- 『¥マネーの虎』はなぜ世界で成功?Shark Tank・Dragons' Denの原点
- 先に結論|『Shark Tank』の原点は日本の『¥マネーの虎』
- 『¥マネーの虎』は、低予算の深夜番組から始まった
- 『¥マネーの虎』最大の異物感は「本物の金」だった
- 「ノーマネーでフィニッシュです」は本当に使われていた
- 日本版は「最初から人気がなかった」わけではない
- ゴールデンでは苦戦し、深夜へ戻った
- 日本で放送中の2002年、すでに海外販売が始まっていた
- 海外へ売ったのは「番組」ではなく「作り方」
- 2005年、英国『Dragons' Den』が始まる
- 2009年、米国で『Shark Tank』が始まった
- 日本版・英国版・米国版は、同じ番組なのか
- 米国『Shark Tank』はエミー賞5回受賞
- 日本終了後も、40版、50版、54版と増え続けた
- 「54版」と「186カ国」は意味が違う
- 「世界で10億ドル投資された」も、そのままでは正確ではない
- TigerはDragon、Shark、Lionになった
- なぜ、この番組構造は世界中で成立したのか
- 最初から世界市場を狙った番組ではなかった
- では、なぜ日本では復活していないのか
- 日本のテレビは「映像」だけでなく「作り方」も輸出してきた
- 結局、世界へ輸出されたのは「虎」ではなかった
- 主な確認資料
『¥マネーの虎』はなぜ世界で成功?Shark Tank・Dragons' Denの原点

『¥マネーの虎』は、日本テレビで2001年に始まり、2004年3月に放送を終えました。
日本では約2年半。ところが、この番組には、その後20年以上続く「もう一つの歴史」があります。
2005年には英国BBCで『Dragons' Den』、2009年には米国ABCで『Shark Tank』がスタート。さらに各国でDragon、Shark、Lionなど名前を変えながら現地版が作られ、2024年にはバングラデシュで50番目、2025年にはネパールで54番目のバージョンまで到達しました。
米国の『Shark Tank』は2026年9月30日にシーズン18を開始しています。
ただし、これを「日本で終わった番組を海外へ売ったら、外国で大当たりした」と説明すると、時系列が違います。
日本テレビが『¥マネーの虎』のフォーマット販売を始めたのは2002年。日本版がまだ放送中、それもゴールデンタイムへ進出した年でした。
しかも世界へ渡ったのは、日本の「虎」たちでも、吉田栄作でも、札束が置かれたあの部屋そのものでもありません。
輸出されたのは、夢や事業計画を持つ人が、本物の実業家を前にプレゼンし、本物の金をめぐって交渉するという番組の仕組みでした。
先に結論|『Shark Tank』の原点は日本の『¥マネーの虎』
| よくある疑問 | 確認できる答え |
|---|---|
| 『Shark Tank』は『¥マネーの虎』と関係ある? | ある。ABCは、日本テレビが作った日本発フォーマットを原型とする番組だと公式に説明している |
| 英国『Dragons' Den』が元祖? | 違う。日本版『¥マネーの虎』が2001年に先に始まっている |
| 日本版終了後に海外販売された? | 違う。フォーマット販売開始は2002年。日本版終了は2004年3月 |
| 186カ国で現地版を制作した? | 違う。ローカル版は50超。186超は各バージョンの放送到達地域を含む数字 |
| 世界で10億ドルが実際に投資された? | 2024年の公式発表は、世界で合意された投資額が約10億ドルに迫ったというもの |
一番大きな誤解は、「日本で終わったから海外へ持っていった」という部分です。
世界進出は、日本版の終了より前に始まっていました。
『¥マネーの虎』は、低予算の深夜番組から始まった
『¥マネーの虎』が日本テレビで始まったのは2001年10月です。
今では世界的なテレビフォーマットですが、最初から海外市場を狙った大型プロジェクトだったわけではありません。
