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『エネミー・ゼロ』レビュー|見えない敵を音で倒すゲームは今遊んでも怖い?

目次
  1. 『エネミー・ゼロ』は今遊んでも面白い?見えない敵を音で探すセガサターン異色作
  2. 『エネミー・ゼロ』はどんなゲーム?
  3. ゲームは「サーチ」と「リアルタイム探索」で手触りが変わる
  4. 敵は見えない。では何を聞けば位置が分かるのか
  5. 左右は音だけでは直接区別できない
  6. 距離は音が鳴る「間隔」で読む
  7. 複数の敵がいると、急に情報量が増える
  8. ヘッドホン必須のゲームではない
  9. 敵の場所が分かっても、すぐ撃ってはいけない
  10. 戦闘は「照準」より「迎撃タイミング」を読むゲーム
  11. チャージを早く始めても、遅く始めても危険
  12. 外せば体力を削られるのではなく、そのまま死につながる
  13. 銃にも使用回数があり、いつまでも撃ち続けられない
  14. なぜ「見えない」だけでここまで怖くなるのか
  15. 音を覚えるほど、恐怖が攻略情報へ変わる
  16. それでも戦闘が万人向けにならない理由
  17. ボイスレコーダーのバッテリーがセーブ回数を制限する
  18. NORMALでは「失敗してロードする」だけでも資源が減る
  19. セーブ制限が恐怖を強めること自体には意味がある
  20. EASYではロード消費がない
  21. マップがない、という説明にも少し補足が必要
  22. 船内を覚えることまで攻略になる
  23. 『Dの食卓』よりリアルタイム操作の比重が増えた
  24. 同じ「ローラ」でも『Dの食卓』の同一人物ではない
  25. PlayStation版からセガサターン版へ作り直された
  26. 上田文人氏の担当はCGIアニメーション
  27. マイケル・ナイマンの音楽と「敵を探す音」は役割が違う
  28. なぜ85点なのか――情報を減らすほど怖くなるが、遊びやすさも減る
  29. 「難しい」のではなく「学習コストが重い」瞬間がある
  30. S Tierではない。それでもA Tierに残る理由
  31. 2026年現在、どうやって遊ぶ?
  32. 総評|見えない敵は、聞き方を覚えると「攻略できる恐怖」になる

『エネミー・ゼロ』は今遊んでも面白い?見えない敵を音で探すセガサターン異色作

通路の先には何も見えません。

それでもVPSから高い音が鳴っているなら、敵は正面にいます。音の間隔が短くなれば、さらに近づいている。横へ回り込まれれば音程が変わり、背後まで抜かれれば低くなる。

『エネミー・ゼロ』でプレイヤーが戦う相手は、基本的に画面には映りません。

だから戦闘で最初にすることは、敵を見ることではなく聞くことです。

問題は、位置が分かっただけでは倒せないことにあります。武器にはチャージが必要で、発射できる距離も短い。早く溜め始めすぎればチャージが限界を越えて消え、遅ければ撃てるようになる前に敵が接触してくる。敵から攻撃を受ければ、体力を少し失うのではなくゲームオーバーへ直結します。

この仕組みが生み出す緊張感は、1996年の作品として見てもかなり強いものがあります。

一方で、本作はその恐怖を作るために、プレイヤーへ多くの制限を課しました。船内にはいつでも見られるオートマップがなく、セーブ回数には上限があり、通常難度ではロードするだけでも有限の資源を消費します。

つぶログのセガサターン全1,057ソフトTier表では、『エネミー・ゼロ』をA Tier・85点・総合157位タイとしています。

見えない敵を音だけで探す発想は非常に強い。それでもS Tierまで上げなかった理由は、恐怖を生むための制約が、ときにプレイヤーの試行錯誤まで重くしているからです。

『エネミー・ゼロ』はどんなゲーム?

