- ゲームの「フラゲ」とは?発売日前日に買えた理由・違法性・店へのペナルティを検証
- まず結論|フラゲは「前日に商品が届く物流」の副産物でもあった
- 「フラゲ」と「フライング販売」は同じではない
- 「フラゲ」という言葉は1990年代から使われていたのか
- 発売日前日、ゲームショップの中では何が起きていたのか
- なぜ発売日に配送せず、前日に店へ届けるのか
- ゲーム流通は「メーカー→問屋→店」の一本線ではなかった
- 店の奥に商品がある。それでもなぜ売れなかったのか
- それでも、発売日前日に一本だけ売った店があった
- 「フラゲがバレると出荷停止」は本当だったのか
- なぜ店は、そんなリスクを負ってまで一日早く売ったのか
- 「個人店ならフラゲできた」は本当か
- 予約客だけなら前日に渡してよかった? 夜ならOKだった?
- 発売日前販売は法律違反だったのか
- DQ・FF・ポケモンほど管理が厳しかったのか
- 前日23時59分と、発売日0時00分はまったく違う
- なぜゲームの発売日は木曜日が多かったのか
- ゲーム雑誌が発売前に遊んでいたのは「フラゲ」ではない
- 通販で前日に届いたゲームもフラゲなのか
- ネットが広がると「一日早く遊ぶ」の意味まで変わった
- では、フラゲ文化はいつ消えたのか
- 現代では「ゲームはもう手元にあるのに遊べない」が別の形で戻ってきた
- よく語られる「フラゲ伝説」を整理すると
- 「発売日前日のゲームショップ」という、今では見えにくくなった時間
ゲームの「フラゲ」とは?発売日前日に買えた理由・違法性・店へのペナルティを検証

明日発売のゲームが、今日すでに店の奥にある。
箱は届いている。店員は商品の存在を知っている。予約した客も「もう入っていますか」と聞いてくる。それでも、本来はまだ売れない。
1990年代から2000年代のゲームショップでは、そんな奇妙な時間が確かに存在した。そして一部の店では、その境界を越えて発売日前に商品を渡すことがあった。
後に広く「フラゲ」と呼ばれるようになった行為である。
ただし、「昔はどこのゲーム屋でも前日に買えた」「個人店なら常連にこっそり売ってくれた」「メーカーに見つかると必ず次回作を卸してもらえなくなった」といった話を、そのまま当時のルールとして受け取ることはできない。
調べていくと見えてくるのは、もっと面白い構造だ。
全国で同じ発売日にゲームを売るためには、商品を発売日前から店へ届ける必要がある。しかし、店に届いた日と、売ってよい日は別だった。
その「商品は目の前にあるのに、まだ売れない」という隙間から、フライング販売という文化が生まれた。
まず結論|フラゲは「前日に商品が届く物流」の副産物でもあった
ゲームの正式な発売日より前に商品が店舗へ届くこと自体は、不思議なことではない。
発売日の開店時から販売するには、その前までに配送を終え、店舗側で商品を受け取り、販売できる状態へ準備しておかなければならないからだ。
しかし、事前に納品されたことは「もう売ってよい」という意味ではなかった。
2014年に公開されたTSUTAYAの公式FAQでも、CDやDVDには発売日前日から販売できる商品がある一方、ゲームについてはメーカーの意向で発売日厳守と説明されている。これは1990年代すべての契約内容をそのまま証明する資料ではないが、少なくともゲームにおいて「納品日」と「販売開始日」が別に管理されてきたことを理解するうえで分かりやすい資料だ。
そして1990年代のPlayStation流通については、実際にゲームショップで働いていた人物から、発売日前日に商品が届いていたという具体的な証言も残っている。
つまりフラゲを生んだ最大の前提は、「昔はルールがなかった」ことではない。
発売日を守るための事前納品によって、発売日前日の店内にすでに商品が存在していたことだった。
「フラゲ」と「フライング販売」は同じではない
最初に言葉を分けておこう。ここが曖昧だと、発売日前配送や午前0時販売まで全部「フラゲ」になってしまう。
| 用語 | この記事での意味 |
|---|---|
| 発売日 | メーカー/パブリッシャーが公表する正式な発売日 |
| 店着・入荷 | 商品が物流センターや問屋などから店舗へ実際に届くこと |
| フライング販売 | 小売店が正式発売日前に商品を販売すること |
| フラゲ | 利用者側が正式発売日前に商品を入手することを指す俗称 |
| 午前0時販売 | 正式発売日の日付になった瞬間から販売すること。発売日前販売とは別 |
