- なぜ『アイドルマスター』はXbox 360だった?DLC・ニコニコ動画と飛躍の理由
- そもそも『アイドルマスター』はXbox 360で生まれたゲームではない
- 家庭用移植の話は、アーケード版が正式稼働する前から始まっていた
- 家庭用にしたかった理由は、かなりはっきりしている
- では、なぜPS2やPS3ではなくXbox 360だったのか
- しかも発売直前のXbox 360は、日本で約29万台だった
- Xbox 360版は「アーケード版を家で遊べるようにしただけ」ではない
- 星井美希はXbox 360版のために生まれた
- Xbox 360を選んだ理由は断定できない。でも、Xbox 360をどう使ったかは分かる
- DLCは後付けではない――発売日から「アイマスカタログ」が始まった
- 「DLC売上3億円」は本当。ただし「歴代世界3位」ではない
- では『アイマス』がDLC商法を発明したのか
- 10万本は大ヒットだったのか――「発売直後」と「その後」を分ける
- では『アイマス』はXbox 360本体を救ったのか
- 2007年のもう一つの出来事――ニコニコ動画と「ニコマス」
- 開発者自身も「名前が知られたのはニコニコ動画などの影響」と振り返っている
- Xbox 360版の映像表現は、結果的に動画時代とも相性がよかった
- 『LIVE FOR YOU!』では、さらに「ライブを見る」方向へ進んだ
- それでも『アイドルマスター』はXboxだけのシリーズにはならなかった
- 「Xbox 360=美少女ゲームのハード」にした作品だったのか
- 2026年現在、Xbox 360版『アイドルマスター』は遊べる?
- 結局、なぜXbox 360版『アイドルマスター』は重要だったのか
なぜ『アイドルマスター』はXbox 360だった?DLC・ニコニコ動画と飛躍の理由

2007年1月25日、Xbox 360に『THE IDOLM@STER(アイドルマスター)』が発売された。
今では巨大なシリーズになった「アイマス」だが、最初から家庭用ゲームだったわけではない。
出発点は2005年7月26日に本格稼働したアーケード版。ゲームセンターでアイドルを育て、全国のプレイヤーとオンラインオーディションを戦うゲームだった。
その最初の家庭用移植先に選ばれたのがXbox 360だった。
ここが、2026年から振り返ると妙に見える。
『アイマス』発売直前の2006年末、ファミ通集計によるXbox 360の国内累計販売台数は290,467台。同じ時点で、発売から約1か月のWiiは989,118台、PS3も466,716台に達していた。
さらにニンテンドーDSは13,961,770台。
日本市場で大きな普及を狙うなら、Xbox 360は一見すると有利な選択には見えない。
それなのに、なぜ『アイドルマスター』はXbox 360へ行ったのか。
「Microsoftが誘致した」「Xbox LiveでDLCを売りたかった」「PS2では性能が足りなかった」といった説明は、現在もネット上で見かける。
ところが当時の開発者インタビューまで遡ると、話はそれほど単純ではない。
家庭用へ移植した理由については、かなり詳しい証言が残っている。一方で、「なぜ他機種ではなくXbox 360だったのか」を一つの理由で説明した一次証言は、今回確認した資料からは見つからなかった。
ここを無理につなげないことが、このゲームの位置を理解するうえで重要になる。
ただし、Xbox 360を選んだ後に何が起きたのかは、かなりはっきりしている。
HD世代のグラフィック、Xbox Live、オンラインオーディション、ランキング、そして大量のダウンロードコンテンツ。
Xbox 360版は単なるアーケード版の移植ではなく、『アイドルマスター』が家庭用とネットの時代へ踏み出す大きな転換点になった。
そもそも『アイドルマスター』はXbox 360で生まれたゲームではない
まず、よくある誤解から整理しておきたい。
『THE IDOLM@STER』の原点はXbox 360ではなくアーケードだ。
2005年7月26日にアーケード版が本格稼働。プレイヤーは芸能事務所「765プロダクション」のプロデューサーとなり、アイドル候補生を育成する。