日本テレビの2002年2月25日の会長社長会見資料では、当時編成部長だった土屋敏男が若手社員へ企画制作の課題を与え、その条件をクリアした番組の一つとして『マネーの虎』が説明されています。
制作の中心を担った栗原甚も、後年のインタビューで、出発点に「深夜」「低予算」という条件があったと振り返っています。
有名タレントを何人も並べ、大掛かりなセットを作るのではなく、一般の志願者と実際の経営者を向かい合わせ、その場で起きる会話を番組にする。
予算上の制約から生まれた方法が、後に世界中で使える番組構造へ育っていきました。
「栗原甚が一人で発明した」とまでは言い切れない
『¥マネーの虎』を語るうえで、栗原甚は欠かせない人物です。企画・総合演出・プロデュースを担い、後年の取材でも番組誕生や世界展開について詳しく証言しています。
ただ、企画の発想を栗原一人だけのものとしてしまうと、別の当事者証言と合いません。
放送作家の堀江利幸は後年、自分が以前から「画面に札束が映り続けるような番組」を作りたいと考えており、成功者が若い人へ資金を出す仕組みについて読んだことから企画を考えたと振り返っています。
鈴木おさむも2024年、栗原と堀江の2人で考えた企画だったと記しています。
公開されている証言を合わせると、栗原甚が日本テレビ側で制作を主導し、堀江利幸も番組の根本的な発想に深く関わったと見るのが自然です。
大企業の社長では「その場で自分の金を出す」が難しかった
番組を成立させるには、「虎」探しにも条件がありました。
栗原の後年の証言では、大企業を含め多数の会社へ出演交渉をしたものの、なかなか出演者が決まらなかったといいます。
考えてみれば当然です。
大企業の経営者がテレビ収録の途中で、会社の資金を個人の判断だけで数百万円動かすことは簡単ではありません。
そこで、自分で投資を決められるオーナー経営者へ対象を広げていった。
後に名物となる個性の強い「虎」たちは、テレビ映えだけで選ばれたわけではなく、本当に自分で金を出すかどうかを判断できる人物でなければならなかったのです。
栗原は社長たちについて基本的にノーギャラだったとも振り返っています。ただし、全出演者の契約条件まで公開されているわけではないため、「歴代の虎が例外なく全員無報酬だった」とまでは断定できません。
番組立ち上げ時の交渉や、栗原がテレビ制作で行ってきた準備についてさらに読みたい場合は、本人の著書『すごい準備』にも当時の制作現場につながる話が収録されています。
『¥マネーの虎』の企画・総合演出・プロデュースを手掛けた栗原甚の著書。テレビ制作の現場で培った交渉や準備の方法を、具体的なエピソードとともにまとめた一冊です。
価格・在庫・仕様や版の違いなどは変動します。購入の際は各ショップの商品ページで最新情報をご確認ください。
『¥マネーの虎』最大の異物感は「本物の金」だった
番組の基本構造は、驚くほど単純です。
志願者が、実現したい事業や夢と必要な金額を説明する。
その前には、「虎」と呼ばれる実業家たちが並ぶ。
虎は事業計画、数字、志願者の覚悟や能力を質問し、自分が資金を出す価値があるかを判断します。
合計が希望金額へ届かなければ原則としてノーマネー。必要な金額がそろえばマネー成立です。
一般的なクイズ番組なら、賞金を用意するのはテレビ局です。
『¥マネーの虎』は違いました。
投資するかどうかを判断する実業家自身が、金を出す側にいる。
この違いが、番組の空気を決定的に変えました。
志願者の計画が甘ければ、本気で否定する。事業に価値を感じれば、自分の資金を出そうとする。
単なる審査員ではなく、判断を間違えれば自分が損をする人間を審査席へ置いたことが、この番組の緊張感を作っていました。
「マネー成立」=その場で法的契約まで完了、とは限らない
ただし、「テレビでマネー成立になった瞬間に、すべての投資契約が法的に完了した」と考えるのも早計です。
元出演者の証言には、番組で出資を表明した資金を実際に出し、その後事業から回収した具体例があります。そのため、投資自体がすべて演出だったとする根拠はありません。
一方、日本版の全案件に共通する契約書、収録後の審査手順、株式取得・融資・共同事業などの法的な形態について、包括的に確認できる公式資料は公開されていません。
