
1996年にセガサターンで発売された『新世紀エヴァンゲリオン(1st Impression)』は、TVアニメ放送期の熱量をそのまま真空パックした“当時ならでは”の一本です。アドベンチャー進行とターン制バトル、そして既存映像と新規FMVを組み合わせた演出は、今あらためて触れても独特の味わいがあります。
本記事では、発売当時の空気感、ゲームならではの再構成シナリオやオリジナル使徒、そしてサターンらしい映像表現の見どころまで、初心者にも分かりやすく解説。原作ファンが気になる“どこがアニメと違うのか”“何がゲームで追加されたのか”も丁寧に整理します。
結論から言えば、派手な操作感や自由度は現代基準では控えめ。しかし、あの1996年の熱気を体験として召喚できる希少なメディアとしての価値は色褪せません。ここからは、当時の文脈とゲーム的魅力を一つずつ紐解いていきます。
📘 作品概要・基本情報

TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』放送中、物語の終盤へと差し掛かったタイミングで発売されたシリーズ初の家庭用ゲーム作品。プレイヤーは碇シンジとなり、アニメのストーリーをベースにしつつ、オリジナル展開や選択肢によって異なる展開を体験します。
ゲームは大きく分けて2パート構成。アドベンチャーパートではフルボイスによる会話シーンやムービーを通じてストーリーが進行し、シミュレーションバトルパートではEVA初号機を操作して使徒とのターン制バトルに挑みます。当時のセガサターンが得意としたFMV(フルモーションビデオ)再生を活かし、アニメ映像とゲームオリジナルムービーをふんだんに使用。ファンにとっては、自分の操作でEVAの戦いを追体験できる贅沢な一本でした。
📖 原作との違い・アレンジ要素

本作『新世紀エヴァンゲリオン(1st Impression)』は、TVアニメ版を土台にしながらも、随所にゲーム独自の演出や展開が加えられています。
まず、ストーリー構成はアニメの時系列をおおまかになぞりつつ、バトルパートの都合に合わせて使徒出現順や戦闘シチュエーションが再構成されています。実際の放送エピソードでは描かれなかった戦闘パターンや、ゲームオリジナルの使徒との対戦も存在します。
また、アドベンチャーパートには選択肢による会話分岐があり、プレイヤーの行動や発言によって一部のシーンの流れが変化。これにより、同じエピソードでも異なるやり取りやキャラクター反応を楽しめる構造になっています。
演出面では、フルボイス化が大きな違いのひとつ。アニメ放送時の主要キャストがほぼ全員出演しており、放送当時の音声と同じ声で新規セリフが収録されています。これにより、原作にはない台詞回しや掛け合いがゲーム専用に追加され、オリジナルファンディスク的な価値を持たせています。
バトルパートの仕様も原作とは異なります。原作では短時間で決着する戦闘が多いのに対し、本作はターン制シミュレーション形式で展開。プレイヤーは武器選択や位置取り、エネルギー残量の管理など戦術的な判断を求められます。EVAと使徒の戦闘をじっくり操作できるのは、アニメ視聴だけでは味わえないゲームならではの要素です。
こうした変更や追加は、原作の雰囲気を壊さない範囲で遊びの幅を広げる意図が感じられます。物語をなぞるだけでなく、自分なりの選択と戦術でEVAの世界を“体験する”ことに重点を置いた作りと言えるでしょう。
✨ ゲームオリジナルの要素・キャラクター

まず大前提として――SS版『新世紀エヴァンゲリオン(通称:1st Impression)』に、メイン級の“完全新規ヒロイン”は登場しません。
オリジナルヒロインが登場するのは続編や別作で、たとえば**『2nd Impression』(SS/1997)の「山岸マユミ」、『鋼鉄のガールフレンド(Iron Maiden)』(1997〜)の「霧島マナ」**といった具合です。これらは別作品の追加キャラクターであり、1st Impressionの範囲外です。wiki.evageeks.org+1evangelion.fandom.comウィキペディア
1) “ゲームならでは”の再構成と分岐
本作はシナリオ進行(ADV)+ターン制バトルの二部構成。カットシーン中の選択や、戦闘の結果で一部の展開が分岐します。アニメの時系列を大きく外さない範囲で、ゲーム用に戦闘シチュエーションの順序や見せ場が再配置されているのがポイントです。evangelion.fandom.com東京オタクモード
2) オリジナル“使徒”の投入(デザイン:山下いくと)

