75歳以上の免許更新は全員厳しくなる?運転技能検査に方向変換追加へ

2026年9月3日、警察庁は「運転技能検査の見直しに関する有識者検討会」の報告書を公表しました。
今回示されたのは、運転技能検査に「方向変換」を追加すること、「安全不確認」を新たな減点項目にすること、危険性の高い「一時不停止(大)」の減点を重くすることの3点です。
ただし、ニュースを見て「75歳になったら全員が実車試験を受けるのか」と思った人は、そこを分けて考える必要があります。
今回の見直しで、75歳以上の全員を運転技能検査の対象にすると決まったわけではありません。
現在この検査を受けるのは、75歳以上のうち、普通自動車を運転できる免許を持ち、更新前の所定期間に信号無視や速度超過など一定の違反歴がある人です。今回まず見直されるのは、その人たちが受ける検査の内容と採点方法です。
さらに、方向変換で20点、安全不確認で10点、一時不停止(大)で40点という数字も出ていますが、これらは2026年7月の実証実験で使われた見直し案です。9月8日時点では正式な施行日も公表されていません。
75歳以上の免許更新は全員厳しくなる?
今回の報告書だけを見て「75歳以上の免許更新が全員実技試験になる」と受け取るのは正確ではありません。
現在の制度は大きく分けると次のようになっています。
| 制度 | 主な対象 |
|---|---|
| 高齢者講習 | 70歳以上 |
| 認知機能検査 | 原則75歳以上 |
| 運転技能検査 | 75歳以上のうち一定の違反歴がある人 |
運転技能検査は2022年5月13日に始まった制度で、75歳以上の全員が対象ではありません。
普通自動車を運転できる免許を持ち、一定の違反歴がある人について、実際に車を運転して技能を確認します。合格しなければ免許を更新できません。
今回の報告書でも、直ちに75歳以上全員へ対象を広げるとはしていません。
むしろ、現在の対象者について検査の中身を充実させることが今回の中心です。
運転技能検査は誰が受ける?違反が1回でも対象になることがある
現在の運転技能検査では、更新時に75歳以上となる人のうち、普通自動車を運転できる免許を持ち、所定期間内に一定の違反歴がある人が対象になります。
警察庁が案内している主な違反には、
- 信号無視
- 速度超過
- 通行区分違反
- 踏切不停止
- 交差点安全進行義務違反
- 横断歩行者等妨害
- 安全運転義務違反
- 携帯電話使用等
などがあります。警察庁の報告書では、対象となる違反を合計16類型として整理しています。
「何度も違反した人だけ」が対象という制度ではありません。
所定期間内に対象となる違反行為があれば、1回でも運転技能検査の対象になり得ます。
なお、よく「過去3年間」と説明されますが、厳密には単純な更新日前3年間ではありません。
警察庁は、原則として免許の有効期間満了日の直前の誕生日の160日前の日を基準に、その日前3年間の違反歴を見るとしています。一般向けには「更新前の所定の3年間」と覚えておく方が分かりやすいでしょう。
認知機能検査・高齢者講習とは何が違う?
75歳以上の免許更新では、「認知機能検査」「高齢者講習」「運転技能検査」が一緒に語られることがあり、ここが分かりにくいところです。
認知機能検査は、記憶力や判断力を確認する検査です。
現在は「手がかり再生」と「時間の見当識」があり、紙やタブレットを使って行います。車を運転する試験ではありません。
高齢者講習は70歳以上が対象です。通常は講義、運転適性検査、実車指導を含みます。
一方の運転技能検査は、一定の違反歴がある75歳以上の人を対象にした実車による検査です。
運転技能検査の対象者については、高齢者講習の実車指導が行われず、実車指導を除いた1時間の講習となります。
つまり、
75歳以上だから認知機能検査を受けること
と、
一定の違反歴があるため運転技能検査を受けること
は別の話です。
運転技能検査に「方向変換」を追加へ
今回の変更で最も目立つのが、新しい課題として示された「方向変換」です。
方向変換では、車を後退させて所定のスペースへ入り、その後、進入してきた方向とは反対側へ向かって前進して出ます。
教習所で経験した方向変換に近い動きですが、単に「車庫入れが上手か」を見るための課題ではありません。
警察庁の報告書では、
- 後方や側方へ注意を配る
- ハンドルを操作する
- 車を後退させる
- アクセルとブレーキを適切に使う
といった複数の操作を同時に行う点を重視しています。
特に確認したいのが、アクセルとブレーキのペダル操作の正確性です。
背景には、高齢運転者による踏み間違い事故があります。
2025年にアクセルとブレーキの踏み間違いによって起きた死亡事故は46件。このうち31件、約67%が75歳以上の運転者によるものでした。
S字やクランクも追加される?