項目内容
タイトルエネミー・ゼロ/ENEMY ZERO
対象版日本国内セガサターン初回版
発売日1996年12月13日
開発・発売WARP
価格6,800円(税別)
型番T-30001G
メディアCD-ROM 4枚組
プレイ人数1人
ジャンルアドベンチャー
TierA
スコア85点
総合順位157位タイ

主人公はローラ・ルイス。

長い冷凍睡眠から目覚めたローラは、地球へ帰還中の宇宙船「AKI」で異常事態に遭遇します。船内には姿の見えない存在が侵入しており、乗組員のパーカーが襲われる様子を通信越しに目撃したところから状況が動き始めます。

ここからローラは船内を調べ、キンバリー、デヴィッド、ジョージ、ロニーらの乗組員と接触しながら、生き残るために移動していきます。

終盤の真相には触れません。

本作を評価するうえでは、敵の正体を知ることよりも、その姿が見えない状態でどう戦わせるかの方がずっと重要です。

ゲームは「サーチ」と「リアルタイム探索」で手触りが変わる

『エネミー・ゼロ』は、全編を一人称視点で歩き回るFPSではありません。

大きく分けると、プリレンダCGを使って室内を調べるアドベンチャー部分と、リアルタイム3Dで通路を移動する部分があります。

部屋へ入ると、視点を切り替えながら周囲を調べ、キーや装置を使い、コンピュータへアクセスし、人物との会話やCGムービーを通して物語を進めます。

ここでは『Dの食卓』に近い、映像をつないで場所を移動する感覚があります。

ところが部屋を出て通路へ入ると、ゲームの要求が急に変わります。

プレイヤー自身が前後へ歩き、左右へ向きを変え、不可視の敵がいる空間をリアルタイムで抜けなければなりません。

映像を見る時間と、自分で生き残る時間が交互に来ます。

この落差が、物語を読むだけでは終わらない『エネミー・ゼロ』の特徴です。

敵は見えない。では何を聞けば位置が分かるのか

不可視の敵を探すために使うのがVPS(VEXX Positioning System)です。

VPSの音は、敵がいる方向と距離によって変わります。

基本的な読み方は、

  • 正面にいると高い音
  • 横方向にいると中間の音
  • 背後にいると低い音
  • 敵が遠ければ音の間隔が長い
  • 近づくほど音の間隔が短くなる

というものです。

かなり近づくと警告音へ変わります。

覚えるべきなのは「音が鳴ったら敵がいる」だけではありません。

音程で向きを判断し、鳴る間隔で距離を測る必要があります。

左右は音だけでは直接区別できない

ここは本作の音響システムで誤解されやすいところです。

横方向を示す中間音は、「左にいる音」と「右にいる音」に分かれているわけではありません。

中間音が鳴ったら、敵が左右どちらかにいることまでは分かります。

そこで自分が向きを変えます。

右を向いたときに音程が高くなれば、そこが敵のいる方向。逆に低くなれば、敵を背中側へ回したことになります。

要するに、VPSは完成した敵位置を耳へ渡してくれるレーダーではありません。

プレイヤー自身が回転し、音程の変化を使って敵の位置を絞り込む装置です。

このひと手間が、単純なレーダー表示とは違う緊張を作っています。

距離は音が鳴る「間隔」で読む

向きが合っても、まだ撃てません。

敵との距離も判断する必要があります。

遠くにいる間は、VPSの音が間を置いて鳴ります。

近づいてくるほど、その間隔は短くなっていきます。

したがってプレイヤーは、

「正面にいる」

だけでなく、

「まだ遠い」

「そろそろ射程へ入る」

「もう危険な近さまで来ている」

という距離の変化を、音のテンポから読み取ります。

視覚的な照準器へ敵のシルエットが映るわけではありません。

時間の経過とともに音の間隔が詰まってくること自体が、敵の接近モーションの代わりになっています。

複数の敵がいると、急に情報量が増える

一体なら、高さと間隔を追えば位置をかなり絞れます。

