- 『月花霧幻譚 TORICO』レビュー|霧の街を歩くADVはなぜ72点?
- 『月花霧幻譚 TORICO』はどんなゲーム?
- 記憶を失ったフレッドは、霧の街で何をするのか
- 自由な3D探索ではなく、映像をつないで街を歩く
- 一度の移動なら演出、十度目になると待ち時間になる
- 街を覚えること自体が攻略になる
- 前半「凶兆編」は、会話の順番そのものが謎になる
- 「情報をつなぐ」と「フラグを探す」は紙一重
- 謎が難しいのではなく、「次の一手」が見えにくい
- 過去の映像を見返せても、「次に行く場所」までは教えてくれない
- アイテムは鍵ではなく、会話と場所を結ぶ媒介になる
- ディスクB「崩壊編」では、同じゲームの手触りが変わる
- 助け方を知らないと、救出したつもりでも結果が変わる
- 同じ人物を二度見るから、前半の会話が無駄にならない
- 映像の粗さが、必ずしも世界観を壊してはいない
- 音は「雰囲気作り」だけでなく、街に滞在させる役割を持つ
- 『夢見館の物語』から受け継いだのは、物語そのものではなく探索の考え方
- 「夢見館シリーズ第3作」「前日譚」と断定しなくても魅力は説明できる
- 戦うゲームではないからこそ、「止まった時間」が重い
- 攻略を見たときに快適になることは、長所の証明ではない
- なぜC TierではなくB Tierなのか
- では、なぜA Tierへ届かず72点なのか
- 海外版『Lunacy』とは分けて考える
- 2026年現在、『月花霧幻譚 TORICO』を遊ぶ方法
- まとめ|街を覚えたときは面白い。進行条件を見失ったとき、その街が急に広くなる
『月花霧幻譚 TORICO』レビュー|霧の街を歩くADVはなぜ72点?

霧に閉ざされた街へ入り、住人の話を聞きながら失った記憶と「月の街」の手掛かりを追う。『月花霧幻譚 TORICO』を言葉だけで説明すると、幻想的な世界を歩く一人称視点のアドベンチャーという紹介で終わりやすい作品です。
しかし、実際にプレイヤーが繰り返すことはもっと具体的です。街の道順を覚え、人物の話から次に関係しそうな場所を考え、以前調べた場所へ戻り、入手したアイテムを使いながら進行条件を一つずつ成立させていきます。
問題は、その手掛かりがいつも十分に見えているわけではないことです。
「あの人物の話を聞いたから、次はあそこへ行こう」と推理できる場面なら、街を歩く時間そのものが探索になります。一方で、誰の会話が更新されたのか分からないまま街を再巡回することになれば、同じ移動はフラグを探す作業へ変わる。しかも『月花霧幻譚 TORICO』では、一歩ごとの移動を映像でつないで見せるため、試行錯誤が増えるほど移動時間と画面切り替えの重さまで積み重なっていきます。
つぶログのセガサターン全1,057ソフトTier表では、本作をB Tier・72点・総合399位タイとしました。
世界をもっと調べたくなる魅力と、次に何を調べればいいか分からなくなったときの負担が、同じ街の中に共存している。その境界を考えると、72点という評価が見えてきます。
『月花霧幻譚 TORICO』はどんなゲーム?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイトル | 月花霧幻譚 TORICO |
| 対応機種 | セガサターン |
| 発売日 | 1996年6月28日 |
| 発売 | セガ |
| 開発 | システムサコム |
| ジャンル | アドベンチャー |
| プレイ人数 | 1人 |
| 価格 | 6,800円(税別) |
| 型番 | GS-9056 |
| ディスク | CD-ROM 2枚組 |
| Tier | B |
| 評価 | 72点 |
| 総合順位 | 399位タイ |
セガの公式ソフトウェア一覧では、1996年6月28日発売、ジャンルはADV、価格6,800円、型番GS-9056と記録されています。開発はシステムサコムで、日本版は2枚のCD-ROMから構成されます。
同年8月にはソフトバンク出版事業部から『月花霧幻譚~TORICO~オフィシャル・ガイド』も刊行されました。95ページのガイドにはディスク別の完全攻略マップ、スタッフインタビュー、竹本健治による書き下ろし短編などが収録されています。