番組上の「マネー成立」と、最終的な契約手続きの完了は分けて考える必要があります。
「ノーマネーでフィニッシュです」は本当に使われていた
『¥マネーの虎』を知らない世代でも、この言葉だけは聞いたことがあるかもしれません。
ノーマネーでフィニッシュです
後年ネット上で生まれたネタではありません。
進行役だった吉田栄作本人が2024年、TBSラジオ出演時に「ノーマネーでフィニッシュです」「マネー成立です」という言葉を振り返っています。
吉田によると、詳しい進行を把握していたのは基本的に自分で、虎と志願者のやり取りへは必要以上に割り込まなかったそうです。
司会者が会話を整理してテンポよく次へ進めるのではなく、気まずい沈黙や感情的な応酬まで残る。
『¥マネーの虎』独特の張り詰めた空気には、そうした進行方法も影響していました。
日本版は「最初から人気がなかった」わけではない
世界では大成功したのに、日本では人気がなく短命だった。
これもよくある説明ですが、前半だけを見ると事実と合いません。
2001年10月に土曜深夜の番組として始まった『¥マネーの虎』は、日本テレビが設定した社内基準を突破しました。
2002年2月25日の日本テレビ会長社長会見では、その実績を理由として、4月から金曜20時へ昇格させると正式に説明されています。
開始から約半年です。
2002年4月19日のゴールデン初回は2時間スペシャル。日本テレビによると全体の世帯視聴率は10.6%でしたが、通常のレギュラー枠に当たる20時台は13%強で、局側は「まずまず」という評価をしていました。
少なくとも、「深夜で誰にも見られず、そのまま消えた番組」ではありません。
ゴールデンでは苦戦し、深夜へ戻った
問題は、その後でした。
深夜で支持された番組が、そのまま金曜20時でも伸び続けたわけではありません。
2003年秋、日本テレビは金曜20時枠を低視聴率枠の一つとしてテコ入れする方針を示します。
『¥マネーの虎』は同枠から外れ、『謎を解け!まさかのミステリー』へ交代しました。
ただ、局は『¥マネーの虎』自体を不要な企画と評価したわけではありません。
当時の会見では「非常に貴重な企画」としたうえで、月曜22時54分からの30分枠へ戻し、もう一度再生したいという考えを示しています。
| 時期 | 放送枠 | 状況 |
|---|---|---|
| 2001年10月~2002年3月 | 土曜深夜・60分 | 社内基準を突破 |
| 2002年4月~2003年9月 | 金曜20:00・54分 | ゴールデンへ昇格。その後は枠として苦戦 |
| 2003年秋~2004年3月 | 月曜22:54・30分 | 遅い時間帯へ戻して再出発 |
| 2004年3月 | 日本版終了 | 最終終了理由を一つに限定する公式説明は確認できない |
確認できる資料から言えるのは、深夜では評価され、ゴールデンへ昇格したものの、ゴールデンでは長期的に苦戦し、遅い時間帯へ戻ったというところまでです。
2004年3月に番組そのものが終了した理由について、「視聴率だけが原因だった」と断定できる公式資料までは確認できません。
日本で放送中の2002年、すでに海外販売が始まっていた
ここで『¥マネーの虎』の歴史は、日本国内の視聴率とは別の方向へ動き始めます。
日本テレビが2016年に公表した資料には、
2002年に販売開始した『¥マネーの虎』のフォーマット
とあります。
日本版が終了する2年前です。
日本でゴールデン放送が始まった年に、すでに海外商品としての展開も始まっていた。
この順番を押さえておくと、「日本で失敗したので、捨てた企画を外国へ売った」というイメージが間違っていることが分かります。
さらに日本テレビは2020年、同社とSony Pictures Televisionの国際チームが2003年に組み、フォーマットを世界へ広げてきたと振り返っています。
ただし、2002年に最初に契約した国や企業、正確な契約日は、現在公開されている公式資料からは特定できません。
ここを英国版開始と混同しない方がよいでしょう。
海外へ売ったのは「番組」ではなく「作り方」
