『聖闘士星矢』車田正美さん側、46.8億円損害主張なのになぜ28.9億円請求?

『聖闘士星矢』『リングにかけろ』などで知られる漫画家・車田正美さんをめぐり、約46億円という巨額の損害が報じられました。
ところが、9月2日に東京地方裁判所へ起こされた訴訟で求めている損害賠償は約28億8600万円です。
「46億円の損害なのに、なぜ請求は28億円なのか」と数字が合わないように見えますが、これは別々の損害を指しているわけではありません。
車田さん側が主張する損害総額は約46億8600万円。そのうち約18億円はすでに回収されているため、今回の訴訟では残る約28億8600万円の支払いを求めています。
今回訴訟を起こしたのは、車田正美さんの著作権などを管理する関連会社3社です。長年にわたって経理や出納、対外交渉などを任せていた元マネージャーの男性ら11の個人・法人を相手取り、損害賠償を求めています。
なお、現在は民事訴訟が始まった段階です。資金流出の方法や経緯については原告側が会見などで説明した内容が含まれており、裁判所による最終的な事実認定が済んだわけではありません。
車田正美さん側は46.8億円の損害主張、なぜ請求は28.9億円?
今回報じられている3つの金額を整理すると、関係は分かりやすくなります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 原告側が主張する損害総額 | 約46億8600万円 |
| すでに回収した金額 | 約18億円 |
| 今回の損害賠償請求額 | 約28億8600万円 |
約46億8600万円は、原告側が2018年ごろから2024年までの間に生じたと主張している損害の総額です。
その後、流出したとされる資金の一部を回収できたため、今回の訴訟では未回収分にあたる約28億円台の支払いを求めています。
つまり、
「46億円の損害が、後から28億円に減った」
という話ではありません。
報道によって「46億円」「18億円」「28億円」と丸めて表記されることもありますが、損害総額、回収済みの金額、今回の請求額という3段階に分ければ、数字が違う理由は見えてきます。
約18億円はどうなった?暗号資産の値上がりなどから回収
では、約18億円はどのように戻ってきたのでしょうか。
車田さん側の代理人弁護士によると、問題が発覚した後に元マネージャーの男性を追及し、流出したとされる資金の一部を回収しています。
その中には暗号資産へ投資されていたものもあり、資産価格が値上がりしていたことなどから、結果的に約18億円を回収できたと説明しています。
ここは「元マネージャーが18億円をそのまま現金で返した」という話ではありません。
また、「暗号資産への投資で18億円の利益が出た」という意味でもありません。
原告代理人の説明は、流出したとされる資金の一部が暗号資産などの形で残っており、その値上がりなども含めて約18億円を回収できたというものです。
そもそも何があった?2018年ごろからの資金流出を原告側が主張
元マネージャーの男性は、長年にわたり車田さんの関連会社で経理や出納、社外との交渉などを担っていました。
原告側は、男性が少なくとも2018年ごろから2024年までの間、本来会社へ入るはずだった資金を別会社へ振り込ませたり、会社の口座から関係者らへ無断で送金したりしたと主張しています。
原告側が調査した損害総額は約46億8600万円。
ただし、この46億円余りがすべて『聖闘士星矢』のライセンス料だったわけではありません。
会見では、大きく分けて複数の資金流出があったと説明されています。
原告側が説明する3つの資金流出
ライセンス料を別会社へ振り込ませたとする主張
原告側によると、男性は車田さん側の会社「NEXT WING」と似た名称の別会社を設立し、本来「NEXT WING」へ支払われるはずだったライセンス料を、その会社へ振り込ませていたとしています。
『聖闘士星矢』をはじめとする作品には、出版だけでなくアニメや商品化などさまざまなライセンス収入があります。
今回原告側が問題としているのは、そうしたライセンス料の一部について、本来とは異なる振込先が使われていたという点です。
会社口座から関係者らへ送金したとする主張
原告側はさらに、関連会社の銀行口座から、元マネージャー本人や本人が管理する会社、関係者らの口座へ資金が無断で送金されていたと主張しています。
ライセンス料の振込先を変更したとするケースとは別に、すでに会社へ入っていた資金についても問題があったという説明です。
保険や再保険を通じた資金移動
もう一つ原告側が説明しているのが、保険や再保険を利用した資金移動です。
国内で支払われた保険料が再保険などを通じて複数の会社へ移り、最終的に男性が支配するとする海外法人へ資金が入る仕組みになっていたとしています。
これらはいずれも、現時点では原告側が訴訟で主張している内容です。
なぜ発覚した?きっかけは東京国税局の税務調査
これほど大きな資金の動きが表面化するきっかけになったのは、東京国税局による税務調査でした。
原告側によると、2024年1月、不審な資金の動きをめぐって東京国税局から質問状が届きました。
さらに原告側は、翌2月、元マネージャーの男性が車田さん本人の筆跡をまねた回答書を作り、車田さんが色紙などで使用していた印鑑を押して東京国税局へ提出したと主張しています。
車田さん本人は当初、税務調査が行われていること自体を知らされていなかったといいます。
その後、東京国税局と車田さん側が直接やり取りするようになり、それまで把握できていなかった資金の動きが明らかになっていったとされています。
ただし、東京国税局が今回の約46億円の損害を認定したという意味ではありません。
税務調査が、車田さん側が問題を把握するきっかけになったということです。
なぜ6年間も気づかなかった?