検討段階では、
- 方向変換
- S字
- クランク
の3課題が候補になりました。
しかし最終的に追加する方向となったのは方向変換だけです。
S字やクランクは車両感覚を確認する意味が大きく、今回重視しているペダル操作の正確性を見る課題としては、方向変換の方が適していると整理されました。
また、3つすべてを追加すると検査時間が長くなり、その後の安全指導に使える時間が短くなることも理由になっています。
「安全不確認」も新たな減点項目へ
現行の運転技能検査には、安全確認そのものを独立して採点する減点項目がありません。
今回の報告書では、そこへ「安全不確認」を追加する方向が示されました。
きっかけになったのが、運転技能検査に合格した人をその後追跡した調査です。
事故を起こした運転技能検査合格者について見ると、安全運転義務違反が多く、そのうち安全不確認による事故が約半数を占めていました。
さらに、その安全不確認の多くは前方や左右の確認不足でした。
そのため、一時停止などの場面で周囲をきちんと確認しているかも、運転技能を見るうえで評価する必要があると判断されています。
安全確認を忘れると10点減点?
ここはまだ決定事項として書けません。
2026年7月の実証実験では、
安全不確認は10点減点
という基準で試されました。
ただし、これは実証実験の採点案です。
9月8日時点で、「正式制度でも必ず10点減点」と最終確定したわけではありません。
どの場面で安全確認を評価するのかも含め、今後の道路交通法施行規則の改正などで具体化されることになります。
「一時不停止(大)」は20点から40点へ?
一時停止の採点も見直されます。
現在の運転技能検査には、
一時不停止(小)=10点減点
と、
一時不停止(大)=20点減点
があります。
「小」は、停止線を越えたものの交差道路へ進入する前には停止したケース。
「大」は、停止線で止まらず、交差道路へ進入するまで停止しなかったケースです。
今回の報告書で減点を重くする方向になったのは、危険性が高い「一時不停止(大)」です。
実証実験では、
20点減点 → 40点減点
として試されました。
第一種免許の合格点は70点以上なので、100点から40点を引かれると60点。この時点で合格基準を下回ります。
ただし、ここも正式な採点基準が「40点」に確定した段階ではありません。
報告書では、信号無視と同様に直ちに不合格となるような水準へ厳しくする意見を踏まえ、減点点数を引き上げる方向が示されています。正式な点数は今後の制度改正を確認する必要があります。
方向変換に失敗すると何点?
方向変換についても、正式な採点点数はまだ確定していません。
実証実験では、方向変換中に接触や脱輪があった場合、
20点減点
として検証されました。
方向変換に要した時間の最頻値は約2分でした。
これも「新制度では脱輪すると必ず20点」という意味ではなく、あくまで今回の実証実験で使った基準です。
現段階で分けておきたいのは、
| 項目 | 現在分かっていること |
|---|---|
| 方向変換 | 課題へ追加する方向 |
| 方向変換20点減点 | 実証実験の基準 |
| 安全不確認 | 減点項目へ追加する方向 |
| 安全不確認10点減点 | 実証実験の基準 |
| 一時不停止(大) | 減点を重くする方向 |
| 40点減点 | 実証実験の基準 |
| 正式な施行日 | 未発表 |
という違いです。
合格点は何点?落ちたらすぐ免許を失う?