『¥マネーの虎』の世界史を理解するには、「フォーマット販売」という仕組みを知る必要があります。
日本で放送した映像へ字幕を付け、そのまま外国のテレビ局へ売るだけなら、完成番組の販売です。
フォーマット販売では、現地のテレビ局や制作会社が、基本となる番組構造を使って自国版を作ります。
起業家はその国の人。
投資家もその国の実業家。
金額も通貨も商習慣も変わる。
タイトルやセットまで別物になって構いません。
それでも、視聴者には同じ番組の仲間だと分かる。
『¥マネーの虎』で世界商品になったのは、この再現可能な「骨組み」でした。
2005年、英国『Dragons' Den』が始まる
世界展開の大きな転換点が英国です。
2005年、BBCで『Dragons' Den』が始まりました。
日本の「虎」は英国で「Dragon」に変わります。
起業家は必要な投資額だけでなく、その代わりに自社の何%の株式を渡すのかまで提示します。
Dragonたちは企業価値を問い、持分の割合を変える条件を出し、時には複数人で共同投資を申し出る。
日本版にも交渉はありましたが、英国版では企業価値と株式比率そのものが、より分かりやすい見せ場になりました。
もう一つ重要なのが、テレビ上の合意と最終契約を分けていることです。
英国版の公式ルールでは、番組内で投資が決まっても、その後にデューデリジェンスが行われます。調査の結果、条件が合わなければ最終契約へ進まない場合もあります。
『Dragons' Den』はBBC Twoで長く続き、2021年にはBBC Oneへ移動。2026年にもシリーズ23が放送される長寿番組になりました。
2009年、米国で『Shark Tank』が始まった
2009年8月、今度は米国ABCで『Shark Tank』がスタートします。
ここには、もう一つ大きな誤解があります。
『Shark Tank』は、「英国で『Dragons' Den』がヒットしたのを見て、米国が似た番組を作った」という非公式なコピーではありません。
ABCは現在の公式ページでも、『Shark Tank』について、Nippon Television Network Corporationが作った日本発のフォーマットを基にしていると明記しています。
米国版の制作にはMGM TelevisionとSony Pictures Televisionが関わり、Mark Burnettらがエグゼクティブ・プロデューサーを務めています。
そのため、系譜を、
日本『¥マネーの虎』
↓
英国『Dragons' Den』
↓
米国『Shark Tank』
という一本の直線だけで表すのも少し違います。
より正確には、
日本テレビ発の共通フォーマット
↓
英国では『Dragons' Den』
米国では『Shark Tank』
その他の国でもそれぞれ現地版
という枝分かれです。
英国版の方が米国版より先に作られたことと、英国版がオリジナルであることは同じではありません。
日本版・英国版・米国版は、同じ番組なのか
| 項目 | ¥マネーの虎 | Dragons' Den | Shark Tank |
|---|---|---|---|
| 投資家の呼称 | 虎 | Dragon | Shark |
| 基本構造 | 志願者が希望金額を提示 | 起業家が希望金額と株式比率を提示 | 起業家が希望金額と持分を提示 |
| 複数投資家 | あり | あり | あり |
| 大きな見せ場 | 希望額に届くか | 株式比率・企業価値・条件交渉 | 企業価値・持分・Shark同士の競合 |
| 司会・進行 | 吉田栄作 | ナレーション・進行あり | 日本版型の司会者は置かない |
| 番組内合意後 | 全案件共通の公開ルールは確認できず | 収録後にデューデリジェンス | 収録後の調査で成立しない場合もある |
海外版は日本版の完全コピーではありません。
国ごとに変える部分を大胆に変えながら、核心だけを残しています。
これがフォーマットとしての強さでした。
米国『Shark Tank』はエミー賞5回受賞
米国版の成功は、シーズン数だけでもありません。
