隙間の感想|読後に残ったのは「正しさ」ではなく、行き場のない怒りだった

『隙間』は、読んでいる最中に盛り上がるというより、読み終えたあとに静かに残り続ける作品でした。胸が熱くなる感動より先に、説明しきれない違和感や、言葉にした瞬間にこぼれ落ちてしまう感情が、手元に残ります。
タイトルだけを見ると、社会テーマの作品なのかな、と身構える人もいると思います。けれどこの記事では、作品の主張を代弁したり、解説を厚くしたりはしません。ネタバレは避けつつ、読む前に知っておきたい「温度感」を整理します。読後にどんな感情が残るのか、どんな人に刺さりやすいのか。点数や結論で裁かず、読んだ体験として、できるだけわかりやすい言葉でまとめていきます。
隙間の作品概要(ネタバレなし)
『隙間』は、高妍(ガオ・イェン)さんが描く長編漫画で、台湾と沖縄を舞台に「個人の感情」と「土地の記憶」が重なっていく物語です。主人公は台北の女子大生・楊洋(ヤンヤン)。喪失や恋の痛みを抱えたまま、交換留学生として沖縄へ渡り、出会いと生活の中で“自分の感情がどこから来て、どこへ向かうのか”に向き合っていきます。
この作品が強いのは、歴史や政治といった大きなテーマを「解説」で押し切らず、あくまで日常の温度で、主人公の“怒り”や“記憶”として立ち上げてくるところ。KADOKAWAの公式記事でも、沖縄と台湾の情景と、主人公ヤンヤンの「怒り」が作品の核として紹介されています。
基本情報(わかりやすく整理)
- 作品名:隙間
- 作者:高妍(ガオ・イェン)
- レーベル:ビームコミックス(KADOKAWA)
- 巻数:全4巻(完結)
- 発売日:1巻・2巻 2025年2月12日/3巻 2025年4月11日/4巻 2025年6月12日
- 受賞・話題:『このマンガがすごい!2026』オンナ編 第2位
隙間の読後に残ったところ(心に引っかかったポイント)※ネタバレなし
『隙間』を読み終えたあとに残ったのは、「なるほど」と理解した気持ちよりも、もっと説明しづらい、体の内側に沈むような感覚でした。作品の核にあるのは、誰かを言い負かすための正論ではなく、日常の中で少しずつ積もっていく“行き場のない怒り”です。KADOKAWAの紹介でも、主人公ヤンヤンの「怒り」が明確に軸として語られています。
まず引っかかるのは、怒りが派手な爆発として描かれないところです。怒りはもっと静かで、むしろ「黙ってしまう」「笑って流してしまう」方に近い。読みながら、胸の奥で小さく痛むような瞬間が何度も来て、そのたびに「これは今ここだけの話じゃない」と感じさせられます。台湾と沖縄という舞台が持つ空気や距離感が、その感覚をさらに濃くします。
次に残ったのは、感情と土地の記憶が、自然に重なっていく感触です。歴史や政治が前面に出る作品だと思って身構える人もいるかもしれませんが、『隙間』は“説明”で押し切らない。あくまで主人公の生活や恋、喪失の延長線上に、避けて通れないものとして立ち上がってくる。それが読後に重さとして残る一方で、読んでいる間は妙に現実的で、だからこそ逃げられない感じがあります。
そして、この作品の余韻は「きれいにまとまらない」こと自体にあります。読み終えたあとに、気持ちが整うというより、「自分の中に小さな隙間ができて、そこから何かが落ちていく」ような感覚。タイトルの“隙間”が、物語の中だけでなく、読み手の側にも残る。そういう種類の読後感でした。
話題になった理由を自分なりに整理すると、まさにここです。『このマンガがすごい!2026』オンナ編2位という評価は、派手な面白さではなく、この“残り方”を評価した読者が多いからだと思いました。
隙間が刺さる人(こんな読者におすすめ)
『隙間』は、台湾と沖縄を舞台に、主人公ヤンヤンの生活や喪失、恋の痛みとともに「怒り」や「記憶」が立ち上がってくる長編です。全4巻で完結しているので、気になった時に一気に追えるのも強み。
ネタバレなしで「刺さりやすい読者像」を整理します。
- 静かな余韻が残る作品が好きな人
読み終えた瞬間のスッキリより、数時間後や翌日に思い出してしまうタイプの読後感です。説明できない感情が残るマンガが好きな人に向きます。 - “怒り”を正論や説教で処理しない物語を読みたい人
作品紹介でも主人公ヤンヤンの「怒り」が軸として語られますが、それは誰かを裁くための怒りというより、日常の中で行き場を失う感情として描かれていきます。 - 恋愛や喪失の痛みを、きれいごとにしない作品が好きな人
ラブストーリーとして読むというより、関係の中で生まれるズレや、傷の残り方を見つめるタイプ。甘さより現実感が欲しい人に合います。 - “場所”が持つ空気や記憶に惹かれる人
台湾と沖縄という舞台は、背景ではなく感情と結びついて機能します。土地の景色や距離感が、読後の重さや温度に直結する作品が好きな人に刺さります。 - 話題作を、自分の感覚で確かめたい人
『このマンガがすごい!2026』オンナ編2位など、評価が先行している作品だからこそ、SNSの断片ではなく“自分の読後感”で判断したい人に向きます。
この作品は、読む人の経験や、その時の心の状態で刺さり方が変わります。ただ、軽く読み流すより、読み終えたあとに少し立ち止まりたい人に向いているのは確かです。
日常の「隙間」に入り込むような、人と人との距離感や心の揺らぎを描いた第1巻。 静かな空気の中にじわりと響くセリフや間合いが印象的で、 しっとり読ませるタイプの物語が好きな人におすすめの作品です。
価格・在庫・版の違いなどは変動します。購入の際は各ショップの商品ページで最新情報をご確認ください。
隙間の総評|“正しさ”より先に、怒りの置き場が残る
『隙間』を読み終えたあと、きれいにまとまった感動よりも、もっと厄介なものが残りました。言葉にした瞬間にこぼれてしまう怒り、沈黙のまま引きずる違和感、そして「それでも生きていく」しかない現実。作品の紹介でも、沖縄と台湾の情景とともに、主人公ヤンヤンの「怒り」が核として語られています。
ただ、この作品は怒りを“主張”に変換して気持ちよく終わらせません。恋や喪失の痛みの延長線上に、歴史や政治が「避けられないもの」として立ち上がってくる。その重さを、説明で押し切らず、生活の温度で読ませるから、読み手の側にも小さな隙間が残る。完結4巻(最終巻290ページ)まで読んだとき、その余韻は「理解した」で終わらず、「まだ自分の中で整理できていない」に変わっていました。
『このマンガがすごい!2026』オンナ編2位という評価は、派手さではなく、この“残り方”を受け止めた読者が多い結果なんだと思います。
権利表記
本記事で紹介している『隙間』の著作権は、作者・高妍(ガオ・イェン)氏および各権利者に帰属します。
本記事は、公式に公開されている情報をもとに、作品紹介および感想を目的として執筆しています。