年賀状はなぜ16年連続減?44.5億枚→5.56億枚、減少理由を整理
年末が近づくと、家族の写真を選び、住所録を開き、何十枚もの年賀状を書く。
そんな光景が当たり前だった時代から、年賀状はずいぶん遠くまで来た。
日本郵便が2026年8月31日に発表した2027年用年賀はがきの当初発行枚数は5億5,593万枚。前年の2026年用は7億4,841万枚だったため、約25.7%減る計算になる。報道では、これで16年連続の前年割れとされている。
もっと長い時間で見ると、変化の大きさはさらに分かりやすい。
2004年用の年賀はがきは、当初44億4,780万枚が発行された。2027年用の5億5,593万枚は、その約12.5%。つまり、ほぼ8分の1まで縮小したことになる。
「SNSがあるから、もう年賀状を出さなくなった」
それだけで説明できそうにも見える。
しかし、16年間続く減少を追っていくと事情はもっと複雑だ。メールやSNSへの移行だけでなく、年賀状を作る時間と手間、「年賀状じまい」、企業需要の縮小、そして2024年の63円から85円への大幅な料金改定まで、いくつもの変化が重なっている。
しかも日本郵便も、減少をただ見ているわけではない。
2027年用からは、年賀郵便の引受開始を12月20日へ、元日に届けるための差出日の目安を12月27日へ後ろ倒しする。
44億枚を超えていた時代から5億枚台へ。
変わったのは、出す人の数や枚数だけではなく、年賀状を準備する時期そのものなのかもしれない。
年賀状が16年連続減|2027年用は5億5,593万枚
まず注意したいのは、今回発表された5億5,593万枚が、実際に投函される年賀状の枚数ではないということだ。
日本郵便が発表したのは、2027年用年賀はがきの**「当初発行枚数」**。
販売状況によって追加発行される可能性があり、最終的な総発行枚数は後から確定する。
前年の2026年用を見ても、この違いが分かる。
当初発行枚数は7億4,841万枚だったが、その後追加発行され、最終的な総発行枚数は7億8,504万7,000枚になった。
つまり、
当初発行枚数
=最終発行枚数
=実際に出された年賀状
ではない。
それでも日本郵便が最初から用意する枚数が、前年の約7.48億枚から約5.56億枚へ減るという事実は、年賀状需要の縮小を端的に表している。
前年比では約74.3%。
減少率にすると、約25.7%減だ。
2027年用の無地・インクジェット紙などの通常価格は85円で、2026年用から料金変更はない。販売は2026年11月2日に始まり、2027年1月15日まで予定されている。
ピーク44.5億枚→5.56億枚|約8分の1になった
現在の数字だけでは、どれほど減ったのか実感しにくい。
比較すると印象が大きく変わる。
日本郵政公社が2003年に発表した2004年用年賀はがきの当初発行枚数は44億4,780万枚だった。
| 年賀はがき | 当初発行枚数 |
|---|---|
| 2004年用 | 44億4,780万枚 |
| 2026年用 | 7億4,841万枚 |
| 2027年用 | 5億5,593万枚 |

2004年用と2027年用は、どちらも「当初発行枚数」で比較している。
44億4,780万枚から5億5,593万枚へ。
減少率は約87.5%で、2027年用はピーク時のほぼ8分の1しかない。
2004年当時の日本郵政公社は、約44億5千万枚を発行すると大々的に案内し、特にインクジェット紙を増やしていた。家庭でパソコンやプリンターを使ってオリジナル年賀状を作ること自体が、新しい楽しみとして広がっていた時期でもある。
そこから20年以上。
同じ「年賀はがき」という商品でも、置かれている環境はまったく変わった。
年賀状はなぜ16年も減り続けている?