特徴的だったのは、ゲームセンターの大型筐体だからこそできる仕組みだった。
タッチパネルを使ってレッスンやコミュニケーションを行い、ネットワークを通じて他のプレイヤーとオーディションで競う。さらに携帯電話へ届くメールによって、アイドルからゲームセンターへ呼び出される仕掛けまであった。
家庭用ゲームとはかなり違う環境を前提に設計されていた。
それだけに、「人気が出たから後から家庭用へ移植した」と考えたくなる。
実際には、もっと早かった。
家庭用移植の話は、アーケード版が正式稼働する前から始まっていた
2007年1月、GAME WatchがXbox 360版プロデューサーの坂上陽三氏、ディレクターの小野田裕之氏、アーケード版ディレクターの石原章弘氏へ行ったインタビューに、重要な証言が残っている。
坂上氏によれば、アーケード版はロケテストの反応がよく、旧ナムコにはアーケード作品を家庭用へ展開する流れもあった。
そしてアーケード版の稼働開始約2か月前、2005年5月ごろには家庭用へ移植しようという話が出ていたという。
つまり、順番はこうなる。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2005年5月ごろ | 坂上氏によれば、家庭用移植の話が出始める |
| 2005年7月26日 | アーケード版が本格稼働 |
| 2005年12月10日 | Xbox 360が日本で発売 |
| 2006年7月21日 | Xbox 360版への移植が公表される |
| 2006年9月 | 東京ゲームショウで星井美希などを披露 |
| 2007年1月25日 | Xbox 360版発売、アイマスカタログ創刊号公開 |
| 2007年11月1日 | プラチナコレクション発売 |
| 2008年1月 | 10万本出荷、DLC120万DL・売上3億円突破を公表 |
| 2008年2月28日 | 『アイドルマスター ライブフォーユー!』発売 |
| 2011年2月24日 | Xbox 360版『アイドルマスター2』発売 |
| 2011年10月27日 | PS3版『アイドルマスター2』発売 |
| 2024年7月29日 | Xbox 360ストア/マーケットプレイスで新規購入終了 |
ここから分かるのは、少なくとも「アーケード版が大ヒットしたので、成功を見て急きょXbox 360へ移植した」という流れではなかったことだ。
家庭用展開は、アーケード版が正式に動き始める前から考えられていた。
家庭用にしたかった理由は、かなりはっきりしている
では、なぜ家庭用へ持っていきたかったのか。
ここは開発者自身が具体的に説明している。
アーケード版には、家庭用では起きない三つの大きなハードルがあった。
- 近所に筐体がない
- 繰り返し遊ぶと料金がかかる
- ゲームセンターで遊ぶのが恥ずかしいと感じる人がいる
家庭用なら、これらをまとめて解消できる。
家なら何度遊んでも1プレイごとの料金は発生しない。近所に設置店舗がなくても関係ない。他人の視線を気にせずアイドルとのコミュニケーションを楽しめる。
石原氏も、作り手としてはより多くの人に遊んでもらいたかった一方、アーケード版にはタッチパネル、メール、オンライン対戦など特殊な仕組みがあり、同じ遊びを家庭用で実現できるかという懸念があったと振り返っている。
つまり家庭用化の理由はかなり明確だが、家庭用化=最初からXbox 360ありき、ではない。
この二つは分けて考える必要がある。
では、なぜPS2やPS3ではなくXbox 360だったのか
ここがこの記事で最も知りたいところだと思う。
しかし、先に結論を書く。
今回確認できた当時の公式資料や坂上氏・石原氏らのインタビューには、「この理由でXbox 360を選んだ」と一つに特定できる直接証言は見つからなかった。
これは意外に重要だ。
ネット上では、もっと分かりやすい説明が語られることがある。
| よくある説明 | 今回の確認結果 |
|---|---|
| Microsoftが『アイマス』を誘致した | 個別の誘致を裏付ける一次証言は確認できず |
| Xbox 360独占契約があった | 確認できず |
| PS2では性能不足だった | 360で映像が大幅強化されたことは確認できるが、PS2を却下した理由だという証言は確認できず |