アニメ第8話あたりの流れを土台にしつつ、ゲーム独自の〈無名の使徒〉が登場。作中では記憶障害(アムネジア)を引き起こす光や、槍状の尾・装甲球形態といった独自能力が設定されており、アニメのイロウル/イスラフェル枠の一部を“置き換える”役回りで戦闘が組まれています。デザインは公式デザイナー山下いくと。ここが1st Impression最大の“ゲームオリジナル要素”です。wiki.evageeks.org
3) 名称「1st Impression」について
発売当時のタイトルはシンプルに『新世紀エヴァンゲリオン』。1997年の廉価版再発売のタイミングで「1st Impression」の呼称がパッケージに付与され、便宜上の通称として定着しました(正式サブタイトルとしての扱いは資料により表記ゆれあり)。ウィキペディア
🧠 原作ファン満足度・初見プレイヤー評価

原作ファンの満足度
発売当時の原作ファンにとって、本作は**「動くエヴァを自分で操作できる」初体験でした。フルボイス会話、アニメ映像+新規ムービー、そして公式デザイナー山下いくとによるオリジナル使徒**の投入は大きな魅力で、当時の雑誌レビューでも「映像と演出面の満足感」が強調されています。
また、キャスト陣が新録したセリフや、原作では描かれない戦闘パターンの追加は、“本編の延長線上”を楽しめる要素として高く評価されました。
一方で、ADVパートの分岐は多くなく、1周で大半のイベントを回収できてしまう構成のため、「ゲームとしてのリプレイ性は薄い」という意見も見られました。
初見プレイヤー(非ファン)の評価

原作を知らないプレイヤーにとっては、序盤から専門用語や固有名詞が多く、予備知識なしでは背景が掴みにくいという壁がありました。戦闘パートもターン制シミュレーション形式でテンポがゆったりしており、「思ったよりアクション性がない」と感じる声も。
ただし、サターンの映像再生力を活かしたムービーや演出は、当時の他ジャンル作品と比べても質が高く、グラフィック面のインパクトはファンでなくとも評価されました。
総合的な印象
総じて本作は原作ファン寄りの設計であり、アニメを追っているプレイヤーには「映像付きファンディスク+戦闘体験」という価値を提供。逆に、シリーズ未視聴の人にはやや敷居が高く、物語やキャラクターへの愛着が前提となる内容でした。
🎯 今、振り返ってプレイする価値

今あらためて『新世紀エヴァンゲリオン(1st Impression)』を手に取る価値は、単に「懐かしさ」にとどまりません。
まず、この作品はアニメ放送中の熱量を真空パックした記録です。1996年3月、最終回を目前に控えたファンの期待と不安を背負い、公式スタッフ・キャストの手で作られた一本。そのため、収録されている映像・音声・演出の一つひとつが、まさに“あの頃の空気”を封じ込めています。
加えて、公式デザイナー山下いくとによるゲームオリジナル使徒や、戦闘パートでしか見られないEVAのアクションは、今も新鮮さを失っていません。オリジナル映像と既存カットが巧みに組み合わされたムービーは、当時のハード性能の限界に挑む試みであり、今見ても制作者の情熱が伝わります。
確かに、現代のゲームと比べればシステム面はシンプルでテンポもゆったりです。しかし、その“間”こそが、プレイヤーにEVAの緊張感を味わわせ、じっくりと物語と対峙させる時間になっています。原作ファンなら、「あの戦いに自分が参加している」感覚を、二十数年の時を越えて追体験できるはずです。
1st Impressionは、ゲーム史的には派手な売上記録や高得点レビューを残した作品ではありません。それでも、エヴァという作品世界を愛する人にとっては、“あの熱狂の渦中に作られた唯一無二の体験”が詰まった一本です。今だからこそ、その時代の空気ごと味わう価値があります。
👾 山下いくとデザインのオリジナル使徒徹底解剖
『新世紀エヴァンゲリオン(1st Impression)』で最もファンの目を引いたのは、アニメ本編には登場しないゲーム専用の新規使徒です。
デザインを手がけたのは、エヴァのメカデザインや設定画でおなじみの山下いくと。
つまり、本作のオリジナル要素でありながら、公式のビジュアルスタイルと世界観に完全準拠した“正史級”の存在感を放っています。
この使徒は、原作の第六使徒ガギエルや第八使徒サンダルフォンのように生物的なシルエットを持ちながらも、外装や形態に機械的・結晶的な要素を含み、独自の異質さを醸し出しています。
攻撃パターンも原作の流用ではなく、本作専用のアニメーション演出によって描かれており、戦闘中には原作にはないエフェクトや攻撃モーションが多数見られます。
さらに、ストーリー的にも本作のクライマックスに直結する“ラスボス的役割”を担い、原作の時間軸に組み込まれた形で登場します。
これによりプレイヤーは、既存の物語をなぞるだけではなく、**「自分だけのエヴァ体験」**として新たな脅威に立ち向かう感覚を得られました。
山下いくと本人が関与しているという事実は、ファンにとっての安心感と説得力を高め、「もしTV本編に登場していたら…」というIF(もしも)を公式が具現化した貴重な試みとして語り継がれています。
今なお、1st Impressionがシリーズの中で特別視される理由のひとつが、この新規使徒の存在なのです。
🎬 アニメ映像と新規ムービーの融合技法