複数になると話が変わります。

正面から高い音。

横から中間音。

別の敵が近づき、そちらの間隔も短くなる。

複数の位置情報が同時に鳴るため、「今狙っている敵」と「次に危険になる敵」を耳の中で整理しなければなりません。

画面を見ても敵の数は確認できません。

一体を仕留めるために向きを合わせている間に、別方向から接近されることもあります。

見えない敵という発想が、本当にゲームの判断へつながるのはこのあたりです。

ヘッドホン必須のゲームではない

音が中心なので、ヘッドホン必須と思われがちですが、VPSの基本情報は「左右へのステレオ定位だけを聞き分ける」仕組みではありません。

中心になるのは音程と発音間隔です。

そのため、左右がきちんと再生されるヘッドホンやステレオ環境は音を集中して聞くうえで有利ですが、装着しなければゲームシステムが成立しないというものではありません。

むしろ大切なのは、VPSの音をBGMや周囲の雑音に埋もれさせず、音程の変化と鳴る速度を明瞭に聞ける環境です。

敵の場所が分かっても、すぐ撃ってはいけない

『エネミー・ゼロ』の銃は、一般的なFPSの武器とはかなり違います。

敵を正面へ捉えたら、発射ボタンを押し続けてエネルギーをチャージします。

しかし、ボタンを押した瞬間には撃てません。

十分に溜まる前に離せば発射できず、逆に溜め続けすぎてもチャージが限界を越えてゼロへ戻ってしまいます。

しかも射程が短い。

安全な遠距離から溜めて撃つという方法が使いにくく、敵をある程度近くまで引きつけなければ命中しません。

ここでVPSと銃がつながります。

戦闘は「照準」より「迎撃タイミング」を読むゲーム

実際の判断を分解すると、かなり独特です。

まずVPSを聞き、敵が前後左右のどこにいるかを推測します。

横にいるなら向きを変え、正面を示す高い音へ持っていく。

次に発音間隔から距離を読む。

敵が射程へ入る前にチャージを始める。

しかし早すぎれば敵が来る前にチャージが消える。

遅すぎれば射撃可能になる前に敵が到達する。

そして、射程へ入った瞬間に発射します。

見えている敵へカーソルを合わせる射撃ではありません。

敵と自分の距離が数秒後にどうなるかを予測して、先に武器を準備する迎撃です。

チャージを早く始めても、遅く始めても危険

ここが操作を難しくしています。

敵が怖いから早めに銃を構える。

しかし敵はまだ遠い。

チャージが限界を迎えて消える。

もう一度溜め直そうとした頃には、敵が目前まで来ている。

逆に安全を見て待ちすぎれば、チャージが完成する前に接触されます。

敵を正面に捉える能力だけでは足りません。

VPSの間隔から、いつ溜め始めれば射程に入る瞬間と重なるかを覚える必要があります。

トレーニングディスクでこの感覚を練習できるのは、本作がそこを基本操作として認識しているからでしょう。

外せば体力を削られるのではなく、そのまま死につながる

通常の敵との接触は非常に重い結果になります。

敵に捕まれば、HPを半分失って後退するような猶予は基本的にありません。

ゲームオーバーです。

そのため一発を外したときの意味が大きい。

敵を見ながら連射して修正することはできず、そもそも敵は見えません。

チャージをやり直す時間があるのか。

後退するのか。

向きを変えて逃げるのか。

別方向にも敵がいるのか。

失敗した瞬間、VPSをもう一度読み直さなければなりません。

この一撃の重さが恐怖を強くします。

同時に、後述するセーブ/ロード制限と組み合わさることで、失敗の負担も一気に大きくなります。

銃にも使用回数があり、いつまでも撃ち続けられない

銃は無限に使えるわけではありません。

武器ごとに発射可能回数があり、エネルギーを使い切ればガンチャージャーで補給する必要があります。

区間によっては補給場所まで戻る必要があり、敵を片端から倒すことが最善とは限りません。

VPSで位置を把握したうえで、避けられる敵なら戦わず通り抜けるという判断も出てきます。