| 事前納品 | 発売日に販売できるよう、発売日前に商品を店舗へ届けておくこと |
| メディア向け先行提供 | 記事、レビュー、攻略本などの制作を目的に、メーカー側から媒体へ事前提供されるもの |
分かりやすく言えば、店側の行為が「フライング販売」、それによって客が発売日前に入手することが「フラゲ」だ。
配送業者が前日に店舗へ持ってきただけなら、まだフライング販売ではない。
「フラゲ」という言葉は1990年代から使われていたのか
ここは、行為の歴史と言葉の歴史を分けなければならない。
発売日前にゲームを売る行為そのものは、少なくとも「フラゲ」という略語が広く定着するより前から存在した。
一方、公開Web上では2000年代前半に「フライングゲット」という表現がゲーム購入の文脈で確認でき、その後「フラゲ」という略称も広く使われるようになる。ただし、現在確認できるWebページだけから「この日が最初」「ゲーム業界から生まれた」と断定することはできない。
興味深いのは、一橋大学イノベーション研究センターが公開している元ゲームショップ関係者・西崎光氏へのオーラルヒストリーだ。
1990年代の発売日前販売について話している場面で、聞き手は「今で言うところのフラゲ」と表現している。
つまり、少なくとも当時の行為へ現在の言葉をそのまま貼り付けてよいとは限らない。
この記事でも便宜上「フラゲ」と呼ぶが、1990年代のすべての利用者が当時からその言葉を使っていた、という意味ではない。
発売日前日、ゲームショップの中では何が起きていたのか
では1990年代後半のゲームショップへ行ってみよう。
ここから描くのは、全国すべての店を代表する架空の一日ではない。1994年から1999年までゲームショップで働いた西崎氏の証言などから、確認できる範囲を組み立てた風景だ。
明日、新しいPlayStation用ソフトが発売される。
店には、前日のうちに商品が届いている。
西崎氏はPlayStation流通について、発売日前日に商品を届け、発売日の朝には売場へ並べられる状態を用意していたと証言している。
予約もすでに入っている。西崎氏が勤務した店舗では会員証の仕組みを使って予約を受け付けており、大型タイトルでは多くの予約が集まることもあったという。
商品が店内にある以上、客から見れば「それなら今日売ってくれてもいいのでは」と思いたくなる。
しかし店側からすれば、まだ発売日は来ていない。
ここに、フライング販売の境界線があった。
なお、箱を何時に開けたのか、全国の店が必ず予約分をどの手順で仕分けたのか、レシートやPOSへどの時点で商品登録したのか、といった細部まで共通ルールとして示せる資料は確認できない。
「前日に届いたら夕方に開梱し、予約分を裏へ隠した」といった一店舗の記憶を、全国のゲームショップの標準手順として描くことは避けたい。
当時のゲームショップそのものへ入り込む企画は、つぶログの「1万円だけ持って1997年のゲームショップへ行く」でも復元している。ゲームを買う場所も、情報を集める場所も現在とはかなり違っていた時代だ。
なぜ発売日に配送せず、前日に店へ届けるのか
ここで最も素朴な疑問が出てくる。
前日に売られる危険があるなら、発売日の朝に配送すればいいのではないか。
実際、それでは店舗側が困る。
発売日の開店と同時に客が来るのに、配送車がまだ到着していなければ商品を渡せない。大量の予約が入る作品なら、到着後に数量を確認し、店頭分と予約分を扱う時間も必要になる。
全国発売を成立させるには、「発売日より前に商品を目的地近くまで動かしておく」ことと、「発売日になるまで売らないこと」を同時に成立させなければならない。
これがフラゲ文化を理解するうえで最も重要な点だ。
事前納品は発売日制度の穴ではなく、むしろ発売日制度を成立させるための仕組みだった。
ゲーム流通は「メーカー→問屋→店」の一本線ではなかった
1990年代のゲーム流通を説明するとき、「メーカーから問屋へ、問屋からゲームショップへ」という図にしたくなる。
しかし実態はもっと複雑だった。
公正取引委員会のソニー・コンピュータエンタテインメントに関する審決資料を見ると、PlayStation用ソフトではSCEと小売業者が直接取引する系統に加え、ハピネットなどの卸売業者を通じて小売へ配送する経路も存在したことが確認できる。
フランチャイズなら本部を経由する場合もある。任天堂、セガ系商品では玩具問屋など従来型の流通も大きな役割を担っていた。