| DLCを売るためXbox 360を選んだ | DLCを積極活用した事実はあるが、ハード選定の決定理由だったという証言は確認できず |
| Xbox Liveがあったから360にした | Xbox Liveを深く利用したことは確定。選定理由そのものとする直接証言は確認できず |
もっともらしい条件を後から並べれば、いくらでも説明は作れる。
だが、それを開発者の判断だったことにしてしまうと話が変わってしまう。
一方、当時のMicrosoftが日本のゲームメーカーとの関係強化を進めていたことは公式資料から確認できる。
MicrosoftはXbox 360投入時、日本を重要市場と位置づけ、ナムコを含む国内大手メーカーからの支持を前面に出していた。2006年の東京ゲームショウでは、年末までに日本で約110タイトルをそろえる計画を発表し、『ブルードラゴン』『ロストオデッセイ』など日本市場を強く意識したタイトルも展開している。
『アイドルマスター』は、まさにXbox 360が日本向けタイトルを増やそうとしていた時期に登場した。
ただし、ここから「だからMicrosoftがアイマスを誘致した」とまでは言えない。
確認できる事実は、Xbox 360が日本市場を攻略しようとしていた時期と、アイマスの家庭用化が重なったところまでだ。
しかも発売直前のXbox 360は、日本で約29万台だった
プラットフォーム選択が今見ると奇妙に感じられる最大の理由は、当時の普及台数にある。
楽天証券の2007年1月15日付レポートには、ファミ通を出所とする2006年末時点の国内販売台数が掲載されている。
| ハード | 2006年末までの国内累計販売台数 |
|---|---|
| ニンテンドーDS(DS Lite含む) | 13,961,770台 |
| PSP | 4,512,654台 |
| Wii | 989,118台 |
| PS3 | 466,716台 |
| Xbox 360 | 290,467台 |
WiiとPS3は2006年末に発売されたばかりなので、単純に同じ期間を戦った数字ではない。それでもXbox 360は2005年12月10日に日本で発売され、約1年先行していた。
その状態で約29万台だった。
日本で苦戦していた、という表現は印象論ではない。
そして『アイドルマスター』は、この約29万台の市場へ2007年1月25日に入っていった。
Xbox 360版は「アーケード版を家で遊べるようにしただけ」ではない
それでも家庭用版が、アーケード版をそのまま移しただけなら話は単純だった。
実際は違う。
坂上氏は開発について、最終的にはXbox 360版を「ゼロから洗いなおして」作ることになったと振り返っている。
モーションもアーケード版の使い回しではなく、すべて撮り直した。
さらにゲームそのものにも大きく手が入っている。
| 要素 | Xbox 360版での主な変更 |
|---|---|
| キャラクター | 新アイドル「星井美希」を追加 |
| 楽曲 | 新曲6曲を追加 |
| シナリオ | 開発者説明で公称約1.5倍 |
| 育成期間 | 52週・1年間のプロデュースへ変更 |
| ゲーム進行 | オーディション、レッスン、営業など家庭用向けに再調整 |
| 操作 | タッチパネル前提だった部分をXbox 360コントローラー向けに変更 |
| 映像 | HD対応、グラフィック強化、モーション撮り直し |
| オンライン | Xbox Liveを利用したオンラインオーディションやランキング |
| 追加コンテンツ | Xbox Live マーケットプレースで衣装・アクセサリーなどを販売 |
特に家庭用では、アーケード版ほどランキングや勝敗だけを意識しなくても遊べる方向へ調整された。
ゲームセンターでは1プレイごとにお金がかかる。
家では失敗しても、もう一度遊べる。
同じ『アイドルマスター』でも、遊ばれる環境が違えば設計も変わる。
Xbox 360版はそこまで含めて作り直されている。
星井美希はXbox 360版のために生まれた
現在では765プロの代表的なアイドルの一人となった星井美希も、最初からアーケード版にいたわけではない。
2006年9月、Xbox 360版オリジナルキャラクターとして発表された。