約46億円という金額を見れば、「なぜこれほど長い間分からなかったのか」という疑問も残ります。
車田さんと元マネージャーの男性の付き合いは、約25年前までさかのぼります。
車田さんは漫画の執筆へ集中するため、経理や出納、対外交渉など創作以外の仕事を広く任せていたと説明しています。
長年の信頼関係があったことに加えて、原告側は男性による**「情報の遮断」**もあったと主張しています。
編集者やスタッフなどに対し、車田さんが人付き合いを避けているかのように説明し、本人との直接のやり取りを妨げていたというのが原告側の説明です。
車田さん本人は会見で、自分はそこまで人付き合いを避ける人間ではないという趣旨の発言をしています。
単純に「巨額のお金がなくなっているのに気づかなかった」というより、長期間にわたって経理や対外交渉を一人の人物へ大きく任せていたことに、原告側が主張する情報の遮断が重なっていたことが背景として語られています。
発覚時には会社の経営にも影響
問題が明らかになった当時、会社の経営にも影響が出ていたと車田さんは説明しています。
会見では、会社の口座に残っていた資金がわずかで、多額の納税も難しい状態だったと振り返りました。
状況によっては会社が倒産し、自身も漫画家として活動を続けられなくなっていた可能性があったという趣旨の発言もしています。
2024年には予定していた原画展も中止となりました。
当時は「諸般の事情」とだけ発表されていましたが、今回の会見では、この問題が背景にあったことも明らかにされています。
元マネージャー側の主張は?現在はまだ民事訴訟の段階
ここは今回のニュースを見るうえで重要です。
原告側は、問題発覚後に元マネージャーの男性を追及したところ、一部の行為を認めたと説明しています。
一方、9月2日夕方のJNN報道では、男性側へ取材を申し込んだものの、その時点で回答は得られていませんでした。
そのため、
「元マネージャー側が原告の主張をすべて認めている」
とは言えません。
現在確認できるのは、車田さん側の関連会社3社が、元マネージャーの男性らを相手取り損害賠償を求めて東京地裁へ提訴したということです。
裁判所による最終的な事実認定はこれからです。
少なくとも現段階で、
「46億円を横領したことが裁判で確定した」
「有罪になった」
「逮捕された」
といった内容として扱うことはできません。
車田正美さんは今後も漫画を描く?
今回の会見は、車田正美さんの引退発表ではありません。
本人は一連の問題について、一時は人間不信になりかけたと語りながらも、『聖闘士星矢』をはじめ車田漫画を愛する世界中の読者のために、今後も執筆を続けたいという意思を示しています。
実際、車田さんは現在も『聖闘士星矢』の新作を描いています。
2026年5月には、漫画『聖闘士星矢 天界篇』の連載がスタートしました。これは2004年の映画『聖闘士星矢 天界編 序奏~overture~』をそのまま漫画化したものではなく、『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』から続く漫画側の新章です。
『聖闘士星矢 天界篇』は映画と何が違う?『NEXT DIMENSION』・2004年『天界編 序奏』との関係はこちらの記事で整理しています。
長年信頼してきた人物をめぐる問題と巨額の訴訟を抱えることになりましたが、少なくとも9月2日の会見では、漫画家としての活動を終えるのではなく、これからも作品を描いていく姿勢を明確にしています。
まとめ 46.8億円と28.9億円が違うのは約18億円を回収しているため
今回報じられた数字を整理すると、
原告側が主張する損害総額:約46億8600万円
すでに回収した金額:約18億円
今回の損害賠償請求:約28億8600万円
という関係です。
約46億円と約28億円は別々の損害を意味するものではありません。
原告側が主張する損害総額のうち、すでに約18億円を回収しているため、今回の訴訟では未回収分として約28億円台を請求しています。
また、約18億円については、流出したとされる資金の一部が暗号資産へ投資され、その値上がりなどもあって回収できたと原告代理人が説明しています。
一方、約46億円に上るとされる資金流出の方法や経緯については、現在も原告側の主張をもとに民事訴訟が始まった段階です。
数字の大きさだけで「46億円の横領が確定した」と受け取るのではなく、損害総額、回収済みの金額、今回の請求額を分けること、そして何が原告側の主張なのかを分けて見ることが必要です。