
『四月は君の嘘』1巻の有馬公生は、ピアノが下手だから弾けなくなったわけではありません。
かつては神童と呼ばれ、コンクールで結果を出していた。
それでも母の死をきっかけに、自分の弾くピアノの音が聞こえなくなり、舞台から離れています。
そんな公生の前に現れるのが、ヴァイオリニストの宮園かをりです。
なぜ「弾けない元天才」に、いきなり自分のためではなく“かをりの伴奏”をさせるのか。
1巻を読むと、公生をピアノへ戻すために「もう一度自分の夢を思い出せ」とは言っていないことが分かります。先に他人の音楽へ巻き込み、自分一人では閉じていた音の世界を外から揺らします。
公生は「音楽が嫌い」になったわけではない
公生はピアノから離れています。
ただし、音楽そのものに関心を失った人物としては描かれません。
母との記憶がピアノへ強く結びつき、自分の演奏を聞けなくなる。
「弾きたくない」と「弾けない」が混ざった状態です。
だから、かをりの演奏に出会ったときも何も感じないわけではありません。
むしろ音楽へ反応してしまうからこそ、公生の中にまだ残っているものが見えます。
かをりの演奏は、公生の「正確さ」と別の基準を持ち込む
公生は、楽譜どおり正確に弾くことを求められてきました。
対して、かをりの演奏はかなり違います。
コンクールの場でも、自分の音を強く出し、聴衆へ届くことを優先する。
公生から見れば、楽譜に忠実であることだけでは測れない演奏です。
ここで作品は「正確な演奏は間違い、自由な演奏が正解」と単純化しません。
公生が長く唯一の基準だと思っていたものの外側に、別の演奏があることを見せます。
かをりは、公生に答えを教えるのではなく、今までの答えだけでは足りないと気づかせる人物です。
「伴奏者」にするから、公生は一人で完璧に弾く必要がなくなる
公生をピアノへ戻すだけなら、ソロ演奏をもう一度させる方法もあります。
1巻が選ぶのは、かをりの伴奏です。
伴奏では、自分の演奏だけを見ていれば終わりません。
相手の音を聞き、呼吸を合わせ、舞台の途中でも変化へ対応する必要があります。
これは「楽譜を間違えずに再現する」ことへ閉じていた公生にとって、かなり厳しい役割です。
でも同時に、一人で母の記憶と向き合うソロとは違います。
かをりが隣にいる。
公生は自分の音が崩れても、相手の音へ意識を向けざるを得ません。
「自分のピアノを取り戻せ」と直接求めるより、他人と演奏する状況へ先に押し込む。その順番が、公生の再出発を精神論だけにしません。
かをりは「公生を救うためだけの少女」ではない
1巻では、かをりの登場によって公生の世界が大きく動きます。
だから「傷ついた少年を明るい少女が救う話」と説明しやすい。
ただ、かをり自身にも演奏への欲があり、自分のやりたい音楽があります。
公生をピアノへ戻すことだけが彼女の目的ではありません。
伴奏者として公生を選ぶ場面でも、「彼を治してあげる」という慈善ではなく、自分の演奏を成立させるために引っ張ります。
この強引さがあるから、二人の関係は先生と患者のようにはなりません。
椿と渡を置くことで、公生とかをりだけの世界にしない
1巻には、幼なじみの澤部椿と、友人の渡亮太がいます。
かをりは渡に会いたいという形で、公生たちの関係へ入ってきます。
そのため、公生とかをりは最初から「運命の二人」として切り離されません。
椿は公生の日常を以前から知っていて、渡は音楽とは別の場所にいる。
音楽へ戻ろうとする公生を、音楽だけの人間関係で囲わないことが大切です。
彼にはピアノを弾いていない時間もあり、そこを知る友人もいる。
だから音楽へ戻ることが「本来の天才に戻れば全部解決」という話にはなりません。
「モノトーン」から「カラフル」までの4話で、見え方を変える
1巻には「モノトーン」「ヴァイオリニストの恋」「黒猫」「カラフル」の4話が収録されています。
この並び自体が、公生の感覚の変化を示しています。
最初は世界を色の乏しいものとして見ている。
そこへかをりが入り、音楽が再び生活へ侵入してくる。
ただし、1巻の最後で公生の問題が解決するわけではありません。
色が戻るとは、トラウマが消えることではない。
避けていた音楽が、もう一度無視できないものになる。
1巻が到達するのは、その段階です。
漫画で「音」を描くため、観客と身体を使う
漫画には実際の音がありません。
それでも本作は、演奏の違いを譜面の説明だけで済ませません。
弓の動き、公生の視線、聴衆の反応、演奏中の姿勢。
音がどう聞こえたかを、身体と周囲の変化で見せます。
特に公生にとって「聞こえない」ことが問題だから、演奏シーンでは音符そのものより、本人が何を見て何に反応したかが重要になります。
音楽漫画でありながら、「音がない漫画」であることを逆に演出へ使っています。
弱点|かをりの強引さとコメディ表現は、現在読むと好みが分かれる
1巻のかをりは、公生をかなり強引に音楽へ引っ張ります。
ギャグとして暴力的なやり取りもあり、2011年の少年漫画らしいテンポが強く出ています。
公生が深刻な問題を抱えているだけに、「本人の意思より勢いで進めすぎる」と感じる読者はいるでしょう。
また、母との関係や音が聞こえなくなる状態についても、1巻ではまだ全体像が見えません。
公生の苦しさを丁寧に理解してから前へ進んでほしい場合、展開の速さが気になる可能性があります。
原作は全11巻で完結。TVアニメは全22話
原作『四月は君の嘘』は全11巻で完結しています。最終11巻は2015年5月15日に発売されました。
TVアニメは2014年から2015年にかけて放送され、全22話で原作の結末まで描きました。最終11巻限定版には番外編アニメ「MOMENTS」も収録されています。
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まとめ|公生を一人でピアノへ戻さず、まず誰かの音に巻き込む
『四月は君の嘘』1巻の公生は、ピアノの才能を失った少年ではありません。
弾く技術はあっても、母の死以降、自分の音を聞けず、舞台へ戻れない。
そこへかをりが現れます。
彼女は公生へ「自分のためにもう一度弾け」とは言わず、自分の伴奏をさせます。
一人で閉じていたピアノを、他人と一緒に鳴らす音楽へ変える。
だから1巻は「立ち直った少年」の話ではありません。
避けていた音楽が、かをりの音によってもう一度、自分の外から公生を捕まえるところまでを描く巻です。
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母の死をきっかけにピアノから離れた元天才少年・有馬公生が、ヴァイオリニスト宮園かをりと出会い、再び音楽へ巻き込まれていく第1巻。
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書誌情報
- 作品:『四月は君の嘘』1巻
- 著者:新川直司
- 出版社:講談社
- レーベル:講談社コミックス月刊マガジン
- 発売日:2011年9月16日
- 判型:新書判
- ページ数:224ページ
- 定価:517円(税込)
- ISBN:9784063713015
書誌・収録話情報は講談社公式、アニメ情報はTVアニメ『四月は君の嘘』公式サイトを基準に確認しています。