
キャッツ♥アイ 第1巻レビュー|昼は恋人、夜は追う者と追われる者
最初に読み返したとき、いちばん驚いたのは“軽やかさ”でした。怪盗三姉妹と聞くと、もっとハードで緊張が続く物語を想像しますよね。でも『キャッツ♥アイ』は都会の夜風みたいにスッと入ってくる。スリル、恋のときめき、姉妹の掛け合いがリズム良く切り替わって、気づけばページが進んでいる——この感じがたまらない。
作品概要
舞台は喫茶店「キャッツアイ」。来生三姉妹(泪・瞳・愛)は店を切り盛りする昼の顔と、名画や彫像を狙う怪盗の夜の顔を持つ。彼女たちを追う刑事・内海俊夫は、なんと瞳の恋人。昼は寄り添い、夜は追いかけっこ。恋人に正体を隠したまま、仕事としての“追跡”が進むという二重構造が物語の芯になっています。80年代のジャンプらしい勢いと、北条司の端正な線、洒脱な会話が合わさって、今読んでも古びない。
作品の魅力
まずテンポがいい。段取り→潜入→ピンチ→機転の逆転→余韻、の一連が1話の中で小気味よく決まる。三姉妹は力任せではなく、準備と読み、変装と心理戦で勝つから、成功の瞬間に“納得の快感”がある。
三姉妹の個性もくっきり。長女・泪は包容力で物語を落ち着かせ、次女・瞳は行動力と揺れる感情で推進力に、三女・愛は茶目っ気とひらめきで空気を軽くする。単独ヒロインではなく「チームの魅力」で読ませるので、各話で味が変わるのが楽しい。
そして背景にほのかな切なさ。彼女たちはただ“盗む”のではなく、家族の記憶をたどるために美術品を回収する。その動機が物語に陰影を与え、ラブコメの甘さだけで終わらせない余韻を残します。
読むべきポイント(ネタバレなし)
・恋と追跡の境界
昼は恋人、夜は敵対。正体が揺らぎそうな瞬間の間合いと視線の演出がうまい。大ゴマに頼らず、コマ運びで感情を上げてくる。
・準備で勝つ快感
毎回の“仕事”に必ず工夫がある。変装・心理の読み合い・小道具の使い方など、プロの段取りが気持ちいい。
・80sの空気
公衆電話、ネオン、スポーツカー、喫茶店のカウンター。時代の手触りが丁寧に描かれていて、令和目線だと“レトロおしゃれ”として新鮮。
ちょっと耳より情報
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気になっていた人はこの機会に軽く試してみると、作品のテンポの良さが体感しやすいはず。
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名エピソードの味わい
初期の美術館絡みの回は、三姉妹の段取りがもっとも美しく見える好例です。
静かな潜入、計算された誘導、そして“最後のひと押し”。派手な爆発や超人的な力ではなく、読みと準備で勝つから、ページ越しに「うまい」と唸らされる。ラブコメの軽さが保たれつつも、余白に少しの切なさがにじむのもこの作品らしいところです。
俊夫の描き方も巧み。彼は決して無能ではなく、警察官としての矜持を持っている。その真っ当さが、瞳との恋に微妙な影を落とす。読者はいつも“真実が触れそうな距離”で見守らされるのですが、そこで作者が選ぶのは大仰な引き延ばしではなく、呼吸の合った会話や視線の一瞬。大ゴマの連打ではなく、コマ運びで感情を上げていく技術に、再読でも感心します。
いま読む価値
“古典だから勉強として読む”ではなく、純粋にいま面白い。
シンプルな企みと、軽やかな会話、わずかな陰影。そのバランス感覚がとても現代的です。作劇の骨格が強いので、時代小物が変わっても読み味が揺れない。むしろレトロなディテールが、ストーリーのキレを引き立てています。
こんな人にすすめたい
・恋とスリル、両方ほしい気分のとき
・“準備と頭脳で勝つ”物語が好きな人
・80年代の都会的な空気を、おしゃれな感覚で浴びたい人
・通勤・就寝前に1話ずつ、気軽に読み進めたい
まとめ
『キャッツ♥アイ』の良さは、爽快さと切なさが同じ温度で並んでいること。
読後はスッと軽いのに、胸の奥に小さな余韻が残る。その手触りを1巻から味わえます。初めての方はぜひ、肩の力を抜いて。再読の方は、コマの間に潜む視線や手のアップに注目してみてください。きっと、記憶していたよりずっと“上手い”漫画だと気づきます。