
1990年代後半から2000年代前半の個人ホームページには、今ではほとんど見なくなった特徴がありました。
ページを開いた瞬間、MIDIが鳴る。
RPGのような曲、J-POPの耳コピ、オリジナル曲。トップページに入っただけでBGMが自動再生され、止めるボタンを探した記憶がある人もいるでしょう。
なぜ当時の個人サイトは、あれほど“音”を鳴らしたのでしょうか。
個人ホームページが一気に身近になった1990年代後半
日本で個人ホームページ文化が広がった背景には、無料・低価格のWebスペースが増えたことがあります。
代表例の一つがGeoCitiesです。ソフトバンクと米GeoCitiesは1997年に日本法人を設立し、同年9月から日本でサービスを開始しました。
それまでは「ネットに自分のページを置く」だけでも専門的な印象がありましたが、無料ホームページサービスの登場で、趣味や日記、ゲーム攻略、同人活動、イラストなどを公開する人が増えていきます。
なぜMIDIだった?音声ファイルより圧倒的に軽かった
最大の理由は、MIDIが軽かったことです。
MIDIファイルは、録音された音声そのものを保存するMP3とは違い、「どの音を、どの高さで、どのタイミングに鳴らすか」という演奏情報を中心に持ちます。
そのためデータ容量を小さくしやすく、ダイヤルアップ回線でも比較的扱いやすい形式でした。
画像1枚を読み込むだけでも待たされた時代に、数分の曲を軽いデータで鳴らせる。個人サイトにとってMIDIは、かなり相性の良い表現手段だったのです。

BGMはサイトの“テーマ曲”だった
当時の個人ホームページは、情報を読むだけの場所というより「管理人の部屋」に近い感覚がありました。
- 背景画像
- アクセスカウンター
- 点滅するGIF
- プロフィール
- 掲示板
- リンク集
- 好きな曲のMIDI
こうした要素を組み合わせて、「自分はこういうものが好き」という空気をページ全体で作っていました。
BGMもその一部です。ゲームサイトならゲーム曲、イラストサイトなら雰囲気に合う曲というように、音楽がサイトのテーマ曲として使われました。
自動再生はどうやっていた?
当時のHTMLでは、ブラウザや環境によって異なる方法で音声を埋め込んでいました。
Internet Explorer向けの <bgsound> や、プラグインを使う <embed> などが使われ、ページを開くと自動でMIDIを鳴らすサイトが数多くありました。
ブラウザの違いによって鳴らなかったり、意図した音色にならなかったりすることも珍しくありません。それでも「とにかく鳴らす」こと自体がホームページ作りの楽しみの一つでした。
同じMIDIなのに人によって音が違った
MIDIは演奏情報なので、実際の音色は再生するパソコンや音源に左右されます。
作者の環境ではきれいなピアノでも、別のPCでは違う音に聞こえる。ドラムやストリングスの印象まで変わることがあります。
今の動画や音声配信のように「作者が聞いた音をそのまま届ける」形式ではありません。だからこそ、同じMIDIでも環境ごとに少し違うという独特の文化がありました。
“素材屋さん”がホームページ文化を支えた
自分でMIDIやGIF、背景画像を作れない人のために、「素材屋」と呼ばれる個人サイトが数多くありました。
利用規約を読んで、素材をダウンロードし、サイト内にクレジットやリンクを置く。そこから別の素材サイトへ移動する。こうしたリンク文化によって、個人サイト同士がつながっていました。
現在のテンプレート配布やフリー素材サイトと似ていますが、個人同士の距離はもっと近く、「借りたら報告」「リンク必須」といった独自ルールもよく見られました。
なぜ自動再生は嫌われるようになった?
便利で楽しい一方、自動再生には問題もありました。
- 突然大きな音が鳴る
- 複数タブを開くと音が重なる
- 職場や学校で開くと困る
- 停止ボタンが見つからない
- ページを移動するたび最初から再生される
ブロードバンド化が進み、MP3やストリーミングが広がると、MIDIで自動再生する必然性も薄れていきます。
さらにWebの使いやすさやアクセシビリティが重視されるようになり、「ユーザーの操作なしに音を鳴らさない」方向へWeb全体が変わっていきました。
個人サイト文化はどこへ行った?
2000年代に入ると、ブログ、SNS、動画共有サイトが次々に登場します。
個人が発信すること自体はむしろ簡単になりましたが、トップページから背景色、音、リンク集まで全部自分で作る文化は少しずつ縮小しました。
昔の個人ホームページは、読みやすさでは現在のサイトに及ばないことも多かった一方、ページを開くだけで管理人の趣味が分かるほど個性がむき出しでした。
時系列で見る“音が鳴る個人サイト”の時代
| 時期 | 主な変化 |
|---|---|
| 1990年代半ば | 個人ホームページやMIDI公開サイトが増加 |
| 1997年 | GeoCities Japanがサービス開始 |
| 1990年代後半 | MIDI・GIF・アクセスカウンター・掲示板などが個人サイトの定番に |
| 2000年代前半 | Flash、MP3、ストリーミングなど表現手段が拡大 |
| 2000年代半ば以降 | ブログ・SNS・動画共有サイトへ個人発信の中心が移る |
まとめ|BGMは“情報”ではなくサイトの人格だった
個人ホームページでMIDIが自動再生されたのは、単に当時の流行だったからではありません。
回線が遅い時代でも軽く扱え、自分の好きな曲をページ全体の雰囲気として使える。MIDIは技術上の制約と自己表現がうまく重なった存在でした。
現在のWebは静かで使いやすくなりましたが、ページを開いた瞬間に「この人、これが好きなんだな」と分かる強烈な個性は、あの時代ならではです。