- 南海トラフ「30年以内80%」はもう古い?2026年最新確率が2つある理由と“30年以内”の意味
- 「30年以内80%」は現在の最新表現ではない
- 以前の「80%程度」は間違いだった?
- なぜ「60~90%程度以上」と「20~50%」の2つがある?
- 「60~90%」「20~50%」と幅があるのはなぜ?
- 結局、どちらの確率を信じればいい?
- 「30年以内」とは30年後に来るという意味ではない
- 「30年以内」は残り30年のカウントダウンでもない
- 30年間起きなかったら「予測失敗」になる?
- 「100~200年に一度」と「30年以内」は矛盾しない?
- 「20~50%」が出たなら危険性は下がった?
- 2026年8月現在、南海トラフに「特段の変化」はある?
- 発生確率が高くても南海トラフ地震は予知できない
- 数字を知ったあとに必要なのは「いつ来るか」を考え続けることではない
- まとめ|「30年以内」は発生日ではなく、長期的な可能性を示す数字
南海トラフ「30年以内80%」はもう古い?2026年最新確率が2つある理由と“30年以内”の意味

「南海トラフ地震は30年以内に80%程度」。
ニュースや防災情報で、この数字を覚えている人は多いでしょう。
ところが2026年現在、地震調査研究推進本部が示している南海トラフ地震の30年以内発生確率を見ると、「80%程度」という数字はそのままでは載っていません。
現在は、
60~90%程度以上
と、
20~50%
という二つの結果が並んでいます。
同じ南海トラフ地震なのに、なぜこれほど違う数字が出るのでしょうか。
「80%から20%まで下がった」のでも、「90%まで上がった」のでもありません。
2025年9月、南海トラフ地震の長期評価が見直され、使うデータや考え方が異なる二つの計算方法を併記する形へ変わりました。さらに2026年1月には、1年の時間経過を反映して再計算されています。現在掲載されているのは、2026年1月1日を基準日とした最新の長期評価です。
そしてもう一つ、大きな誤解を生みやすいのが「30年以内」という言葉です。
これは「30年後に地震が来る」という予測でも、「あと30年は大丈夫」という意味でもありません。
「30年以内80%」は現在の最新表現ではない
南海トラフ地震の30年以内発生確率は、ここ2年ほどで次のように変わりました。
| 時点 | 30年以内の発生確率 | 評価方法 |
|---|---|---|
| 2025年1月1日時点 | 80%程度 | 改訂前の評価 |
| 2025年9月の一部改訂 | 60~90%程度以上 | すべり量依存BPTモデル |
| 2025年9月の一部改訂 | 20~50% | BPTモデル |
| 2026年1月1日時点 | 60~90%程度以上/20~50% | 現行評価 |
2025年9月の改訂時に計算された二つの数字は、いずれも2025年1月1日を基準にしたものでした。
その後、地震調査委員会は2026年1月1日を新たな基準日として再計算。30年以内の確率は、丸めた表示では引き続き60~90%程度以上と20~50%になっています。
ここで二つをまとめて、
「最新の南海トラフ発生確率は20~90%」
と書くことはできません。
二つは同じ計算から出た上限と下限ではなく、異なるモデルから求められた別々の結果だからです。
同じ理由で、「20%まで下がった」「90%で発生する」と端の数字だけを取り出すのも、現在の評価を正しく表していません。地震本部も二つの幅をつなげた表記は適切ではないとしています。
以前の「80%程度」は間違いだった?
2025年1月1日時点では、南海トラフでM8~9クラスの地震が今後30年以内に発生する確率は80%程度と評価されていました。
この80%が、後になって「間違いだった」と判明したわけではありません。
地震の長期評価は、限られた過去の地震記録から将来の発生可能性を推定するものです。新しい知見が加わったり、データに含まれる不確かさをより適切に扱えるようになったりすれば、計算方法も更新されます。
2025年9月の改訂では、高知県室戸市の室津港に残る地震時の隆起量について、その誤差や不確かさをより細かく扱うようになりました。さらに、隆起量を使う方法とは別に、過去の地震発生間隔だけから計算する方法も併記されました。
つまり、
「80%を計算し直したら、本当は20%だった」
という変更ではありません。
一つの数字で示していた評価から、異なるデータを使う二つのモデルと、それぞれが持つ不確かさまで見える形へ変わったと考える方が近いでしょう。
なぜ「60~90%程度以上」と「20~50%」の2つがある?
