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海が走るエンドロール(8)レビュー|“撮りたい理由”を言葉にする段階へ。次巻で完結

たらちねジョン『海が走るエンドロール』最新8巻は、うみ子と海(カイ)の関係がいよいよ“作品”そのものへ直結していく巻だ。 カナダの映画祭を経て、それぞれの胸に残った“刺さり”が、次の撮影と会話の選択に滲む。 表向きにドラマチックな事件が起きるわけではない。けれど、何を撮るか・どう撮るか・なぜ撮るのかという核心が、言葉と沈黙の間で少しずつ輪郭をもつ。 そして巻末で明かされるのは、「次巻で完結」という大きな区切り。物語はここから、残すべきものを選ぶモードへと移行する。

発売情報(まず事実)

  • 発売日:2025年7月16日
  • 出版社/レーベル:秋田書店/ボニータ・コミックス
  • 判型・頁:新書判相当・160ページ(紙)
  • ISBN-10/13(紙):4253265286/978-4253265287

※書誌・発売日の一次情報は秋田書店公式、ISBN・ページ数はAmazon表記を基準。電子版は同日配信。

どこまで進む?(範囲確認・ネタバレ最小)

前巻までで一度高まった緊張とわだかまりは、ここでいったん解ける。そのうえで、各自が次の一歩を探る。 たとえば、体調や時間、仕事と学業──現実的な制約は容赦ない。だが本作は、安易な夢物語に流さない。 「現実に合わせて縮む」のでも「現実を無視して突っ走る」のでもない、二人なりの折り合いのつけ方を探す。 うみ子の視線の置き方、海の言葉の選び方、沈黙の長さ。何気ないカットの連なりが、「次の撮影で何を残すか」に収束していく。

読み味ポイント(8巻の見どころ)

1. “会話”が編集になる

たらちねジョンの強みは、会話とコマの切り返しに“編集”の呼吸が宿っていることだ。 8巻では、とくに言いよどみや言い換え、視線の逸らし方が重要な情報になる。 セリフを最小限に抑えつつ、沈黙の間=主張として読むべき場面が多い。 そこで浮かぶのは、うみ子が「撮られる側」から「撮る側」へと移ってなお抱える、遠慮と欲望の両立だ。

2. 現実の重みがテーマを研ぐ

体力や年齢、生活費、学業、仕事──創作の外部にある制約は、物語を引き締める刃になる。 8巻は、その刃で「撮りたい理由」を削っていく巻だ。 便利な偶然や都合のよい支援は降ってこない。だからこそ、積み上げてきた日常の手触りが、次の撮影に具体的な意味を与える。 「撮る」とは、いまの自分の輪郭を受け入れ、それでも前へ出る行為だと分かる。

3. うみ子と海、“同志”としての距離感

年齢差ゆえのスピードの違いはある。だが8巻の二人は、相手を都合よく利用しない。 尊重と緊張のバランスが、すでに「共同制作者」のそれに近い。 依存でも師弟でもない、お互いの痛点を知ったうえでの伴走関係に到達しており、読者はそこに静かな昂ぶりを覚える。

4. カットの選び方=“好きの輪郭”の再確認

8巻では、手のアップや視線の止まり、背景の余白が例年以上に意味を帯びる。 どこで切って、何を映すか。「撮る」という行為の最小単位が、人物の関係と重なり合う。 その結果、うみ子自身の“好き”が改めて輪郭を持ち、次巻のテーマに橋が架かる。

参考映像:スペシャルPV(5〜6巻期)

最新巻専用のPVは確認できないが、公式のスペシャルPV(6巻Ver.)はシリーズの空気を掴み直すのに有効。 静かな熱とフレーミングの美しさを短時間で思い出させてくれる。

“次巻で完結”という予告の重さ

8巻の読後でもっとも強く残るのは、「ここから結末に向けて、何を残すかを決める時期に入った」という手触りだ。 長期連載にありがちな引き伸ばし感がないのは、これまでの積み重ね(家庭・体調・学び・関係性)を 「作品として残す」ための材料に整えてきたから。 つまり最終巻は“終わり”ではなく、写したいものに名前を与える行為としてのラストになるはずだ。

まずは試し読み&既刊の復習動線

電子書店と秋田書店の作品ページには試し読み導線がある。 最新巻の会話の呼吸は、既刊(とくに5〜7巻)の積み重ねで効きが変わるので、 8巻から入る人は1巻の“始動”と6巻期の“温度差”をさっと復習しておくと、言葉の重みが倍になる。

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出典(一次情報)

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