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かくかくしかじか(1)レビュー|東村アキコが描く“笑いと涙の美大青春記”

発売情報

  • 作品:かくかくしかじか(1)
  • 著者:東村アキコ(代表作『海月姫』『東京タラレバ娘』)
  • 出版社:集英社(Cocohana/マーガレットコミックス)
  • 発売:2012年刊行
  • 巻数:全5巻完結
  • 受賞歴:マンガ大賞2015 受賞作
  • 電子書籍:Kindle版配信あり

概要―自伝的エッセイ漫画の傑作

『かくかくしかじか』は、人気漫画家・東村アキコが自身の美大時代を振り返り、恩師との出会いを通じて描いた自伝的エッセイ漫画である。
これまでギャグや恋愛作品で知られてきた東村だが、本作では笑いと同時に強烈なノスタルジーと感動が込められている。
漫画家を志す若き日の自分、絵を教えてくれた恩師・日高健三先生との出会いと別れ、そして「なぜ自分は漫画を描くのか」という根源的な問いまで、本音で綴った作品だ。


あらすじ―恩師との出会い

主人公は、漫画家を夢見る女子高生=東村アキコ(本人)。
彼女は美大受験を目指し、画塾に通うことになるが、そこで出会ったのが、厳しくも熱心な教師・日高先生だった。
日高先生は、言葉も態度もぶっきらぼうだが、ひとえに「絵を描くことの本質」を生徒に伝えたい一心で指導にあたる。
アキコは反発しつつも、その指導に支えられながら少しずつ成長していく。1巻は、彼女の青春と葛藤が笑いと涙を交えて描かれる序章だ。


見どころ1:笑いと涙のバランス

東村作品の持ち味であるギャグセンスは健在だ。
コミカルな自虐や周囲の人物とのやりとりには笑いがあふれ、読者を軽やかに物語へ引き込む。
だが、その裏には「芸術を学ぶ厳しさ」「自分と向き合う痛み」がしっかり刻まれており、ただの面白エッセイに終わらない。
笑っていたのに、いつのまにか胸が熱くなる——この落差こそが『かくかくしかじか』の魅力である。


見どころ2:誰もが持つ“恩師との記憶”

1巻を読むと、多くの人が「自分にもこんな先生がいた」と感じるだろう。
厳しくも真剣に向き合ってくれた大人の存在は、誰にとっても心に残るものだ。
日高先生の言葉や姿勢は、単なる“漫画家の成長物語”を超え、普遍的な教育の物語として響いてくる。
だからこそ、この作品は漫画ファンに限らず、幅広い読者層に支持され続けているのだ。

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普遍的テーマ―努力と恩師の存在

『かくかくしかじか』がただの自伝的エッセイ漫画にとどまらず、多くの人に強く響いた理由は、努力と恩師の存在という普遍的なテーマが根底にあるからだ。
日高先生は、技術的に絵を教えるだけでなく、「自分の弱さとどう向き合うか」を生徒に問いかける存在だった。
彼の厳しさはときに理不尽に映るが、その根底には「生徒を本気で成長させたい」という愛情があった。
東村アキコが日高先生に受けた影響は計り知れず、漫画家としての礎だけでなく、生き方そのものを変えるほどのものだった。


マンガ大賞受賞と社会的評価

本作は2015年にマンガ大賞を受賞した。
これは単なる“著名作家の回顧録”ではなく、誰もが共感できる青春物語として高く評価されたことを意味している。
また、漫画家志望の若者や美術を学ぶ学生だけでなく、社会人にとっても「かつての自分の青春」を重ねられる作品として支持を集めた。
発売当初から口コミで広がり、電子書籍でも読み継がれている点は、本作が持つ普遍性の証明といえるだろう。


作品が伝えるメッセージ

『かくかくしかじか』第1巻を読むと、「漫画家東村アキコ」が誕生するまでの裏側が垣間見える。
しかし、それ以上に胸に残るのは「描くことは生きることと同じ」という強烈なメッセージだ。
青春の痛みや葛藤は誰にでもある。けれど、それを支えてくれた大人や仲間がいて、今の自分がある。
このシンプルだが普遍的な真実を、読者は自分自身の経験に重ね合わせながら味わうことができる。


総評

『かくかくしかじか』第1巻は、作者本人の自伝的要素を土台にしながらも、普遍的な“青春と恩師”の物語として読むことができる。
笑いと涙のバランスが秀逸で、芸術を志す人はもちろん、そうでない人にとっても心に響く名作だ。
東村アキコの他作品を知る読者にとっても、この作品を読むことで彼女の作風の根幹を理解できるだろう。

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