スタッフクレジットでは竹本健治が「Original Form」として記録され、オープニングとエンディングの音楽を野見祐二が担当。ゲーム内音楽には鈴木英夫、神保直明の名前が確認できます。竹本自身も後年のインタビューで『月花霧幻譚 TORICO』へ関わったことに触れています。
記憶を失ったフレッドは、霧の街で何をするのか
主人公の名はフレッド。これは北米版『Lunacy』だけの名称ではなく、日本版マニュアルを翻訳した資料や日本版キャスト情報でも確認できます。
フレッドは過去の記憶を失い、額に謎の紋章を持ったまま自分の素性を求めて旅を続けています。たどり着いた霧の街ではよそ者として捕らえられますが、街を支配するゴードンは、その紋章が伝説の「月の街」と関係していると考え、フレッドへ月の街を探すよう命じます。
この設定は、単に謎めいた物語を作るためだけのものではありません。
フレッドは街の事情を知らず、プレイヤーも知らない。住人の人間関係、建物の位置、月の街について知っている人物、誰が何を隠しているのかを歩きながら理解していくため、主人公の記憶喪失とプレイヤーの情報不足が同じ方向を向いています。
物語上の「過去を探す」という目的が、そのままゲーム上の「街から情報を集める」という行動につながっています。
自由な3D探索ではなく、映像をつないで街を歩く
画面は一人称視点ですが、現在の3Dゲームのようにアナログスティックで空間内を自由に歩くゲームではありません。
十字キーで前進や後退、方向転換を選ぶと、その地点から次の地点へ移動する映像が再生されます。街そのものは3D CGで作られていますが、プレイヤーの移動は用意された経路と映像をつなぐ方式です。基本操作も非常に少なく、方向キーに加えてメニューを開くXボタン、過去に見たシーンを呼び出すZボタンなどで構成されています。
この方式には利点があります。
細かなカメラ操作を必要としないため、操作そのものに忙しくならず、街並みや人物の話へ集中できます。曲がり角を抜けて別の通りへ出るときも専用の映像が流れるので、霧の街を「画面の集合」ではなく一つの場所として感じやすい。
ただし、何度も同じ場所を往復するゲームでは、その演出が別の問題を生みます。
一度の移動なら演出、十度目になると待ち時間になる
街を初めて歩くとき、建物から建物へ移動する映像は世界を知るための時間になります。
道の雰囲気が分かり、どの家が隣接しているのかを覚え、霧の街そのものに慣れていく。移動映像があるからこそ、ある場所から瞬時に別の場所へワープするメニュー式アドベンチャーとは違う空間感覚が生まれます。
ところが、謎が止まったときには意味が変わります。
次に誰へ話せばいいのか分からないため、ローズの家へ行き、何も変わっていなければモースの家へ戻り、さらにマックを訪ねる。途中で「あの場所をもう一度調べる必要があるのかもしれない」と考えれば、再び街を横断することになります。
『月花霧幻譚 TORICO』は、この試行錯誤と移動演出が切り離されていません。
探索で迷った回数だけ、移動そのものの時間も増える。
72点を考えるうえで、これはかなり大きなポイントです。
街を覚えること自体が攻略になる
攻略資料では霧の街に、牢屋、森、酒場、モースの家、焼け跡、花屋、時計職人マックの家、風車小屋、ハンナの宿、墓地、グレイの家、ゴードンの屋敷、アントニーの家、井戸など、多数の地点が確認できます。
操作説明からは専用のゲーム内マップをいつでも呼び出す機能は確認できず、後年の攻略資料でも街の構造を理解するために独自の地図が用意されています。公式ガイドが「ディスク別完全攻略マップ」を大きな特徴として掲げていたことからも、この街の地理を把握すること自体が攻略上重要だったことが分かります。
最初は道を間違えることがあります。
しかし、花屋から墓地へどう行くか、井戸から医師の家へどう戻るかといった位置関係が頭に入ると、探索はかなり変わります。誰かの話を聞いて場所の名前が出たとき、その地点を自分の中の地図へ結び付けられるようになるからです。
迷うことすべてが欠点ではありません。
霧の街を覚えていくこと自体は、本作のゲーム性の一部です。
問題になるのは、地理を理解した後も「何をすれば次のイベントが発生するのか」が分からなくなる場面です。
前半「凶兆編」は、会話の順番そのものが謎になる
本作のディスクAは「凶兆編」、ディスクBは「崩壊編」として構成されています。日本版マニュアルを基にした資料でも、この2枚組構成が確認できます。