だから「1990年代のゲームはすべて問屋から前日に届いた」と一本化することはできない。
タイトル、ハード、取引形態、地域、時代によって商品が店へ届く道は違っていた。
店の奥に商品がある。それでもなぜ売れなかったのか
答えは単純である。
入荷した日と、販売を開始してよい日は別だからだ。
ゲームにはメーカーやパブリッシャーが公表した発売日があり、小売側にはその日を守ることが求められていた。
先ほど触れたTSUTAYAの公式FAQが面白いのは、CD・DVDとの違いを明記している点だ。
CDやDVDでは業界慣行として発売日前日に納品され、その日から販売できる商品がある。一方、ゲームについては発売日厳守としている。
同じ「発売日」と書かれた商品でも、業界によって販売開始の扱いは同じではない。
ゲームのフラゲ文化を、CDの「店着日販売」と同じ感覚で捉えると話がずれてしまう。
それでも、発売日前日に一本だけ売った店があった
そして今回の調査で、発売日前日のゲームショップを最も具体的に見せてくれる証言が残っていた。
一橋大学イノベーション研究センターが公開している西崎光氏へのオーラルヒストリーである。
西崎氏によれば、勤務していた店へ一人の客がやって来た。
欲しいゲームの発売日は翌日だった。しかし翌日は仕事の都合で営業時間に来られない。「もしもう入荷しているなら売ってもらえないか」と頼まれたという。
時刻は閉店間際。
店のオーナーは、その客に限って発売日前日に一本販売した。
ここまでは、「昔のゲーム屋ならありそうな話」に見えるかもしれない。
ところが、その後が違う。
西崎氏の証言によれば、その客は近くにできた競合ゲーム店の関係者で、発売日前日の購入を示すレシートがソニー側へ送られた。
そして店は、フライング販売を指摘された。
その後、それまで前日に届いていたPlayStation用商品が、発売日当日にしか届かなくなったという。
発売日の客が来ても、まだ配送されていない。「この店には発売日に商品がない」と思われ、客を逃すことまであったと西崎氏は振り返っている。
これは今回確認できた中でも、フライング販売への不利益を最も具体的に示す事例だ。
ただし、重要な注意点がある。
これは後年の当事者証言であり、「日本全国でフラゲした店は必ず同じ処分を受けた」という公式制度の証明ではない。
「フラゲがバレると出荷停止」は本当だったのか
昔のゲームショップを語ると、「メーカーにフラゲがバレると次回から商品を回してもらえない」「人気ゲームの入荷数を減らされる」「取引停止になる」といった話がよく出てくる。
今回の調査では、これを全国一律の制度として裏付けるメーカー公式文書までは確認できなかった。
一方で、「ペナルティそのものが全部都市伝説だった」とするのも違う。
西崎氏の店舗では、少なくとも本人の証言上、前日配送が停止されている。
さらに公正取引委員会のSCE審決資料からは、当時のSCE営業部が小売店の販売状況を調べ、競合店から寄せられた情報も使って販売方針の是正指導を行っていたことが確認できる。
ただし、公取委資料で詳しく扱われているのは主として値引き販売、中古品取扱い、横流しなどの問題であり、その資料だけから「フライング販売にも全国一律で出荷停止処分を適用した」と読み替えることはできない。
つまり、現時点で最も正確なのはこうなる。
フライング販売が発覚した店舗に不利益が生じた具体例は確認できる。しかし「フラゲ販売=必ず取引停止」という全国共通ルールまでは確認できない。
しかも確認できた事例の内容が面白い。
「もうゲームを卸さない」ではなく、「前日に渡すと売ってしまう店なら、前日に商品を置かない」という形だった。
全国同日発売を支えるための事前配送が、そのままペナルティの対象になったのである。
なぜ店は、そんなリスクを負ってまで一日早く売ったのか
理由を「昔は店員が適当だった」で終わらせると、当時のゲーム小売の姿が見えなくなる。
一日前に売ることには、商売上の意味があった。
札幌で営業していたゲームショップ1983は、発売日前販売を行わない方針について公開した文章の中で、かつて予約客から「別の店でフラゲできたのでキャンセルする」と言われた経験を明かしている。
発売日まで待つ店からすれば、予約まで取った客を、前日に売る競合店へ奪われる。
逆にフライング販売する店から見れば、「ここなら一日早く買える」ということ自体が固定客を作る理由になり得る。
同店はフライング販売を「奪い合いの要素」もある行為として振り返っている。