現行の運転技能検査は100点満点からの減点方式です。
合格点は、
第一種免許:70点以上
第二種免許:80点以上
となっています。
今回の報告書で、この合格点そのものを変更すると決まったわけではありません。
では、運転技能検査で不合格になるとどうなるのでしょうか。
運転技能検査に合格できなければ、免許の更新は受けられません。
ただし、1回不合格になった瞬間に免許が取り消されるわけではありません。
現行制度では、更新期限まで繰り返し受検できます。
更新期限までに合格できなければ更新できない、という仕組みです。
なお、将来は受検回数に上限を設けるべきだという意見も今回の検討会で出ていますが、これはまだ今後の検討課題です。
実証実験では合格率93.9%から81.6%に
今回の見直しによって、実際にどれくらい採点結果が変わりそうなのかを見る実証実験も行われました。
2026年7月9日から、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県で運転技能検査の受検者147人を対象に実施されています。
現在の基準で採点した場合の合格率は、
93.9%
でした。
これに、
- 方向変換を追加
- 一時停止時の安全不確認を10点減点
- 一時不停止(大)を40点減点
という、最終的に絞られた3項目を反映すると、
81.6%
まで下がりました。
一方、方向変換だけでなくS字・クランクもすべて追加した場合は70.7%となり、課題にかかる時間も最頻値で17分に延びています。
検査後の安全指導に使う時間を確保するため、追加課題を方向変換だけに絞る方向となりました。
ただし、81.6%という数字は147人による実証実験の結果です。
新制度が始まった後の全国の合格率が81.6%になるという意味ではありません。
なぜ今、運転技能検査を見直すのか
運転技能検査は2022年5月に導入されました。
制度開始から約4年が経過し、警察庁が合格者を追跡したところ、検査に合格した人の中にも、その後事故を起こす人が一定数いることが分かってきました。
国家公安委員長は9月3日の会見で、運転技能検査合格者10万人当たりの交通事故件数が、運転技能検査の対象ではない75歳以上の運転者と比べて約2.8倍だったと説明しています。
この数字は少し注意して読む必要があります。
運転技能検査を受ける人は、もともと一定の違反歴があるため検査対象になった人です。
比較されているのは、一定の違反歴がなく運転技能検査の対象にならなかった75歳以上の人。
つまり、
「運転技能検査を受けたから事故率が2.8倍になった」
という意味ではありません。
もともと事故リスクが高いと考えられる層について、現在の検査だけでは十分に見つけ切れていない可能性があり、検査内容を見直す必要があるという話です。
新しい運転技能検査はいつから始まる?
2026年9月8日時点で、具体的な施行日は発表されていません。
警察庁は9月3日、今回の報告書を踏まえて道路交通法施行規則の改正など必要な措置を講じるとしています。
ただ、現段階では、
- 2027年から
- 2027年4月から
- 次の免許更新から
- 今年75歳になった人から
といった開始時期は決まっていません。
正式な施行日や経過措置が発表されるまでは、個々の更新者について「あなたは新しい方向変換付きの検査になる」とは判断できません。
今の段階で決まっているのは、見直しの方向性です。
将来は75歳以上全員が実車検査になる?
将来的な対象拡大については、今回の有識者検討会で意見が出ています。
報告書には、
一定の年齢に達した人については、違反歴の有無にかかわらず運転技能検査の対象にすることを検討してはどうか
という意見が記載されています。
ただし、これは今回決まった3つの見直しとは扱いが違います。
対象者の拡大は「今後の検討課題」です。
同じ欄には、受検回数の上限、サポートカー限定免許との連携、システムによる技能評価、運転技能を高めるための教育など、さまざまな将来案が並んでいます。
80歳以上について毎年の実車指導や認知機能検査を検討してはどうかという意見もありますが、これも制度化が決まったものではありません。
したがって、現時点で、
「いずれ75歳以上全員が実技試験になる」
とも、
「80歳以上は毎年実技試験になる」
とも断定できません。
まとめ|まず変わるのは検査内容、75歳以上全員への拡大は未決定
警察庁が2026年9月3日に公表した報告書では、現在の運転技能検査について、
方向変換の追加
安全不確認の減点項目への追加
一時不停止(大)の減点強化
という3つの方向性が示されました。
しかし、対象者そのものを75歳以上全員へ広げる制度変更ではありません。
現在の運転技能検査は、75歳以上のうち普通自動車を運転できる免許を持ち、所定期間内に一定の違反歴がある人が対象です。
第一種70点、第二種80点という現在の合格基準を変更するとも決まっていません。不合格になっても、現行制度では更新期限まで繰り返し受検できます。
また、実証実験で使われた「安全不確認10点」「一時不停止(大)40点」「方向変換の接触・脱輪20点」という数字も、正式な新採点基準として確定したものではありません。
具体的な施行日もまだ未発表です。
今回のニュースで押さえておきたいのは、「75歳以上全員の免許更新が一斉に厳しくなる」のではなく、まずは一定の違反歴がある75歳以上を対象とする既存の運転技能検査について、実際の事故につながりやすい運転行動をより確認できる内容へ見直そうとしているという点です。