2015年の10周年インタビューで坂上氏は、「家庭版ならではのキャラを出したい」という考えから美希が生まれたと振り返っている。
既存メンバーへ後から加わるため、埋もれないキャラクターにする必要があった。
結果として、外見だけでなくシナリオにも大きなボリュームが与えられた。
星井美希の存在だけを見ても、Xbox 360版が「アーケード版をテレビ画面へ移しただけ」ではなかったことが分かる。
Xbox 360を選んだ理由は断定できない。でも、Xbox 360をどう使ったかは分かる
ここで最初の疑問へ戻る。
Xbox 360を選んだ決定的理由は、今回確認した資料だけでは断定できない。
しかし、Xbox 360へ移ったことで何をしたかなら、はっきりしている。
まずHD世代の性能を使って、キャラクター表現を大きく作り直した。
そしてもう一つがXbox Liveだ。
アーケード版はもともとオンライン要素の強いゲームだった。その性格を家庭へ持ち込むうえで、Xbox Liveは実際に重要な役割を果たした。
Xbox 360版でもオンラインオーディションが行われ、ランキングも用意された。
さらに、後から本作を象徴することになる「765ショップ」とダウンロードコンテンツが加わる。
つまり、「Xbox LiveのためにXbox 360を選んだ」とまでは確認できないが、「選んだXbox 360のXbox Liveをかなり積極的に使った」は事実なのである。
DLCは後付けではない――発売日から「アイマスカタログ」が始まった
Xbox 360版『アイドルマスター』を語るとき、避けて通れないのがダウンロードコンテンツだ。
公式サイトを見ると、ゲーム発売日と同じ2007年1月25日に「アイマスカタログ創刊号」が公開されている。
ゲーム内の「765ショップ」やXbox Live マーケットプレースから、追加コンテンツを購入する仕組みだった。
販売には当時のXbox Liveで使われていたMicrosoft Pointsを使用する。
公式カタログには、衣装、アクセサリーなど多数の商品が並び、後のカタログでは衣装1000マイクロソフトポイント、500マイクロソフトポイント、アクセサリー200マイクロソフトポイントといった価格も確認できる。
重要なのは、DLCが「ゲームが予想外に売れたので、あとから思いついて始めたもの」ではないことだ。
発売日からカタログが用意され、その後も継続して追加された。
「DLC売上3億円」は本当。ただし「歴代世界3位」ではない
アイマスのDLCについては、ネット上で「3億円」「世界3位」という数字が長く語られてきた。
これは原典を確認できる。
2008年1月18日にバンダイナムコゲームス本社で行われた『アイドルマスター ライブフォーユー!』の発表会で、次の実績が公表された。
| 項目 | 公表された実績 |
|---|---|
| Xbox 360版本編 | 10万本出荷(プラチナコレクション含む・2008年1月時点) |
| プラチナコレクション | 3万本出荷 |
| DLC | 120万ダウンロード(2008年1月時点) |
| DLC売上 | 3億円突破(2008年1月時点) |
| Xbox Live内順位 | DLC世界第3位(2007年9月時点) |
ここで注意したいのが「世界第3位」の意味だ。
確認できるのは2007年9月時点でXbox Liveのダウンロードコンテンツ世界第3位だった、という発表。
「Xbox 360史上、最終的に歴代世界3位になった」と読み替えるのは正確ではない。
それでも、日本で約29万台というところから始まったハードの日本向けタイトルが、Xbox Liveで世界3位と報告されるほどDLCを動かしたことは十分に異例だ。
では『アイマス』がDLC商法を発明したのか
ここも話を大きくしすぎないほうがいい。
追加コンテンツやデジタル販売そのものは『アイドルマスター』以前から存在している。
Xbox 360にも本作以前からXbox Live マーケットプレースがあり、ゲームや追加コンテンツの販売環境は用意されていた。
したがって、「アイマスがDLCを発明した」「日本で初めてDLCを始めた」とするのは不適切だ。
特徴的だったのは別のところにある。
