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RSA-260が解けた=RSA暗号が破られた?2048ビットとの違い、量子コンピュータ説を整理

RSA-260が解けた=RSA暗号が破られた?RSA-2048・量子コンピュータとの違い

RSA-260の素因数分解とRSA-2048の違いを示したアイキャッチ

35年以上、誰にも素因数分解されていなかった巨大整数「RSA-260」が、ついに解かれました。

2026年9月3日、米AI企業CognitionのエンジニアであるEric Lu氏がXに投稿したのは、130桁の数字と「divides RSA-260」という短い一文。その数字は本当にRSA-260を割り切り、もう一方の130桁の素数と掛け合わせると元の260桁の整数になります。

「RSA」という名前を見て、

ネットで使われているRSA暗号まで破られたのでは?

と不安になった人もいるかもしれません。

しかし、そういうニュースではありません。

今回素因数分解されたRSA-260は、巨大整数の因数分解能力を試すために公開されていた260桁・862ビットのチャレンジ問題です。

現在使われるRSAでは2048ビット以上の法が利用されており、RSA-260が解けたからRSA-2048まで解けるようになったわけではありません。 NISTの現行基準でも、RSA署名生成では2048ビット以上の法が認められています。

しかも、名前には大きな落とし穴があります。

RSA-260の「260」は10進数の桁数。
RSA-2048の「2048」はビット数。

同じ「RSA-数字」でも、数字の意味が違うのです。

そして2026年9月4日時点では、今回の計算方法についても全容はまだ分かっていません。GPUを利用したことを示す情報はコミュニティで共有されていますが、使用アルゴリズム、GPU構成、計算期間、総計算量などをまとめた詳しい技術報告は確認できていません。

もちろん、量子コンピュータでRSA-260を解いたという発表でもありません。

いったい何が起きたのか。RSA-2048との違いから順番に整理します。

RSA-260が解けた=RSA暗号が破られた?

まず一番大事なところです。

RSA暗号そのものを一気に破る方法が見つかったわけではありません。

今回解かれたのは「RSA-260」という一つの決まった巨大整数です。

RSAでは、大きな2つの素数を掛け合わせて作った整数を公開鍵の一部として利用します。

小さな数字で考えてみると、

61 × 53 = 3233

という掛け算は簡単です。

では反対に、「3233だけを見て、元の素数61と53を探してください」と言われたらどうでしょう。

3233程度なら人間でも調べられますが、使われる数字が何百桁にもなると急激に難しくなります。

RSAの安全性を支えている重要な数学的な難しさの一つが、この巨大整数の素因数分解です。

もし実際に使われているRSA公開鍵の巨大整数を素因数分解できれば、その鍵の秘密情報を復元する道が開いてしまいます。

ただし、RSA鍵ごとに使われている整数は異なります。

RSA-260という一つの数の因数が分かったからといって、世界中の別のRSA鍵の因数まで分かるわけではありません。

今回のニュースは「RSAを破る万能鍵が見つかった」ではなく、「これまで解けなかった862ビットのチャレンジ整数を一つ突破した」という記録です。

RSA-260とは?1991年から残っていたチャレンジ問題

RSA-260は、RSA Laboratoriesが始めたRSA Factoring Challengeに含まれる整数です。

このチャレンジは1991年に始まりました。

目的は、巨大整数の素因数分解が現実の計算機でどこまで可能なのかを確かめ、計算整数論や暗号技術の研究を促すことでした。

あらかじめ大きな2つの素数を掛けた整数だけを公開し、

「元の素数を見つけられるか」

を世界中の研究者や計算機に問うわけです。

RSA-260もその一つでした。

名前の通り10進数では260桁。2進数で表すと862ビットあります。2026年9月3日まで未解決のまま残っていました。

Lu氏が投稿した因数は130桁。

もう一方も130桁で、2つを掛けると元のRSA-260になります。因数が素数であることも確認されているため、「解けた」という結果そのものは第三者が数学的に検証できます。