前半の凶兆編では、霧の街を歩きながら住人と会話し、アイテムや月の街へつながる情報を集めていきます。
この進行を見ると、本作が単純な「謎を解くゲーム」ではないことが分かります。
たとえば墓地では、先に花のない墓を確認し、その後でローズの家へ戻って花を調べ、ローズと会話してから再び花を調べることで入手できるようになります。その花を墓へ供えたことでグレイとの会話が進み、さらに別の場所への手掛かりが生まれます。
薬草も同様です。モースの家で本を調べて薬草について知った後に、牢屋付近の道端を調べることで入手し、それをモースへ渡した結果として懐中時計を得ます。その時計をマックへ持っていくと、さらに別のアイテムへつながります。
一つひとつを見れば因果関係があります。
だから、すべてが理不尽なフラグというわけではありません。
「情報をつなぐ」と「フラグを探す」は紙一重
先ほどの薬草なら、医師が必要としているものを知り、街でそれを探して届けるという流れは理解できます。
しかし前半には、人物との会話を何度か更新しながら複数の家を行き来する区間もあります。攻略手順を追うと、ローズ、ハンナ、マック、モースといった住人へ何度も戻り、その間に別の人物と話したことをきっかけとして会話内容が変化していきます。
これがうまく機能している間は、人間関係を追うゲームになります。
「さっきあの人が話していたことなら、この人物が何か知っているのではないか」と考えて戻り、実際に新しい会話が始まれば、自分で情報を結び付けた感覚があります。
ところが、その関連が十分に示されない場合には、同じ行動が「会話が変わっていそうな人物を片っ端から確認する」作業になります。
『月花霧幻譚 TORICO』で難しいのは、複雑なパズルそのものよりも、この境界です。
謎が難しいのではなく、「次の一手」が見えにくい
本作の仕掛けには、手掛かりを理解すれば納得できるものも多くあります。
錆びた扉には油を使う。暗い場所ならランタンが必要になる。風を利用する場面では小麦粉が役に立つ。こうしたアイテム用途は、状況と持ち物を結び付ければ考えられます。
一方で、アイテムを持っているだけでは進まない場合もあります。
特定人物との会話を済ませていること、以前の場所を再び調べること、会話後に同じオブジェクトへもう一度アクセスすることなどが条件になるため、プレイヤーが「考え方は合っているのに、必要なフラグを一つ踏んでいない」状態へ入り得ます。
このとき、難問を解けずに止まっている感覚とは少し違います。
論理的な答えを考える材料が足りないまま、街のどこかに残った条件を探しに行くことになるからです。
それでも移動が瞬時なら負担は小さいでしょう。しかし本作では、家へ戻るたびに道を歩く映像を経由します。
導線の弱さが、そのまま移動コストの増加へつながる。
ここがA Tierへ届かなかった最大の理由です。
過去の映像を見返せても、「次に行く場所」までは教えてくれない
本作には、すでに見た重要な映像を呼び出して見返せる機能があります。Zボタンからディスクごとの記憶シーンへアクセスできるため、以前の会話やイベントを確認したいときには便利です。
これは物語と謎解きの両方に意味があります。
会話がそのまま手掛かりになっているゲームなので、重要そうな場面を見直せることは、メモを取らなければすべて失われる設計より親切です。
ただし、現在のクエスト一覧のように「次は誰に会う」「このアイテムをここで使う」と整理してくれる機能ではありません。
情報そのものは保存されている。
その中から何が攻略に必要なのかを判断するのはプレイヤーです。
この距離感は本作らしいところですが、進行を見失ったときの救済としては弱めです。
アイテムは鍵ではなく、会話と場所を結ぶ媒介になる
アイテムの使い方も、本作の探索を理解するうえで欠かせません。
鍵なら対応する扉へ使うだけですが、『月花霧幻譚 TORICO』では、花、薬草、懐中時計、油、縄梯子、ランタン、小麦粉など、人物の事情や場所の状態と関係する物が次々に登場します。
面白いのは、アイテム単体で謎を完結させるのではなく、人との会話を挟むことです。
薬草を見つける前にモースから情報を得る必要があり、墓へ花を供えるためにはローズとのやり取りが関わる。アイテム探しと人間関係が別々のシステムになっていません。