アイドルゲームには、追加コンテンツとの相性が非常によかった。
新しい衣装を着せたい。
別のアクセサリーを付けたい。
好きなアイドルのステージを違う姿で見たい。
一度買って終わるゲームの外側に、「このアイドルをもっと楽しみたい」という需要が続く。
その需要にカタログを継続的に更新する仕組みを組み合わせ、実際に120万DL、3億円という規模まで育てた。
発明したことより、DLCを作品の継続運営と結びつけ、大きな商業実績を残したことのほうが重要だ。
10万本は大ヒットだったのか――「発売直後」と「その後」を分ける
もう一つ注意したいのが、Xbox 360版の売れ方だ。
後世から見ると、『アイドルマスター』は最初から巨大コンテンツだったように感じる。
しかし2008年1月の公式発表で確認できる数字は、通常版とプラチナコレクションを合わせて10万本出荷。
発売から約1年かけて到達した数字だ。
しかも、そのうち3万本は2007年11月に発売された廉価版「プラチナコレクション」だった。
ここから見えてくるのは、発売日に爆発して終わったソフトではないということだ。
むしろ発売後もDLC、音楽CD、イベント、ネット上での盛り上がりなどと一緒に存在感を伸ばしていった。
だから「発売直後から10万本級の大ヒットだった」と書くと、アイマスが大きくなっていった過程を逆に見えにくくしてしまう。
では『アイマス』はXbox 360本体を救ったのか
ここから「アイマスのおかげでXbox 360が売れた」という伝説も生まれやすい。
確かに、本編10万本出荷は無視できない。
発売直前の国内Xbox 360累計が約29万台だったことを考えれば、ハード規模に対して強い存在感を持ったタイトルだったことは分かる。
さらにDLCは120万DL・3億円。
続いて『アイドルマスター ライブフォーユー!』がXbox 360で発売され、2011年の『アイドルマスター2』もまずXbox 360に登場した。
しかし、ここから
「アイマスがXbox 360を救った」
と結論づけるのは飛躍がある。
今回確認した資料では、『アイドルマスター』発売によってXbox 360本体が何台増えたのかを示す公式な因果データまでは確認できなかった。
そもそも当時のXbox 360には、『ブルードラゴン』『ロストオデッセイ』などMicrosoftが日本市場攻略のために強く押し出した作品もあった。
後には『テイルズ オブ ヴェスペリア』など、日本で大きな注目を集めるタイトルも登場する。
『アイマス』だけでXbox 360の日本市場を説明することはできない。
言えるのは、日本では少数派だったXbox 360の中で、非常に濃い存在感を持った日本発タイトルの一つになったというところまでだ。
2007年のもう一つの出来事――ニコニコ動画と「ニコマス」
そしてXbox 360版『アイドルマスター』を特殊な作品にしたもう一つの要素がある。
ニコニコ動画だ。
Xbox 360版の発売は2007年1月25日。
ニコニコ動画が急速に利用者を増やしていった時期と重なる。
『アイドルマスター』のステージ映像は、動画を編集して別の楽曲と組み合わせたり、演出を加えたりする素材として使われるようになった。
いわゆる「ニコマス」文化である。
ここで時系列を間違えてはいけない。
ニコニコ動画が『アイドルマスター』というゲームを生んだわけではない。
アーケード版は2005年から存在し、家庭用移植の話も同年5月ごろから始まっている。
Xbox 360版もニコニコ動画で流行したから作られたものではない。
先にゲームがあった。
そこへ動画文化が重なった。
開発者自身も「名前が知られたのはニコニコ動画などの影響」と振り返っている
これは後世のファンによる解釈だけではない。
2015年の10周年インタビューで石原章弘氏は、『アイドルマスター』の名前がある程度知られるようになったことについて、ニコニコ動画などの影響があったと振り返っている。
一方、公式側がニコニコ動画の流行に合わせて作品を作り変えていった、という話でもない。
同じインタビューで坂上氏は、ユーザーが動画を作って盛り上がる様子を楽しんではいたものの、公式が二次創作へ寄りすぎないようにしていたと説明している。
この距離感が興味深い。