敵が見えない戦闘は、不可視の相手を全部撃ち殺して進むシューティングではありません。

必要な敵だけを排除し、危険な場所を抜ける生存のための戦闘に近い作りです。

なぜ「見えない」だけでここまで怖くなるのか

敵が透明だから怖い、という説明だけでは本作の恐怖を十分に表せません。

より大きいのは、画面を見ても安全確認が終わらないことです。

普通なら、通路に何もいなければ進めます。

『エネミー・ゼロ』では、何も映っていない通路へ入った瞬間にVPSが鳴ります。

画面は静か。

敵の姿はない。

それなのに、音の間隔だけは少しずつ短くなってくる。

方向を調べるためにその場で回転している間にも、相手は移動しています。

正面へ合わせたら、今度はチャージを間に合わせなければならない。

「見えない」という一点から、方向、距離、時間という三つの不確定要素が発生しています。

音を覚えるほど、恐怖が攻略情報へ変わる

ここが本作を単なる演出で終わらせないところです。

最初はVPSが鳴っただけで何が起きているのか分かりません。

高い音が正面。

低い音が背後。

中間なら左右。

間隔が短いほど近い。

これを覚えると、同じ音が意味を持ち始めます。

さらに何度か戦えば、

「この間隔ならまだチャージには早い」

「次の音が短くなったら溜め始める」

「横音が鳴ったので、まず右へ向いて確認する」

といった判断ができるようになります。

恐怖の材料だった音が、経験によって攻略情報へ変わる。

ここには明確な上達があります。

『エネミー・ゼロ』の高評価は、この学習が成立していることが大きいです。

それでも戦闘が万人向けにならない理由

問題は、理解しただけで簡単になるわけではないことです。

VPSを正しく読めても、敵は動きます。

複数いれば音が重なります。

正面へ合わせても、チャージ開始が少し早ければリセットされる。

遅ければ撃つ前に殺される。

射程へ入ったと思って撃っても、わずかに距離が足りなければ外します。

知識と入力タイミングの両方を要求するため、攻略法を理解した後にも失敗は起こります。

そして本作は、その失敗を気軽に何十回も試させる作りではありません。

ボイスレコーダーのバッテリーがセーブ回数を制限する

ローラはボイスレコーダーを使ってゲームを記録します。

特徴的なのが、ゲーム内のバッテリー値です。

初回日本版では難易度によって初期値と消費量が変わります。

難易度初期バッテリーセーブロード
EASY993消費消費なし
NORMAL643消費1消費
HARD163消費2消費

NORMALなら、ロードを一度もしなかったとしても最大21回程度しかセーブできません。

実際には死亡後のロードでも1消費します。

そしてバッテリーを回復する方法はありません。

NORMALでは「失敗してロードする」だけでも資源が減る

この仕様が本作の評価を大きく分けます。

危険な通路の前でセーブする。

敵と戦う。

射撃を外して死ぬ。

ロードする。

もう一度挑む。

また死ぬ。

通常のゲームなら、同じ保存地点から何度でも練習できます。

『エネミー・ゼロ』のNORMALでは、やり直すたびにボイスレコーダーのバッテリーが1ずつ減ります。

つまり本作は、失敗だけでなく、失敗から学ぶための再挑戦にもコストを課しています。

セーブ制限が恐怖を強めること自体には意味がある

有限セーブを全面的に否定する必要もありません。

記録できる回数が無限なら、通路へ入るたびに保存して、一歩ずつ安全を確認する攻略もできます。

有限だからこそ、

「ここで残しておくべきか」

「もう少し先まで進んでから保存するか」

という判断が生まれます。

一回の生存にも重みが出ます。

敵を見えなくしたゲームで、死を軽くしないという方向には合っています。

問題は、NORMALやHARDではロードまで同じ有限資源から差し引くところです。