ここには、客側の「早く遊びたい」と、店側の「他店より先に売りたい」が同時に存在していた。
もちろん、すべての前日販売が同じ理由だったとは限らない。常連客への便宜、客から強く頼まれたケース、店舗独自の判断など、事情は店ごとに違ったと考えるべきだろう。
「個人店ならフラゲできた」は本当か
これは当時を知る人の記憶として非常によく語られる。
町の小さなゲームショップへ行き、常連になれば前日に売ってもらえた。大手チェーンでは無理だった――。
実際、小規模店や個人経営店で発売日前販売が行われた事例や証言はある。西崎氏も、スーパーファミコン時代には親しい店員なら前日に売ってくれる店があったと振り返っている。
しかし、これを「個人店なら普通」と一般化する統計はない。
ゲームショップ1983も、個人店だからフライング販売していると見なされることへの困惑を表明し、開業以来発売日前販売をしていないと明記していた。
逆に「チェーン店では絶対に不可能だった」とも断定できない。
本部・POS・仕入れを一括管理する店舗ほど現場単独で発売日を破りにくい構造にはなるが、それと「一件も起きなかった」は別の話だからだ。
個人店かチェーン店かだけでなく、時代、メーカー、タイトル、本部統制、店長の判断まで含めて店単位で差があった、と見るのが妥当だろう。
予約客だけなら前日に渡してよかった? 夜ならOKだった?
これも当時の体験談でよく見かける。
「予約者だけ」「常連だけ」「閉店直前だけ」といった販売である。
実際、西崎氏が語った事例も、閉店間際に頼まれた一人へ一本だけ渡したものだった。
しかし、だからといって「予約客なら前日に渡してよい」「夜なら発売日扱いになる」という制度があったわけではない。
正式発売日より前なら、時間帯や予約の有無を問わず発売日前販売である。
レシートの日付を翌日にした、レジを通さず現金だけで売った、といった話も各地の思い出として残っているが、今回の調査では業界全体の慣行と認定できる資料は確認できなかった。
面白い話ではあるが、ここは記憶を制度の証拠にしない方がいい。
発売日前販売は法律違反だったのか
「フラゲは違法なの?」は、現在でも検索される疑問だ。
今回確認した法令・公的資料の範囲では、通常の市販ゲームを正式発売日より前に小売店が販売する行為そのものを、一律に犯罪として処罰する一般的な規定は確認できなかった。
したがって、発売日前販売をそのまま「犯罪」と表現するのは正確ではない。
ただし、それは「小売店が自由に何日前からでも売ってよい」という意味でもない。
メーカー、流通、小売の間には取引条件があり、発売日遵守を求められている商品を前日に販売すれば、その取引関係の中で問題になる可能性がある。
ここでは法律違反と、取引条件・商慣行への違反を分ける必要がある。
なお、公正取引委員会が問題にしたSCEの1990年代の流通政策には、小売価格の拘束や横流しの制限など独占禁止法上の問題が含まれていた。メーカーが小売店へ何かを求めれば、それがすべて自動的に正当になるわけでもない。
ただし、この審決自体は「発売日前販売が合法か違法か」を判断した事件ではない。フラゲ問題と独占禁止法問題を一緒にしてはいけない。
DQ・FF・ポケモンほど管理が厳しかったのか
大型タイトルほど発売日前販売の管理が厳しかった――という話もよく聞く。
確かに、予約数も販売本数も大きい作品ほど発売日の店舗運営が重要になる。『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』『ポケットモンスター』級の作品では、発売日の行列や特別販売体制が報じられた例も多い。
しかし今回の調査では、「DQはFFより厳しい」「ポケモンは特別な制裁制度があった」とシリーズ間の規制強度を比較できる一次資料までは揃わなかった。
有名作品だからという理由だけで、後世の印象を制度へ置き換えることはできない。
むしろ『ファイナルファンタジーVII』で確認できる興味深い例は、フラゲとは反対側にある。
1997年1月31日の発売日、デジキューブでは予約したゲームをコンビニで朝7時から受け取る仕組みがあった。
これは前日販売ではない。
商品はそれ以前に配送されていても、正式発売日の指定された時間になってから渡す仕組みだ。
この「朝7時にゲームを取りに行く」体験については、「1997年、発売日のゲームをコンビニで受け取った|デジキューブという消えたゲーム流通」で詳しく追っている。
前日23時59分と、発売日0時00分はまったく違う