公式が作ったXbox 360版には、HD化されたキャラクター、衣装、楽曲、ステージがある。
それをユーザーが動画の素材として使い、ゲームを持っていない人にも広げていった。
だから、
「Xbox 360版が発売日に爆発的大ヒットした」
「ニコニコ動画でアイマスが広まった」
「Xbox 360本体が売れた」
を一つの出来事として扱うと実態を見失う。
ゲームの発売と、IPとしての認知拡大には時間差があった。
Xbox 360版の映像表現は、結果的に動画時代とも相性がよかった
ここは因果関係ではなく、結果としての相性として見ると面白い。
Xbox 360版では、アーケード版からグラフィックを大幅に作り直した。
モーションも撮り直し、新曲も6曲追加。
アイドルが歌って踊るTV出演シーンそのものの見栄えが大きく向上した。
その映像が、ちょうど家庭で録画・編集され、ネットへ投稿される時代と重なった。
Xbox 360を選んだ理由として「ニコニコ動画」を挙げることは当然できない。
だが、Xbox 360版で強化されたステージ映像が、その後の動画文化と非常に相性のいい素材になったという結果は見逃せない。
『LIVE FOR YOU!』では、さらに「ライブを見る」方向へ進んだ
Xbox 360版の展開は一本で終わらなかった。
2008年2月28日には『アイドルマスター ライブフォーユー!』が発売される。
こちらは前作の育成ゲームをそのまま続けた作品ではない。
ライブシーンをもっと手軽に楽しんでもらうことを重視し、楽曲、ステージ、衣装、アクセサリーなどを組み合わせてライブを楽しむ方向へ大きく振っている。
坂上氏は後のインタビューで、前作ではパラメータなどの条件によってライブを十分に見られていないプレイヤーもいるため、ライブをきちんと見せたいという発想があったと説明している。
石原氏は、前作のDLCが好評だったことから、『LIVE FOR YOU!』では最初からDLCを利用して毎月楽しみを拡張していく形を目指したとも振り返っている。
ここまで来ると、Xbox 360時代に作られたものは単なる「移植版」ではなくなっている。
ゲームを発売し、その後も追加コンテンツを供給し、音楽や映像と一緒に長く接触してもらう。
後の『アイドルマスター』につながる運営型IPの感覚が、かなり見え始めている。
それでも『アイドルマスター』はXboxだけのシリーズにはならなかった
Xbox 360で大きな転換を果たしたからといって、シリーズがそのままXboxへ固定されたわけではない。
2009年にはPSP『アイドルマスターSP』を展開。
同年にはニンテンドーDS『アイドルマスター ディアリースターズ』も登場した。
2011年2月24日には『アイドルマスター2』がXbox 360で発売されるが、同年10月27日にはPS3版も発売されている。
そしてシリーズは家庭用ゲームだけでなく、ソーシャルゲーム、スマートフォン、アニメ、ライブなどへさらに広がっていった。
だからXbox 360を「アイマスを独占して成功させたハード」と見るより、
アーケードで始まったアイマスが、家庭用の大きなIPへ変わっていく途中で重要な役割を担ったハード
と考えたほうが実態に近い。
「Xbox 360=美少女ゲームのハード」にした作品だったのか
Xbox 360については後年、「日本では美少女ゲームやコア向け作品が集まったハード」というイメージで語られることがある。
『アイドルマスター』がその印象形成に無関係だったとは考えにくい。
ただし、これも「アイマス発売後にXbox 360がギャルゲーハードになった」と一本の因果関係にするのは乱暴だ。
Xbox 360にはRPG、シューティング、アクション、海外タイトルなど幅広いソフトが存在し、日本市場向けの展開も時期によって変化している。
『アイドルマスター』はその中で、キャラクター、音楽、DLC、イベント、ネット文化まで結びついた独特の成功例になった。
その存在感が強かったため、後からXbox 360の日本史を振り返ったときに目立って見える。
「Xbox 360を美少女ゲーム機に変えた一本」というより、日本のXbox 360が持っていた独特の一面を象徴する一本になったと考えるほうがいい。
2026年現在、Xbox 360版『アイドルマスター』は遊べる?