Television Academyの公式記録では、『Shark Tank』は28回のエミー賞ノミネートを受け、5回受賞しています。
Outstanding Structured Reality Programでは2014年、2015年、2016年、2017年と4年連続で受賞し、2024年にも同部門を受賞しました。
2026年にも同部門へノミネートされています。
さらに2026年9月30日にはシーズン18がスタートしました。
日本版が終了してから22年以上たっても、米国では新作が作られ続けています。
日本終了後も、40版、50版、54版と増え続けた
| 年 | 主な出来事 |
|---|---|
| 2001 | 日本版『¥マネーの虎』開始 |
| 2002 | 海外フォーマット販売開始 |
| 2003 | 日本テレビとSony Pictures Televisionの国際チームが協働開始 |
| 2004 | 日本版終了 |
| 2005 | 英国『Dragons' Den』開始 |
| 2009 | 米国『Shark Tank』開始 |
| 2020 | フランス版で40番目のローカル版に到達 |
| 2021 | 英国版がBBC Oneへ移動 |
| 2024 | バングラデシュ版で50番目 |
| 2025 | ネパール版が54番目 |
| 2026 | 日本テレビは「50超のバージョン、186超の国・地域」と案内 |
特に面白いのは、日本版終了後に増加が止まるどころか、2020年代に入っても新しい国で現地版が作られていることです。
日本テレビホールディングスは2025年の統合報告書で、ネパールで放送されたものを54番目のバージョンとしています。
「54版」と「186カ国」は意味が違う
世界展開を紹介する際、最も数字を間違えやすいのがここです。
「186カ国で現地版が作られた」わけではありません。
2020年、日本テレビはフランス版が40番目に到達した際、「40 versions airing in 186 countries」と説明しています。
現地で独自制作されるバージョン数と、その完成番組が放送される国・地域数は別です。
たとえば英国版や米国版そのものを、さらに別の国で完成番組として放送することもできます。
2026年現在、日本テレビのGlobal Salesページは、「50を超えるバージョンが186を超える国・地域で展開」と案内しています。
| 数字 | 意味 |
|---|---|
| 54 | 2025年時点で確認できるローカル版の到達数 |
| 50超 | 2026年現在の日テレ公式サイトでのバージョン数の表現 |
| 186超 | 各バージョンや完成番組が放送される国・地域の規模 |
「世界で10億ドル投資された」も、そのままでは正確ではない
もう一つ、数字の意味を分けたいものがあります。
2024年、日本テレビとSony Pictures Televisionは、世界各地の『Dens』『Tanks』で約10億米ドルに迫る投資が「合意された」と発表しました。
公式原文の表現は「agreed」です。
英国版では番組内で握手した後にデューデリジェンスがあり、調査結果によって最終契約へ至らない場合があります。
米国版でも、収録後に詳しく調査した結果、投資家側または起業家側が取引から離れるケースがあります。
したがって、
「世界で約10億ドルがすべて実際に送金された」
という意味ではありません。
2024年時点で、番組を通じて合意された投資額が約10億ドルに迫ったとするのが公式発表に沿った表現です。
TigerはDragon、Shark、Lionになった
| 国 | 番組名 | 投資家のイメージ |
|---|---|---|
| 日本 | ¥マネーの虎 | Tiger/虎 |
| 英国 | Dragons' Den | Dragon/竜 |
| 米国 | Shark Tank | Shark/鮫 |
| ドイツ | Die Höhle der Löwen | Lion/ライオン |
| フランス | Qui Veut Être Mon Associé ? | 動物名を使わない |
「虎」という名称まで世界共通にする必要はありませんでした。