フラゲを考えるとき、もう一つ分けておきたいのが深夜販売だ。
| 販売時点 | この記事での扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 発売日前日 23:59 | フライング販売 | まだ正式発売日前だから |
| 発売日 00:00 | 発売日当日の販売 | すでに正式発売日だから |
| 発売日 朝7:00 | 発売日当日の販売 | デジキューブなどで設定された正式な受け渡し時刻の例 |
もちろん、すべてのゲームが0時販売可能だったわけではない。タイトルごとに販売開始時刻を指定する場合もあり、店舗営業時間の問題もある。
それでも「前日深夜」と「日付が変わった後」の間には、発売日という明確な線がある。
一日早く買う文化と、発売日の最速時刻を狙う文化は似ているようで別物だ。
なぜゲームの発売日は木曜日が多かったのか
1990年代後半以降のゲーム発売日を眺めると、木曜日が多いことに気づく。
西崎氏はオーラルヒストリーの中で、以前は金曜発売が多かったところ、PlayStation時代に木曜発売が広がった理由について、木曜日に発売して品切れが分かれば、追加発注を週末の土日に間に合わせやすかったという趣旨の説明をしている。
これは小売現場を知る当事者の説明として興味深いが、業界全体が公式に「この理由で木曜日へ変更した」と確認できる統一文書ではない。
本記事では、木曜発売の唯一の起源として断定せず、PlayStation流通を経験した小売側の証言として扱う。
ゲーム雑誌が発売前に遊んでいたのは「フラゲ」ではない
昔のゲーム雑誌を見ると、発売前なのに画面写真や攻略情報が大量に掲載されていることがある。
ここから「雑誌はフラゲしていた」と考えるのは違う。
ゲーム媒体には、記事やレビュー、攻略記事などを制作する目的で、メーカー側からサンプルROMやレビュー用ROMなどが提供される場合がある。
製品版そのものの場合もあれば、開発途中の評価版やサンプルの場合もあり、提供時期や記事の掲載解禁条件も作品によって異なる。
これは一般消費者へ商品を発売日前に販売する行為とは入口から違う。
雑誌が発売日前に遊べたからといって、「店頭でも売ってよかった」ことにはならない。
通販で前日に届いたゲームもフラゲなのか
2000年代以降、ゲームを買う場所は店頭だけではなくなった。
通販で注文した商品が発売日前日に届けば、購入者側の感覚では「フラゲした」と表現されることがある。
ただし、ここでも購入者の結果と販売者の行為を分ける必要がある。
発売日前日に発送し、発売日に届くよう設計された配送なら、それ自体は発売日前販売とは限らない。配送地域や輸送時間の違いによって、予定より早く着くケースもあり得る。
つまり、通販で前日に受け取ったという事実だけでは、販売店が意図的に発売日を破ったのかまでは分からない。
店頭で「今日はまだ売れません」と言われる世界から、「発送日は昨日だが到着日は発売日」という世界へ。フラゲを取り巻く問題も、物流の変化とともに形を変えていった。
ネットが広がると「一日早く遊ぶ」の意味まで変わった
1990年代のフラゲは、まず本人にとっての優位だった。
友人より一日早く遊べる。学校や職場で先の話ができる。誰より先に新しいゲームへ触れられる。
しかしインターネットが普及すると、一人が一日早く入手することの影響範囲が変わっていく。
掲示板や攻略サイトなら、発売日前の情報を多数の人へ伝えられる。さらにブログ、動画サイト、SNS、生配信へ進むと、一人の早期入手者がゲーム内容そのものを大量に拡散できるようになった。
ここで重要なのは、「ネットが普及したからフラゲが消えた」と単純化しないことだ。
ネットはフライング販売の存在を外から見つけやすくし、発売前情報の影響を大きくした。一方で、ゲーム専門店の減少、本部型チェーンへの集約、通販、ダウンロード販売、POS管理、メーカー側の販売管理なども同時に進んでいる。
フラゲ文化の変化を一つの技術だけで説明するのは難しい。
では、フラゲ文化はいつ消えたのか
「2000年代のどこかで終わった」と言える明確な日付はない。
そもそも2026年現在も物理パッケージは存在し、発売日前に商品を物流網の中で動かす必要もなくなっていない。配送ミスや販売ミスまで含めれば、発売日前入手が理論上完全に消えたわけではない。
変わったのは、街のゲームショップへ行き、「もう入ってる?」「一本だけなら」と交渉することが一つの購入文化として語られた時代の方だ。