つまり約35年というのは、Lu氏が35年間計算し続けていたという意味ではありません。

1991年に問題が公開されてから、正しい因数が公表されるまで約35年かかった

という意味です。

RSA-260の「260」は260ビットではない

今回のニュースで、一般読者が最も間違えやすいのがここです。

RSA-260は260ビットではありません。

「260」は10進数で見たときの桁数です。

実際には、

RSA-260=260桁=862ビット

あります。

ところがRSA Factoring Challengeでは、途中から名前の付け方が変わりました。

RSA-100、RSA-200、RSA-250、RSA-260など初期の問題では、名前の数字が10進数の桁数を表します。

一方、

RSA-576
RSA-768
RSA-1024
RSA-2048

といった後の問題では、数字がビット数を表します。

その結果、名前だけを見ると少し妙なことが起こります。

RSA-260はRSA-768より大きいのです。

RSA-768は768ビット。

RSA-260は862ビット。

「768の方が260より大きいからRSA-768の方が難しい」とは比較できません。

RSA-260とRSA-2048はどれくらい違う?

同じ尺度にそろえると分かりやすくなります。

名称10進数ビット数状況
RSA-768約232桁768ビット素因数分解済み
RSA-250250桁829ビット2020年に素因数分解
RSA-260260桁862ビット2026年に素因数分解
RSA-2048約617桁2048ビット未解決

ここを見ると、ニュースの印象がかなり変わると思います。

RSA-260からRSA-2048へ、

260 → 2048

と進んだわけではありません。

正しくは、

862ビット → 2048ビット

です。

RSA-2048は10進数にすると約617桁あります。

RSA-260の約260桁とは、数字そのものの長さからして大きな違いがあります。

862ビットから2048ビットなら約2.4倍難しい?

それも違います。

2048÷862を計算すれば約2.4ですが、

2048ビットRSAの素因数分解が862ビットの約2.4倍難しい、という意味ではありません。

巨大整数の素因数分解に必要な計算量は、ビット数に比例して増えていくわけではないからです。

数が大きくなるほど、必要な計算は急激に難しくなります。

そのため、

862ビットまで来た

2048ビットの4割ほどまで攻略した

あと少し

という考え方はできません。

RSA-260とRSA-2048の難易度差を具体的な倍率へ換算する試算もありますが、アルゴリズム、計算機性能、将来の技術進歩など多くの仮定に左右されます。

今回の結果から確実に言えるのは、

一般的な計算機による巨大整数の素因数分解記録が862ビットまで進んだ一方、2048ビットとの間にはなお非常に大きな隔たりがある

というところまでです。

前回のRSA-250はどれほど大変だった?

今回の一つ前に大きな記録となったのがRSA-250です。

RSA-250は250桁・829ビット。

2020年2月に素因数分解されました。

このとき使われたのは、巨大な一般整数を因数分解する代表的な手法である一般数体ふるい法(GNFS)と、オープンソースのCADO-NFSです。

報告された計算量は約2700 CPUコア年でした。

「2700年待った」という意味ではありません。

多数のCPUコアを並列で動かした計算量を、1コアで処理した場合に換算した数字です。

そして今回のRSA-260は829ビットを超える862ビット

2020年から約6年半で、RSA Challengeの一般整数因数分解記録がさらに一段進んだことになります。

だからこそ大きなニュースなのです。

RSA-260はどうやって解いた?詳細はまだ分かっていない

ここが、今回最も気になる部分かもしれません。

Lu氏がXに公開したのは「答え」です。

一方、

どうやってその答えへたどり着いたのか

については、2026年9月4日時点で十分な技術資料が公表されていません。

コミュニティでは、Lu氏がCognitionのGPUを計算に利用したとする情報が共有されています。

ただし、

  • 使用したアルゴリズム
  • GPUの種類
  • GPUの台数
  • 計算期間
  • 総計算量
  • 使用ソフトウェア
  • 既存手法からどこを改善したのか

といった全体像までは、まだ明らかになっていません。

Lu氏のX上の返信では「no silver bullet here either」とも述べており、少なくとも現時点でRSAを一気に崩す“魔法の解法”を発見したと発表しているわけではありません。

ここは重要です。

もし従来の素因数分解手法を高速なGPU環境へ最適化して記録を伸ばしたのであれば、「計算能力と実装が前進した」という意味合いが強くなります。

逆に、素因数分解そのものを劇的に効率化する新しいアルゴリズムが見つかったのであれば、RSAへの影響はまったく違ってきます。

現時点では後者が発表されたわけではありません。

今回の記録の本当の技術的な重みは、詳しい計算方法が公表されてから改めて評価する必要があります。

AIでRSA-260を解いた?

