奪う、という風刺的な状況。
それは現実のニュースと地続きだからこそ重い。
だが板垣巴留は、制度批判を正面から語らず、キャラクターの行動で示す。

笑いながら読み進めて、ふと立ち止まると背筋が冷える。
「守ること」と「縛ること」の境界線がこんなに曖昧だと気づかされる。
その瞬間、物語は単なるフィクションから、読者の生活に侵入してくる。

読みどころ2:アクションの“間”

板垣作品といえば、キャラクターの感情表現が強みだ。
SANDAでも、バトルシーンの“間”の取り方が絶妙。

パンチの瞬間よりも、その直前の息づかい。
殴られたあとの無音のコマ。
言葉を削り、視線と呼吸だけで描くアクションは、読者に想像させる余白を残す。

その余白があるからこそ、一気に爆発するコマが強烈に響く。
スピード感と説得力を両立する“間の演出”は、アニメ化でどう再現されるのか非常に楽しみだ。

読みどころ3:キャラ同士の関係性

三田と冬村の関係は、ただの“ヒーローとヒロイン”ではない。
信頼と衝突、依存と反発。
二人が互いを支えたり振り回したりするやり取りは、人間関係のリアルさを帯びている。

そして小野一会。
彼女の存在は、物語の駆動力であると同時に、“失われる恐怖”そのもの。
読者は三田と冬村の必死さを通じて、自分自身の「守りたい人」を思い出す。

大人キャラもまた重要だ。
単純な敵ではなく、“制度の声”として描かれる。
そこに揺らぎがあるからこそ、物語に厚みが生まれる。

作家性の進化――『BEASTARS』からの跳躍

前作『BEASTARS』では、動物社会を通して“生きることの寓話”を描いた。
SANDAはその延長線上にありながら、さらにストレートだ。

寓話の仮面を脱ぎ捨て、人間社会そのものを舞台に据える。
だからこそ痛みが生々しく、同時に希望も直接届く。

板垣巴留の特徴である「間」と「余白」は健在。
ただ、前作よりも台詞が削ぎ落とされ、視覚的な説得力が増している。
ページをめくるリズムに、作家としての成熟が感じられる。

今読む意義

2025年10月から始まるアニメ版は、Amazonプライムで世界独占配信される。
このニュースが示すのは、SANDAが“国内の人気作”から“世界規模の作品”へと羽ばたくということだ。

アニメで初めて触れる読者も多いだろう。
だからこそ、今のうちに原作を読んでおく価値がある。
短編的な勢いと、長編ならではのテーマの深さ。
その両方を併せ持つこの作品は、紙でも電子でも、手に取った瞬間から引き込まれるはずだ。

総評――願いを灯す物語

SANDAは、シリアスな設定を持ちながら、読後に残るのは奇妙な明るさだ。
それは「願い」というテーマが、重さを超えて前を向かせるから。

読んでいると、自分の中にも“本能の火種”があることに気づく。
守りたい誰かのために、少し無茶をしてでも動きたくなる衝動。
それを「サンタの本能」と呼ぶなら、とても美しい寓話だ。

板垣巴留は、再び“短期連載の形”で傑作を残した。
SANDAは、今まさに読むべき物語であり、これからアニメを通じて世界に届く物語でもある。

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