なぜ英国制作側が最初にDragonを選んだのかについて、理由を明言する信頼できる一次資料までは確認できません。
それでも、この違い自体が番組フォーマットの性質をよく表しています。
虎を竜へ変えても、鮫へ変えても、番組は成立した。
世界で守られたのは「虎」という名前ではなかったのです。
なぜ、この番組構造は世界中で成立したのか
2024年に50番目のバングラデシュ版が発表された際、Sony Pictures Television側は、このフォーマットの特徴について興味深い説明をしています。
各国版は、それぞれの地域の文化や市場を反映して独自に調整されている。
それなのに、世界のどこで見ても、同じフォーマットだとすぐ分かる。
20年以上にわたる世界展開を見ると、その理由も見えてきます。
変えなくてよい部分は少数です。
- 資金を必要とする起業家がいる
- 自分の金を投じる投資家がいる
- 起業家が事業をプレゼンする
- 投資家が人物と事業を評価する
- 金額や条件を交渉する
- 最後に投資するか、しないかが決まる
逆に、変えられるものは大量にあります。
- 出演する投資家
- 志願者
- 事業の種類
- 通貨
- 投資額
- 商習慣
- セットや演出
- 番組タイトル
- Tiger、Dragon、Shark、Lionという呼び名
その国に合わない表面だけを入れ替えても、中心にあるドラマは壊れません。
しかも志願者が変われば、同じルールでも毎回まったく違う話になります。
飲食店を始めたい人、製品を量産したい人、ITサービスを成長させたい人。時代が変わるたびに、新しい商売そのものが新しい番組内容になります。
ゲームのルールを毎年作り替えなくても、社会と経済の変化が勝手に新しい題材を供給してくれる。
長寿フォーマットとして非常に強い構造です。
最初から世界市場を狙った番組ではなかった
これほど世界で成功すると、2001年の時点から海外販売を見越して設計していたようにも見えます。
しかし、日本テレビ自身の説明は違います。
日本テレビホールディングスは2025年の統合報告書で、『¥マネーの虎』を含む過去の海外成功作について、もともとグローバル市場を意識して制作したものではなく、日本で放送した後に海外で成功した作品だったという趣旨で振り返っています。
つまり、世界向けに計算し尽くして作られた企画ではありません。
日本の低予算深夜番組として考え抜いた結果、後から国や出演者を入れ替えても壊れない構造が見つかった。
そこへ日本テレビとSony Pictures Televisionが国際的なフォーマット展開を重ね、世界ブランドへ育てていきました。
では、なぜ日本では復活していないのか
世界でこれだけ現地版が続いていると、当然この疑問が出てきます。
なぜ本家の日本では、『¥マネーの虎』がレギュラー番組として復活していないのでしょうか。
今回確認した日本テレビの公式資料には、その理由を説明した発表は見当たりません。
「日本では投資文化が弱い」「現在のテレビでは扱いにくい」といった推測を理由として置くことはできますが、それを日本テレビの判断として書く根拠はありません。
確認できるのは、2026年現在、日本テレビによる『¥マネーの虎』の正式なレギュラー復活が発表されていない、というところまでです。
『令和の虎』は正式続編なのか
日本のテレビでは復活していない一方、『¥マネーの虎』を強く思い出させる形式はYouTubeへ残っています。
代表例が『令和の虎』です。
現在の「Tiger Funding」でも、志願者が投資家へプレゼンし、希望額に届かなければ出資ゼロになるALL or NOTHING方式が使われています。
ただし、日本テレビやSony Pictures Televisionが正式にライセンスした『¥マネーの虎』の続編・日本版復活だと確認できる公式資料は、今回見つかりませんでした。
出演者や形式に明確な連続性を感じる企画ではありますが、権利上の関係まで同一視しない方がよいでしょう。
日本のテレビは「映像」だけでなく「作り方」も輸出してきた
『¥マネーの虎』だけが特別な例ではありません。