Lu氏がAI企業Cognitionのエンジニアということで、

「AIがRSAを解いたのでは?」

と考えた人もいるかもしれません。

しかし、勤務先がAI企業であることと、AIを使ってRSA-260を因数分解したことは別です。

2026年9月4日時点で、

AIが新しい因数分解アルゴリズムを発見してRSA-260を突破した

という発表はありません。

CognitionのGPUを使ったという情報が事実だとしても、GPUはAI以外の大規模計算にも利用できる計算資源です。

「AI企業のGPUを使った」と「AIが数学問題を解いた」を同じ意味にしないことが大切です。

量子コンピュータでRSA-260を解いた?

こちらも、現時点でそのような発表はありません。

RSAと量子コンピュータは非常に関係が深いので、連想されるのは自然です。

十分に大規模で誤り訂正された量子コンピュータが実現すれば、Shor(ショア)のアルゴリズムによって、RSAの安全性に関わる巨大整数の素因数分解を従来とは大きく異なる効率で実行できる可能性があります。

しかし、

理論上可能であることと、現在の量子コンピュータで実用的に可能であることは別です。

今回のRSA-260について、量子コンピュータを使ったという証拠は示されていません。

RSA-2048を現実的に解読できる量子コンピュータが完成した、というニュースでもありません。

ですから今回を、

「量子コンピュータがついにRSAを突破した」

と解釈するのは間違いです。

それでもRSAは将来、量子コンピュータに破られる?

将来については別問題です。

十分な規模の量子コンピュータが実現した場合、RSAや現在使われている一部の楕円曲線暗号は影響を受けると考えられています。

だからこそ、すでに耐量子暗号(PQC:Post-Quantum Cryptography)への移行が始まっています。

NISTは2024年、

  • ML-KEM
  • ML-DSA
  • SLH-DSA

を最初の正式な耐量子暗号標準として公開しました。

さらに2026年現在、NISTは「今が移行を始める時」と明確に案内しています。量子計算に弱い既存アルゴリズムについては、2035年までにNIST標準から段階的に外す計画も示されています。

ここで順番を取り違えないことが大切です。

RSA-260が解けた
→ RSAが量子コンピュータに破られた
→ 急いで耐量子暗号へ移行している

ではありません。

正しくは、

RSA-260の素因数分解は古典的な巨大整数計算の新記録

であり、

将来の量子コンピュータに備えた耐量子暗号への移行は、それとは別に以前から進められている

という2つの話です。

HTTPSやネットバンキングは危険になった?

今回のRSA-260を理由に、HTTPSやネットバンキングが突然危険になったという事実はありません。

それに現在のインターネット通信は、

「RSAだけですべてを暗号化している」

わけでもありません。

たとえばTLS 1.3では、旧来の静的RSA鍵交換はすでに削除されています。

一方、サーバーが自分自身を証明するデジタル署名などではRSAを利用できます。TLS 1.3でもRSA-PSSによる署名が規定されています。

つまり、

RSA-260を因数分解できた
=HTTPS通信を読めるようになった

ではありません。

ましてRSA-260は、どこかの銀行やECサイトから盗まれた実在の秘密鍵でもありません。

最初から研究用のチャレンジ問題として公開されていた整数です。

パスワードを変更した方がいい?

今回のニュースだけを理由に、一般ユーザーがパスワードを変更する必要はありません。

今回起きたのは、

  • パスワードデータベースの流出
  • GoogleやAppleのアカウント侵害
  • 銀行システムへの不正アクセス
  • TLS秘密鍵の漏えい

といった事件ではありません。

公開されていた数学的なチャレンジ問題が解かれた

という出来事です。

もちろん、利用しているサービスから別途「不正アクセスがあった」「パスワードを変更してほしい」と案内されている場合は別です。

RSA-260のニュースだけを見て、すべてのパスワードを慌てて変更する必要はありません。

現在のRSAは何ビット?

今回のRSA-260は862ビットです。

一方、NISTの現行ガイダンスでは、RSA署名生成について2048ビット以上の法が認められています。2048、3072、4096ビットなどが現在の実用的なサイズとして扱われます。

そのため、

862ビットが解けた
→現在使われているRSAも同じように解ける

とはなりません。

ただし、ここで逆に、

「2048ビットなら永久に安全」

と考えるのも正しくありません。

計算機性能もアルゴリズムも進歩しますし、長期的には量子コンピュータという別の脅威もあります。

暗号方式には寿命があり、状況に合わせてより強い方式へ移行していくのが普通です。

今回のRSA-260は、その歴史の中で古典計算機による素因数分解能力の現在地が一段進んだニュースだと考えると分かりやすいでしょう。

RSA-260の何がそんなにすごい?