その結果、街を「鍵穴を探すダンジョン」ではなく、人が生活している場所として見る理由が生まれています。
一方で、用途を推測しにくいアイテムや、使用条件がフラグに左右される場面では総当たりもしやすい。考えて使ったのか、とりあえず持ち物を試した結果進んだのかによって、同じイベントでも手応えはかなり変わります。
ディスクB「崩壊編」では、同じゲームの手触りが変わる
前半を終えてディスクBへ移ると、舞台と目的が大きく変化します。
崩壊編ではアイテムを集めながら囚われた人々を救出し、4つの「ほこら」を開いて蝶を解放し、最終的に月の塔へ向かいます。前半ほどイベント順が固定されておらず、複数の救出や探索をある程度並行して進められます。
この変化は大きいです。
凶兆編では、街の人々について知りながら月の街への道を探していました。崩壊編では、それまで話してきた人物たちを今度は助ける側になります。
前半で築いた人物関係が、後半では攻略対象へ変化するわけです。
単にディスクが変わって新しい場所へ進むだけではありません。
助け方を知らないと、救出したつもりでも結果が変わる
崩壊編では、人を見つけて扉を開けば必ず救出成功になるとは限りません。
ハンナの場合は、先に幻覚への対策となる実を渡してから仕掛けを動かさなければならず、ローズとハルにも事前の準備が必要です。マックには状態を戻すためのアイテムを使用し、モースにも適切な手順があります。
ここでは前半より明確に、持っている情報とアイテムをどう使うかが結果へ影響します。
全員を救出しなくても最終地点へ到達できますが、誰を救えたかによって後の描写が変わり、全員救出は追加要素を見る条件にも関係します。
前半のように決められたフラグを順番に踏む感覚から、後半では「この人物をどう助けるか」を考える割合が増える。
2枚組であることを物量だけでなく、探索の性格を変えるためにも使っています。
同じ人物を二度見るから、前半の会話が無駄にならない
崩壊編の人物救出が効いているのは、それまでに時間をかけて彼らの事情を知っているからです。
マック、モース、ローズ、ハンナといった住人は、前半では情報を聞く相手でした。それが後半では、自分が助けるべき人物になります。
会話を進行フラグとしてしか見ていなければ、この変化は弱いでしょう。
しかし人物の性格や置かれていた状況を覚えていれば、前半で街を歩き回った時間が後半の意味へつながります。
『月花霧幻譚 TORICO』が雰囲気だけの作品ではない理由は、こうしたところにあります。
街を歩くことが物語を見る行為であると同時に、その後の攻略に必要な情報を蓄積する行為にもなっています。
映像の粗さが、必ずしも世界観を壊してはいない
1996年のセガサターン作品なので、現在の基準で見ればCGや動画の解像感は当然粗く見えます。
本作はプリレンダリングされたCGと映像シーケンスをつなぎながら一人称探索を表現しており、技術資料ではCinepak系の動画を使った構成も確認されています。
ただし、解像度が低いことをそのまま減点理由にするのは適切ではありません。
霧に覆われ、光の少ない街を歩く作品では、輪郭がわずかに曖昧なことが不安定な雰囲気と噛み合う場面があります。人物も現在のリアルタイム3Dのような自然さはありませんが、その少し作り物めいた姿が現実から離れた街の感触を強めることもあります。
問題になるのは、雰囲気ではなく視認性が探索へ影響するときです。
小さな調査対象や、以前とは状態が変わった場所に気付きにくければ、映像の曖昧さがフラグ探しの難しさへ加わります。
粗いから悪いのではなく、その粗さが何を見落とさせるかが重要です。
音は「雰囲気作り」だけでなく、街に滞在させる役割を持つ
音響も本作では大きな比重を持っています。
激しい戦闘が続くゲームではないため、プレイヤーは街を歩き、扉を開き、人と話し、しばらく何も起きない時間まで含めて世界に接します。その間を支えるのが、環境音、足音、扉の音、人物の声、そして音楽です。
スタッフクレジットでは、オープニングとエンディング音楽を野見祐二、ゲーム内の作曲を鈴木英夫と神保直明が担当しています。
フレッド役の子安武人をはじめ、ゴードン役の中田和宏、ザブー役の藤田淑子、ジェイド役の大塚芳忠、ハンナ役の榊原良子など、主要人物には音声があります。
声優の知名度そのものを評価する必要はありません。