二つのモデルの違いは、「次の地震を考えるときに何を材料にするか」です。
BPTモデルは過去の発生間隔を使う
BPTモデルでは、過去の南海トラフ地震がいつ発生し、次の地震までどれくらい時間が空いたのかを使います。
現在の評価では過去6回分の発生間隔が材料になっています。比較的長い期間の地震履歴を使えるのが長所です。
一方、見ているのは基本的に「地震が起きた時期」です。
南海トラフ地震ごとの規模の違いや、地震によってどれほど地盤が動いたのかといった情報までは直接使いません。
このBPTモデルから求められた2026年1月1日時点の30年以内発生確率が、
20~50%
です。
すべり量依存BPTモデルは室津港の隆起量も使う
もう一つの「すべり量依存BPTモデル」は、地震の発生間隔に加えて、高知県の室津港に残る地震時の隆起量を利用します。
南海トラフ地震の規模が大きいほど、室津港の隆起量も大きくなることが知られています。
そこで、前回までの地震でどれほど大きく地盤が動いたかという情報も加え、次の地震までの時間を考えます。
こちらから求められた30年以内発生確率が、
60~90%程度以上
です。
ただし、隆起量の記録として使えるのは直近3回分です。
BPTモデルは6回分の発生間隔を使えるものの情報の種類は少ない。すべり量依存BPTモデルは発生間隔と隆起量の両方を使えるものの、隆起量のデータは3回分しかない。
それぞれに長所と弱点があります。
だから地震本部は、どちらか一方だけを「より正しい予測」とはしていません。
「60~90%」「20~50%」と幅があるのはなぜ?
モデルが二つあるだけでなく、それぞれの結果にも幅があります。
これは、過去の巨大地震のデータそのものが少なく、発生した時期や隆起量にも誤差や不確かさがあるためです。
2025年の改訂では、こうした不確かさを表現するためにベイズ推定が導入され、確率は70%信用区間という幅で示されるようになりました。
つまり、
すべり量依存BPTモデル → 60~90%程度以上
BPTモデル → 20~50%
という構造です。
「全部をまとめれば20~90%」という一つの巨大な幅ではありません。
なお、「90%程度以上」は「最大90%」という意味でもありません。地震本部では計算結果が94.5%以上となる場合に「90%程度以上」と表記するルールがあります。
結局、どちらの確率を信じればいい?
ここで当然、
「では60~90%と20~50%、どちらを見ればいいの?」
という疑問が出てきます。
科学的には、どちらか一方だけを選ぶことはできません。
地震本部は、二つの方法にはそれぞれ科学的な根拠と長所・短所があり、現時点では優劣を付けられないとしています。
一方、防災では少し考え方が変わります。
住民へ具体的な発生確率を伝える必要がある場合、地震本部は「疑わしいときは行動せよ」という考え方から、高い方の60~90%程度以上を念頭に防災対策を進めることを推奨しています。
科学としては、
「二つとも残す」
防災としては、
「高い方を想定して備える」
という違いです。
「30年以内」とは30年後に来るという意味ではない
「30年以内」という言葉は、30年後の一点を狙った予測ではありません。
2026年1月1日を基準にした30年間なら、その中には明日も1年後も10年後も29年後も含まれています。
仮に明日、想定されている南海トラフ地震が起きたとしても、「30年以内」という評価と矛盾はしません。
ただし、
「明日も30年以内なのだから、明日起きる可能性が高い」
という意味でもありません。
公表されている30年確率から、特定の日や月の危険度を取り出すことはできません。
「30年以内○%」は発生日を予言する数字ではなく、その期間全体の中で地震が発生する可能性を表したものです。
「30年以内」は残り30年のカウントダウンでもない
2026年から30年間という期間を一度決めて、
「来年になったから残り29年」
と数えていくわけでもありません。
地震調査委員会は長期評価の発生確率を年ごとに更新しており、2025年1月1日を基準にした確率は、2026年1月に改めて2026年1月1日を基準日として再計算されました。
2027年になれば、またその時点から先の期間を考えることになります。
南海トラフで使われているBPT系のモデルは、想定した地震が起きないまま時間が経つと、次の一定期間に発生する確率が基本的に上がる性質を持っています。地震本部も、こうしたモデルでは地震が起きない限り、時間経過とともに発生確率が増加すると説明しています。
実際、2025年から2026年への更新では、30年確率の表示そのものは変わりませんでしたが、内部の値には変化があります。
すべり量依存BPTモデルの地震後経過率は0.82から0.83へ、BPTモデルでは0.67から0.68へ上がりました。BPTモデルの10年以内確率も0.07~9%から0.2~10%へ変化しています。
だからといって、
「30年目に近づくほど危険になる」
という単純なカウントダウンではありません。
その時点から先を、毎年改めて評価しているのです。
30年間起きなかったら「予測失敗」になる?
これも、確率と予言の違いを考えると分かりやすくなります。
たとえば、ある出来事について「30年間に60%の確率で起きる」と評価したとしても、起きない可能性は残っています。
実際にその30年間で地震が起きなかったからといって、一つの結果だけで「60%という評価は間違っていた」と決めることはできません。
反対に、翌日に起きたとしても、
「30年後の予測だったのに29年早く来た」
という話にはなりません。
長期評価は、
いつ起きるか
ではなく、
ある期間内にどの程度の可能性があるか
を表しています。
「100~200年に一度」と「30年以内」は矛盾しない?