16年連続減という長さを考えると、「最近SNSが流行ったから」だけでは説明できない。
年賀状離れは、一度の大きな出来事で起きたのではなく、十数年かけて少しずつ積み重なった変化と見る方が自然だ。
SNSやメッセージアプリで新年の挨拶ができるようになった
最も分かりやすい変化は、連絡手段の多様化だ。
以前なら、しばらく会っていない人へ「元気ですか」と年に一度伝える手段として、年賀状には大きな役割があった。
今は違う。
家族や友人であればLINEなどのメッセージアプリでつながっていることも多く、SNSなら近況そのものを日常的に知ることができる。
年が明けた瞬間にメッセージを送ることもできるし、写真や動画まで簡単に添えられる。
日本郵便も2027年用年賀はがきの発表で、SNSによるやりとりが普通になり、年賀状を送る習慣が変化していることに触れている。
ただし、これだけなら「デジタルに置き換わった」で話は終わる。
実際には、それ以外の負担も大きくなっている。
年賀状は「買って、作って、出す」までに時間がかかる
紙の年賀状は、メッセージを一つ送るのとは違う。
はがきを用意し、住所録を確認し、デザインを決め、印刷する。相手によって一言を書き加える人もいる。
住所が変わっていれば修正が必要で、届いた喪中はがきを確認することもある。
何十枚、何百枚となれば、それなりの作業だ。
今回、日本郵便自身が、年賀状を送るにははがきを購入する時間や作成する時間が必要になることに触れているのは象徴的だ。
「年賀状を嫌いになった」というより、忙しい年末にその時間を確保することが難しくなった人もいる。
2027年から年賀状の日程そのものを後ろへ動かすのも、そんな利用実態の変化と無関係ではない。
「年賀状じまい」が一つの選択肢になった
以前なら「毎年来ているから今年も出す」が続きやすかった年賀状も、近年は年賀状じまいという言葉が定着した。
毎年続けてきた年賀状による挨拶を、ある年を最後に終えることだ。
日本郵政の増田寬也社長も2025年2月の会見で、高齢化に伴い年賀状じまいをする人が増えていることに触れている。
ここには少し特殊な性質がある。
一人が年賀状をやめれば、その相手も翌年から送らなくなる可能性がある。
つまり年賀状は、自分一人だけの習慣ではなく、相手とのやりとりによって成立する習慣でもある。
年賀状じまいが広がれば、それがさらに次の年賀状じまいにつながることも考えられる。
企業も年賀状をやめている|「年賀状じまい」58.1%
年賀状離れを個人の生活だけで考えると、もう一つ大きな変化を見落とす。
企業だ。
かつては会社から取引先、顧客、関係会社へ大量の年賀状を送ることも珍しくなかった。
一社で何百枚、規模によっては何千枚になる。
ところが、この法人需要も縮小している。
帝国データバンクが2025年12月、1,205社から回答を得た調査では、**すでに「年賀状じまい」をした企業が58.1%**に達した。
2026年1月分の年賀状を送る企業は、再開する企業を含めても29.1%。3割を下回った。前年調査で「すでに年賀状じまい」と答えた企業は49.4%だったため、1年間で8.7ポイント上昇している。
企業が挙げた背景も一つではない。
費用や事務作業の削減、ペーパーレス、取引先側の年賀状じまい、業界全体の変化、メールやSNSへの移行などが挙がっている。
もちろん、この調査から、
「年賀はがきの減少分の○割が企業によるもの」
とまでは言えない。
枚数ベースの寄与率は分からないからだ。
それでも、個人だけでなく、大量に購入していた企業側でも年賀状をやめる動きが広がっていることは、長期減少を考えるうえで無視できない。
85円への値上げも影響した?
近年の年賀状離れを語るうえで大きかったのが、2024年10月1日の郵便料金改定だ。
通常はがきは、
63円 → 85円
へ値上げされた。
1枚あたり22円。率にすると約35%の値上げだ。
枚数が多くなるほど差は大きくなる。
| 枚数 | 63円の場合 | 85円の場合 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 10枚 | 630円 | 850円 | +220円 |
| 50枚 | 3,150円 | 4,250円 | +1,100円 |
| 100枚 | 6,300円 | 8,500円 | +2,200円 |
ここには印刷代などは含んでいない。
ただし、「85円になったから年賀状が16年連続で減った」わけではない。
16年連続減は料金改定よりはるか前から始まっている。
では、値上げの影響はなかったのか。
これも違う。
日本郵政の増田社長は2025年2月、もともと続いていた年賀離れに料金値上げが重なったと説明。経済的な負担から、年賀状をやめなくても送る枚数をかなり減らしたという声が届いていることも明らかにしている。
つまり位置付けとしては、
長く続いていた年賀状離れ
+2024年の大幅な料金改定
と考えるのが正確だ。
85円への値上げが16年間の減少を生んだのではない。
ただ、すでに縮小していた需要をさらに押した要因の一つとは言える。
なお、2027年用年賀はがきも85円で据え置き。2027年から新たに85円へ値上げされるわけではない。
2027年から何が変わる?元日配達の目安が12月27日に
発行枚数と並んで、2027年用で大きく変わるのが日程だ。
日本郵便は、利用者が年賀状を出す時期が遅くなっている**「遅出し傾向」**へ対応する。
主な変更は次の通りだ。
| 項目 | これまで | 2027年用 |
|---|---|---|
| 年賀郵便の引受開始 | 12月15日 | 12月20日 |
| 元日配達を希望する差出日の目安 | 12月25日 | 12月27日 |
| 年賀はがきの販売終了 | 1月10日ごろ | 1月15日 |

2027年用年賀状で引受開始日や元日配達の差出目安、販売終了日が変更されることを示す図解特に目を引くのが、12月27日だ。
これまで「元日に届けたいなら12月25日まで」という案内を覚えていた人も多いはずだが、2027年用では目安が2日後ろへ移る。
テレビ朝日は、元日配達の投函日の目安が繰り下げられるのは初めてと報じている。
年賀状を書く人が減っただけではなく、残った利用者も以前より遅い時期に準備するようになった。
日本郵便がその行動に合わせて制度側を動かしたというのが、今回の変更の面白いところだ。
なぜ12月27日でも元日に届く目安になった?