緊張感を作るための制限が、プレイヤーが音や射撃タイミングを学ぶための練習回数まで削ってしまいます。

ここが85点からさらに上へ行きにくい最大の理由の一つです。

EASYではロード消費がない

この問題は難易度設定によってかなり変わります。

EASYなら初期バッテリーは99あり、セーブには3消費しますがロードでは減りません。

そのため、同じ場所から繰り返し戦闘を練習しやすくなります。

NORMALは64から始まりロード1消費。

HARDでは16しかなく、ロードにも2必要です。

同じ戦闘システムでも、どの難易度で遊ぶかによって「緊張を管理するゲーム」から「再挑戦回数そのものを管理するゲーム」まで性格が変わります。

なお、後発のサタコレ版にはさらに救済された難易度がありますが、これは1996年初回版の仕様ではありません。

マップがない、という説明にも少し補足が必要

『エネミー・ゼロ』には、現在の3Dゲームで一般的な常時参照できるオートマップがありません。

一部のネットコンピュータではフロア情報や区画を確認できる場所があります。

しかし、すべての迷路を歩きながら現在位置まで追跡してくれる機能ではなく、長い通路やダクトでは自分で曲がった方向を覚える必要があります。

元WARPスタッフも後年、マップを自分で書きながら進めるようなゲームだったと振り返っています。

ここで戦闘システムと探索がつながります。

道を間違えれば、単に時間を失うだけではありません。

敵のいる通路を余計に通る。

銃のエネルギーを使う。

戦闘で死亡する危険が増える。

ロードすればボイスレコーダーまで減る。

迷うことが、そのまま生存資源の損失へつながります。

船内を覚えることまで攻略になる

部屋番号、階層、エレベーター、タワー間の接続、行き止まり。

一度通った場所を覚えていれば、次の目的地へ無駄なく進めます。

逆に似た通路で方向感覚を失えば、敵の音を聞きながら「どこへ逃げればいいのか」まで分からなくなります。

見えない敵との戦闘だけなら、VPSの練習で上達できます。

そこへナビゲーションまで重ねたため、本作は「音を覚えれば全部解決」という設計にはなっていません。

この重ね方は閉塞感を強めますが、快適さとは明確に引き換えです。

『Dの食卓』よりリアルタイム操作の比重が増えた

『エネミー・ゼロ』の前にWARPが制作した『Dの食卓』は、プリレンダ映像をつなぐインタラクティブムービー色の強い作品でした。

元WARPスタッフの佐藤直哉氏は後年、社内では『Dの食卓』『エネミー・ゼロ』『Dの食卓2』を、映像主体から徐々にリアルタイム処理へ比重を移していく三作として捉えていたと振り返っています。

『Dの食卓』がインタラクティブムービー中心。

『エネミー・ゼロ』では映像とリアルタイムがおよそ半々。

その先では、さらにリアルタイム側へ進む。

商品上の正式な「三部作」という意味ではなく、WARP内部でゲーム表現を変えていく流れとして意識されていました。

『エネミー・ゼロ』がFMV作品でありながら、戦闘だけ急にプレイヤー自身の操作を厳しく要求するのも、この位置にあるゲームだからです。

同じ「ローラ」でも『Dの食卓』の同一人物ではない

主人公ローラは、『Dの食卓』でも使われたWARPのデジタルキャラクターです。

ただし『Dの食卓』のローラ・ハリスと、『エネミー・ゼロ』のローラ・ルイスは設定上そのまま同一人物ではありません。

同じデジタル俳優を別作品の別役へ配役するような考え方です。

この方式は、作品間の世界設定を無理につなげず、それでもWARP作品として視覚的な連続性を持たせています。

PlayStation版からセガサターン版へ作り直された

『エネミー・ゼロ』は当初PlayStation向けに制作されていました。

2025年の元WARPスタッフ座談会では、PlayStation版で最初のステージまで制作が進んでいたこと、1996年3月のイベントでセガサターンへの変更が発表されたことが語られています。

