
発売情報
- 電子配信開始:2017年11月24日(マンガボックス配信) mangabox.ink
- 紙単行本(アクションコミックス):2019年10月11日/双葉社/176p/ISBN-10:4575853631 Amazon Japan
- Kindle版 ASIN:B077XWTNJF(出版社表記:マンガボックス) Amazon Japan
どんな物語?(ネタバレなし)
主人公は中学生・天童歩。ふつうに暮らしていたはずの彼が、ある“誤解”をきっかけに、同級生たちのからかいと圧力に押しつぶされていく——。1巻は、教室の空気がゆっくり濁っていく過程を追体験させます。最初は小さな悪ふざけ。でも、見て見ぬふりや笑いの同調が積み重なるほど、歩の生活は奪われていく。物語は“派手な暴力”よりも、地味で見えにくい加害の累積を丁寧に描き、読者に「どこでブレーキを踏めたのか?」を考えさせます。電子書店やアプリでの紹介文も、この緊張感を端的に伝えています。 コミックシーモアebookjapan
読みやすさのポイント
1巻の読みどころは、「事件そのもの」より空気の変化。コマの“間”やキャラの視線の泳ぎ、机や廊下の静かな描写がヒリつきを生みます。難しい知識は不要。
- しぐさを見る:ノートの取り方、俯き方、口元の歪み。言葉にはならないSOSが出ています。
- 積み重ねを見る:ちょっとした悪戯、無視、笑い——単発では軽く見える行為が、量で質を変えます。
- 周囲の動きを見る:直接の加害者だけでなく、傍観や便乗の笑いが事態を悪化させる仕組みも描かれます。
この三点だけ意識すると、“重い題材”でも迷わず読み進められます。
キャラクターの描き分け
- 天童歩:受け身で優しい。だからこそ“無視・命令・嘲笑”の矛先が刺さり、心がきしむのがわかる。
- 不良グループ:最初は軽口の延長。けれど「やめ時」を見失うことで、日常が壊れていく。
- クラスのその他大勢:この作品の鍵。彼らの「静かな参加(見ない・笑う)」が、教室全体を加害の場に変えます。
善悪のラベルを先に貼らないため、どの人物にも“自分の身近さ”を感じてしまうのが、読後に効いてきます。
表現のトーン:過剰な演出に頼らない
絵柄はスッと読めるシンプル寄り。だからこそ、沈黙や間が重く響きます。“えぐいシーン”を連打してショックで引っ張るのではなく、読者の想像が入り込む余白を残すタイプ。電子書店の紹介ページでも、露悪に走らず「なぜこうなったのか」を追う筋立てが強調されています。最初の1巻は、これから加速度的に重くなる展開の“助走”として、現実味のある怖さを積み上げるパートです。 まんが王国
どんな読者に刺さる?
- “いじめのリアル”を、極端な悪人だけの話にせず、教室の構造や空気として読みたい人。
- 大声の感動ではなく、小さな行動の選び方を考えたい人。
- 『聲の形』や『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』のように、贖罪や傍観の責任に関心がある人。
重いけれど、読み終えると「明日、自分はどこで立ち止まるか」が少しだけ具体になります。
参考映像:公式紹介動画(マンガボックス)
連載元のマンガボックスが公式で告知している紹介動画がYouTubeにあります。記事の「見どころ」直後か「まとめ」の直前に入れると、文章で伝えた空気感を視覚で補強できます。
※再生できない場合は YouTubeで直接視聴 をお試しください。
初心者ガイド:どう読むと腑に落ちる?
この作品は“犯人探し”よりも、空気が濁っていく手順を見ると腹落ちします。
- まずは「最初のズレ」を拾う……軽いからかい、視線の逸らし、笑いの方向。
- 次に「止められたはずのタイミング」を探す……誰かが一言いえば流れが変わった場面。
- 最後に「積み重ねで質が変わる瞬間」をチェック……冗談→無視→命令へと段差が上がるところ。
台詞よりしぐさと間に注目すると、登場人物の不安や後ろめたさがよく見えます。紙は見開きの“引き”が効き、電子は表情の細部や背景の静けさを拡大で拾えるのが◎。
“見えない加害”と傍観の責任
1巻の怖さは、殴る蹴るの派手さではなく、小さな行為の累積です。
- からかう人だけでなく、見て笑うだけの人、見ないふりをする人も、教室の空気を後押ししてしまう。
- 一つひとつは“軽い”のに、量が増えると生活の土台を崩す力になる。
だから読後に残る問いは、「悪いのは誰か?」ではなく、**「自分はどこで止まれたか?」**です。ここを自分事として考えられるのが、本作の価値。
実在感を生む表現
絵柄はシンプルで読みやすいのに、ページの沈黙が重い。机の影、廊下の遠景、俯いた肩……説明を増やさず、読者の想像に託す作りです。ショック演出に頼らないぶん、心に刺さる痛みが遅れて効くタイプ。1巻は“助走”ですが、すでに十分ヒリつきます。
初めて読む人への注意(コンテンツノート)
作品全体では、心理的負荷の高い描写があります。体調の良いときに、ページを閉じる自由を手元に置いて読み進めましょう。重いテーマですが、1巻は“なぜ起きるのか”を丁寧に追う段階なので、構えて大丈夫。
近縁作比較
- 『聲の形』:教室に広がる“見えない加害”を、所作と間で描く点が共通。こちらはより直線的に事態が悪化していく。
- 『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』:贖罪とラベル(悪魔)をめぐる心理スリラー。対して本作は“日常の崩れ方”の観察に重心。
- 『君と宇宙を歩くために』:こちらは“生きやすくする段取り”を描く対照枠。並べて読むと、整える技術 vs. 崩れていく空気が立体的に見える。
実用メモ:読後にできること(ミニチェックリスト)
- 「その場にいない人」を笑いのネタにしていないか?
- “ちょっとしたノリ”で誰かを消費していないか?
- 困っていそうな人に、一言だけ声をかける余地はないか?
物語を読んだ後、明日からの自分の行動に小さなブレーキを一つ足す——それだけで空気は変わります。
まとめ:軽さが積もると、重さになる
『イジメの時間(1)』は、軽い行為が積もると重い現実になることを、静かな筆致で見せます。誰か一人の悪ではなく、場の空気が作る加害。その“止められたはずの瞬間”を読み取るほど、教室の景色が自分ごとに迫ってくる。暗いだけの物語にしないために、ページを閉じたあと、明日の一言を準備しておきたい——そんな気持ちにさせる導入巻でした。