『新世紀エヴァンゲリオン(1st Impression)』が発売当時に「映像ゲー」と呼ばれた背景には、アニメ本編映像と新規制作ムービーを違和感なく組み合わせた演出がありました。
1996年のセガサターンはCD-ROMによるフルモーションビデオ(FMV)再生機能を持っていましたが、解像度や色数、読み込み速度には制約があり、アニメ映像をそのまま移植すると画質が劣化しやすいという課題がありました。
開発チームはこれを逆手に取り、既存アニメ映像のカットと新規アニメーションを同じ画質・色味に合わせる編集手法を採用。
そのため、ファンでなければ「どこからが新規なのか」を一目で見分けるのは難しいほど自然に溶け込んでいます。

新規ムービーは、原作では存在しないバトルシーンや移動演出、会話シーンが中心で、ゲームのストーリー進行やバトル演出に必要な部分を補完する役割を果たしていました。
特にオリジナル使徒との戦闘シーンでは、既存のエヴァ戦闘カットに新規描写をつなぎ込み、アニメ版にはない緊張感を演出しています。
さらに、セリフやBGMとのシンクロ率も高く、映像→バトル→映像という切り替えがスムーズ。
これは、プレイヤーにとって“テレビの続きを自分が操作している”ような没入感を生み出し、単なるアニメ再編集作品に留まらない体験を提供しました。
この映像と新規カットの融合技術は、後年のアニメゲーム化作品でも採用される基礎になったとも言われ、1st Impressionの技術的価値を語るうえで欠かせない要素となっています。
📅 発売時期が与えた意味
『新世紀エヴァンゲリオン(1st Impression)』が発売されたのは1996年3月1日。
このタイミングは、エヴァンゲリオンという作品にとって極めて特殊な空気が漂っていた時期でした。
前年10月にTVシリーズが最終回を迎えたばかりで、その結末は賛否両論を巻き起こし、ファンコミュニティは熱狂と混乱が入り混じった状態。
さらに、同年夏には映画版『DEATH & REBIRTH』の公開が控えており、世間はまさに「エヴァ熱」が高まり続けていました。
そんな中で登場した本作は、“原作終了直後の唯一の新しい公式物語”という位置づけを持ち、ファンの期待を一身に集めます。
アニメの続きを求める層にとって、ゲームオリジナルのストーリーや新規使徒は、乾ききった情報砂漠に降った恵みの雨のような存在でした。
また、プラットフォームがセガサターンだったことも意味深です。
当時のサターンは『サクラ大戦』や『デイトナUSA』などアニメ・映像演出を前面に押し出したソフトで支持を集めており、エヴァの映像的魅力を活かす土壌が整っていました。
そのため、本作は単なるメディアミックス作品ではなく、「アニメ的演出×プレイヤー操作」の融合を体現する実験的タイトルとしても機能しました。
結果的に、この発売時期は本作を「原作ファンの渇望に応える救済的存在」かつ「エヴァブームの熱をさらに加速させる燃料」にしました。
もし半年遅れていれば、映画版の展開に埋もれ、今ほどの記憶には残らなかったかもしれません。
本作は、最終回直前の“熱狂”を追い風に、原作ファンの記憶に深く刻まれる存在となりました。
ただのメディアミックスではなく、“あの3月”という時間軸ごと封じ込めた記録媒体――それが1st Impressionの最大の価値の一つです。
📝 総まとめ

『新世紀エヴァンゲリオン(1st Impression)』は、単なるアニメのゲーム化にとどまらず、1996年という発売時期の必然性とセガサターンの映像表現力を最大限に活かした一本でした。
原作終了直後の空白期間に、ファンが求めてやまなかった“新しい物語”を提示し、山下いくとデザインのオリジナル使徒や、新規アニメーションを織り込んだ映像演出で、プレイヤーをエヴァの世界へと再び引き込みました。
既存アニメ映像との融合技術は当時としては非常に高水準で、後年のアニメゲーム化作品にも影響を与えたと言われています。
もちろん、ゲームシステムとしてはミニゲーム集に近く、アクション性や自由度の面で物足りなさを感じるプレイヤーもいました。
それでも、「あの時代にしか生まれ得なかった作品」であり、エヴァンゲリオンという社会現象の“熱”をそのままパッケージに封じ込めた、時代の記録ともいえる存在です。
振り返れば、本作はファンの心を繋ぎとめ、次なる展開への期待を膨らませた架け橋でした。
今遊ぶと、ゲームとしての完成度以上に、あの頃の熱狂と空気感を体験できる“タイムカプセル”のような価値を感じられるはずです。
あの頃の熱狂ごとパッケージした、エヴァ時代のタイムカプセルだよ!