有名なのが、PlayStationのロゴがセガサターンの「S」へ変わる発表映像です。

スタッフ側にも変更について相談があり、事情を聞いたうえで制作を続けたという証言が残っています。

そこからセガサターン向けに作り直し、発売まで約7~8か月。

十分に記事になる制作背景ですが、ゲームを遊ぶうえでより大きいのは、その短い再構築期間の中でも不可視の敵と音による戦闘という核は成立したことです。

「サターンの性能が低かったから敵を透明にした」といった単純な因果関係にはできません。

上田文人氏の担当はCGIアニメーション

後に『ICO』『ワンダと巨像』『人喰いの大鷲トリコ』を手掛ける上田文人氏もWARP時代に『エネミー・ゼロ』へ参加しています。

ただし「上田文人が『エネミー・ゼロ』を作った」とまとめるのは広すぎます。

本作でのクレジットはCGIアニメーター。

ほかにもCG、アニメーション、プログラムなど少人数のスタッフが制作へ参加していました。

飯野賢治氏はディレクション、ストーリー、プロデュースを担当し、台詞は坂元裕二氏、クリーチャーデザインは韮沢靖氏、音楽はマイケル・ナイマンが担当しています。

マイケル・ナイマンの音楽と「敵を探す音」は役割が違う

劇伴音楽を担当したのは、映画『ピアノ・レッスン』などでも知られるマイケル・ナイマンです。

飯野氏が本人に会い、直接依頼した経緯が元WARPスタッフの回想にも残っています。

楽曲は作品全体へ映画的な重さを与えています。

ただ、不可視の敵と戦うリアルタイム部分で最も意識する音は、豪華な劇伴ではありません。

VPSの電子音です。

本作では、

物語の感情を作る音楽

生き残るための位置情報として聞く効果音

が別の役割を持っています。

ゲームシステムを語るなら、マイケル・ナイマンの名前の大きさ以上に、プレイヤーがVPSの数種類の音へ集中する時間の方が重要です。

なぜ85点なのか――情報を減らすほど怖くなるが、遊びやすさも減る

本作の各制約には、それぞれ役割があります。

敵が見えないから、音を聞く必要がある。

射程が短いから、敵を近くまで引きつける必要がある。

チャージがあるから、接近するタイミングを予測する必要がある。

即死だから、一回の射撃が怖い。

常時オートマップがないから、船内の通路を覚える必要がある。

有限セーブだから、いつ記録するかを考える。

ここまでは、それぞれゲームの緊張へつながっています。

問題は、それらを同時に重ねたことです。

方向を読み違えた。

距離を読み違えた。

チャージが早すぎた。

一発を外した。

死んだ。

ロードした。

そのロードで有限資源まで減る。

さらに道に迷えば、また敵のいる区間を通らなければならない。

一つ一つなら恐怖を作る制約でも、全部が積み重なると、プレイヤーが仕組みを覚えるための余裕まで狭くなります。

「難しい」のではなく「学習コストが重い」瞬間がある

音で敵を探す部分には学習があります。

VPSを理解すれば、以前より正確に方向を読める。

間隔を覚えれば、チャージ開始のタイミングも改善する。

ここは失敗が上達へ返ってきます。

一方で、ロード資源まで削られると、「あと何回ここを練習できるか」という別の心配が始まります。

難しい敵を倒せないから85点なのではありません。

うまくなるためには繰り返す必要があるゲームなのに、その繰り返し自体へ制限をかけている。

この衝突が、本作の評価を最も下げています。

S Tierではない。それでもA Tierに残る理由

もし不可視の敵が単なる演出だったなら、ここまで高く評価する理由はありません。

『エネミー・ゼロ』では、

音程を覚える。

発音間隔から距離を読む。

体の向きを変えて方向を特定する。

敵が近づく時間からチャージ開始を逆算する。

短い射程へ入った瞬間に撃つ。

という一連の判断が一本の戦闘システムになっています。

見えないことそのものが、操作と攻略へ直結しています。

そこは非常に強い。

しかし、セーブとロード、ナビゲーション、即死、短射程まで含めた全体は、独創的な仕組みを楽しむために要求される負担も大きい。

だから90点台には届かない。

恐怖のために情報を削る設計は成功した。しかし、プレイヤーが上達するために必要な余白まで削ったところがある。

A Tier・85点という評価は、その境界にあります。

2026年現在、どうやって遊ぶ?

2026年8月現在、日本国内セガサターン版『エネミー・ゼロ』をNintendo Switch/Switch 2、PlayStation 4/5、Xbox Series X|S、Steamで新規購入できる現行公式復刻版はありません。

GOGには『Enemy Zero』のDreamlistページがありますが、これは商品ページではありません。

ユーザーが復刻を希望して投票するページであり、現在GOGで購入できるという意味ではありません。

1996年日本版そのものを遊ぶなら、セガサターン実機と日本版4枚組ソフトを用意する方法が中心になります。

1998年にはWindows 95/98版も発売されていますが、こちらは別移植版です。

現代Windows上で非公式な方法によって動作させる情報もありますが、メーカーが現在提供している正式なプレイ環境ではありません。

総評|見えない敵は、聞き方を覚えると「攻略できる恐怖」になる

『エネミー・ゼロ』で怖いのは、敵の姿がないことだけではありません。

画面を見ても安全かどうか分からない。

VPSの音程で方向を探し、間隔で距離を測り、敵が近づく前に銃を溜め始めなければならない。

しかもチャージが早すぎても遅すぎても失敗する。

一発外せば、次の射撃を準備する前に接触されるかもしれない。

このルールを知らない間は、何が起きているのか分からない怖さがあります。

しかし音を覚えると変わります。

中間音を聞いて向きを変える。

高い音へ合わせる。

発音間隔が狭まるのを待つ。

この距離ならチャージを始める。

ここで撃つ。

見えなかった敵が、自分の頭の中では少しずつ「見える」ようになります。

そこまで到達できるから、本作の戦闘は奇抜なアイデアだけでは終わりません。

同時に、上達するためには失敗が必要なのに、その失敗後のロードにまで有限資源を要求する設計は重い。迷路を覚える負担もあり、即死と短射程が重なる終盤では試行錯誤そのものが苦しくなります。

恐怖を弱めずに、もう少し学習しやすくできたのではないか。

その余地が残ります。

だからS Tierではありません。

それでも、画面から敵を消すという大胆な制約を、方向・距離・タイミングを耳で読むゲームシステムへ変換したことは、現在遊んでもはっきり面白い。

『エネミー・ゼロ』は、その一点だけで評価されるゲームではなく、その一点を実際の判断と操作へ落とし込めたからこそ、A Tier・85点に値する作品です。

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