大事なのは、文字だけでは伝わりにくい人物の警戒心や苛立ち、含みのある態度が音声によって強まり、「もう少しこの人について知りたい」と思わせることです。
会話が攻略情報でもある本作では、人物を印象に残す演技がそのまま情報を記憶する助けにもなります。
『夢見館の物語』から受け継いだのは、物語そのものではなく探索の考え方
『月花霧幻譚 TORICO』を語るとき、『夢見館の物語』との関係は無視できません。
システムサコムで『夢見館の物語』を担当した鈴木幸一は、後年のプロフィールで『RAMPO』『月花霧幻譚 TORICO』にも同システムを継承した作品として関わったと紹介されています。
共通しているのは、一人称視点の場所を映像で移動し、人物との会話や調査から世界の事情を理解していく考え方です。
ただし、『夢見館の物語』は「館」という比較的小さく閉ざされた空間が中心でした。
『月花霧幻譚 TORICO』では、それを一つの街へ広げています。
建物が増え、人物も増え、アイテムとイベントフラグも複雑になったことで、「誰がどこに住んでいるのか」「今の情報なら次に誰へ会うべきか」という街全体の把握がより重要になりました。
拡張されたことで世界は豊かになった一方、移動範囲が広くなったことで迷ったときのコストも大きくなっています。
だから単純な上位互換ではありません。
「夢見館シリーズ第3作」「前日譚」と断定しなくても魅力は説明できる
後世のデータベースでは『月花霧幻譚 TORICO』を『夢見館の物語』の外伝やシリーズ作品として扱い、時系列まで整理する例があります。
しかし、今回確認できた強い資料から確実に言えるのは、システム面の系譜があることです。
蝶や月といった共通するモチーフがあるからといって、設定上の直接的な前日譚や「正式第3作」とまで広げる必要はありません。
『夢見館の物語』で成立した探索システムを、より大きな街と複数の人物関係へ発展させた作品。それだけでも両作の関係は十分に説明できます。
戦うゲームではないからこそ、「止まった時間」が重い
通常のRPGなら、次の目的地が分からなくても敵と戦って経験値を稼げることがあります。
『月花霧幻譚 TORICO』では、そうした反復戦闘がゲームの中心ではありません。
進行できないとき、プレイヤーができることは基本的に、街をもう一度歩き、人と話し、場所を調べ、持っているアイテムを試すことです。
そのため、謎を解けない時間がゲーム外の停滞にならず、そのままゲームプレイの量として増えていきます。
これはアドベンチャーゲームでは珍しい問題ではありません。
ただ本作では、一つひとつの移動に映像が挟まるため、導線を見失ったときの重さが増幅されます。
逆に、手掛かりを理解して目的地を絞れているときは非常に気持ちいい。
知っている街を自分の記憶で移動し、必要な人物へ向かい、会話が更新されて物語が進む。この瞬間には、ゲームシステムと世界観がきれいに重なります。
攻略を見たときに快適になることは、長所の証明ではない
本作は攻略チャートを見ればかなり速く進められます。
前半のイベント順を知り、どこで何を拾うかを把握していれば、不要な往復を大幅に減らせます。後半でも救出手順を知っていれば、誰をどう助けるかで迷いません。
しかし、それを基準に「テンポが良いゲーム」と評価するのは違います。
初見では、攻略情報を持っていない状態でゲーム側から渡された会話、場所、アイテムを組み合わせて次の行動を決めます。
そこで推理できるかどうかが、本来のゲーム性です。
『月花霧幻譚 TORICO』は、考えた結果として正しい場所へ戻れたときには高い満足感があります。しかし、必要なフラグが見えない場面では、推理ではなく再巡回へ傾きやすい。
その差が72点の核心です。
なぜC TierではなくB Tierなのか
進行導線に弱さがあるからといって、本作をC Tierまで下げる必要はありません。
霧の街には、覚える意味があります。
人物が住んでいる場所を把握し、前に聞いた話を思い出し、手に入れたアイテムをどこへ持っていくか考えることで、プレイヤー自身の頭の中に街の構造と人間関係が作られていきます。
会話、アイテム、地理が別々に存在しているのではなく、三つを結び付けなければ進めない。
前半で情報を集めた人物たちが後半では救出対象となり、自分がどのように行動したかによって結果にも違いが出ます。
さらに映像と音が、単なる装飾ではなく「もっとこの街を歩いてみたい」という探索動機を保っています。