日本のテレビ界からは、『SASUKE』『全日本仮装大賞』『料理の鉄人』『はじめてのおつかい』など、番組の仕組みそのものが外国で作り直された例が生まれています。
つぶログで検証した『風雲!たけし城』の巨大セットと番組史も、日本版が海外で広く知られ、後に各地で現地版が作られた代表例です。
その中でも『¥マネーの虎』は、2025年に54番目のローカル版まで到達し、2026年にも英国・米国で新しいシリーズが動いている点で、特に息の長い日本発フォーマットになりました。
こうした日本のテレビ番組が生んだ仕組みや、番組史の転換点については、つぶログ深掘り|テレビ文化・番組史アーカイブでも追っています。
結局、世界へ輸出されたのは「虎」ではなかった
日本版『¥マネーの虎』を覚えている人なら、番組名から真っ先に思い出すものがあるはずです。
吉田栄作。
一癖も二癖もある虎たち。
目の前に置かれた金。
長い沈黙。
「ノーマネーでフィニッシュです」という言葉。
しかし、世界へ広がったとき、それらはほとんど入れ替わりました。
英国では虎がDragonになった。
米国ではSharkになった。
ドイツではLionになった。
司会者も、セットも、通貨も、投資家も違います。
それでも番組の正体は消えませんでした。
夢や事業を持つ人が、本物の金を持つ実業家の前に立ち、自分の未来を懸けてプレゼンし、交渉し、最後に投資するかしないかが決まる。
これだけは、国を変えても残りました。
2001年、日本の低予算深夜番組として始まった企画は、その後ネパールで54番目の現地版が生まれ、米国ではシーズン18が始まるところまで広がりました。日本テレビ自身も、当初からグローバル市場を意識して制作した番組ではなかったと振り返っています。
『¥マネーの虎』の最大の発明は、強烈な「虎」を生み出したことだけではありません。
虎を全員入れ替えても、国を変えても、言葉を変えても成立するテレビ番組の構造を作ったこと。
日本では約2年半で放送を終えた番組が、世界では20年以上たっても新しい国へ広がり続けている。その事実を見ると、『¥マネーの虎』が世界へ残した最大のものは、出演者ではなく、出演者を入れ替えても成立する「番組の仕組み」だったことが見えてきます。
主な確認資料
日本テレビ「『¥マネーの虎』中国版放送へ」:日本版の放送期間、2002年のフォーマット販売開始、海外展開の経緯。
日本テレビ 2002年2月25日定例会長社長会見:深夜版から金曜20時への昇格。
日本テレビ 2002年4月定例会長社長会見:ゴールデン初回の視聴率。
日本テレビ 2003年秋改編時の会長社長会見:金曜20時から遅い時間帯へ戻した経緯。
Nippon TV「Dragons' Den reaches milestone 40th adaptation」:40番目の現地版、186カ国、日本テレビとSPTの協働。
Nippon TV / Sony Pictures Television「Dragons' Den 50th version」:50番目のバングラデシュ版、世界で合意された投資額。
日本テレビホールディングス「Integrated Report 2025」:ネパール版が54番目、当初は世界市場を前提に制作していなかったという説明。
Nippon TV Global Sales:2026年時点の「50超のバージョン/186超の国・地域」という公式案内。
ABC「About Shark Tank」:日本テレビ発フォーマットであること、米国版の制作体制、シーズン18。
Television Academy「Shark Tank」:エミー賞28ノミネート、5受賞。
Sony Pictures Television Formats「Dragons' Den」:世界向けフォーマットの基本構造。
ITmedia ビジネスオンライン「『¥マネーの虎』生みの親が明かす!」:栗原甚本人による番組立ち上げ、出演交渉の証言。
マイナビニュース「テレビ屋の声・堀江利幸氏」:堀江利幸本人による番組企画発想の証言。
TBS NEWS DIG/TBSラジオ 吉田栄作インタビュー:「ノーマネーでフィニッシュです」と番組進行についての本人証言。