南海トラフ地震について地震本部は、この領域では大局的に100~200年程度で大規模地震が繰り返されてきたとしています。
ただし、100年や200年ぴったりの周期で発生するわけではありません。
1707年の宝永地震から1854年の安政東海・安政南海地震までは約147年。
その後、1944年の昭和東南海地震、1946年の昭和南海地震までは約90年でした。
実際の間隔にはばらつきがあります。
現在は昭和東南海地震・昭和南海地震から約80年が経過しています。
その経過時間と、過去の発生履歴や隆起量などを組み合わせて現在の30年確率が求められています。
「100~200年程度」という過去の大きな傾向と、「今から30年間にどれほどの可能性があるか」という評価は、同じものを別の角度から見ているため矛盾しません。
「20~50%」が出たなら危険性は下がった?
20~50%という数字だけを見れば、以前の80%より低く感じます。
しかし、地震本部は海溝型地震について、30年以内の発生確率が26%以上の場合を最も高いⅢランク(高い)に位置付けています。
南海トラフ地震は、
60~90%程度以上
も、
20~50%
も、いずれもⅢランクです。以前の80%程度も同じⅢランクでした。
数字の示し方は変わりました。
しかし、
南海トラフ地震の長期的な発生可能性を「高い」とする評価そのものが、低い評価へ変わったわけではありません。
2026年8月現在、南海トラフに「特段の変化」はある?
長期的な発生可能性が高いことと、「今まさに普段より危険な状態なのか」は別の話です。
気象庁が2026年8月7日に公表した最新の定例評価では、南海トラフ沿いの大規模地震について、
平常時と比べて発生可能性が相対的に高まったと考えられる特段の変化は観測されていません。
8月2日には日向灘でM5.3の地震がありましたが、これについても南海トラフ沿いのプレート間の固着状態に特段の変化を示すものとは評価されていません。
ただし、ここでいう「平常時」は「安全」という意味ではありません。
気象庁自身も、平常時であっても南海トラフのM8~9クラス地震は30年以内の発生確率が高く、昭和東南海・昭和南海地震から約80年が経過しているため、切迫性の高い状態だと説明しています。
つまり2026年8月現在は、
普段よりさらに危険度が上がった特別な兆候は確認されていない。
一方で、
長期的にはもともと発生可能性が高い。
この二つが同時に成り立っています。
発生確率が高くても南海トラフ地震は予知できない
「30年以内60~90%程度以上」と聞くと、科学が発生日へかなり近づいているようにも感じます。
しかし、長期確率と地震予知は別です。
気象庁は、現在の科学的知見では南海トラフ地震の発生時期・発生場所・規模を確度高く予測することはできないとしています。
そのため30年確率から、
「今年が危険」
「来月が危険」
「○月○日に起きる」
と判断することはできません。
南海トラフ地震臨時情報も、「地震がいつ起きるか」を知らせる予知情報ではありません。
南海トラフ沿いで大きな地震や通常とは異なる現象が観測された際に、大規模地震発生の可能性が平常時より相対的に高まっているかを評価して知らせる仕組みです。
臨時情報が出ても地震が起きないことがありますし、臨時情報が出ないまま突発的に大規模地震が発生する可能性もあります。
「30年以内」という長期評価も、臨時情報も、未来の日付を言い当てるものではありません。
数字を知ったあとに必要なのは「いつ来るか」を考え続けることではない
南海トラフ地震の発生日を知ることはできません。
だからといって、毎日「明日かもしれない」と不安になり続ける必要もありません。
発生時期が分からないからこそ、家具の固定、寝室や避難経路の安全確認、水や食料、携帯トイレ、停電への備えなどを、普段の生活の中で少しずつ整えておくことに意味があります。
何を準備すればいいか迷う場合は、大地震に備える防災グッズ10選|まず揃えたい必需品と非常持ち出し袋の作り方で、最初に揃えたい備蓄と持ち出し品をまとめています。
確率の数字が変わるたびに備蓄を買い足すのではなく、いつ起きても困らない状態へ少しずつ近づけていく方が、現実的な防災につながります。
まとめ|「30年以内」は発生日ではなく、長期的な可能性を示す数字
かつて広く知られた南海トラフ地震の「30年以内80%程度」は、2026年現在の最新表現ではありません。
2025年9月の長期評価改訂以降は、
60~90%程度以上(すべり量依存BPTモデル)
と、
20~50%(BPTモデル)
という二つの結果が示されています。
2026年1月1日を基準に再計算した現在の評価でも、この表記は変わっていません。
二つの確率にはそれぞれ科学的な根拠があり、どちらか一方だけを正解とすることはできません。だから「20~90%」と一つの幅にまとめることも、「80%から20%へ下がった」と考えることもできません。
一方、防災では高い方の60~90%程度以上を念頭に置くことが推奨されています。
そして「30年以内」は30年後を予測する言葉ではありません。
明日起きても矛盾しませんが、明日が特に危険だという意味でもありません。30年間起きなかったからといって、それだけで予測が失敗だったことにもなりません。
2026年8月現在、気象庁は平常時より発生可能性が高まったことを示す特段の変化は観測していないとしています。
それでも長期的な発生可能性は高い。
この二つを一緒に考えることが、南海トラフ地震の確率を理解するうえで大切です。
「いつ来るのか」を当てるための数字ではなく、いつか分からない地震に平常時から備えるための数字。
「30年以内○%」は、そう受け取るのが一番分かりやすいでしょう。