遊びの中心は明確です。
だからB Tierに残ります。
では、なぜA Tierへ届かず72点なのか
A Tierへ上がるには、探索で迷った時間まで含めて、もう少し強く「考える楽しさ」へ変換できてほしかったところです。
本作には、状況から用途を推測できるアイテムがあります。人物の会話を手掛かりに次の場所を考えられる場面もあります。
その一方で、特定人物との会話後に以前の場所へ戻る、同じ物をもう一度調べる、複数人物の会話を所定の状態まで更新するといったフラグ進行も多く、プレイヤーが必要条件を完全には把握できない場合があります。
そこで詰まると、街全体を回り直す。
移動するたび映像が流れる。
建物へ入り、人物に話しかけても変化がない。
また別の家へ向かう。
これが何度も続くと、世界に入り込むためのゆっくりした移動が、探索を阻害する待ち時間へ変わります。
つまり本作の弱点は、「ロードが長い」「謎が難しい」という個別の問題ではありません。
何をすればよいか分からなくなったとき、情報不足と移動コストが同時に襲ってくることです。
72点は、その構造まで含めた評価です。
海外版『Lunacy』とは分けて考える
北米では1997年に『Lunacy』、欧州では『Torico』として発売されました。日本と欧州ではセガ、北米ではAtlusが販売を担当しています。
海外攻略資料はシステム確認には有用ですが、英語ローカライズされた台詞や表現を日本版のものとして扱うことはできません。
今回の評価対象は最後まで1996年6月28日の日本国内版です。
なお、主人公フレッドという名称自体は日本版資料にも存在するため、「Fredは海外版だけの名前」という分離は不要です。
2026年現在、『月花霧幻譚 TORICO』を遊ぶ方法
2026年8月25日時点で、Nintendo Switch/Nintendo Switch 2、Steam、PlayStation Store、Xbox、GOGなどの主要な現行ストアを再確認しましたが、日本国内版『月花霧幻譚 TORICO』の正式なデジタル復刻は確認できませんでした。
GOGにも製品ページではなく、復刻を希望するDreamlistとして『Lunacy』が登録されている状態です。
そのため、日本国内版をそのまま遊ぶ基本的な方法は、セガサターン実機と日本版の2枚組ディスクです。中古ソフトは現在も流通していますが、価格は常に変動するため作品評価には含めません。
『夢見館の物語』にはメガドライブミニ2という公式復刻がありますが、『月花霧幻譚 TORICO』まで同じ環境で遊べるわけではありません。この点でも両作を混同しない方がいいでしょう。
まとめ|街を覚えたときは面白い。進行条件を見失ったとき、その街が急に広くなる
『月花霧幻譚 TORICO』を支えているのは、霧や月の美しさだけではありません。
最初は知らない場所だった霧の街で、住人の顔と家を覚え、誰が何を知っているのかを少しずつ理解していく。その情報から次に必要な場所を考え、以前歩いた道を自分の記憶で戻り、会話やアイテムがつながって新しい出来事が始まったとき、本作の探索はきちんと成立しています。
前半で人々の事情を知ったことが後半の救出へつながり、同じ人物を見る意味まで変わる構成も良いところです。映像と音も街へ滞在したい気持ちを支えており、古いCGだからという理由だけで魅力が失われる作品ではありません。
ただし、その探索がいつでも論理的に進むわけではありません。イベントを起こすための条件が見えなくなると、プレイヤーは「何が足りないのか」を考えるより先に、街の人物と場所をもう一度確認する必要があります。
そこで本作特有のゆっくりした映像移動が重なります。
目的地が分かっているときには、霧の街を歩く時間が世界観になる。目的地を見失ったときには、同じ時間が負担になる。
B Tier・72点。
『月花霧幻譚 TORICO』は、閉ざされた街を歩き、人の言葉と場所とアイテムを自分の記憶の中で結び付けることに確かな面白さがあるアドベンチャーです。その一方で、推理するための材料が不足した場面では、探索がフラグ確認へ傾き、移動演出の遅さまで一緒に弱点として現れます。
「もっとこの街を知りたい」と思わせる力は強い。ただ、その気持ちを最後まで途切れさせないための導線までは磨き切れていない。
その差が、A Tierではなく72点になった理由です。