「RSA暗号が破られたわけではない」と聞くと、

「じゃあ大したことないの?」

と思うかもしれません。

それも違います。

RSA-260は1991年以来、約35年間残っていた巨大整数です。

前回のRSA-250は2020年に約2700 CPUコア年という大規模な計算を経て突破されました。

そこからさらに33ビット大きい862ビットへ進んだ。

一般の巨大整数を素因数分解する実績として、新しい到達点を作ったこと自体が大きな成果です。

ただし、その価値と、

「現在のRSA-2048が破られた」

という話は別です。

記録が更新されたことはすごい。

だからといって、今日からネットの暗号が崩壊したわけではない。

この2つは同時に成り立ちます。

RSA-260についてよくある疑問

RSA-260が解けたらRSA暗号も危険?

今回の結果だけで、現在使われているRSA暗号が破られたわけではありません。

RSA-260は260桁・862ビットの公開チャレンジ整数です。現在使われるRSAでは2048ビット以上の法が利用されています。

RSA-260は260ビット?

違います。

RSA-260の「260」は10進数の桁数です。

実際には862ビットあります。

RSA-2048は2048桁?

こちらも違います。

RSA-2048の「2048」はビット数です。

10進数では約617桁です。

RSA-260とRSA-2048は約8倍違う?

名前の数字を260と2048で割って比較すること自体ができません。

RSA-260は862ビット、RSA-2048は2048ビットです。

しかも素因数分解の難しさはビット数に単純比例しません。

RSA-2048ももうすぐ解ける?

今回の記録だけから、そう判断することはできません。

862ビットと2048ビットの間には非常に大きな計算上の隔たりがあります。

AIがRSA-260を解いた?

そのような発表はありません。

Lu氏はAI企業Cognitionのエンジニアですが、勤務先と解法は別問題です。

量子コンピュータで解いた?

量子コンピュータを使ったという発表もありません。

今回を「量子コンピュータがRSAを突破した」と解釈するのは誤りです。

GPUは使った?

CognitionのGPUを利用したとする情報がコミュニティ上で共有されています。

ただし、GPUの種類や台数、アルゴリズム、計算期間などを含む詳しい技術報告は2026年9月4日時点で確認できていません。

Eric Lu氏は35年間計算していた?

違います。

RSA-260が1991年から約35年間未解決だったという意味です。

Lu氏が今回どれほどの期間を計算に費やしたのかは、詳細公表を待つ必要があります。

パスワードを変更する必要は?

今回のRSA-260素因数分解だけを理由に、一般ユーザーがパスワードを変更する必要はありません。

まとめ|RSA-260は大記録、でもRSA暗号崩壊ではない

RSA-260が解かれたことは、巨大整数の素因数分解という世界では間違いなく大きな記録です。

260桁、862ビット。

1991年から約35年間未解決だった問題が、2026年9月3日に突破されました。

しかし、

「RSA」という名前が付いている巨大整数が解けた
=現在のRSA暗号が破られた

ではありません。

RSA-260は公開チャレンジ問題です。

さらに、

RSA-260の260は桁数。
RSA-2048の2048はビット数。

同じ尺度で比べると、

862ビットと2048ビット

という大きな差があります。

今回、HTTPSやネットバンキングが突然解読可能になったわけでもなければ、パスワードを変更する必要が生じたわけでもありません。

量子コンピュータが使われたという発表もありません。

一方で、「だから今回の成果に暗号学的な意味がない」ということでもありません。

むしろ次に注目したいのは、

この862ビットの壁を、どんな計算方法とどれほどの計算資源で越えたのか。

GPU利用を示す情報は出ていますが、その全容はまだ見えていません。

詳細な技術報告が出れば、単純な計算能力の進歩だったのか、実装上の大きな改善があったのか、今回のRSA-260が持つ意味もさらに具体的になります。

今の段階では、

「RSA暗号が破られた」ではなく、「35年残っていた862ビットの素因数分解記録がついに更新された」

と理解するのが、最も正確です。

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