ここは少し慎重に考える必要がある。
日本郵便が今回明確に説明しているのは、
利用者の遅出し傾向へ対応して日程を見直した
ということだ。
一方で、
「郵便区分機の性能が上がったから」
「人員配置を変えたから」
「AIで配送を効率化したから」
といった、配送側の技術的・運用上の理由までは今回の発表で示されていない。
したがって、
なぜ目安を27日へ変えたのか
→ 利用者の遅出し傾向への対応。
なぜ配送体制として27日でも対応できるのか
→ 詳細は今回の発表では説明されていない。
と分けて考えた方がいい。
そしてもう一つ大切なのが、「目安」という言葉だ。
12月27日に出せば、どんな場合でも必ず元日に届くと保証しているわけではない。
日本郵便の案内はあくまで、元日に届けるための差出日の目安。
逆に12月28日以降に出したからといって、絶対に元日には届かないという意味でもない。
年末ぎりぎりに出す場合は、できるだけ余裕を持たせた方がいいだろう。
「年賀状じまいしません」まで登場|年賀状も変わろうとしている
ここまで数字だけを見ると、年賀状はひたすら縮小しているように見える。
しかし、日本郵便の商品やサービスを見ると、別の動きも見えてくる。
近年は「推し活年賀」や**「年賀状じまいしません」**といったデザインが登場。
さらに2027年用では、名刺のように使う「名刺年賀」、自分で色を付けられる「ぬりえ年賀」、地域の言葉を生かす「方言年賀」などの新しいテンプレートも用意される。
興味深いのは、デジタル化との関係だ。
年賀状減少の背景にはSNSなどの普及がある一方で、日本郵便自身も生成AIを年賀状づくりに取り入れている。
Googleと日本郵便は2025年末に**「#Geminiで年賀状」**を実施し、生成AIを活用した年賀状づくりを展開した。2027年用でもGeminiを活用した施策が予定されている。
つまり2027年に初めて生成AIを導入するわけではなく、前年から始まった取り組みを続ける形だ。
デジタルと紙のどちらかを選ぶのではなく、デジタルを使って紙の年賀状を作る。
20年前には想像しにくかった年賀状の姿だ。
年賀状は本当になくなるの?
44.5億枚から5.56億枚。
16年連続減少。
これだけを見ると、「そのうち年賀状自体がなくなるのでは」と感じるのも無理はない。
ただし、2027年時点で年賀状を廃止するとの発表はない。
日本郵便は5億5,593万枚を当初発行し、販売を続ける。
さらに日程を利用実態に合わせて変え、新しいテンプレートやデジタル施策も用意している。
だから今言えるのは、
年賀状がなくなることが決まったのではなく、利用規模が長期的に縮小している
というところまでだ。
今後も同じペースで減るのか。どこかで下げ止まるのか。年賀状を送る人が少数になっても文化として残るのか。
そこまではまだ分からない。
そして、年賀状を続けることにも、やめることにも、それぞれ理由がある。
TDBの企業調査でも、年賀状じまいを進める企業が多い一方、年に一度の接点として取引先との関係維持に役立つため、今後も続けるという企業がある。年賀状を出す会社が減るほど、逆に届いた一枚が印象に残るという見方もあった。
「古いから消える」と単純に決めつけられる話でもなさそうだ。
まとめ|年賀状が減ったのは「SNSだけ」ではない
2027年用年賀はがきの当初発行枚数は5億5,593万枚。
前年から約25.7%減り、報道では16年連続の前年割れとされている。
ピークだった2004年用の当初発行枚数は44億4,780万枚。
同じ「当初発行枚数」で比べれば、2027年用はほぼ8分の1だ。
なぜ、ここまで減ったのか。
SNSやメールで簡単に新年の挨拶ができるようになった。
年賀状を買い、作り、住所を確認して投函する時間と手間がある。
年賀状じまいが定着し、企業にも広がった。
そして近年は、63円から85円への料金改定も重なった。
どれか一つが16年間の減少を生んだのではない。いくつもの小さな変化が長い時間をかけて重なった結果と見る方が、実態に近い。
その一方で、日本郵便も変わり始めている。
2027年用から引受開始は12月20日へ。
元日配達を希望する差出日の目安は12月27日へ。
販売終了も1月15日まで延びる。
さらに生成AIや新しいデザインも年賀状づくりへ入ってきた。
44億枚以上が発行された時代の形を、そのまま維持しようとしているわけではない。
出す人が減る中で、いつ出すのか、どう作るのか、何のために送るのかまで変わり始めている。
16年連続減という数字は、年賀状がただ消えていく途中というより、日本の年始の挨拶そのものが大きく形を変えてきた16年間を映しているのかもしれない。