- 小規模ゲーム専門店そのものが減った
- チェーン・量販店では本部やPOSによる管理が強くなった
- 通販で発売日に自宅へ届く選択肢が一般化した
- ダウンロード版では店舗の在庫を待たず、指定された時刻に一斉解禁できるようになった
- ネットやSNSによって発売日前販売が外部から見えやすくなった
これらが長い時間をかけて重なり、「前日に売ってくれる店を知っている」という情報の価値を少しずつ小さくしていったと考える方が実態に近い。
現代では「ゲームはもう手元にあるのに遊べない」が別の形で戻ってきた
ここまで来ると、昔のフラゲ文化と現在のダウンロード販売が意外なところでつながる。
任天堂は2016年、『ポケットモンスター サン・ムーン』の「あらかじめダウンロード」について、発売日前にソフトデータの大部分をニンテンドー3DS本体へダウンロードしておき、発売日に日付が変わった瞬間から遊べる仕組みだと説明していた。
つまり、発売日前日の時点でゲームデータそのものはすでに自分の本体にある。
それでも、まだ遊べない。
1990年代のゲームショップでは、バックヤードにパッケージが届いているのに売れなかった。
現在は、自分のゲーム機にデータが入っているのに起動できない。
物理的な「店の扉」から、デジタルな「解禁時刻」へ。
商品を先に用意しておき、正式な時刻まで利用させないという考え方そのものは、むしろ現在の方が徹底されている。
ダウンロード版が販売終了した後の利用権や再ダウンロードについては、「DL版ゲームは販売終了後も遊べる?再ダウンロード・ストア終了・本体故障で何が変わるか」で別に整理している。
よく語られる「フラゲ伝説」を整理すると
| よくある話 | 今回の確認結果 |
|---|---|
| 昔はどの店でもフラゲできた | 確認できない。 店舗差が大きく、一般化できない |
| 個人店なら普通に前日販売していた | 一部では確認できるが、個人店全体へは広げられない |
| ゲームは必ず前日に店へ届いた | 誤り。 時代・地域・流通・店舗で異なる |
| 入荷したら売ってよかった | 誤り。 店着と販売解禁は別 |
| 発売日前販売は犯罪だった | 一律にそう断定できない。 法律と取引条件は分ける必要がある |
| メーカーにバレると必ず取引停止 | 全国共通ルールとしては確認できない |
| フラゲした店へのペナルティは全部都市伝説 | 誤り。 前日配送を止められたという小売当事者証言がある |
| 予約客だけなら前日に渡してよかった | そのような一般ルールは確認できない |
| 夜なら前日販売してよかった | 根拠なし。 日付が変わる前なら発売日前 |
| 0時販売もフラゲ | この記事の定義では違う。 正式発売日になった後の販売 |
| ゲーム誌は発売前にフラゲしていた | 別物。 メディア向けサンプル・レビュー用提供などの経路がある |
| DL版になってフラゲは完全に消えた | 物理版の早期入手は現在も理論上発生し得る。 ただし購入文化としては大きく変化した |
| 「フラゲ」はゲーム業界で生まれた言葉 | 断定できない。 ゲーム以外の商品でも用いられてきた |
「発売日前日のゲームショップ」という、今では見えにくくなった時間
フラゲ文化を「昔はルールが緩かった」で片付けると、一番面白いところが消えてしまう。
正式発売日は明日。
それなのにゲームはもう店にある。
客も、それをなんとなく知っている。
店員も箱の向こうに商品があることを知っている。
それでも、本来はまだ渡せない。
全国で同じ日に新作を売るためには、商品を先に運ばなければならない。その一方で、先に運んだ商品を発売日まで止めておかなければならない。
フラゲは、その二つの仕組みが接する場所で起きた。
そして一部の店は、客を逃したくない、常連へ応えたい、あるいは目の前の一人へ便宜を図りたいという理由で、その線を越えた。
少なくとも一つの店では、それが競合店に知られ、発売日前日の納品そのものを止められたという証言まで残っている。
この話から見えてくるのは、「昔は何でもありだった」という牧歌的なゲームショップではない。
発売日というルールがあり、そのルールを成立させるための物流があり、その境界をめぐって店同士の競争まで起きていたゲーム小売の世界である。
現在は、発売日前からゲームデータをダウンロードできても、解禁時刻までは遊べない。
30年前は、同じような境界線が店のバックヤードにあった。
商品は、もうそこにある。
けれど発売日は、まだ明日だった。