ここまで読んで、「では今からXbox 360版を遊べるのか」と思う人もいるだろう。
現在は少し事情が複雑だ。
Microsoftは2024年7月29日をもって、Xbox 360本体のストアとXbox 360マーケットプレイスにおける新しいゲーム、DLCなどの購入機能を終了した。
そのため、Xbox 360版『アイドルマスター』のDLCを今からXbox 360ストアで新規購入することはできない。
一方、MicrosoftはXbox 360ストア終了後も、購入済みゲームやDLCは引き続き利用でき、削除した購入済みコンテンツも再ダウンロードできるとしている。
物理ディスクについてもXbox 360本体で引き続きプレイできる。
ただしオンライン機能については、個々のゲームでパブリッシャー側のサービスが維持されていることが前提となる。
Xbox Series X|Sでは遊べるのか
ここは特に誤解しやすい。
Xbox 360のゲームすべてがXbox OneやXbox Series X|Sで動くわけではない。
後方互換プログラムの対象になった作品だけだ。
今回Microsoftの公開情報を確認した範囲では、初代Xbox 360版『THE IDOLM@STER』がXbox One/Xbox Series X|Sの後方互換対象であることを確認できなかった。
したがって、「中古のXbox 360版を買ってSeries Xに入れれば遊べる」と考えないほうがいい。
2026年現在、当時のXbox 360版を公式な方法で遊ぶなら、基本的にはXbox 360実機とパッケージ版を使う形になる。
ただしDLCを新しく買うことはできないため、2007~2008年当時とまったく同じ環境を新規ユーザーが再現できるわけではない。
Xbox 360版『アイドルマスター』は現在も中古パッケージが流通しています。ただし現行Xboxの後方互換を前提にせず、購入する場合はXbox 360実機で遊ぶためのソフトとして確認してください。DLCの新規購入はすでに終了しています。
結局、なぜXbox 360版『アイドルマスター』は重要だったのか
最初の疑問に、もう一度戻ろう。
なぜ『THE IDOLM@STER』はXbox 360を選んだのか。
家庭用へ移植した理由なら分かる。
アーケード版正式稼働前の2005年5月ごろには家庭用化の話が出ていた。
設置店舗が限られること、プレイ料金がかかること、人前で遊びにくいこと。
家庭用にすれば、それらを解消してもっと多くの人へ届けられる。
一方、なぜその移植先がPS2などではなくXbox 360だったのかについては、今回確認した一次・準一次資料だけで決定的な一理由には絞れない。
ここを「DLCのためだった」「Microsoftが誘致した」と簡単に埋めてしまう必要はない。
むしろ面白いのは、その後だ。
国内累計約29万台という、決して大きくなかったXbox 360市場へ『アイドルマスター』は入った。
そしてアーケード版をそのまま移すのではなく、モーションからゲーム進行まで大幅に作り直した。
星井美希を加えた。
HD世代の映像へ変えた。
Xbox Liveでオンラインオーディションやランキングを行った。
発売日からDLCを展開した。
約1年後には本編10万本出荷、DLC120万ダウンロード、売上3億円突破という数字が発表された。
さらに、その映像は2007年に拡大したニコニコ動画の二次創作文化とも結びつき、ゲームを買った人の外側へ『アイドルマスター』の名前を広げていった。
だからといって、Xbox 360がアイマスを一方的に成功させたわけではない。
アイマスがXbox 360を日本で成功させた、とも言えない。
両方とも、そこまで単純な話ではない。
ただ、日本では少数派だったXbox 360というハードと、ゲームセンターから家庭へ出ようとしていた『アイドルマスター』が2007年に出会い、ハードのHD性能、オンラインサービス、ダウンロード販売という当時の新しい環境を実際の作品展開へ深く組み込んだ。
そして、そのタイミングで動画投稿文化まで急成長した。
最初からすべて計算されていたわけではない。
むしろ、いくつもの条件が後から重なった。
だからXbox 360版『THE IDOLM@STER』は、単なる「初の家庭用アイマス」では終わらない。
Xbox 360というハードの日本での歴史を振り返っても、アイドルマスターというIPの歴史を振り返っても、どうしても途中にこの一本が立っている。
日本では苦戦したゲーム機と、まだ巨大IPになる前のアーケードゲーム。
一見すると妙な組み合わせだった。
だが、そのハードで何をしたのかまで追っていくと、2007年のXbox 360版がシリーズの転換点になった理由は見えてくる。
「アイマスがXbox 360を救った」という伝説より、その実像のほうがずっと面白い。
同じ「ハード史の中で妙な位置にいるゲーム」では、ドリームキャスト撤退発表直後に発売された『セガガガ』がなぜあの時期に登場したのかも、当時の開発経緯から詳しく検証している。